後遺障害診断書とは?必要となる場合や記載内容について弁護士が解説
「後遺障害診断書とはどのようなものなのか」
「どのような場合に必要となるのか?」
「作成してもらうときのポイントについて知りたい」
交通事故に遭い、怪我の治療を継続されている方の中には、このような疑問や不安をお持ちの方もいるかと思います。
交通事故による怪我の治療を継続したものの、何らかの症状が残存してしまった場合には、症状の内容や程度によっては、後遺障害等級の認定申請を行うことを検討することになります。
等級の認定を受けることで、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という損害項目についても補償を受けることができます。
後遺障害診断書は、この後遺障害等級の認定申請を行う際に重要な意味を持つ書類です。
本記事では、後遺障害診断書の概要や作成してもらった後の手続の流れについて解説します。
また、適切な等級の認定を受けるために注意すべき記載内容についても合わせて解説します。
交通事故の被害に遭い、治療を行われている方やこれから後遺障害等級の認定申請を行うことを検討されている方の参考になれば幸いです。
1.後遺障害診断書の概要
後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定申請を行う際に必要な書類です。
等級の認定を受けることによって、等級に応じた後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という賠償金を請求することができます。
そして、等級の認定は、後遺障害診断書の内容に基づいて行われるため、記載内容が適切であるかどうかが等級認定を左右します。
以下では、後遺障害診断書の概要について解説します。
(1)後遺障害診断書とは
後遺障害診断書とは、症状固定の診断を受けた時点で残存している怪我の症状について記載する書類です。
症状固定とは、怪我の治療を一定期間継続した後、症状が一進一退となり、医学的にこれ以上改善しなくなった状態をいいます。
この時点で残存している症状を後遺症といい、それらのうち、損害保険料率算出機構という第三者機関によって審査・認定されたものが後遺障害となります。
そして、審査・認定が行われる際に提出すべき書類が後遺障害診断書です。
後遺障害等級の認定申請を行う際には、まずは後遺障害診断書の作成をしてもらう必要があることを押さえておきましょう。
症状固定の概念については、以下の記事も参照ください。
また、後遺障害診断書の意義については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご覧ください。
(2)後遺障害診断書を作成する主体
後遺障害診断書を作成できるのは医師のみです。
一般的には、治療を担当した主治医に作成を依頼することになります。
なお、交通事故の怪我によっては、整骨院などで治療を受けるケースもありますが、整骨院の柔道整復師は医師ではないため、後遺障害診断書を作成してもらうことはできません。
そのため、交通事故に遭った場合には必ず整形外科などの専門の医療機関を受診し、医師の指示に従って継続的に治療を行うことが重要です。
後遺障害診断書の書式は、保険会社あるいは自賠責保険会社から取り寄せることができるほか、インターネットでもダウンロードすることができます。
なお、歯に関する後遺障害診断書については異なった書式となるため、注意が必要です。
後遺障害診断書の書式の入手方法や注意点については以下の記事も参考になります。
(3)後遺障害診断書の作成を依頼するタイミング
先ほども述べたように、後遺障害診断書は症状固定の診断を受けた時点で残存している怪我の症状について記載されます。
そのため、後遺障害診断書は、医師から症状固定の診断を受けたタイミングで作成を依頼することが望ましいです。
なお、自己判断で通院をやめていたり、通院頻度が低い場合には、医師の協力を得られない可能性もあります。
加害者側保険会社による治療費の打切りのタイミングが必ずしも症状固定時期とは言えない場合もあるので、主治医に相談の上、改善見込み等を踏まえて症状固定時期を判断する必要があります。
後遺障害等級の認定は、後遺障害診断書の記載内容に基づく書面審査によって行われるため、記載内容が最も重要となります。
例えば、一般的に後遺障害等級の認定を受けるためには、6か月以上にわたって治療を継続した後に症状固定に至っていることが必要です。
このように、後遺障害診断書の作成を依頼する際には、タイミングや記載内容についても注意すべきポイントがいくつかあります。
