物損事故で利用できる保険とは?物損事故に関することで押さえておくべきポイント

執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

法律は堅苦しいという印象はあるかと思います。しかし、そんなイメージに阻まれて、皆さんの問題や不安が解決されないのは残念でなりません。
私は、そんな法律の世界と皆さんを、柔和に橋渡ししたいと思っています。問題解決の第一歩は、相談から始まります。
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「物損事故はどんな保険が利用できるのか」
「物損事故で保険を使うにはどうしたらいいのか」

物損事故に遭った方の中には、どんな保険が適用されるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、物損事故の際に利用できる保険や保険の利用の流れ等についてご紹介します。

1.物損事故とは

物損事故とは、死傷者がなく物だけが損壊した事故のことをいいます。

たとえば、自動車の一部または全部が損壊したり、民家のブロック塀やガードレールなどを壊してしまったりしたものの、死傷者がいない場合が物損事故です。

これに対して、人の身体・生命に被害が生じた事故は人身事故と呼ばれています。

これらは主に刑事責任を問う場面で問題となります。

物損事故の場合は原則として刑事責任や行政責任が問われることはありません。

つまり、罰金刑が科されたり免許の違反点数が加算されたりしないのが特徴です。

そのため、例え被害者が少々怪我をしていたとしても、物損事故として処理して欲しいという要望がされることがあります。

賠償に関しては、物損に対しては自賠責保険の適用がないため、修理費や代車費用などの損害が発生していたとしても自賠責保険から保険金が支払われません。

そのため、物損に関しては加害者または加害者の加入している任意保険会社へ賠償請求することになります。

また、加害者が保険に加入しておらず資力にも乏しいという場合には、自身の加入している任意保険を利用することも考えられます。

物損事故で利用できる保険の種類や利用できる状況については、次項で解説します。

2.物損事故の際に利用できる保険

物損事故の際に利用できる保険は決まっています。

利用できる保険は主に以下の2つです。

物損事故の際に利用できる保険

  1. 加害者の対物賠償保険
  2. 自分の車両保険

順にご紹介します。

(1)加害者の対物賠償保険

自分が被害者の場合は、加害者側が任意保険で対物賠償保険に加入していれば、そこから賠償を受けることができます。

法律上賠償の対象となるものに関しては対応を受けられるので、車の修理費や代車費用、積載物の弁償などが賠償を受けられる可能性があります。

しかし、対物賠償保険には限度額が設けられている場合があります。

賠償額が限度額を上回った場合は、超過分について直接加害者に請求することになる点を押さえておきましょう。

(2)自分の車両保険

相手がいない場合(単独事故)、または加害者が当て逃げなどで特定できない、もしくは加害者が対物賠償保険に未加入の場合等、相手方に賠償請求できない場合は、自分が加入している車両保険を利用することを検討しましょう。

その他、自身の過失割合が大きい場合や、全損の際の車両時価額の認定が法律上の認定よりも高額になる場合等、相手方に賠償請求できるケースでも車両保険を利用した方が得になるということもあります。

請求できる損害は、契約内容により異なることがありますが、基本的には車の修理費や買い替え費用等は補償の対象となります。

相手からの賠償金であれば自分の過失割合分の減額がされますが、車両保険から下りる保険金は過失割合による減額をされません。

その他、代車特約やレッカーのロードサービス等、色々な付帯サービスがあることが多いので、自分の保険契約では何ができるのかを確認しておくとよいでしょう。

注意点としては、後でも説明しますが、自身の保険を利用する場合翌年度の保険料が上がってしまうので利用するのが得になるかをしっかりと見極めることが大切です。

3.物損事故で保険を利用する流れ

物損事故で保険を利用する流れは、以下のとおりです。

物損事故で保険を利用する流れ

  1. 警察に通報する
  2. 保険会社に連絡する
  3. 交通事故証明書と損害額が分かる資料を提出する
  4. 示談交渉を行う

順にご紹介します。

(1)警察に通報する

物損事故が発生した場合には、まずは警察に通報しましょう。

警察への通報は道路交通法上の義務なので、仮に怪我がなかったとしても必ず行わなければなりません。

また、警察へ通報しなければ、後述する交通事故証明書の交付を受けることができなくなります。

交通事故証明書は事故があった事実を示す証拠としてとても大切です。

これがない場合、極論、事故があったかどうか自体に争いが生じてしまう可能性もありますので、かならず警察に事故処理をしてもらいましょう。

(2)保険会社に連絡する

警察に通報して対応が済んだら、保険に加入している場合は、その保険会社に連絡しましょう。

契約内容によりますが、車両保険や対物賠償保険に加入していれば、事故による損失を保険金で賄うことができます。

しかし、保険会社に連絡をしなければ、これらの保険金を受け取ることができなくなる可能性があるため、トラブルを防止するためにも必ず連絡しましょう。

また、保険会社に連絡することで、保険を利用しない場合であっても事故対応についてのアドバイスやサービスを受けることができる場合もあります。

(3)交通事故証明書と損害額が分かる資料を提出する

保険会社に連絡を入れたら、交通事故証明書と損害額が分かる資料を保険会社に提出する必要があります。

交通事故証明書は、自動車安全運転センターの窓口のほか、インターネットで発行の申請をすることができます。

発行には手数料がかかりますので、被害者の場合には率先して準備をしなくても大丈夫です。

加害者側の保険会社が取得することがほとんどなので、必要に応じて写しをもらうことができます。

また、車の修理見積を取り、車両の時価額と修理見積額のどちらが高いかを確認します。

修理見積の方が高ければ経済的全損となり、車両時価額が賠償の対象となります。

加害者側の保険会社が対応している場合、アジャスターという損害調査員が実際の車両を確認しに行ったり、修理工場と金額のすり合わせを行ったりしますので、損害額の確認にはできる限り協力をしましょう。

