死亡事故の遺族が請求すべき死亡慰謝料の金額とは?

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「交通事故で家族を失い、亡くなった家族のためにもきちんと解決をさせたい」
「慰謝料の請求をどうすれば良いのかがわからない」
「賠償金の提示を受けたが、適正な金額なのかどうかがわからない」
「一家の柱を失ってしまい、生活を立て直すためにお金が必要で困っている」

不慮の交通事故により、大切な家族が亡くなられてしまうことの精神的苦痛は、計り知れないものです。

耐え難い喪失感や悲しみ、加害者に対する怒り、死亡事故被害者の遺族はこの先様々な感情と向き合っていかなければなりません。

そして、家族を失った遺族は、金銭的な問題にも直面してしまいます。

特に、被害者が一家の大黒柱であった場合は、深刻な状況に陥りかねません。

しかし、加害者側から被害者側の心情や状況に寄り添った対応がなされるとは限りません。

加害者側の保険会社から提示される金額が法的に適正な金額であるとも限りません。

被害者の遺族が十分に被害の賠償を受けるためには、どうしても法律的な知識が必要です。

この辛い状況をもたらした交通事故の賠償問題をどのように解決していくのか。

どれだけお金で賠償を受けたところでというお気持ちはあるかもしれません。

しかし、残念ながらお金以外で解決することができません。

だからこそ、ご自身ではできない被害者に代わって適正な解決をはかること、そして金銭的な賠償をもって生活を再建すること、いずれも遺族が喪失感や悲しみを抱えながらも前を向いていくためには大きな役割を果たします。

死亡事故の場合では、相手方保険会社に対して治療費、入院雑費、付添費、休業損害や傷害慰謝料などのほかにも、葬儀費用、死亡逸失利益および死亡慰謝料を請求することになります。

この記事では、死亡事故の場合に請求可能な項目の一つである死亡慰謝料とはどういったものなのか、適正な金額とはどのようなものなのか、そしてどうすれば請求できるのかについて説明します。

この記事をお読みくださった遺族が慰謝料請求を行い、適正な慰謝料をお受け取りいただくことで、ほんの少しでも気持ちが和らぐことを願っています。

1.交通事故の死亡慰謝料とは

慰謝料とは、相手の不法行為によって被った精神的・肉体的苦痛を補償するためのものです。

交通事故の被害にあった場合に「怪我がひどく痛くてつらい」、「通院をしなければならず日常生活が大変」、「紛争処理に関わることが苦痛」といったことがあり、このような精神的・肉体的苦痛に対する補償が慰謝料となります。

本来金額では表せない被害者の精神的な損害を、賠償のために金銭に換算したものになります。

そして今回説明の死亡事故においては、被害者は言葉ではとても言い表せないほどの精神的苦痛を被ってしまい、それは被害者の遺族も同様です。

このように死亡事故によって生じる精神的な損害を、死亡慰謝料と呼びます。

死亡慰謝料には二つの項目があります。

一つは亡くなってしまった被害者本人の分、もう一つは大切な人を亡くしてしまった遺族の分です。

(1)被害者本人の慰謝料について

亡くなってしまった被害者本人に、「命を落としたことによる苦痛」として、慰謝料が発生します。

そしてその慰謝料は相続の対象となるため、相続をした遺族から請求をする金額になります。

(2)遺族の慰謝料について

大切な人を亡くしたことによる慰謝料を請求する権利は、「父母・配偶者・子」に関しては認められると法律で定められています(民法711条)。

この慰謝料は「近親者固有の慰謝料請求権」と言います。

では、この「父母・配偶者・子」に該当しない場合は、一切請求はできないのでしょうか?

実は、必ずしもそうとは限りません。

被害者との間に、上記の近親者らと実質的に同視することができる身分関係が存在すれば、認められる可能性があります。

例えば、「被害者と籍は入れていないが十年間事実上夫婦として暮らしていた」、「被害者はずっと妹と二人暮らしをしていた」、「被害者の祖母とは一緒に住んでいて、まるで母のように慕っていた」などといったような、近親者と同程度の親密な関係性があったのだということを証明できれば、請求ができる可能性があります。

2.死亡慰謝料の金額について

交通事故の死亡慰謝料の算定には、大きく分類して三つの算定基準(自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準)が存在します。

以下の項目で、それぞれの基準について詳しく見ていきます。

(1)自賠責保険基準の死亡慰謝料

#1:自賠責保険とは?

自賠責保険とは、自動車等を運転するにあたって加入が義務付けられている強制保険です。

相手に怪我をさせてしまった場合に対人賠償として保険金が支払われますが、その支払いの金額には上限が存在します。

自賠責基準=最低限の補償、とお考えください。

#2:具体的な算定方法は?

