交通事故による高次脳機能障害について症状固定時期の目安や後遺障害等級を弁護士が解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

「交通事故による高次脳機能障害はいつまで治療を続けるべきだろうか」
「治療終了後に行う後遺障害等級の認定手続はどんな手続きなのか」

交通事故で強く頭を打ち付けるなど、外部から脳に損傷を受けると「高次脳機能障害」と診断された方の中にはこのようなご不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

高次脳機能障害は、脳損傷を伴うため、重度の後遺障害が残ることも多く、被害者本人だけでなく、ご家族の方にも大きな負担のかかる傷病です。

ここでは、高次脳機能障害とはなにか、高次脳機能障害について認定される可能性のある後遺障害等級などついてご説明します。

この記事を読んで、高次脳機能障害による後遺障害やその後の法的対応についてのポイントを押さえ、適切な対応を進めるための参考となれば幸いです。

1.高次脳機能障害の概要

そもそも高次脳機能障害とは何なのか、主な症状はどういったものなのかを確認しましょう。

(1)高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、交通事故などが原因で脳が損傷したことにより、単純知覚機能(視覚、聴覚、触覚など)、運動機能(手足の動作など)ではなく、これらを組み合わせて行う行動等に障害が出て、日常生活や社会生活に支障が生じる状態をいいます。

(2)主な症状

高次脳機能障害の代表的な症状は以下の4つです。

#1:記憶障害

新しいことを覚えておくことが困難、すぐに忘れてしまう、最近のことを思い出せない、作り話をするなどの症状が現れます。

・同じ事を何度も質問する

・同じ事を何度も話す、そして、周りの人が疲れてしまう

・本人は自分の記憶力が落ちていると思っていない

・物の置き場所を忘れる  など

なお、記憶障害は認知症と似ていますが、認知症のように加齢に伴うものではなく、発症を境にして症状がみられることが特徴です。

#2:注意障害(注意力低下)

注意を持続できない、同時に複数の刺激に注意を向けられない、注意の対象を変えられないなどの特徴があります。

・1つのことをすると他のことができない(例:やかんに水を入れて火にかけて、他のことをしながら、火を止めるなどといった同時の行動に対応ができない)

・作業にミスが多い

・よそ見をする

・気が散りやすい など

#3:遂行機能障害

ある物事を目的に合わせて適切に実行することができないことです。

遂行機能とは、実生活において何かをしようとする時に必要な能力で、自分で考えを計画し、他人と交渉しながら実行するというものです。

具体的には、目標の設定→計画→計画の実行→順序立った効果的な行動の4要素が必要となりますが、これらを実行することが困難となります。

・自分からは何もしない

・指示をすれば行動できるが、指示なしでは行動できない

・計画しないで、行き当たりばったりの行動をする

・うまく行かない時に修正できない など

#4:社会的行動障害

感情や欲求が抑えられず、すぐ怒ったり、やる気がなくなったりするなど、その場の状況に合わせて自分をコントロールすることができなくなる状態をいいます。

・すぐに疲れる

・忍耐力がない

・激しく怒って興奮する

・落ち着きがない

・突然興奮したり、怒りだす

・気分がすぐ変わる    など

2.高次脳機能障害で症状固定に至るまでの流れと症状固定時期の目安

高次脳機能障害の治療内容、おおよその症状固定時期は以下のようになります。

(1)高次脳機能障害の治療の流れ

頭部外傷による高次脳機能障害は、早期から各障害に応じたリハビリテーションを行うことがすすめられていますが、症状に応じて薬物治療が行われる場合もあります。

以下、リハビリ治療と投薬治療についてご紹介します。

#1:リハビリ治療

① 記憶障害

記憶障害には、記憶する内容を画像化して覚えたり、語呂合わせで覚えたりすることやメモ・スケジュール管理などをする手法が用いられます。

② 注意障害

注意障害の作業療法訓練の一つとして、注意プロセストレーニング(Attention Process Training:APT)が挙げられます。

注意プロセストレーニングとは、注意障害に対する代表的な治療であり、注意障害を以下の4つに分けてそれぞれに合った課題を行うことで改善を促すことを目的としています。

持続性注意の訓練 単語や文を聞き、条件に合う標的語に反応してもらったり、文意からそれに続く文としてふさわしいものを選んだりといった課題を行う。

・数字の取り消し

・注意テープ

・連番の数字

転換性注意の訓練 提示されたアルファベットの1つ前や1つ後の文字を書いてもらったり、数字に2~3ステップの加算と減算を繰り返したりなどを行う課題。

・提示した数字に「9足して4引く」や「8足して6引いて1足す」など

選択性注意の訓練 持続性注意で行うような課題を、わざと騒々しい場所やテレビをつけた環境下で行う、つまり、目的のものを非目的の刺激がある中で選択するなどの課題を行う。
配分性注意の訓練 物語を読み、内容を把握しながら、指定された文字や単語をチェックするなどの課題を行う。