なお、交通事故証明書の概要や入手方法については、以下の記事も参考になります。

2022.01.31

交通事故証明書とは?必要な場面と取得方法をご紹介

(4)示談交渉を行う

加害者がいる場合は、相手方の保険会社と示談交渉を行います。

示談交渉では、事故の過失割合や損害額について話し合い、折り合いがついたら示談成立です。

被害者にも過失がある場合、自身の対物賠償保険が交渉を行ってくれますので、任せることもできます。

また、一般的には示談の際には示談書や免責証書という書面を取り交わすことになりますが、物損で特に争いがないような場合には示談書の作成を省略して解決するということもあります。

示談交渉では加害者側の任意保険会社は支出を抑えるために、加害者側が少しでも有利になるように交渉をしてくる可能性が高いです。

被害者の過失割合を高めに設定して算定した賠償金を提示してくることが想定されるため、納得がいかない場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

示談に応じてしまうと後から示談内容を撤回することができなくなるので、決して相手方の主張を鵜呑みにしないようにしましょう。

4.物損事故で押さえておくべきこと

物損事故に関することで、いくつか知識として押さえておくべきことがあります。

特に知っておくべきことは以下の4つです。

物損事故に関して押さえておくべき事項

  1. 刑事処分・行政処分上は無事故扱いとなる
  2. 保険を利用すると等級が下がる
  3. 物損事故では慰謝料を請求できない
  4. 怪我が判明したらすぐに診断を受ける

順にご紹介します。

(1)刑事処分・行政処分上は無事故扱いとなる

物損事故を起こしても、そのこと自体で罰則を取られることは原則ありません。

人身事故の場合はさまざまな罰則を受けることになりますが、物損のみが生じているのであれば、別途交通違反が問われない限り、原則違反点数は加算されません。

つまり、例え物損事故であったとしても、酒気帯び運転をしていればその分の違反は当然つくという形になります。

また、あくまで罰則がないだけであり、破壊したものを弁償する責任は発生する点に注意しましょう。

(2)保険を利用すると等級が下がる

保険を利用すると等級が下がり、翌年度以降の更新後の保険料が高くなる点は押さえておきましょう。

主に保険には20段階の等級があり、無事故の期間が長くなるほど等級は上がり、事故を起こして保険を使うと等級が下がる仕組みになっています。

等級が下がるとその分保険料も高くなるので、車の修理等が少額の負担で済むのであれば、あえて保険を使わない選択も有効でしょう。

(3)物損事故では慰謝料を請求できない

物損事故では、原則として慰謝料が発生しません。

人身事故の場合は、傷害(入通院)慰謝料や後遺障害慰謝料等を請求できますが、物損事故で請求できるのはあくまで実際に生じた損害のみです。

例を挙げると以下の項目などが考えられます。

物損事故で請求することができる主な損害項目

  • 車の修理代または時価額・レッカー費用
  • 代車費用・レンタカー費用
  • 評価損(修理歴が残るなど修理をしたことで車の評価が落ちたことに対する損害)
  • 休車費用(車が一時的に使用できなくなることで発生した業務上の損害)
  • 積載物の損害(ペットへの損害も含む)

請求するためには、これらの損害額を具体的に証明する必要もある点に注意しましょう。

(4)怪我が判明したらすぐに診断を受ける

事故から数日経過して、怪我の症状が現れたらとにかくすぐに病院へ行き診断を受けましょう。

事故当日は何ともなくても、時間が経つことで痛みや痺れなどの症状が現れる場合があります。

物損事故として処理してもらった後でも、けが人がいることが証拠で認定されれば人身事故に切り替えることが可能です。

人身事故に切り替えることで、道路状況や事故態様に関する詳細な実況見分調書が作成されます。

ドライブレコーダーなどの記録がない場合には、過失割合をめぐって示談交渉が難航することが少なくありません。

客観的な証拠がない場合には人身事故に切り替えることで、実況見分調書の内容に基づいて適切な過失割合の主張・立証を行うことが可能です。

身体に何らかの症状が現れたら、まずは病院を受診して診断書を作成してもらい、保険会社に連絡しましょう。

その後、警察署に診断書を持参して人身事故への切り替え手続を行います。

人身事故への切り替えの手続については、以下の記事も参考になります。

2024.03.28

物損事故から人身事故へ切り替える方法は?切り替えないデメリットを解説

まとめ

物損事故の場合でも保険を利用して損害の補償を受けることができます。

事故に遭ったら、必ず警察に通報して交通事故証明書を受け取れるようにしておくことが大切です。

なお、物損事故として処理した後に何らかの症状が現れた場合には、人身事故への切り替えを検討しましょう。

弁護士法人みずきでは、交通事故に関する相談を無料で受け付けておりますので、物損事故の対応でお困りの方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 金子 周平 弁護士

所属 栃木県弁護士会

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