個人事業主でも休業損害を請求できる?必要になる書類について解説

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。

「個人事業主でも休業損害は請求できるのか」
「個人事業主はどうやって休業損害を請求したらいいのか」

個人事業主の中には、交通事故に遭ってしまい、休業損害を請求できるのか、またどうやって請求できるのか分からずに困っている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、個人事業主の休業損害についてご紹介します。

1.個人事業主でも休業損害を請求できるのか

個人事業主でも休業損害を請求できるのか

個人事業主であっても、休業損害を請求することはできます。

ただし、給与所得者と異なる部分が多いため、注意が必要です。

給与所得者の場合、「何日休んだから何円給料が減らされた」という説明は比較的容易です。

しかし、個人事業主の場合は、事故によって事業にどのような影響が生じたのか、それによってどのように減収が生じているのか、といった点を立証することは、必ずしも簡単ではありません。

そのため、給与所得者よりも多くの資料としっかりとした請求方法を整える必要があります。

2.個人事業主が休業損害を請求するために必要な書類

個人事業主が休業損害を請求するために必要な書類

では、個人事業主が休業損害を請求するためにはどのような書類を準備する必要があるでしょうか。

大きく分けると、2種類の資料を準備することが求められます。

2種類の資料

  1. 収入に関する資料
  2. 休業に関する資料

(1)収入に関する資料

休業損害を請求するためには、減収していることを示さねばなりません。

そのために、まずは基礎日額を算定します。

休まなければ得られるであろう1日あたりの収入のことです。

多くの場合、まずは事故の前年の確定申告書をもとに、事故がなければ得られる日額を算定します。

季節や月によって売上の増減が激しいような業種の場合には、年間の売上ではなく、月ごとの売上票などから算定することもあります。

また、事業を始めたばかりで確定申告前に交通事故に遭われた場合には、金銭出納帳や会計帳簿等によって、収入を証明することになります。

(2)休業に関する資料

事故によって、仕事ができない状況であったこと、休まなければならなかったことも主張する必要があります。

そのためには、負った怪我の内容、どのくらいの頻度で通院していたのか、ギプスなどで固定していたのか等が分かる診断書や、仕事を実際に休んだことが分かる日報などが有用となります。

3.個人事業主の場合の休業損害の計算方法

個人事業主の場合の休業損害の計算方法

個人事業主の休業損害の計算方法についてご紹介します。

休業損害は以下の3つの基準で算定することが可能です。

3つの基準

自賠責基準

任意保険基準

弁護士基準

順にご説明します。

(1)自賠責基準

自賠責基準とは、交通事故の被害者に最低限補償される金額を算定する基準で、自賠責保険会社から休業損害が支払われる場合に適用されます。

自賠責基準の場合、休業損害は以下の式で算出することになります。

『休業損害=日額6,100円×休業日数』

(※令和2年3月31日までに発生した交通事故の場合は、日額5,700円)

