家屋・自動車等改造費を損害として認められた裁判例を解説!
被害者が重度の後遺障害を負った場合には、それまで生活していた住居での生活の継続が困難となり、住居の改築をしたり転居したりすることがあります。
たとえば、歩行が難しくなったときなどは、段差部分をなくしてバリアフリーにしたり、お風呂やトイレも改装する必要があります。
同様に、足が不自由となった場合には、障害があっても運転できるように車も改造する必要もあります。
このように、被害者が生活しやすくしたり、家族が介護しやすくするために、家や自動車を改造する際にかかる費用を、家屋・自動車改造費として加害者や保険会社に請求することができます。
1.家屋・自動車改造費を損害として認められるには
交通事故による怪我がなければ、このような自宅の改造や車の改造は不要だったのですから、これらにかかった費用は交通事故による損害として認められます。
もっとも、改造費もどのようなものでも認められるものではありません。
交通事故と相当な因果関係にあるものに限られますので、交通事故とは無関係なものや、不必要なものは損害賠償として請求することはできません。
そして、家屋・自動車改造費は、被害者の受傷の内容、後遺症の程度・内容を具体的に検討し、必要性が認められれば相当額が認められます。
すなわち、重度の後遺障害を負った被害者を自宅で介護する必要性・相当性が認められる場合には、自宅内での移動や基本的生活行為を円滑に行うための家屋の改造は必要であると考えられるため、その障害の程度に応じて、必要な自宅改造費が事故と因果関係のある損害として認められるのです。
では、いかなる場合に必要性、相当性が認められるのでしょうか。
いくつか裁判例を紹介したいと思います。
2.損害として認められた裁判例
(1)東京地方裁判所平成24年10月31日判決
【事案の概要】
胸腰椎部の運動障害及び右膝関節の機能障害の後遺障害等級併合7級の後遺障害のある被害者について、屋内での歩行等日常生活動作に支障を来たしており、浴室ユニットバス設置工事(198万8200円)、床暖房工事(83万2900円)、階段設置工事(62万9500円)、荷物用昇降機設置工事(151万7000円)、手すり設置工事(29万4900円)、室内歩行補助車(18万7000円)の合計544万9500円の家屋改造費を請求した事案です。
【判決内容】
日常生活において、移動には杖が必要であること、外出時にはスクーターの運転が練習によってできるようになったこと等によれば、家屋改造費用のうち、階段設置、手すり設置、室内歩行補助車の合計111万1400円については、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができるが、その余については、本件事故と相当因果関係のある損害とまで認めることはできないとしています。
(2)東京地方裁判所平成21年12月4日判決
【事案の概要】
外傷性頸髄損傷の傷害を負って四肢麻痺等の後遺障害が残った被害者が、従前居住していたマンションで介護を受けているところ、その居住建物は家賃が高額であるため転居する必要があり、転居先の土地建物について、車椅子で移動するために敷地を広くしたり、エレベーターを設置する必要があるなどとして、家屋改造費として1000万円を請求した事案です。
【判決内容】
現在の介護状況を踏まえると、今後必要とされるべきヘルパー代等を損害として認める以上、家屋改造にかかる費用まで事故と相当因果関係のある損害とは認められないとしています。なお、この裁判例では、被害者(症状固定時60歳)の将来の付添介護費として、1億1315万4599円が認められています。
(3)名古屋地方裁判所平成23年2月18日判決
【事案の概要】
遷延性意識障害(後遺障害等級別表第1の1級1号)の大学生(症状固定時21歳)につき、住宅介護にあたり住環境を整える必要性があることは明らかであり、現在居住している土地建物では敷地面積が不足し、被害者の介護に適した環境を整える改造を行うことは不可能であったとして、新たな土地を購入した上で、被害者の在宅介護に適した家を新築することとし、介護住宅新築費用と通常住宅新築費用の差額分を請求した事案です。
【判決内容】
被害者が在宅介護を受けるには、事故当時居住していた自宅を改造するのでは足りないというべきであり、新規に介護用住宅を建築することは事故により必要になったことであると認められるとし、在宅介護用の住宅を取得するのに必要な費用と、在宅介護用ではない通常の住宅を取得するのに必要な費用の差額は、事故により被害者に生じた損害であるというべきであるとして、1895万9680円の住宅建築費用分の損害を認めました。
(4)福岡地方裁判所平成25年7月4日判決
【事案の概要】
交通事故により胸髄損傷による両下肢完全麻痺等の後遺障害(後遺障害等級別表第1の1級1号)を残した被害者(症状固定時6歳)が、事故以前被害者家族は自家用車を所有していなかったが、事故後は移動のために車両が必要になったとして、車両購入費等を請求した事案です。
【判決内容】
被害者が重篤な後遺障害を負ったため、移動には車両が必要となったこと、車椅子のリフトの代わりに電動式スライドステップを装備する必要があること等から、ミニバンクラスの大型車両が必要であること等が認められ、事故と因果関係が認められるとして、車両購入費として425万4410円、被害者の将来の車両購入費として、6年おきに100万円の損害を認めました。
(5)裁判例の検討
これらの裁判例をみると、車椅子による移動のための玄関のスロープの設置、自宅内の段差の解消、トイレ及び浴室の改造等は認められやすいといえますが、必要性が乏しいものや(裁判例①の床暖房工事や荷物用昇降機設置工事など)、他の賠償により補填されているもの(裁判例②のヘルパー代等)については、請求が認められない方向に働くと考えられます。
自動車の改造でも、必要性・相当性は、基本的に家屋の判断と変わらないでしょう。
そして、新築工事費用や転居費用・家賃差額を請求する場合には、家屋改造では車椅子による移動の空間を確保するのが物理的に不可能であることのほか、建物を改造するよりも新築した方が経済的であることなど、新築工事や転居の必要性・相当性を主張立証する必要があります。
3.家族の便益享受を理由とする減額
家屋改造費が認められたとしても、改造の結果、他の同居の家族も便益を享受していると評価される場合には、全額を認めずに割合的な認定がされています。
例えば、東京地方裁判所平成24年7月17日判決は、被害者が主張する住宅改造費につき、システムキッチン、ウォシュレットトイレの設置は、被害者の状態に照らしてその使用の可能性がないこと、洗面化粧台、テレビドアホン、雑工事及び給・排水工事の一部は介護と関係がないこと、改造工事は同居の親族の便益となることなどを考慮して、被害者主張の8割に相当する金額が事故と相当因果関係のある損害として認められています。
まとめ
以上のように、交通事故で重篤な後遺障害を負った場合には、介護費や家屋・自動車の改造費がかかり、その金額はかなり高額となります。
どのような場合に、どのくらいの費用を相手方に請求することができるのか、お困りの際には、是非当事務所にご相談ください。
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