症状固定とは?基本概念や注意点、その後の法的対応について弁護士が解説
「症状固定とはどのような状態なのか?」
「症状固定の診断を受けたらどうなるのか」
「保険会社から症状固定の時期について打診を受けたらどうすればいい?」
交通事故による怪我を治療中の方の中には、症状固定という言葉が出てきて、疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。
症状固定は医学的な概念であるとともに法的にも重要な意義を持ちます。
本記事では、症状固定の概要や診断を受けた後の流れ、主な注意点等について詳しく解説します。
また、加害者側の保険会社から症状固定の時期について打診を受けた場合の対処法についても解説していますので、症状固定について話が出ている方の参考となれば幸いです。
1.症状固定の概要
症状固定は、交通事故の賠償に関する重要概念です。
どのような状態が症状固定にあたるのか、賠償にどのような影響を与えるのかについて解説します。
なお、症状固定の概念については以下の記事でも取り上げています。
(1)症状固定とは
症状固定とは、怪我の治療を一定期間継続したのち、症状が一進一退となって、これ以上治療を継続しても医学的に症状が改善しない状態のことです。
治療の経過やその時点での症状などをもとに、治療を継続しても改善の見込がないと主治医が判断したときに診断を下されます。
たとえば、むちうち症状であれば、治療を開始してから緩やかに軽快し、1か月ないし6か月ほどで完治する場合が多いです。
しかし、半年以上にわたって首や肩の痛みや痺れがとれない場合があり、その場合、損害賠償上、症状固定と判断されます。
怪我の内容や程度によって症状固定に至るまでの期間はさまざまで、数か月で判断される場合もあれば、1年以上にわたって治療が行われることもあります。
症状固定の診断は担当主治医が被害者の回復状況を確認しながら行うので、症状固定までのおおよそのタイミングについては主治医に聞いてみましょう。
なお、交通事故における典型的な怪我には、症状固定の診断に至るまでの目安期間があります。
これについては、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
(2)症状固定が賠償に与える影響
症状固定は、上記のように医学的な概念であると同時に法的にも重要な意義を持ちます。
具体的には、症状固定時を基準に治療費や傷害慰謝料などの賠償額が確定し、後遺障害等級の認定申請ができるようになります。
以下で順に解説します。
なお、症状固定と賠償の関係については、以下の記事も参考になるので、あわせてご参照ください。
#1:賠償額の確定
症状固定になると治療費、休業損害、傷害慰謝料等の金額が確定します。
上述のように、治療をしても医学的に症状が改善しない状態を症状固定としているため、症状固定と判断された後に治療を行っていたとしても、その治療に治療の必要性が認められない限り、治療費が賠償されることはありません。
もっとも、重篤な後遺障害が残った場合などの例外的なケースでは、症状固定後に要した治療費について補償を受けられる場合もあります。
以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
#2:後遺障害等級の認定申請ができるようになる
医師から症状固定の診断を受けると、その後の治療費等を請求することはできなくなりますが、一定の症状が残っている場合には、後遺障害等級の認定申請をすることができるようになります。
症状固定の時点で常時疼痛や痺れなど何らかの症状が残存しており、それが後遺障害等級の要件を満たせば、申請によって後遺障害等級の認定を受けることができ、等級に応じた後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を受け取ることが可能です。
後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺障害が残ったことに対する精神的・身体的な苦痛に対する賠償で、後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残り労働能力が減少したことで将来得ることができなくなった収入に対する賠償のことをいいます。
これらの賠償を受けるためには、後遺障害等級の認定を受ける必要がありますが、症状固定の診断を受けた後に症状が残っていたからといって、必ずしも後遺障害等級の認定を受けられるわけではありません。
