後遺障害9級の認定基準や請求できる賠償金の相場を分かりやすく解説
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「後遺障害9級の認定基準が知りたい」
「どれくらいの賠償金を請求できるのだろう」
後遺障害9級は1から17号まであります。
後遺障害が交通事故被害者の生活に及ぼす影響は大きいものです。
影響が大きいからこそ、その賠償は適切なものでなければなりません。
交通事故被害者の賠償問題を解決するにあたり、後遺障害等級の有無やそれが何級かは賠償金の金額に大きな影響を及ぼします。
そのため、生じた後遺症に適した後遺障害等級を獲得することは大変重要なことです。
本記事では、後遺障害9級の認定基準や具体的な症状、賠償金の相場について解説します。
適切な後遺障害等級認定を受けるためには、治療段階から準備が必要です。
本記事が皆さまの解決の一助になれば幸いです。
1.後遺障害等級9級の認定基準
後遺障害は後遺障害別等級表において部位や症状に応じて1級から14級までの14段階に分かれています。
さらに、1級と2級は要介護の別表第1とその他の別表第2の2種類があります。
それぞれの等級には各号が設けられていて、それぞれどのような症状が該当するのかが決まっています。
後遺障害等級9級が具体的にどのような認定基準なのか、確認しましょう。
(1)1号:両眼の視力が0.6以下になったもの
9級1号は両眼の視力障害です。
交通事故による怪我で、両眼の矯正視力が0.6以下になった場合、9級1号に該当します。
なお、矯正視力とは、メガネやコンタクトレンズを使用した視力のことです。
(2)2号:1眼の視力が0.06以下になったもの
9級2号は、片眼の視力障害です。
交通事故による怪我で、片眼の矯正視力が0.06以下になった場合、2号に該当します。
片眼の障害のため、もう一方の眼に交通事故による影響がないことが大切です。
もし両眼に障害が生じている場合は、別の等級で判断されることになります。
なお、矯正視力とは、1号同様にメガネやコンタクトレンズを使用した視力のことです。
(3)3号:両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
9級3号は、両眼の視野障害です。
両眼に、半盲症、視野狭窄、視野変状を残した場合、3号に該当します。
- 半盲症とは、視野の特定の領域が見えなくなることです。右半分、左半分、上側や下側など様々な欠け方があります
- 視野狭窄とは、視野が狭くなることです。視野全体が狭くなる場合や、視野の一部が不規則な形状に狭くなる場合があります
- 視野変状とは、視野が部分的に欠けることです。視野の一部が点や斑の形で欠ける「暗点」も視野変状に含まれます
(4)4号:両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
9級4号は、まぶたの欠損障害です。
「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、まぶたをとじた際に角膜を完全に覆うことのできない程度のものを指します。
この症状が両眼に生じている場合、4号に該当します。
(5)5号:鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
9級5号は鼻の欠損障害及び機能障害です。
「鼻を欠損し」とは、鼻軟骨部のすべて、または大部分を欠損することを指します。
「機能に著しい障害を残すもの」とは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失が該当します。
また、嗅覚脱失とは嗅覚を完全に失っている状態を指します。
嗅覚の検査はT&Tオルファクトメーターという嗅覚検査キットをもちいておこないます。
(6)6号:咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
9級6号は、口の機能障害です。
咀嚼(そしゃく)と言語(発声)の機能の両方に障害が生じた場合、6号に該当します。
咀嚼の「機能に障害を残すもの」とは、一般的な硬さの食べ物は自力で咀嚼できるものの、たくあんやピーナッツなど一定程度の硬さをもつものを咀嚼できない状態を指します。
なお、噛み合わせや歯列など、咀嚼できない器質的な原因があることが医学的にわかることが前提となります。
また、言語機能の障害は、口唇音・歯舌音、口蓋音、咽頭音の4種が発音できるかで区別します。
「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種のうち1種の発音ができない状態を指します。