後遺障害等級の認定審査は、原則として後遺障害診断書の内容に基づく書面審査によって行われます。
認定される等級によって、受け取ることができる後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益の金額相場は大きく変動することがあります。
そのため、適正な賠償金を獲得するためには、適切な後遺障害等級の認定を受けることが最も重要です。
後遺障害と賠償金の関係については、以下の記事でも触れています。
(4)後遺障害診断書の作成費用
後遺障害診断書の作成費用は、5000円~1万円程度が相場であることが多いです。
もっとも、作成費用は医療機関が自由に定めることができるものであるため、あらかじめ費用については医師に確認しておくとよいでしょう。
作成を依頼する際には、一旦は自己負担となりますが、等級の認定を受けることができれば、その費用を加害者側に請求し、受け取ることができます。
なお、等級非該当となった場合には自己負担となってしまうため、注意が必要です。
2.後遺障害診断書の記載項目
後遺障害診断書には、以下の項目について記載がされます。
- 被害者の基本情報
- 受傷年月日
- 入院・通院期間
- 傷病名
- 既存の障害
- 自覚症状
- 他覚症状
- 検査結果
- 障害内容の増悪・緩解の見通し
後遺障害等級の認定手続においては、この記載内容に基づいて審査が行われるため、正確な情報を医師に記載してもらうことが重要です。
例えば、「障害内容の増悪・緩解の見通し」の項目に「長期的に見ると改善の見込みあり」などと記載されていると、今後症状が改善する可能性があると受け取られ、等級非該当となる可能性が高まります。
また、怪我の内容や認定を目指す等級によって、受けるべき検査内容も異なります。
具体的には、骨折などの怪我はレントゲン検査によって症状の原因を特定することができますが、骨折の部位によってはレントゲン検査では明らかにならないケースもあります。
このような場合には、CT検査やMRI検査など、症状の原因を明らかにするための検査を追加で受ける必要があることに注意が必要です。
項目ごとの記載内容の詳細やポイントについては、以下の記事も参考になります。
3.後遺障害診断書の作成をしてもらった後の流れ
医師に後遺障害診断書の作成をしてもらったら、後遺障害等級の認定申請の手続を行います。
また、加害者側の保険会社との示談交渉も行う必要があります。
具体的には、以下の流れで手続が進みます。
- 後遺障害等級の認定申請を行う
- 審査結果が通知される
- 認定結果をもとに示談交渉を行う
それぞれについてご説明します。
(1)後遺障害等級の認定申請を行う
後遺障害等級の認定申請には、事前認定と被害者請求の2つの方法があります。
それぞれの申請方法には、メリットもデメリットもあるため、申請方法の特徴について押さえておくことが重要です。
順にご説明します。
#1:事前認定
事前認定は、加害者側の保険会社が書類や資料の作成や提出を行う方法です。
被害者が認定申請にあたって準備すべき書類は後遺障害診断書のみであり、手続の手間を省くことができる点が大きなメリットといえます。
もっとも、加害者側保険会社は、申請に最低限必要な書類や資料しか準備しない傾向にあり、適切な等級に認定されない可能性もあります。
その意味では、手続の透明性に疑問が残る申請方法ともいえるでしょう。
事前認定の手続の流れについては、以下の記事でも解説していますので、合わせてご覧ください。
#2:被害者請求
被害者請求は、被害者が直接、加害者側の自賠責保険に後遺障害診断書などの必要書類を提出して、申請を行う方法です。
事前認定とは異なり、申請に必要な書類や資料の作成・収集を被害者自身で行う必要があるため、手間がかかる点がデメリットといえます。
もっとも、書類の書き方を工夫したり、追加資料の収集などを行ったりすることで、症状に応じた適切な等級の認定を受けられる可能性が高まります。
また、交通事故の対応を専門にしている弁護士は、後遺障害等級の認定申請の手続に習熟しているため、適切な等級に認定されるためのポイントも把握しています。
そのため、交通事故対応に習熟した弁護士のアドバイスやサポートを受けた上で、被害者請求による申請を行うことがおすすめです。
被害者請求の手続の流れや詳細については、以下の記事もご参照ください。
(2)審査結果が通知される
審査結果の通知は、上記のどちらの方法によって申請したかで異なります。
事前認定による申請の場合は、加害者側の保険会社から等級認定の通知が行われます。
