死亡逸失利益はどんなもの?交通事故によってご家族を亡くした場合の逸失履歴の計算方法や気を付けるべき点について弁護士が解説

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。

「交通事故の死亡逸失利益って何?」
「遺族が適正な金額を請求するためのポイントについて知りたい」

本記事では、交通事故における死亡逸失利益の計算方法や、適正な金額を受け取るためのポイントについて解説します。

この記事を読んで、交通事故によりご家族を亡くした方が適切な賠償を獲得するための参考となれば幸いです。

1.死亡逸失利益の概要

逸失利益とは、本来は得られるはずだったのに、交通事故が起きたことにより得られなくなった将来の収入のことです。

この逸失利益には、後遺障害による逸失利益と死亡による逸失利益があります。

ここでは、死亡による逸失利益とはどういったものかについてご説明します。

(1)死亡逸失利益とは

死亡逸失利益は、交通事故によって被害者が亡くなった場合の逸失利益です。

交通事故によって亡くなってしまうと、その後には仕事を一切することができなくなるため、その分の収入に対する補償が必要になります。

この場合、被害者自身は亡くなっているため、実際に死亡逸失利益を受け取るのは被害者の遺族(相続人)ということになります。

(2)後遺障害逸失利益との違い

前述したとおり、逸失利益には、後遺障害逸失利益というものもあります。

これは、交通事故によって後遺障害が残った場合の逸失利益です。

交通事故による後遺障害が残った場合、障害があることにより労働が制限されることになります。

その制限の程度に応じて将来にわたって収入が減ると考えられますから、後遺障害による逸失利益も認められることになります。

後遺障害逸失利益は、後遺障害等級の認定を受けられなければ認められません。

労働能力の喪失率は、認められた後遺障害等級ごとに目安が決められており、その分収入の一部が減るものと考えることになります。

なお、外貌醜状や歯牙欠損など、一部の後遺障害については、労働能力への影響が少ないとされ、職業によっては逸失利益が認められなくなることがあります。

2.死亡逸失利益の算定方法

死亡逸失利益は、以下の計算式により算定されます。

死亡逸失利益の算定方法

「基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」

この式だけを見ても、よくわからないと思いますので、この式に使われている用語についてご説明します。

(1)基礎収入

基礎収入とは、逸失利益算定の基礎となる収入のことです。

これは、就労状況によって算定方法が異なります。

ここでは就労状況ごとに算定方法をご説明します。

#1:給与所得者

原則として、事故直前の収入が基礎収入となります。

これは事故前年の源泉徴収票や給与明細から算定します。

もっとも、事故直前の収入は平均賃金を下回るものの、将来平均賃金を上回る可能性があれば、賃金増の可能性も含めて判断されることもあります。

また、30歳未満の労働者の場合、原則として、全年齢の平均賃金額を基礎収入とすることが認められています。

なお、平均賃金の金額は厚生労働省が毎年作成している労働者の収入に関する調査結果(賃金センサス)を用いるのが一般的です。

#2:事業所得者(個人事業主)

事業所得者の場合、事故前年の申告所得額(確定申告書記載の所得額)を基礎収入として用いることとされています。

申告所得額よりも実収入の方が高いという場合、そのことを立証できれば実収入の方を基礎収入とすることができます。

立証には、預金通帳や領収書、帳簿等の資料を用いることになります。

ただし、自身が申告した金額と異なる主張をすることになりますから、この立証のハードルはかなり高いものとなっています。

また、家族と一緒に事業をしており、家族労働による収入部分がある場合には、本人の寄与した割合によって算定します。

#3:家事従事者

死亡年度の年度別賃金センサスの女性労働者の全年齢平均の賃金額が基礎収入とされます。

男性であっても基本的には女性労働者の全年齢平均賃金が基礎収入とされることに注意しましょう。

兼業主婦の場合、実収入と賃金センサスの平均賃金のいずれか高い方が基礎収入とされます。

#4:高齢者

仕事をしている場合には、高齢者ではない人と同じ考え方です。

仕事をしていない場合であっても、退職直後で就職活動をしていたなど、就労の蓋然性があると認められれば、賃金センサスの男女それぞれの年齢の賃金額が基礎収入とされます。

#5:年少者

ここでいう年少者とは、学生や生徒、幼児等の未就労者のことをさします。

未就労者については、賃金センサスの全年齢平均の賃金額を基礎収入とします。

#6:失業者

労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合には、失業前の収入を基礎収入とすることが認められます。

就労の蓋然性については、就職活動の有無、年齢、本人以外の家族の収入の有無、無職となるに至った経緯等の事情が判断の要素となります。

たとえば、資格取得のために退職して、その資格取得が完了して就職活動をしていた場合、妻子があり退職したものの本人以外に働ける家族がおらずすぐに働かざるを得ない状況にある場合などは、就労の蓋然性が認められる可能性があります。