自賠責では、亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料でそれぞれ慰謝料の額が明確に定まっています。

令和2年4月に基準が改正され、使用されている自賠責保険の基準が現在は二つあります。

金額はそれぞれ以下の通りです。

・平成22年4月1日~令和2年3月31日までに発生した事故に適用する基準

請求者 慰謝料の金額
被害者本人 350万円
請求権者1人(遺族) 550万円
請求権者2人(遺族) 650万円
請求権者3人以上(遺族) 750万円
被害者に被扶養者がいる場合 200万円を追加する

例)大黒柱である父親が、妻と扶養中の子2人を残して死亡した場合

350万円(本人分)+750万円(遺族3人分)+200万円(被扶養者)

=1300万円

・令和2年4月1日以降に発生した事故に適用する基準

請求者 慰謝料の金額
被害者本人 400万円
請求権者1人(遺族) 550万円
請求権者2人(遺族) 650万円
請求権者3人以上(遺族) 750万円
被害者に被扶養者がいる場合 200万円を追加する

例)主婦である母親が、夫と成人済の子2人を残して死亡した場合

400万円(本人分)+750万円(遺族3人分)=1150万円

(2)任意保険基準の死亡慰謝料

#1:任意保険とは?

自賠責保険が強制加入の対人賠償保険であることに対して、運転者が任意で加入している保険です。

上述のとおり、自賠責では支払われる金額に上限があります。

上限を超えてしまった損害額を賠償するための保険が、任意保険です。

任意保険会社での支払いは、自賠責基準を下回ってはいけないことになっています。

#2:具体的な算定方法は?

任意保険基準は、それぞれの任意保険会社が独自に定めており、保険会社ごとに基準が異なります。

具体的な計算方法は外部に公表がされておらず、残念ながら具体的な金額までは明らかではありませんが、自賠責基準よりも高く、裁判所基準よりも低いことが一般的です。

ただし、自賠責基準より高くといっても、任意保険会社から自賠責保険基準と同額で提示がされることも珍しくないというのが実情です。

そのため、適正な賠償を受けるためには、以下で説明する裁判所基準で請求をすることが大切です。

(3)裁判所基準の死亡慰謝料

#1:裁判所基準とは?

これまで行なわれてきた交通事故の裁判例をもとに設定された基準のことです。

弁護士が使用する基準であるため「弁護士基準」とも呼ばれることがありますが、どちらも同じ基準のことを示しています。

この裁判所基準は、交通事故における賠償金の算定基準の中で、もっとも金額が大きくなります。

しかし、裁判をしなければこの基準を使用できない、ということではありません。

たとえ任意の交渉であったとしても、弁護士を介入させることで、使用する基準が裁判所基準となることがほとんどです。

逆に言えば、弁護士を介入させないままの任意交渉では、任意保険基準のまま押し切られてしまう可能性が高いことになります。

#2:具体的な算定方法は?

裁判所基準は、被害者の家庭における役割(父親、母親など)を基本的な考慮要素として目安の金額が定められています。

しかし、自賠責保険基準のように、本人分と遺族分で金額をハッキリと分けて基準化はしていません。

被害者の近親者(遺族)固有の慰謝料も合わせた、被害者一人あたりの合計額として金額を算出しています。

金額は以下のとおりです(令和3年度基準)。

被害者の家庭における地位 慰謝料の金額
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他(独身、子供、幼児等) 2000万円~2500万円

一家の支柱とは、被害者の家庭が、主に被害者の収入によって生活をしている場合を指します。

つまり、被害者がいわゆる「一家の大黒柱」であった場合です。

この場合に慰謝料が高額となる理由は、慰謝料に、遺族の生活保障としての側面があるためとされています。

母親、配偶者については、「家庭の生活を経済的に支えるという立場にはないものの、一家の支柱と並ぶ重要な地位である」として、その他よりも有利に扱ったとされています。

例えば、幼い頃から母親と一番長く過ごしてきた小学生の子がいる家庭から、突然母親がいなくなってしまったらどうでしょうか。

経済的に支えていたかどうかなど関係なく、夫や子の精神的苦痛は計り知れないと思います。

しかし慰謝料には生活保障としての側面もあるため、バランスを考え、結果として2500万円が基準として定められています。

しかし、上記はあくまでも目安の金額であり、実際にはこの金額をベースとしながら、個別具体的に被害者の事情を確認した上で金額が決定されていきます。

例えば、先ほど例に挙げたケースと同じ「母親」としての立場だとしても、既に子が成人している80歳の女性の場合は、金額が低くなる傾向にあります。

もともと想定していた事例とは異なり、そのまま基準に当てはめることができないためです。

そのため、裁判所基準で請求をする場合には、被害者や近親者の関係性、家庭での役割等を慎重に確認した上で主張を行なう必要があります。

そして、個別具体的に、正当に判断される必要があるのです。

なお、家庭での役割等とは別に、加害者の事故後の態度や事故態様等を考慮して、死亡慰謝料の増額がなされる場合があります。

以下の(4)死亡慰謝料が増額となるケース、でご紹介します。

3.死亡慰謝料の請求の流れ

(1)死亡慰謝料の請求先とは?