自賠責が定める1級から14級の後遺障害等級の認定基準を満たしていると認められた場合にのみ認定を受けることができます。
後遺障害慰謝料の金額は、下表のように定められています。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判所(弁護士)基準 |
1級 | 1150万円(1100万円) | 2800万円 |
2級 | 998万円(958万円) | 2370万円 |
3級 | 861万円(829万円) | 1990万円 |
4級 | 737万円(712万円) | 1670万円 |
5級 | 618万円(599万円) | 1400万円 |
6級 | 512万円(498万円) | 1180万円 |
7級 | 419万円(409万円) | 1000万円 |
8級 | 331万円(324万円) | 830万円 |
9級 | 249万円(245万円) | 690万円 |
10級 | 190万円(187万円) | 550万円 |
11級 | 136万円(135万円) | 420万円 |
12級 | 94万(93万) | 290万円 |
13級 | 57万円(57万円) | 180万円 |
14級 | 32万円(32万円) | 110万円 |
※2020年3月31日までに発生した事故は()内
症状固定と後遺障害等級については、以下の記事も参考になります。
2.症状固定になった後の手続の流れ
上述のとおり、症状固定となっても何らかの症状が残存している場合には、後遺障害等級の認定申請を行うことを検討しましょう。
後遺障害等級の認定申請から賠償金を受け取るまでの流れは以下のとおりです。
- 後遺障害診断書を作成してもらう
- 後遺障害等級の認定申請を行う
- 認定結果の通知
- 認定結果をもとに示談交渉を行う
医師から症状固定の診断を受けたら、どのような流れで手続が進行するのかを把握しておきましょう。順に解説します。
なお、手続の流れについては以下の記事も参考になるので、合わせてご確認ください。
(1)後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定の診断を受けたら、主治医に後遺障害診断書を作成してもらいましょう。
症状固定の時点で残存している症状を「後遺症」といい、その症状などについて記載した書類が後遺障害診断書です。
後遺障害診断書は医師が作成するものであり、作成を依頼してから受け取れるまでは通常1週間~1か月程度かかります。
後遺傷害診断書に記載されている内容が、後遺障害等級認定の審査結果に大きく影響するため、正確な情報を記載してもらうことが大切です。
なお、後遺障害診断書の記載項目や作成を受ける際のポイントについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
(2)後遺障害等級の認定申請を行う
後遺障害診断書を受け取ったら、後遺障害等級の認定申請を行います。
後遺障害等級認定申請の方法は大きく分けて2つです。
- 事前認定
- 被害者請求
それぞれの方法について、以下でご説明します。
#1:事前認定
事前認定とは、加害者側の保険会社に対して後遺障害診断書を提出して行う方法です。
つまり、加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請を依頼する流れになります。
事前認定のメリットは、手続の手間を省くことができる点です。
後遺障害等級の認定申請には、後遺障害診断書以外にも複数の書類作成や資料の収集をしなければなりませんが、事前認定では、書類の作成や資料収集を保険会社に任せることができます。
しかし、保険会社によっては手続に必要最低限の書類しか用意せず、それによって審査機関に実際の症状よりも軽いと判断され、適切な等級の認定が受けられなかったり、後遺障害等級非該当と判断されるといったデメリットがあります。
事前認定は後遺障害等級認定申請の手間を省ける一方で、適切な等級に認定されないリスクがある点を押さえておきましょう。
以下の記事でも事前認定について解説しているので、合わせてご覧ください。
#2:被害者請求
被害者請求は、被害者自身が後遺障害診断書等の必要書類を準備し、自賠責保険に提出して申請する方法です。