4種の語音とは、以下のとおりです。
口唇音 | ま行音・ぱ行音・ば行音・わ行音・ふ |
歯舌音 | な行音・た行音・だ行音・ら行音・さ行音・ざ行音・しゅ・し・じゅ |
口蓋音 | か行音・が行音・や行音・ひ・にゅ・ぎゅ・ん |
喉頭音 | は行音 |
(7)7号:両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
9級7号は、耳の機能障害です。
聴力には、音を聴き取る純音聴力と、語音を聞き分ける明瞭度の2つがあります。
「両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、両方の耳が次のいずれかの状態を指します。
- 平均純音聴力レベルが60dB以上
- 平均純音聴力レベルが50dB以上であり最高明瞭度が70%以下
(8)8号:1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
9級8号は、耳の機能障害です。
8号は、耳の左右の聴力に偏りがあり、片耳の純音聴力レベルが80dB以上で、もう一方の耳の純音聴力レベルが50dB以上の状態を指します。
(9)9号:1耳の聴力を全く失ったもの
9級9号は片耳の機能障害です。
「1耳の聴力を全く失ったもの」とは、片耳の純音聴力レベルが90dB以上の状態を指します。
(10)10号:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
9級10号は、神経系統の機能や精神の障害に関するものです。
これは9級の他の号と異なりやや範囲が広いです。
代表的なものは、高次脳機能障害、脳損傷による身体性機能障害、脊髄損傷、非器質性精神障害などがあります。
10号の「服することができる労務が相当程度に制限されるもの」とは、困難はあるが多少の援助があれば就労できる、つまりは多少の援助がなければ概ね8時間働くことが難しい場合に該当します。
ここでは高次脳機能障害についてご紹介します。
#1:高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害とは、頭部外傷によって認知障害や行動障害、人格変化などの症状により就労や生活が制限されたり、社会復帰が困難になる障害をいいます。
症状としては次のようなものがあります。
他の傷病と異なり、これがあれば高次脳機能障害と確定的に決まっているわけではなく、発現する症状やその程度は人によって異なるため、見極めることが難しい障害です。
- 記憶障害(物を置いた場所を忘れる、同じことを何度も質問する、新しい出来事などが覚えられない。)
- 注意障害(ボーッとしてミスが多い、2つのことを同時にするのが難しい、集中力が続かない。)
- 遂行機能障害(自分で計画を立てて行動に移せない、他人からの指示がないとできない、約束時間を守れない。)
- 社会的行動障害(興奮する、暴力を振るう、思い通りにならないと大声を出す。)
#2:高次脳機能障害の後遺障害等級認定基準
高次脳機能障害の等級認定は、①頭部外傷後の意識障害、②画像所見、③認知障害・行動障害・人格変化などの症状、これらの有無とその程度が判断の基準となります。
①②で高次脳機能障害にあたるかどうか、③で高次脳機能障害の程度を判断します。
高次脳機能障害の難しいところは、被害者に発現した症状が交通事故によるものだと周囲が気付かないケースが少なくない点です。
発見が遅れると①②を明らかにするハードルがあがってしまうため気をつけなければなりません。
(11)11号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
9級11号は、胸腹部の臓器の機能障害です。
呼吸器や心臓などの胸腹部の臓器の障害によって、就労できる職種の範囲が制限される状態を指します。
10号と同様、多少の援助があればひとりで就労できる状態です。
(12)12号:1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
9級12号は、手指の欠損障害です。
片手のおや指、またはおや指以外の2本の指を失った場合に12号が該当します。
「手指を失ったもの」とは、次のいずれかをいいます。
- 中手骨または基節骨で切断したもの
- 近位指節関節(母指にあたっては指節間関節)の基節骨と中節骨とを離断したもの
(13)13号:1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
9級13号は、手指の機能障害です。
片手のおや指を含む2本の指、またはおや指以外の3本の指について、下記のいずれかの状態に当てはまる場合を指します。
