交通事故におけるTFCC損傷の後遺障害等級認定と慰謝料
「TFCC損傷とは、具体的にどのような症状なの?」
「交通事故でTFCC損傷を負った場合、加害者に後遺障害慰謝料を請求できるの?」
日常生活ではほとんど聞くことはありませんが、交通事故に関連した場面ではしばしば出てくるのが「TFCC損傷」というものです。
事故によって手首に負荷がかかった際に生じる可能性のあるもので、場合によっては手術が必要になったり、後遺症として痛みが残ったりします。
本記事では、TFCC損傷とはどのような症状なのか、治療方法、認定される可能性のある後遺障害等級等についてご紹介します。
この記事を読んで、TFCC損傷に対する適切な賠償を受けるためのご参考になさってください。
1.TFCC損傷とは
TFCCとは、Triangular Fibrocartilage Complesの略で、日本語では三角線維軟骨複合体(さんかくせんいなんこつふくごうたい)といいます。
手首の小指側の先端と手の骨との間にある軟骨でできた三角形の組織のことを指します。
このTFCCに負荷がかかることによって傷つくことをTFCC損傷と呼びます。
交通事故の場合は、バイクや自転車などの二輪車事故で、転倒した際にとっさに手をついた場合や、自動車のハンドルを握った状態で勢いよく追突された場合などに負傷が生じます。
TFCC損傷について、具体的な症状と診断・治療方法について順にご説明します。
(1)主な症状
TFCC損傷の主な症状としては以下のものが挙げられます。
・手首をひねる動きで激しい疼痛が生じる(ドアノブを回す、ペットボトルのふたを開ける、雑巾を絞る等)
・ものをもつ時に痛みが生じたり力が入らなかったりする
・掌を上側に向けると痛みが少し軽減する
単に痛みが出るだけでなく、手首をひねる動きによって強い症状が出るのが特徴的です。
(2)診断方法
TFCCは、軟部組織で構成されているため通常のレントゲン検査のみでは判明しないことがほとんどです。
そもそも手首は、複雑な可動をするために小さな骨や軟骨が集合しているため、画像による異常を発見することが難しい部位なのです。
そのため、事故直後は単に「手首捻挫」と診断されていることも多々あります。
手首の痛みが長く続くことや上記の症状が出ている等の状況であれば、手の専門医を早めに受診することが大切です。
TFCC損傷の疑いがある場合、レントゲン検査に造影剤を補助的に利用したりMRI検査や関節鏡検査などで損傷の有無を確認していきます。
適切な治療を行うためには、早めに専門医の診察を受けるべきです。
(3)治療方法
TFCC損傷に対する治療方法としては、主に3つが挙げられます。
#1:固定療法(保存療法)
TFCC損傷の治療法の最初の一つは、患部である手首を動かさないようにする固定療法です。
どうしても手首というのは日常生活で無意識かつ頻繁に動かしてしまう部位です。
しかし、TFCC損傷は、できるだけ早い段階から固定療法で手首を動かさないように炎症を抑える必要があります。
ギプスやサポーター、テーピング等の方法で手首を固定し、安静を保つようにしていきます。
固定期間は具体的状況によって変わりますが、大体3~4週間固定療法を行うことで、症状の改善が見られるケースが多いです。
また、患部の固定中は手指の動作を維持できるように、握り動作やつまみ動作など把握機能の改善を目的としたリハビリを行います。
#2:関節内ステロイド注射
固定療法でも改善が思わしくない場合には、薬理療法が行われます。
具体的にはステロイドの関節内注射を行うこととなります。
TFCC損傷の診断が遅く、事故直後に安静にせず慢性的な負荷をかけてしまった場合などは、固定療法では思うような改善ができず、薬理療法が選択されることになります。
#3:手術療法
3か月以上の固定療法や関節内注射を行っても症状に改善が見られない場合は、手術療法を行います。
手術療法には、TFCC切除手術、TFCC縫合手術、尺骨短縮手術などがあり、個々の患部の状況に応じて療法を行います。
短期入院でできることがほとんどですが、そもそもTFCCの手術を行える病院が多くないため、手術が必要であるかを含めなるべく早く専門医に診察してもらうのが理想です。
2.TFCCと後遺障害
TFCC損傷は上記のような治療が可能で、手術を行った場合には予後が良好であるケースが少なくありません。
しかし、残念ながら後遺症が残ってしまった場合は、どのような後遺障害が認められるでしょうか。
TFCC損傷による症状で認定を受ける可能性がある後遺症は、以下の2つです。
①機能障害(手首の動かしづらさ)
②神経症状(痛みや痺れ)
これらの症状がどのような後遺障害等級として認定される可能性があるのか、それらによってどの程度の慰謝料が請求できるのか、具体的にご紹介します。
(1)TFCC損傷が認定される後遺障害等級
TFCC損傷が機能障害として処理される場合、後遺障害等級10級10号や12級6号が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定要件 |
10級10号 | 1上肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの
(手首の可動域が、怪我をしていない方と比較して2分の1以下に制限されている場合) |
12級6号 | 1上肢の3大関節の1関節の機能に障害を残すもの
(手首の可動域が、怪我をしていない方と比較して4分の3以下に制限されている場合) |
また、TTFCC損傷のなかでも神経症状が残る場合は、後遺障害等級12級13号や14級9号が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定要件 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの
(画像等の各種検査によって、神経症状の原因が医学的に証明できる場合) |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの
(神経症状の原因が医学的に証明はできないが、説明はできる場合) |
このように、どのような症状が残っているのかによって認定される等級が変わりますので、きちんと自覚症状を主治医に訴えることが大切になります。
また、可動域の測定に際しては、目測などではなくきちんと決まった方式で測ってもらう必要があります。
そのため、どのような検査を受ければ良いのか等は、TFCCに詳しい弁護士に相談しながら進めることがおすすめです。
(2)後遺障害等級別の慰謝料相場
交通事故における慰謝料の算出基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所(弁護士)基準の3つがあります。
自賠責保険基準とは、自動車を運転するすべての人に加入が強制されている自賠責保険が最低限の補償を行うことを目的とした基準で、3つの基準の中でも最低額となることが多いです。
任意保険基準とは、加害者側の任意保険会社が独自に定めた基準をもとに慰謝料を算出するものです。
裁判所(弁護士)基準は、過去の事例をもとに慰謝料算出を行い、3つの基準の中では最高額となるケースが多いです。
たとえば、上で紹介した神経症状における12級と14級の慰謝料相場は以下になります。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 裁判所(弁護士)基準 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
任意保険会社も、多くの場合自賠責保険基準と同等の提案をしてきます。
そのため、任意保険に任せきりにならず、弁護士による交渉を行った方がいい場合がほとんどです。
3.TFCC損傷における後遺障害等級認定の流れ
TFCC損傷における後遺障害等級認定の流れをご説明します。
(1)治療・症状固定の診断
まずは、TFCC損傷であると医師に診断をしてもらう必要があります。
交通事故に遭い、手首に慢性的な痛みが続いたり腫れなどの症状があったりする場合は、早めに専門医を受診しましょう。
そして固定療法、関節内ステロイド注射、手術など、症状に合った必要な治療を行ってください。
それらの療法を行っても症状に改善が見込めない場合は、医師に症状固定の判断をしてもらいましょう。
症状固定とは、治療をこのまま継続しても症状改善が期待できない状態のことを指します。
(2)後遺障害診断書や必要書類の提出
医師から症状固定の判断を受けた後は、後遺障害診断書を医師に書いてもらい、加害者の加入する自賠責保険を通して調査を受けます。
この調査を進めるために最も重要な役割を果たすのが後遺障害診断書で、必要事項に漏れがないか、語弊のある記載になっていないかなど、注意が必要となります。
また、TFCC損傷の場合、その診断の根拠となったレントゲンの画像やMRIの結果書類の提出も必要となります。
場合によっては、主治医に別途意見書を作成してもらうことが有用であることもあります。
もっとも、医師は後遺障害等級認定の手続の専門家ではないため、書類作成を任せることに不安を感じられるかもしれません。
そのため、交通事故の対応や後遺障害等級認定の申請に精通している弁護士にご相談いただくのが最も安心できます。
(3)審査・結果通知
必要書類を自賠責保険会社や損害保険料率算出機構に対して送付したのち、審査が行われ結果通知が届きます。
この結果を踏まえて、示談交渉を始めていくことになります。
交通事故における示談交渉については、こちらもご参照ください。
まとめ
TFCC損傷は、交通事故など手首に負荷がかかってしまうことで症状が生じる可能性があります。
また、通常の病院での検査だけでは損傷が発見されにくいため、専門医でよく検査してもらうことが早期改善の鍵となります。
また、後遺障害等級認定においてTFCC損傷は機能障害や神経症状の観点から、後遺障害が認められる可能性があります。
TFCC損傷が交通事故によるものであった場合、事故と怪我との因果関係を証明する必要があったり、適正な慰謝料を請求するために示談交渉が必要であったりします。
交通事故の対応に関するご相談は、弁護士法人みずきへご連絡ください。
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