全ての手続を自分で行う必要があり、後遺障害診断書以外の書類や資料を作成・収集しなければならないため、事前認定と比較すると手間がかかるというデメリットがあります。
しかし、書類の書き方や添付資料などを工夫することができ、審査機関に対してより正確に症状を主張できるため、適切な等級認定を受けられる可能性が高まるという大きなメリットがあります。
実際の症状に基づいて適切な後遺障害等級認定を受けられれば、適正な賠償金を受け取ることができます。
また、弁護士に相談することで、書類作成や資料収集について詳しくアドバイスやサポートを受けることが可能です。
事前認定よりも納得のいく賠償金を請求できる可能性が高いので、なるべく被害者請求で後遺障害等級認定の申請を行うことを推奨します。
なお、以下の記事でも被害者請求のメリット等について解説しているため、合わせてご参照ください。
(3)認定結果の通知
後遺障害等級認定の申請をしたら、認定結果の通知が来るまで待ちましょう。
書類審査が原則で、結果が通知されるまで1~3か月程度を要します。
被害者請求で申請を行えば、認定結果の通知とともに自賠責保険から一部の金額が支払われるので、早期に賠償金を受け取ることが可能です。
(4)認定結果をもとに示談交渉を行う
認定結果が出たら、その結果をもとに加害者側とあらためて示談交渉を行います。
示談交渉では、後遺障害等級に応じて算出された金額を請求するのが一般的です。
事前認定の場合は、認定結果に応じて算出された金額をまとめて受け取ることができます。
被害者請求を行った場合は、すでに自賠責保険から一部の賠償金が支払われているため、その差額分を相手方保険会社に請求することになります。
3.症状固定と言われた際の注意点
後遺障害等級の認定を受けるためには、症状固定に至るまでの過程が重要で、その間に適切な治療を行っていることが求められます。
一般的には、6か月以上の治療継続を経て症状固定に至っていることが望ましく、その間の治療の頻度も重要といわれます。
症状固定に至るまでの治療期間や通院頻度が極端に少ない場合には等級非該当となる可能性もあるため、症状固定までの時期については注意が必要です。
なお、以下の記事で症状固定に至るまでの期間が短い場合のリスクや対処法について解説しているので、ぜひご覧ください。
(1)保険会社から症状固定と言われた場合
加害者側の保険会社から症状固定の打診をされた場合でも、治療を中断しないことが大切です。
そもそも症状固定の時期を判断するのは基本的には医師であるため、保険会社から症状固定の時期について話が出ても、これに応じる必要はありません。
保険会社から治療費の打ち切り等を打診されても鵜呑みにせず、医師の判断をあおいで、治療継続の必要性に関する意見書を作成してもらうなどの対応をしましょう。
なお、弁護士に相談することで、適切な症状固定の時期や打ち切りへの対応に関する適切なアドバイスやサポートを受けることができます。
そのため、保険会社から症状固定や治療費の打ち切りに関する打診を受けたときは、早期に弁護士に相談するのがおすすめです。
(2)医師から症状固定と言われた場合
担当医から早期の段階で症状固定の打診を受けたら、そのまま応じるのではなく、一度治療の必要性を問いかけてみましょう。
まだ痛みが残っている場合や治療の効果を感じている場合は、その旨を担当医にしっかり伝えると、治療を継続する必要性があると判断される可能性があります。
症状固定の診断を受けると、その時期を後から変更することはできないため、治療の効果や必要性を感じる場合は医師に正確かつ詳細に伝えて、適切な判断をしてもらうことが重要です。
4.医師が症状固定の診断をしてくれない場合の対処法
医師が症状固定の診断をしてくれない場合もあります。
たとえば、以下のケースに該当する場合は、医師は症状固定の診断をしてくれない可能性が高いです。
- まだ症状固定の時期ではないと判断した場合
- 完治したと判断した場合
(1)医師が症状固定の時期ではないと判断した場合
医師に症状固定の時期ではないと判断された場合は、まだ治療の必要性があるということなので、症状固定の診断をしてくれるまで医師の判断に従い、引き続き治療を継続することになります。
時間が経てば、いずれは症状固定の時期が来るので、その間はしっかりと治療を継続することが大切です。
もう治療の必要がないと感じた場合は、正直に主治医に伝え、症状固定の判断を仰ぐようにしましょう。
(2)医師が完治したと診断した場合
