交通事故で股関節を脱臼した場合の後遺症は?後遺障害等級と慰謝料の相場
「交通事故で股関節を脱臼した場合にはどんな後遺症が考えられる?」
「股関節脱臼の場合に適切な賠償を受けるためのポイントが知りたい」
交通事故によって股関節に脱臼が生じた方の中には、このような不安や疑問をお持ちの方もいると思います。
股関節の脱臼は、交通事故による強い衝撃が加わることで生じ、骨盤や股関節内の骨の骨折を伴う場合には、可動域制限や変形障害が残る可能性があります。
本記事では、股関節脱臼による後遺症と後遺障害等級、後遺障害慰謝料の相場などについてご説明します。
1.股関節脱臼による後遺症と認定されうる後遺障害等級
股関節脱臼は、交通事故による強い衝撃が加わることで、骨盤から大腿骨が外れてしまうことで生じます。
この際に骨盤や股関節内の骨に骨折が生じることもあり、骨折や脱臼が生じた部位に強い痛みや腫れなどが生じることがあります。
また、股関節を脱臼した場合には、24時間以内に元に戻さなければ大腿骨頭と骨盤の脚の付け根部分が壊死してしまう可能性があるため、早急に治療を行うことが重要です。
股関節の脱臼や骨折による後遺症には、主に以下のものがあります。
- 変形障害
- 可動域制限
- 動揺関節
- 神経障害
それぞれの後遺症について、認定される可能性がある後遺障害等級と認定基準をご説明します。
(1)変形障害
変形障害とは、股関節の脱臼だけでなく、骨折によって骨盤や股関節の骨が変形してしまうことを言います。
変形障害となった場合、以下の等級が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定基準 |
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
著しい変形とは、レントゲン検査などの画像所見上明らかになっていることにとどまらず、裸体になったときに骨が変形していることが明らかに分かる状態を言います。
そのため、レントゲン検査を受けるだけでなく、変形の状態が分かるような写真や画像を撮影しておくことが重要です。
(2)可動域制限
可動域制限は、股関節に脱臼や骨折が生じ、関節内の変形癒合や筋繊維の損傷によって、関節を動かしにくくなることを言います。
可動域制限がどの部位に生じているかや可動域制限の程度によって、認定される等級に違いがあることに注意が必要です。
#1:股関節以外の関節にも可動域制限が生じている場合
可動域の制限が股関節だけでなく、膝関節と足首にも生じている場合には、以下の等級が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定基準 |
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの |
下肢の用を全廃するとは、股関節、膝関節、足首の関節のすべてが完全に動かなくなったか健康なものと比べて可動域が10%以下に制限されたものを言います。
両脚についてこのような可動域制限が生じた場合は1級6号、どちらか一方の脚について生じた場合には5級7号が認定される可能性があります。
#2:股関節のみに可動域制限が生じている場合
股関節のみに可動域制限が生じた場合には、その程度に応じて、以下の等級に認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定基準 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
関節の用を廃したとは、関節が完全に動かないか健康なものと比べて可動域が10%以下に制限された状態、あるいは他人の力で動くものの自力では動かせない状態を言います。
また、人工関節で置換した関節が健康なものと比べて2分の1以下に可動域が制限された場合も関節の用を廃したと言えます。
その場合には、8級7号が認定される可能性があります。
著しい障害を残すものとは、股関節の可動域が健康なものと比べて2分の1以下に制限されている状態をいいます。
この場合には10級11号が認定される可能性があります
単に機能に障害を残すものとは、可動域が4分の3以下に制限された状態を指します。
この場合には12級7号が認定される可能性があります。
(3)動揺関節
動揺関節とは、股関節の安定が損なわれ、正常な状態のときは発生しなかった関節運動が生じている状態を指します。
簡単に言えば、グラグラしてしまう状況です。
股関節の脱臼や骨折によって動揺関節が生じた場合には、硬性補装具を装着して安定性を確保しますが、必要とする頻度によって以下の等級に認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定基準 |
8級相当 | 常に硬性補装具を必要とするもの |
10級相当 | 時々硬性補装具を必要とするもの |
12級相当 | 重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの |
硬性補装具とは、以下のような金属やプラスチックでできたサポーターを指し、必要とする頻度の違いによって認定されうる等級に違いがあることに注意しましょう。
(4)神経障害
脱臼が生じたことで、下肢に痛みやしびれが残った場合には、神経障害として以下の等級が認定される可能性があります。
後遺障害等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
認定基準は「頑固な」という文言の違いだけですが、具体的には大きな違いがあります。
12級13号は、神経症状の原因がレントゲンやMRIなどの画像検査で明らかになっており、症状との因果関係が医学的に証明できることが求められます。
一方、14級9号は、画像上は原因が確認されないものの、神経学的検査などの結果から症状が医学的に説明・推測されることが必要です。
そのため、認定を目指す等級によって受けるべき検査などが異なることを押さえておきましょう。
2.等級別の後遺障害慰謝料と逸失利益の相場
後遺障害等級の認定を受けることで、等級に応じた後遺障害慰謝料と逸失利益が認められるようになります。
しかしこれらの金額や算定方法は自賠責保険におけるものと、裁判におけるもので異なります。
以下では、それぞれの相場についてご説明します。