そもそもどこに対して慰謝料を請求すれば良いかがわからない、というご相談は良くあります。

結論から言えば、請求先は加害者加入の任意保険会社となることがほとんどです。

しかし、加害者が任意保険に加入していない場合は、先に自賠責保険に請求をして最低限の賠償金を受けることや、被害者加入の人身傷害保険から先に賠償を受け、残りの部分を加害者本人に請求することになります。

また、事故時、加害者の運転している車両等が勤務先所有であったり、勤務中であった場合は、勤務先にも請求することが可能です。

なお、任意保険から全額賠償を受けたものの、勤務先にも請求するなどの二重取りはできません。

(2)死亡慰謝料の請求までの流れとは?

ご自身で進める場合は、被害者の戸籍謄本をはじめとした資料(治療費や葬儀費の領収書、収入資料などを含む)の収集を漏れなく行ないます。

揃えた資料を任意保険会社に提出し終えると、保険会社から資料を踏まえた賠償金の提示があるはずです。

提示があったとしても金額が適正かわからなかったり、納得がいかなければ、適正な賠償金額の算定のためにも弁護士に相談することをおすすめします。

そして、死亡事故の場合は、死亡慰謝料のほかにも治療費、入院雑費、付添費、葬儀費用、休業損害、死亡逸失利益、傷害慰謝料など請求項目が多岐にわたります。

これらの算定のために収集する資料も多くなります。

さらには各項目適正な金額もわからないまま金額の提示があったりと、遺族方で対応するには負担が大きいです。

早めに弁護士に依頼することによって、必要書類の準備から弁護士が携わり、補助をすることができます。

収集した資料から各項目について適正な請求額を計算し、遺族の方としっかりと協議のうえ、遺族の方の代理人として弁護士が損害賠償の金額について交渉を行います。

交渉の結果、賠償額が適正な水準で合意できる状況に達することができれば示談を進めることになり、そうでない場合は裁判を提起して適正な賠償額を求めることを検討することになります。

(3)慰謝料を相続する割合

被害者の遺言書がある場合や、相続人の間で既に相続割合を協議している場合を除き、原則として損害額は法定相続人で下記の相続割合に応じて相続することになります。

相続人 分配の割合
配偶者と子 配偶者:1/2

子:1/2

配偶者と両親 配偶者:2/3

両親:1/3

配偶者と兄弟姉妹 配偶者:3/4

兄弟姉妹:1/4

※配偶者以外は、複数人いる場合には決められた相続分を均等に分配します。

※子がいる場合には、両親や兄弟姉妹には相続されません。

(4)死亡慰謝料が増額となるケース

上述のとおり、死亡慰謝料には一定の基準があります。

しかし、加害者の過失が重大であったり、事故態様が悪質であったりする場合などは、基準額から増額となる場合があります。

被害者や遺族の精神的苦痛が増大すると考えることができるためです。

参考例としては、以下の通りです。

  • 加害者の飲酒運転、赤信号無視、居眠り運転、無免許運転、著しいわき見運転、著しいスピード違反、薬物等の影響により正常な運転ができていない場合など
  • 加害者の態度が常識に反するほど著しく不誠実な場合(ひき逃げ、証拠隠滅を図った場合)など
  • 複数人が一度に死亡
  • 死亡によって精神的苦痛を受けた近親者が健康面や業務に対して悪影響を及ぼした場合など

まとめ

本記事では、交通事故における死亡慰謝料の金額や、請求の流れについてご説明しました。

しかし、全く同じ死亡事故は一つとして存在しません。

自身の身内に起きた交通事故のケースではどのような対応をするべきか、適正な賠償とはどのような金額なのかといったご不安が多くあると思います。

ご事情に応じた適切な方法を一緒に考え、最善の方法を提案させていただきますので、ご遠慮なくお問い合わせください。

死亡事故ではどのような賠償を受けたとしても失われた命は戻らないため、遺族の多大なる精神的な苦痛は完全に癒されることはありません。

せめて、適正な賠償の実現がなされるべきだと思っております。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。