高齢者の逸失利益に関して、注意すべき点や計算方法について解説!
交通事故で後遺症が残ってしまった場合、それが後遺障害と認定されれば、将来にわたって仕事に影響が出てしまうことにより、本来得られるはずの利益が得られなくなったことに対する賠償、すなわち逸失利益を相手方に請求することができます。
もっとも、高齢者の方の場合、この逸失利益の有無や範囲が、賠償上問題となり得ます。
そのため、今回は、高齢者の逸失利益に関して注意すべき点をご説明します。
1.高齢者の逸失利益が問題になる理由
そもそも、なぜ高齢者の逸失利益が争われるのかというと、実務上の逸失利益の計算の仕方では、逸失利益が算定できない可能性があるからです。
逸失利益は、
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
で計算されます。
上記の計算方式のうち、「基礎収入」とは逸失利益を算定するにあたって基準とする収入の金額であり、その人がどれだけ稼得能力を有しているかの指標となるものです。
しかし、高齢者の場合、すでに仕事をリタイアして無職となっている方もいるので、基礎収入が認定できないのではないかという点で問題が生じます。
また、「労働能力喪失率」と「労働能力喪失期間」は、後遺障害によって、仕事にどの程度の影響が出ているか、どの位の期間影響が続くか、を数値化するもので、前者については後遺障害の等級ごとに目安のパーセンテージが基準化されています。
そして、労働能力喪失期間については、馴化が生じる神経症状の後遺障害でない限り、その終期は原則として67歳とされるので、症状固定時から67歳までの期間が労働能力喪失期間となります。
そのため、68歳以上の高齢者や67歳に近い年齢の高齢者の場合、労働能力喪失期間をどのように考えるべきか、という点で問題となるのです。
2.無職の高齢者の基礎収入
高齢者であっても、現役で仕事をしている場合には、その仕事での収入を基礎収入として逸失利益を計算することができます。
また、逸失利益は、将来にわたる仕事への影響が存在するといえる場合に認められるものですから、事故当時に無職であっても、労働を行う能力と意欲があり、かつ、今後、就労する蓋然性が認められる場合には、逸失利益が認められる可能性は高いです。
これは、高齢者でない若年層などにも当てはまります。
もっとも、高齢者で無職という場合は、若年層の場合よりも基礎収入が認定されるハードルが高くなると考えられます。
なぜなら、高齢者の場合、加齢による身体的な衰えはどうしても無視できないところがあり、若年層と比べて労働能力がないと考えられやすいからです。
また、リタイアされてから長期間働かない期間が続いている場合、もはや労働する意欲がないと判断される可能性が高いといえます。
さらに、現実問題として、高齢者の求人もそこまで多いとはいえないため、就労の蓋然性という観点からも、若年層と比較すると、厳しく見られがちです。
このように、無職の高齢者の方は、逸失利益の算定において、示談交渉や裁判では不利ではあります。
しかし、実際に就労の具体的な予定があることなどをしっかりと立証していくことで、請求が認められる可能性もあるので、事故当時に無職だったということのみで、逸失利益を諦めるのは早計です。
また、無職の高齢者であっても、同居人のために家事労働を行っていると認められる場合は、家事労働の逸失利益が認められます。
家事労働は、若年層でも高齢者でも行えるものであり、就労の蓋然性などの問題は生じないため、高齢者であるという理由で否定されるべきものではありません。
もっとも、定年を迎えた後も仕事を続けている高齢者は、定年前よりも収入が減る傾向にあります。
そのため、家事労働を行う高齢者の基礎収入を普通の主婦の逸失利益と同様に、女性の全年齢平均賃金そのままで計算することは、公平さを欠くという観点から実際の裁判では、年齢別の平均賃金で計算されることもあります。
3.高齢者の労働能力喪失期間
68歳以上の高齢者の場合、原則どおりに67歳を労働能力喪失期間の終期としてしまうと、労働能力喪失期間がまったく認められないことになってしまいます。
しかし、現実に68歳以上の方がまったく働いていないかというとそのようなことはなく、シルバー世代の活躍が目覚しい現代において、68歳以上の方の逸失利益を否定することは不合理であるといえます。
そのため、実務上は、68歳以上の方については、統計上の平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として逸失利益を計算する方法が採用されています。
たとえば、平成28年に症状固定した70歳の男性の平均余命は、統計上15.72年であるため、この場合、その2分の1の7年(小数点以下は切り捨て)を労働能力喪失期間として計算されることになります。
これに対して、67歳以下の方は、通常、原則どおりに67歳を終期として労働能力喪失期間が定められることになります。
しかし、たとえば、症状固定時に66歳の方だと、労働能力喪失期間が1年しか認められなくなってしまい、それ自体不合理であるばかりか、68歳以上の方が平均余命の半分が認められることとの関係でも不公平です。
そのため、このような不合理・不公平な結果を避けるために、実務上は、症状固定時の年齢から67歳までの期間と、平均余命の2分の1の期間を比較して、長い方を労働能力喪失期間とすることになっています。
そうすると、たとえば平成28年に症状固定となった50歳の男性の場合、平均余命が32.54年であるため、その2分の1の16年と、67歳までの17年を比較すると、原則どおり67歳までの期間を労働能力喪失期間とすべきことになります。
これに対して、同じ平成28年に症状固定となった55歳男性は、平均余命が28.02年なので、67歳までの12年よりも、平均余命の2分の1の14年のほうが長くなるので、こちらが労働能力喪失期間となるのです。
まとめ
労働能力喪失期間は、1年違うと逸失利益の金額もかなりの差が生じる場合もあり、短く計算してしまうと大きな損害につながりかねませんので、慎重に計算したいところです。
以上のように、高齢者の方の逸失利益について、適正な金額の請求を行おうとすると、かなり大変です。
適切な賠償を受けられるようにするため、まずはご相談いただければと思います。
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