たとえば、交通事故によって1週間休業した場合の休業損害は、6,100円×7日=42,700円となります。

なお、基礎日額が6,100円を超える場合は、それを証明することで最大19,000円まで増額することが可能です。

(2)任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社が独自に定めている基準です。

任意保険会社ごとに、算定基準が異なっています。

各社、任意保険基準を公表していないため、明確に試算することはできませんが、多くの場合自賠責基準と同等か多少上回る程度となります。

(3)弁護士基準

弁護士基準は、過去の裁判例を参考に、各事案毎に適切な計算を行うことになります。

そのため、事案によっては計算方法を柔軟に変える必要があり、最も事実に即した賠償を得られる可能性が高いです。

弁護士基準で算定する多くの場合、休業損害は以下の式で算出することになります。

『休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数』

#1:基礎収入

1日あたりの基礎収入は、所得金額に固定経費を加算した金額を用います。

この場合の所得金額は、交通事故に遭った年の前年度の年間所得を365日で割った金額です。これは、確定申告書や課税申告書等の資料をもとに算出します。

また、固定経費とは、一時休業をしたとしても継続的に支払い続けなければならない費用のことをいいます。

これは、休業期間中も負担し続けているため、損害に含んで考えることとなります。

たとえば、事務所等の家賃や従業員の給料、公租公課、損害保険料、減価償却費、リース料などが当てはまります。

一方で、休業したことによって支払を免れる流動経費は、休業損害には含まれません。

そのため、固定経費と流動経費の両方が含まれる売上金額そのものを休業損害として請求することはできません。

#2:休業日数

単に仕事を休んだ日というわけではなく、事故による怪我で休まざるを得なかった日ということになります。

そのため、職種によっても大きく変わってきます。

例えば、事故によって足を骨折したとして、デスクワークの場合ととび職のばあいでは、休業の必要性が大きく異なってきます。

診断書や医師の意見などを基に、休業が必要だった日数を算出することになります。

#3:確定申告していない場合の基礎収入

確定申告をしていない場合には、所得を証明する書類がないことになりますので、原則として休業損害の請求はできません。

しかし、たとえば、通帳や帳簿等の他の手段で所得や減収等を証明することができれば、休業損害の請求ができる可能性もあります。

#4:低い収入として確定申告している場合の基礎収入

この場合は、原則として、確定申告書に記載されているとおりの低い金額しか基礎収入にできません。

しかし、仮に実収入が確定申告書の記載よりも多いことを立証できれば、例外的に、実収入の金額を基礎収入として認められる場合もあります。

4.個人事業主が休業損害を請求する流れ

個人事業主が休業損害を請求する流れ

個人事業主が休業損害を請求する流れについてご紹介します。

(1)内払いを請求する場合

休業損害は内払いを請求することができます。

この場合の内払いとは、相手方保険会社との間で示談が成立する前に、休業損害を支払ってもらうことをいいます。

以下では、内払いを請求する場合の流れについてご説明します。

#1:必要書類を収集、提出する

まず、休業損害を請求するために必要な書類を収集し、相手方に提出します。

#2:相手方保険会社と交渉する

提出した書類を基に、内払いの可否及び内容(金額、時期、支払方法等)を、相手方保険会社と交渉します。

なお、内払いを請求したときに、もし日額が争いになった場合には、ひとまず日額6,100円×実通院日数を請求するという方法もあります。

最終的に全体の損害賠償金が支払われる際には、内払金額は既払金として控除されることになります。

なぜなら、内払いはあくまでも損害賠償金の先払いだからです。

(2)示談交渉を行う場合

以下では、示談交渉を行う場合の流れについてご説明します。

#1:必要書類を収集、提出する

まず、休業損害を請求するために必要な書類を収集し、相手方に提出します。

#2:示談交渉する

#1で提出した必要書類を基に、相手方が休業損害を算定します。

通常の示談交渉において、相手方は休業損害のみを算定することはなく、損害賠償全体の金額を算定します。

この中で、休業損害としての費目が提示されますので、相手方の提示額が希望する額に達しているかどうかを検討します。

そして、増額が必要であれば、相手方の提示額を上回る金額を示して交渉します。

#3:示談書に署名捺印する

示談交渉が最終的に妥結すると、示談書に署名捺印をし、相手方に返送します。

後日、示談内容に沿って振込が行われます。

振込日になったら、示談書通りの金額が振り込まれているか確認しましょう。

まとめ

個人事業主でも、交通事故によって収入が減少した場合には、休業損害を請求することが可能です。

個人事業主が休業損害を請求する場合、収入を証明する資料と休業日数を証明する資料を提出する必要があります。

個人事業主の休業損害の算定方法は3種類ありますが、弁護士が案件に介入したときに使われる弁護士基準が、最も適切な損害額を算出することができます。

弁護士法人みずきは、休業損害を含め、交通事故に関する相談を無料で承っております。
どうぞお気軽にご相談ください。

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