- 指の第1関節から先の骨(末節骨)までの半分以上を失う場合
- 指の付け根の関節(中手指節関節)に著しい運動障害が残った場合
- 親指なら第1関節(指節間関節)、その他の指なら第1関節(近位指節間関節)に著しい運動障害が残った場合
(14)14号:1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
9級14号は、足指の欠損障害です。
片足のおや指を含んだ2本以上の指を失うと14号に該当します。
「足指を失ったもの」とは、中足指節関節から失ったものをいいます。
つまりは、指の付け根の関節から先までのすべてを失った状態です。
(15)15号:1足の足指の全部の用を廃したもの
9級15号は足指の機能障害です。
片足のすべての指が、以下のいずれかの状態になったものを指します。
- おや指の指先の骨の半分以上を失った状態
- おや指以外の指の第1関節から指の付け根までの間で切断された状態
- 指の付け根の関節か第2関節の可動域が2分の1以下に制限された状態(おや指は第1関節)
(16)16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの
9級16号は外貌の醜状障害です。
外貌醜状とは、頭・顔・首にある傷跡のことをいいます。
「相当程度の醜状」とは、原則として顔面部の線状痕が5センチメートル以上で、人目につく程度以上のものをいいます。
「人目につく程度以上」というのは、眉毛や頭髪などに隠れる程度の場合は醜状として扱わないということです。
たとえば、5センチメートルの線状痕があるけれども、そのうち3センチメートルは眉毛に隠れており、外部から見えるのは2センチメートルという場合、この線状痕は後遺障害等級認定の対象とはならないということになります。
(17)17号:生殖器に著しい障害を残すもの
9級17号は生殖器の機能障害です。
「著しい障害を残すもの」とは、男性の陰茎の大部分の欠損や勃起障害、女性の両側の卵管の閉塞や癒着などが該当します。
2.後遺障害等級9級で請求できる賠償金の種類と相場
後遺障害9級を認定された場合、後遺障害慰謝料と逸失利益というものが請求できるようになります。
それぞれについて解説します。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故に遭って後遺障害を負った精神的苦痛に対する賠償です。
後遺障害慰謝料には自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という3つの基準があり、それぞれ金額が異なります。
基準内容と基準額を表で確認してみましょう。
自賠責基準 | 249万円(2020年3月31日までの事故は245万円) |
任意保険基準 | 保険会社によって異なり公開されていない。自賠責基準と同程度であることが多い。 |
弁護士基準 | 690万円 |
後遺障害慰謝料の相場について詳しく知りたい方は、下記をご参照ください。
(2)逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残らなければ本来得られたはずの収入のことです。
原則として、以下の計算式から計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
基礎収入とは、事故前年の収入や賃金センサスなどをもとにします。
労働能力喪失率とは後遺障害が労働力へ与える影響を割合であらわしたもので、後遺障害等級ごとに目安が設けられています。
後遺障害等級第9級の場合、労働能力喪失率35%とされています。
労働能力喪失期間は以下のとおりです。
- 18歳以上:症状固定日から就労可能年数(原則67歳)までの期間と、簡易生命表の平均余命の2分の1のいずれか長い方
- 18歳未満:18歳から就労可能年数(原則67歳)までの期間
ライプニッツ係数とは、将来長期間にわたって得るはずの金額をまとめて受け取った場合に発生する中間利息を控除するための係数のことです。
逸失利益の概要や計算方法について知りたい方は、下記の記事を参考にしてみてください。
もっとも、逸失利益において注意しなければならないのは、後遺障害の内容によっては原則どおりとはならない点です。
たとえば、醜状障害で後遺障害9級の認定を受けた場合、逸失利益の有無や程度について相手方保険会社が争ってくるケースが非常に多いです。
被害者の方が適切な賠償を獲得するためには、就労状況や後遺障害の症状が被害者に与える影響などの個別具体的な事情をもとに精査し交渉していく必要があります。
3.後遺障害等級9級の認定を獲得するためのポイント