医師が完治したと判断した場合、既に症状が残っていないということなので、症状固定との診断はされません。
しかし、症状が残っているのであれば、医師に現在の症状を詳細に伝えて、完治していないことを理解してもらい、症状固定の診断を受けられるようにしましょう。
5.症状固定について弁護士に相談するメリット
症状固定について弁護士に相談するメリットはたくさんあります。
主なメリットは以下の4つです。
- 適切な症状固定の時期についてアドバイスを受けられる
- 後遺障害診断書の内容のチェックを受けられる
- 後遺障害等級の認定申請の手続を依頼できる
- 示談交渉を一任できる
順にご紹介します。
(1)適切な症状固定の時期についてアドバイスを受けられる
弁護士は後遺障害等級認定に必要な要素について把握しているため、適切な症状固定の時期についてもアドバイスを受けられます。
先ほど述べたように症状固定の時期によって、後遺障害等級の認定結果が変わる可能性があるため、担当医から打診されたときの対応は重要です。
担当医から症状固定の診断を受けたらそのまま応じるのではなく、弁護士に一度相談して、症状固定の診断を受けて後遺障害等級の認定を受けられる可能性があるのか判断をあおぎましょう。
(2)後遺障害診断書の内容のチェックを受けられる
後遺障害診断書の内容についてチェックを受けられることも弁護士に相談するメリットです。
後遺障害等級認定の審査においては、書面審査が原則であるため、適切な等級の認定を受けられるかどうかは後遺障害診断書の内容次第です。
医師が作成したものだからといって、後遺障害診断書の内容が等級認定を受けられるものとなっているとは限りません。
後遺障害等級の認定基準について医師が正確に把握しているとは限らず、記入漏れや不備がある可能性もあります。
弁護士は後遺障害等級認定を受ける上で重要な情報等を把握しているので、担当医から後遺障害診断書を受け取ったら、適切な等級に認定されるための書き方となっているかについてチェックを受けるのがおすすめです。
(3)後遺障害等級の認定申請の手続を依頼できる
弁護士に後遺障害等級の認定申請の手続を依頼することもできます。
被害者請求であれば、被害者自身が必要な書類等を用意しなければなりませんが、弁護士に手続を依頼すると必要な作業を一任することが可能です。
弁護士は豊富な実務経験や専門知識に基づいて手続を遂行するため、適切な等級の認定を受けられる可能性が高まります。
(4)示談交渉を一任できる
後遺障害等級の認定結果が出た後には、弁護士にそのまま示談交渉を一任できます。
示談交渉では、加害者側と賠償金の項目や金額について交渉しますが、弁護士が交渉することで裁判所(弁護士)基準で賠償金を請求することが可能です。
裁判所基準は、過去の裁判例の蓄積によって導き出された賠償金の相場で、保険会社が提示する額よりも高額かつ適切な賠償基準となっています。
ご自身で裁判所基準を用いた交渉を行うことも可能ですが、保険会社はこれに応じない場合がほとんどです。
弁護士に示談交渉を依頼することで、裁判所基準に基づいた適正な賠償金を獲得することにつながります。
交渉の手間を省けるだけでなく、賠償金の大幅アップが期待できるため、弁護士に示談交渉を依頼することをおすすめします。
まとめ
本記事では、症状固定の概要や注意点、診断を受けた後の流れなどについて解説しました。
症状固定は、医師が治療を継続しても改善の見込みがないと判断したときに診断を下されます。
損害賠償という観点では、症状固定の時期によって、賠償額が大きく変わるため、適切な時期で症状固定の診断を受けることが重要です。
また、担当医から症状固定の診断を受けたら、残存する症状の内容や程度に応じて、後遺障害等級の認定申請を行うことを検討しましょう。
事前認定でも申請は可能ですが、適切な等級の認定を受けるためにも被害者請求を行うのがおすすめです。
弁護士に相談すれば、適切な症状固定化の判断や後遺障害等級認定の申請のサポートを受けられるため、症状固定について話が出たら一度弁護士に相談しましょう。
弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、症状固定に関する悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
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