③ 遂行機能障害

遂行機能障害の治療の一つとして、セルフモニタリング(self-monitoring)が挙げられます。

セルフモニタリングとは、目標に対しての経過を記録して、振り返ることにより自分の行動を客観的に評価して、改善を促すものです。

#2:投薬治療

高次脳機能障害には確立した治療薬はなく、上記リハビリテーションでの治療が主流となっていますが、効果が確認されている薬もあります。

症状に応じて有効とされる薬物療法が異なるので、これらをご紹介します。

① 記憶障害

記憶障害には、コリンエステラーゼ阻害薬が効果を示したとの報告があります。

また、下記注意障害と同様に、メチルフェニデートやドネペジルが有効であるといわれています。

② 注意障害

注意障害にはメチルフェニデートが有効であったとの報告があります。

メチルフェニデートは、脳内の神経端末においてドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用があるので、これらが阻害されることで、神経端末におけるドーパミンとノルアドレナリン濃度が上昇、脳神経の興奮を促し、活動性の向上や覚醒度の向上につながります。

そのほか、脳内でドーパミンの放出促進作用のあるアマンタジンも注意障害に効果があります。

③ 遂行機能障害

遂行機能障害に対しては、アマンタジンが有効であるとの報告があります。

そのほか、ブロモクリプチンというドーパミン受容体作動薬も、遂行機能障害の改善に貢献することが分かっています。

④ 社会的行動障害

意欲の低下などのうつ症状に対しては、いわゆる抗うつ薬が使用できます。

セロトニン再取り込阻害薬が一般的によく利用される薬剤です。

攻撃性や易怒性などの情動コントロール障害には統合失調症に用いられる非定型精神病薬や抗てんかん薬が効果を示したとの報告があります。

(2)症状固定時期の目安

高次脳機能障害はある程度の期間を経て改善傾向を示すといわれており、通常、受傷から5か月程度は急速な回復がみられ、その後1年程度まで回復がみられます。

特に、若年者や軽症例では、その改善はより顕著です。

したがって、高次脳機能障害が後遺しているか否かを評価するためには、約6か月~1年程度の期間経過を見たあとに評価するものとされています(日本神経外科学会=日本神経外傷学会監修『頭部外傷治療・管理ガイドライン〔第4版〕』(医学書院、2019年)201頁)。

そのため、高次脳機能障害の診断をもらった後、脳の変化やリハビリテーションの効果を考えて、1年~2年経過後に症状固定となることが多いです。

3.高次脳機能障害において等級認定を受けるためのポイント

高次脳機能障害がある場合、労働能力に制限が生じるため、自賠責保険に申請することにより、後遺障害の認定を受けられる可能性があります。

しかし、医師に高次脳機能障害と診断されたとしても、自賠責保険において後遺障害が必ず認められるとは限りません。

以下では、どのような点があれば後遺障害の等級認定を受けやすいのかご説明します。

(1)診断書に脳損傷を伴う外傷の記載がある

高次脳機能障害は脳の損傷による障害ですので、脳に損傷を生じうる頭部外傷があると診断されているかどうかが重要となります。

例えば、以下のような傷病名の記載があれば、脳損傷があると認められる可能性が高くなります。

・脳挫傷

・びまん性軸索損傷

・くも膜下出血

・硬膜下血腫

・頭蓋骨骨折 など

(2)診療録等に意識障害についての記載がある

事故後に意識があったかどうか、なかった場合はどの程度の時間なかったのかという点は重要となります。

意識がない時間が長ければ長いほど、脳が受けた衝撃、ダメージは大きいと考えられますので、その分、高次脳機能障害が脳損傷によって生じるリスクも高まります。

逆に、事故直後も意識がはっきりしていたという場合には、後遺障害が認められるほどの損傷があったか否かに疑義が生じます。

(3)画像所見がある

仮に、上記2点の記載が認められたとして、さらに重要なのは脳の画像所見の有無です。

脳挫傷や、脳内出血による圧迫の跡、脳委縮による脳室の拡大といった画像所見が認められれば、高次脳機能障害について後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まります。