なお、失業前の収入が平均賃金以下の場合、平均賃金を得られる可能性が認められれば、賃金センサスの全年齢平均賃金が基礎収入とされます。

(2)生活費控除率

生活費控除率とは、被害者が生きていれば消費したはずの生活費を差し引くために用いる割合のことです。

被害者が亡くなってしまった場合、本来得られたはずの収入を失う反面、生活費は必要なくなります。

そのため、得られなくなった将来の収入全額を死亡逸失利益として受け取れるとなると過剰な賠償となってしまうため、それを防ぐために生活費を控除する必要があるのです。

生活費控除率は、被害者の立場に応じて、以下の表のように定められています。

なお、この数字は低いほど被害者にとって有利になります。

被害者の立場・属性 生活費控除率
一家の支柱(被扶養者が1人) 40%
一家の支柱(被扶養者が2人以上) 30%
女性(主婦、独身者、幼児の場合も含む) 30%
男性(独身、幼児の場合も含む) 50%

(3)就労可能年数に対応するライプニッツ係数

#1:就労可能年数

就労可能年数は、被害者が死亡した時点から収入を得られなくなるまでの期間のことです。

この期間は、原則として、67歳になるまでの期間を差します。

ただし、被害者が高齢者の場合(67歳を超えるときまたは67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなるとき)は平均余命の2分の1を就労可能年数とします。

年少者については、原則として18歳を就労開始の時期としますが、大学卒業が前提となっている場合には、大学卒業時となります。

もっとも、職種、地位、健康状態、能力等により上記と異なる判断がされることもあります。

また、年金の逸失利益を計算する場合には平均余命を算定期間として用います。

#2:ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、損害賠償金に生じる中間利息を控除するための数値のことです。

逸失利益は将来にわたって生じる減収分のことですが、交通事故による損害として賠償を受ける場合には一括で受け取ることになります。

そうすると、本来受け取る時よりも早く受け取れることになり、その時までに発生する利息の分、被害者が得をする結果になってしまいます。

このもらいすぎとなる利息(中間利息)を控除するために、労働能力喪失期間に対応して設けられた数字がライプニッツ係数です。

労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を用いることで、自動的にその期間中に生じる中間利息を排除した金額が計算できるようになっています。

3.死亡逸失利益が減額されるケース

場合によっては、死亡逸失利益が減額されることがあります。

ここでは、死亡逸失利益が減額されるケースについてご説明します。

(1)過失相殺

過失相殺とは、被害者にも過失がある場合にその過失の割合に応じて、賠償金を減額することです。

交通事故で被害者にも過失が出ることは珍しくなく、過失相殺が行われることはあります。

ただし、加害者の任意保険会社が過失相殺を主張している場合、賠償額を減らすために、加害者側に最大限有利になるような過失割合を主張していることもあります。

このような場合に加害者側の提示する過失割合に応じてしまうと、客観的に相当な金額よりも賠償額が少なくなってしまう可能性があります。

加害者側から過失割合の主張がされているときには弁護士に相談し、妥当な割合かどうかを確認してみるのがよいでしょう。

(2)損益相殺

損益相殺とは、交通事故の被害者が事故によって利益を得た場合にその利益を賠償金から差し引くことで賠償金の二重取りを防ぐものです。

賠償金は、被害者が被った損害に対する賠償なので、損害以上の賠償を受けることはできません。

損益相殺をしなければ賠償金を二重取りすることになり、損害以上の賠償を受けることになってしまいます。

それを防ぐために損益相殺がされます。

そのため、被害者側が事故による利益をすでに得ている場合には、その分は差し引かれてしまいます。

ただし、この損益相殺には、例えば被害者が契約していた生命保険に基づいて支払われた保険金などは含まれません。

被害者の死亡によって支払われたものについて何でもかんでも損益相殺が行われるわけではありませんので、注意が必要です。

4.死亡逸失利益を増額するためのポイント

死亡逸失利益には、増額するためにいくつかのポイントがあります。

ここではそのポイントについてご説明します。

死亡逸失利益は、金額が大きくなりやすく、少しの違いでももらえる金額が大きく変わる可能性があります。

そのため、ポイントをしっかり押さえて適正な金額をもらえるようにしましょう。

(1)弁護士に相談する

死亡逸失利益には計算式がありますが、形式的に計算式に当てはめたものが必ずしも適正な金額になるわけではなく、過失割合や被害者の属性等の様々な要素を考慮する必要がある場合もあります。

これらを考慮したうえで、適切な金額を算定するためには、裁判実務を理解していなければ困難です。

そのため、弁護士に相談することをおすすめします。

(2)適切な基礎収入をもとに算定する

すでに説明したとおり、死亡逸失利益は、「基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」という計算式で算定されます。

すでに説明したとおり、基礎収入は、逸失利益算定の基礎となる収入のことであり、その金額により、死亡逸失利益の金額は大きく変わります。

したがって、適切な基礎収入で算定することはとても重要です。

(3)被害者の収入状況や家庭内の立場などをもとに算定を行う

被害者の収入によって基礎収入は変わります。

また、被害者の家庭内の立場によって生活費控除率が変わります。

基礎収入や生活費控除率によって逸失利益の金額は変わるので、それらの点はしっかりと確認して、算定しましょう。

まとめ

本記事では、交通事故によってご家族を亡くした場合の死亡逸失利益の算定方法や増額のポイントなどについて解説しました。

死亡逸失利益はこれまで説明した様々な要素を考慮した上で算定・請求を行うことが必要です。

ご家族を交通事故で亡くし、死亡逸失利益を請求する場合には、適切な請求額を算定するために交通事故弁護士に一度相談されることをおすすめします。

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執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

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