後遺障害等級認定を受けている場合と受けていない場合とでは賠償額に大きな差が生じます。
そのため適正な賠償を受けるためには、まず後遺障害申請を行い、後遺障害等級を獲得する必要があります。
後遺障害等級を獲得するにあたって大切なポイントを以下にご紹介します。
(1)治療する
後遺障害は、交通事故による受傷が治療の末に症状が改善せず、その症状が後遺障害等級認定基準に該当する場合に認定されます。
後遺障害等級の審査にあたっては、事故直後から症状固定日までの経過の診断書や調剤明細などと、症状固定日時点の症状を記した後遺障害診断書という書類を提出します。
そのため、事故時の受傷内容から症状固定という治療をしても症状が一進一退となる状態まで、継続的に治療を受け、記録に残る状態にしておく必要があります。
自己判断で途中で治療や薬の処方を止めてしまうと、後遺障害等級認定基準を満たすことが難しくなってしまいかねません。
治療中は将来的に後遺障害となるのかどうかがわからない症状もありますが、症状が残る可能性も視野にいれて、治療が必要な間は治療を継続することをおすすめします。
(2)ポイントを抑えた後遺障害診断書を作成する
後遺障害等級認定には「後遺障害診断書」という書類が必要です。
後遺障害診断書は後遺障害等級認定申請においてもっとも大切な書類です。
作成は医師にお願いする必要があります。そして、医療機関によって異なるもののだいたい1~3万円程度の手数料がかかります。
上述のとおり、後遺障害等級には認定基準があります。
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、認定基準を満たしていることがわかる画像所見や検査所見を後遺障害診断書に盛り込む必要があります。
後遺障害診断書はそう何度も作り直せるものではありません。
後遺障害診断書を作るときは、まず後遺障害に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
(3)後遺障害等級認定申請は被害者請求で行う
自賠責保険に後遺障害等級認定申請を行う方法は2種類あります。
ひとつは、加害者側の任意保険会社が自賠責保険へ申請する「事前認定」という方法です。
もうひとつは、被害者自身が直接自賠責保険会社へ申請する「被害者請求」という方法です。
適切な後遺障害等級の獲得を目指すのであれば、被害者請求を使うことをおすすめします。
事前認定のメリットは被害者側の負担が少ない点です。
被害者は後遺障害診断書の作成のみを手配すればよく、その他の申請に必要な書類はすべて相手方保険会社が用意します。
しかし、相手方保険会社は相手方の味方ですので、あまり被害者に親身な対応をしてはくれません。後遺障害診断書に不備があったとしても、そのまま申請されているケースが多々あります。
加えて、提出時に何を添付したかを被害者側は関知できません。稀に保険会社の顧問医の意見書が添付されていることもあります。
事前認定のデメリットは、被害者請求を利用することによって解消することができます。
しかし、後遺障害等級認定申請に必要な書類は多数あることから、被害者の方がご自身で対応するのはなかなかハードルが高いことです。
特に後遺障害9級のように等級の高い後遺障害の申請ともなると、提出資料は膨大になりがちです。
たとえば、高次脳機能障害で後遺障害申請を行う場合、症状固定までの治療期間が数年におよぶことがあります。その間の診断書、調剤明細、撮影した画像などはかなりの量になります。
この被害者ご自身の負担が大きいという被害者請求のデメリットは、弁護士に後遺障害等級認定申請を任せることで解消することができます。
まとめ
後遺障害等級9級にはどんな症状があてはまるのか、そして賠償はどのような内容になるのかについてご説明しました。
後遺障害9級の各号に該当する症状はいずれも大きく、被害者の方へ与える影響ははかりしれません。
大きな影響を及ぼすものであるからこそ、適切な賠償を受けておくべきです。
後遺障害等級認定申請や示談交渉は、被害者の方ご本人が対応するには困難です。
交通事故の被害者になって怪我を負ったら、早い段階で後遺障害等級申請や示談交渉を弁護士に依頼することをおすすめします。
専門家である弁護士に依頼することでより高額の賠償金を請求でき、手続もお任せできるため、心身の負担を軽減できるでしょう。
交通事故でこんなお悩みはありませんか?
交通事故に遭ってしまったけど、
保険会社・相手方とどんな風に対応
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示談交渉などさっぱりわからない・・・
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