高次脳機能障害の疑いがある場合には、頭部のCT、MRI画像検査を受けておくようにしましょう。

4.高次脳機能障害で認定される後遺障害等級と慰謝料の相場

交通事故によって高次脳機能障害を負った場合、認定される可能性がある後遺障害等級は、1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号、14級9号です。

等級 内容
1級1号(要介護) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号(要介護) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号 新駅系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、以下のように、認定された後遺障害等級ごとに相場が決まっています。

等級 自賠責基準 弁護士基準
1級1号(要介護) 1650万円 2800万円
2級1号(要介護) 1203万円 2370万円
3級3号 861万円 1990万円
5級2号 618万円 1400万円
7級4号 419万円 1000万円
9級10号 249万円 690万円
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

(2020年4月1日以降に発生した事故)

5.高次脳機能障害の場合の主な損害項目

高次脳機能障害で請求することのできるであろう賠償金の内訳を例示します。

なお、後遺障害等級が認定されていなければ、下記表中の後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費、家屋・自動車等改造費は請求が認められません。

内訳 内容
治療関係費 治療費、入院費、通院交通費など必要かつ相当な実費全般
入通院慰謝料 傷害を負ったことによる精神的・肉体的苦痛(損害)に対する損害賠償のこと
休業損害 受傷したことによって休業したことによる現実の減収に対する金銭
後遺障害慰謝料 後遺障害が残ったことによる精神的・肉体的苦痛(損害)に対する損害賠償のこと
逸失利益 交通事故による後遺障害がなければ得られたであろう利益
将来介護費 重度後遺障害により、症状固定後も付添介護が必要な場合の将来分の付添介護費
家屋・自動車等改造費 介護のために必要かつ相当な費用

6.高次脳機能障害について弁護士に相談するメリット

高次脳機能障害の疑いがある場合、弁護士に相談、依頼することには以下のようなメリットがあります。

(1)何をすればよいかアドバイスを受けられる

交通事故によって高次脳機能障害が生じたかどうかについては、障害について本人が自覚していないこともあります。

そのような場合に、周囲の方が高次脳機能障害の疑いを抱いた場合には、交通事故対応の経験が豊富な弁護士に相談することで、高次脳機能障害かどうかの診断を受けるためのアドバイスを受けることができます。

例えば、どのような検査を受ける必要があるか、その検査を受けるためにはどの病院に行けばよいのかなどについて詳しい話を聞くことができます。

高次脳機能障害か否か分からない状況では、適切な治療を受けることもできませんので、弁護士に相談し、アドバイスを受けることは、被害にあわれた方の今後を決める上で非常に重要です。

(2)適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が上がる

弁護士に依頼することにより、適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まります。

高次脳機能障害についての後遺障害申請を行う場合、提出資料としては後遺障害診断書のほかに「神経系統の障害に関する医学的意見」「頭部外傷の意識障害についての所見」といった書類を医師に作成してもらい、提出する必要があります。

また、家族などの近親者が「日常生活状況報告書」を作成するなどの必要もでてきます。

上記書類の記載内容が後遺障害等級の認定の上で非常に重要となりますから、書類の記載についてどのようなことに気を付ければよいかについても、アドバイスが受けられます。

このように、弁護士に依頼して手続きを進めることで、資料収集・後遺障害申請の手続にかかる負担が軽減できますし、後遺障害等級の認定を受けられる可能性も高めることができます。

(3)障害の種類、等級に応じた適切な賠償請求ができる

後遺障害等級の認定を受けた後も、等級に応じた適切な損害賠償を行うことができます。

後遺障害があると認められた場合、治療費や慰謝料に加え、等級に応じて、上述の後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の介護費等を請求することができます。

このように、高次脳機能障害について後遺障害等級が認められた場合は、賠償請求の面においても考慮しなければならない項目が増えますから、適正な金額の検討について弁護士の判断をあおぐことが重要となります。

したがって、賠償請求の面においても弁護士に依頼することは大きなメリットがあるといえます。

まとめ

本記事では、高次脳機能障害とはどのようなものか、高次脳機能障害がある場合どの程度の後遺障害等級が認められるか、認定を受けるために重要なポイントは何かなどについてご説明しました。

高次脳機能障害は症状が多岐にわたり、被害者本人が自身の症状を自覚できていないことも珍しくありません。

そして、後遺障害等級の認定を受けるために気を付けるポイントが多く、適切に損害賠償請求を行っていくためには専門家の手助けが必要なものです。

高次脳機能障害かどうかわからないがその疑いがある、あるいは高次脳機能障害と診断を受けたが後遺障害の認定を受けられるか不安があるというような場合には、一度は弁護士に相談されることをお勧めします。

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執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

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しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
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