赤字申告の事業所得者の休業損害・逸失利益の算定方法について解説!

交通事故で怪我をして、仕事を休まなければいけなくなり、それによって減収が生じた場合は、その減収分は休業損害として相手方に請求することができます。

また、後遺症が残ってしまい、それが将来に渡って仕事に影響が出てしまう場合には、後遺症がなければ得られたであろう利益についても逸失利益として請求することができます。

これらの損害は、被害者自身が事故前に得ていた収入を基礎として算定することになりますが、事業所得者(個人事業主)の場合、基本的に事故前年度の確定申告書を利用して、その所得額から休業損害や逸失利益を計算することになります。

しかし、赤字申告の事業所得者の場合には、そもそも基礎収入がないとして、休業損害や逸失利益がないと考えられなくもありません。

そこで、今回は赤字申告の事業所得者の休業損害・逸失利益の算定方法についてご説明します。

1.赤字申告の事業所得者の基礎収入の問題点

黒字申告をした事業所得者の場合、休業損害を算定するに当たっては、事故前年度の確定申告書の所得欄の金額を365日で割って1日当たりの基礎収入を算出し、これに休業日数を乗じて休業損害を計算します。

また、逸失利益については、所得額そのものを基礎収入としてこれに労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算することができます。

もっとも、赤字申告の場合、そもそも確定申告書の所得欄がマイナスなので、マイナスにいくら休業日数などを乗じてもマイナスに変わりはなく、また、休業損害や逸失利益は生じないとして、加害者や相手の保険会社から否認されることもあります。

しかし、いくら所得がマイナスだからといって、何の収益も得ていないというわけではなく、事故で休業したことや、今後の仕事への影響に対する補償が一切されないというのは、余りにも不合理です。

そのため、赤字申告の事業所得者でも、休業損害や逸失利益が認められるように、これらの損害を算定する方法が考えられています。

2.赤字申告の場合の休業損害の算定方法

(1)固定経費を基礎収入と考える方法

事業を休業した場合でも、日々負担している固定経費の支払を免れることはできないため、いくら所得が赤字であったとしても、休業により無駄になってしまっている固定経費の補償はされるべきでしょう。

そのため、確定申告書添付の収支内訳書に記載されている、地代家賃や光熱費、保険料、租税公課等の合計金額を、365日で割って算出した1日当たりの金額を基礎収入として、これに休業日数を乗じることで、休業損害を算定するという方法があります。

ただし、この方法で算定されるのは、あくまでも無駄になってしまった固定経費分のみであるため、事故によって事業ができなくなってしまったことに対する補償としては、不十分なように思います。

(2)拡大した損害を休業損害と考える方法

黒字申告の場合に休業損害を算定する方法のひとつとして、事故前年の所得額から、事故当年の所得を控除した差額を、事故による減収分と考えて、それを休業損害とみる方法があります。

これと同じ考え方で、事故前年の所得のマイナスよりも、事故当年の所得のマイナスが大きくなっている場合に、このマイナスの差額分を、事故によって損害が拡大したものと捉え、休業損害として請求するという方法です。

この方法は、より実態に即した算定方法といえますが、他方で、事故以外の原因で損害が拡大したと反論される可能性もあります。

また、そもそも損害が拡大していなければ、休業損害として請求できないという難点もあります。

(3)賃金センサスを利用する方法

賃金センサスとは、厚生労働省がまとめた賃金に関する統計資料のことをいい、それによって算出できる年度別・属性別の平均賃金は、交通事故賠償実務では、主婦の休業損害など、基礎収入の算定が困難な場合に、よく用いられます。

そして、赤字申告の事業所得者の場合も、労働の価値自体は否定されないものの、実際の収入の算定が困難であることから、被害者の同年齢の平均賃金を基礎収入として、休業損害を計算することになります。

この方法によれば、事業所得がなくても、平均賃金を得られる相当程度の蓋然性がある場合には、これを基礎収入として休業損害を請求できることになります。

ただし、年代や学歴によっては、平均賃金が高額になるケースもあるので、その平均賃金を得られる相当程度の蓋然性が認められないという場合も十分に考えられます。

その場合には、平均賃金から何割か減額した金額を基礎収入として、休業損害を算定するということにならざるを得ないでしょう。

また、平均賃金を得られる蓋然性や、その何割を得られると考えられるかについては、保険会社と争いになることが多く、示談交渉では思うような金額に至らない場合も考えられます。

3.赤字申告の場合の後遺症による逸失利益の算定方法

赤字申告の事業所得者の後遺症による逸失利益についても、事故前年の所得がマイナスだからといって、症状固定後も所得が発生しないとして、逸失利益が認められないのは妥当ではありません。

もっとも、逸失利益の場合、実際に発生した休業損害と異なり、請求する時点では発生していない、将来に渡って発生する損害であるため、正確に損害を算定することはより困難であるといえます。

そのため、逸失利益に関しては、賃金センサスを用いて平均賃金を基礎収入とする方法によらざるを得ないと考えられます。

実際の裁判でも、赤字申告の事業所得者の後遺症による逸失利益については、賃金センサスによる平均賃金もしくはこれを減額した金額を基礎収入として計算する方法が採用されることが多いです。

大阪地裁平成18年6月14日判決などは、事故前年における所得がマイナス1293万7000円であった中規模商店の代表者の被害者について、実際の所得が明らかでないものの、事故によって現実に労働能力の一部を喪失し、そのことと被害者の事業の縮小とが無関係であるとまでも言えないなどとして、事故当年の各種商品小売業者全労働者の平均賃金(459万1200円)の7割を得る蓋然性が高いと認めて、これを基礎収入として逸失利益を計算して認定しました。

以上のように、赤字申告の事業所得者の方でも、休業損害や逸失利益を請求することはできますが、その算定方法は難しく、個人の方では保険会社との交渉等に困難を生じることが大いに考えられます。

赤字申告の方を含め、交通事故に遭われた事業所得者の方で休業損害や逸失利益の請求について不安がありましたら、まずは当事務所までご相談ください。

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