なお、後遺障害等級の認定申請の流れについては以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
(1)後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する補償です。
股関節を脱臼・骨折し後遺症が残った場合の後遺障害慰謝料の相場は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 裁判所(弁護士)基準 |
1級 | 1150万円(1100万円) | 2800万円 |
5級 | 618万円(599万円) | 1400万円 |
8級 | 331万円(324万円) | 830万円 |
10級 | 190万円(187万円) | 550万円 |
12級 | 94万円(93万円) | 290万円 |
14級 | 32万円(32万円) | 110万円 |
※()内は2020年3月31日以前に発生した事故の場合
認定される等級が1つ異なるだけで受け取れる後遺障害慰謝料の金額は数百万円もの差が生じます。
そのため、ご自身の症状に合った適切な後遺障害等級の認定を受けることが何よりも重要です。
(2)逸失利益
逸失利益とは、後遺障害を負ったことによる将来の収入の減少に対する補償です。
具体的には、以下の算定式に基づいて算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間の年数に対するライプニッツ係数
また、労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて以下のように定められています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
5級 | 79% |
8級 | 45% |
10級 | 27% |
12級 | 14% |
14級 | 5% |
もっとも、上記の労働能力喪失率は目安ですので、後遺障害等級の認定を受けることで、その等級に応じた労働能力喪失率がそのまま認められるとは限りません。
仕事や日常生活にどのような影響が生じているかを具体的に主張・立証することが求められるため、適切な逸失利益を受け取るためには、適切な等級認定を受けた上で弁護士に示談交渉を依頼することがおすすめです。
3.適切な等級認定のポイント
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、いくつかのポイントがあります。
具体的には、以下のとおりです。
- 6か月以上定期的に治療を受ける
- 可動域の制限を正確に測定する
- 必要な画像検査を受ける
- 弁護士に相談する
なお、後遺障害等級の認定申請に必要な後遺障害診断書の記載事項や作成のポイントについては、以下の記事も参考になります。
(1)6か月以上定期的に治療を受ける
後遺障害等級の認定を受けるためには、原則として6か月以上の治療を経て症状固定に至ったことが求められます。
症状固定とは、治療を一定期間継続した後に症状が一進一退となり、これ以上治療を継続しても症状がよくならない状態を指します。
そのため、治療期間が6か月に満たない場合や途中で治療をやめた場合には、必要な治療を行わなかったことによって症状が残存したのではないかと評価され、後遺障害と認められないリスクがあります。
また、治療期間が6か月以上であったとしても、通院の頻度が低い場合にも適切な治療を受けなかったことで症状が残存したと評価されて等級の認定を受けられない可能性があります。
そのため、主治医と相談しながら、6か月以上にわたって適切な頻度で治療を行うことが大切です。
(2)可動域の制限を正確に測定する
股関節に可動域制限が生じている場合には、その程度を正確に測定することが必要です。
具体的には、以下の動きについて5度単位で測定することが求められます。
屈曲 | 仰向けに寝転んだ状態で膝を抱えるように脚を持ち上げる動き |
伸展 | うつ伏せに寝転んだ状態で脚を伸ばしたまま背中の方に持ち上げる動き |
外展 | 仰向けに寝転んだ状態で脚をまっすぐに伸ばしたまま横に開く動き |
内展 | 仰向けに寝転んだ状態で反対の脚を持ち上げた上で持ち上げていない脚を内側にくぐらせるような動き |
また、必要に応じて以下の動きについても補助的に測定を行いましょう。
外旋 | 仰向けに寝転んだ状態で太ももが地面と垂直、ふくらはぎが地面と平行になるように脚を持ち上げて足先を外側に向けて回す動き |
内旋 | 外旋を測定する際と同じ姿勢で足先を内側に向けて回す動き |
(3)必要な画像検査を受ける
股関節の脱臼や骨折による後遺障害等級の認定では、レントゲン検査のほかにも必要に応じてCTやMRI検査などの画像検査を受けることが重要です。
特に股関節の可動域制限では、骨の変形癒合や筋肉などの軟部組織の異常を示す必要があり、骨を立体的に把握するCT画像や軟部組織を確認するMRI画像はとても有益です。
(4)弁護士に相談する
弁護士に相談することで、上記のポイントについて適切なアドバイスやサポートを受けることが可能です。
交通事故対応を専門としている弁護士であれば、後遺障害等級の認定手続にも携わった経験があるため、適切な等級認定を受けるためのポイントに習熟しています。
また、後遺障害等級認定の申請にはいくつか必要書類があります。
そのため、申請手続に必要な書類の作成や資料の収集について的確なアドバイスやサポートが受けられ、適切な等級認定の可能性が高まります。
さらに、後遺障害等級の認定申請だけでなく、その後の示談交渉もまとめて依頼できるので、等級に応じた適切な後遺障害慰謝料と逸失利益を請求し、受け取ることが可能です。
まとめ
本記事では、交通事故を原因とする股関節の脱臼による後遺症や後遺障害等級について解説しました。
股関節を脱臼することで、様々な症状が後遺症として残存し、仕事や生活に影響を及ぼす可能性があります。
交通事故によって、股関節の脱臼が生じた場合には、なるべく早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの後遺障害等級の認定手続や示談交渉に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、お気軽にご相談ください。
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