一方、被害者請求の場合には自賠責保険から通知が行われます。
なお、被害者請求による申請を行うと、等級認定の通知の時点で保険金の一部が支払われることになります。
(3)認定結果をもとに示談交渉を行う
等級の認定を受けた後は、加害者側の保険会社と示談交渉を行います。
具体的には、認定を受けた後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を算定し、請求を行います。
なお、被害者請求を行った場合に支払われる保険金は、自賠責基準によって算出された金額です。
交通事故の慰謝料の算定方法には、自賠責基準、任意保険基準、裁判所(弁護士)基準の3つがあります。
このうち、自賠責基準は交通事故の被害者の損害について最低限の補償を行うことを目的に設定されているため、3つの中で最も低額です。
また、加害者側の保険会社が示談で提示する賠償金額は、任意保険基準を用いて算出されており、その基準は非公開となっていますが、自賠責基準と大きくは変わらない相場である場合がほとんどです。
これに対して、裁判所(弁護士)基準は、過去の裁判例で認められた金額を基準としており、最も高額な金額相場です。
そのため、示談交渉では裁判所(弁護士)基準をもとに算出した賠償金の請求を行うことで、適正な賠償金を受け取ることにつながります。
もっとも、被害者ご自身が裁判所(弁護士)基準を用いて交渉を行っても、保険会社がこれに応じることはありません。
そのため、適正な賠償金を獲得するためには、弁護士に示談交渉を依頼することがおすすめです。
4.後遺障害診断書を作成してもらえないときの対処法
すでに述べたように、後遺障害診断書を作成できるのは医師のみです。
しかし、場合によっては医師に後遺障害診断書を作成することを断られるケースもあります。
具体的には、以下のものがあります。
- まだ症状固定の時期ではないと医師が判断した
- 後遺症がないと判断した
- 転院などによって治療の経過が分からない など
医師が症状固定の時期でないと判断した場合には、医師の指示に従って治療を継続することが何よりも重要です。
また、転院などによって、現在の主治医が症状の経過を把握していない場合には、以前の診療記録を取り寄せるなどの対応が必要になることもあります。
このほか、後遺障害診断書を作成してもらえない主なケースや対処法については、以下の記事でも詳しく解説しているので、合わせてご参照ください。
5.後遺障害診断書を作成してもらうときのポイント
後遺障害診断書の作成をしてもらう際には、いくつかのポイントがあります。
具体的には、以下の点について注意しましょう。
- 仕事や生活への具体的な影響を合わせて伝える
- 事故直後から一貫性・連続性のある症状の伝え方をする
- 必要な検査を受ける
- 必要に応じて資料や意見書を添付する
繰り返しになりますが、適切な等級の認定を受けるためには、後遺障害診断書の記載内容が非常に重要です。
特に自覚症状と他覚症状、検査結果の内容が重要となるため、これらのポイントを押さえて医師に作成を依頼しましょう。
(1)仕事や生活への具体的な影響を合わせて伝える
自覚症状については、痛みや痺れなど実際に感じる症状を伝えるだけでなく、それによって仕事や生活にどのような影響が生じているかまでを伝えることが重要です。
例えば、以下のような伝え方をしてみるのがよいでしょう。
- 痛みにより、以前は運ぶことができた重いものが運べなくなった
- 腰痛により、長時間のデスクワークができなくなった
- 手に痛みがあり、1人で着替えなどができなくなった など
このように、症状だけでなく、その程度や影響までをしっかりと記述してもらうことが適切な等級認定を受けるためには重要です。
なお、自覚症状の伝え方のポイントについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
(2)事故直後から一貫性・連続性のある症状の伝え方をする
事故直後から現在に至るまで、症状が一貫して現れていることを正確に伝えるようにしましょう。
現れている症状の内容に一貫性がない場合には、事故による怪我と症状固定後に残存した症状の間には関係性がないと審査機関に判断されてしまう可能性があります。
また、症状が継続的に現れていない場合には、後遺障害に該当するほどの後遺症ではないと判断され、認定を得られない可能性があるため、注意が必要です。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 当初は頭痛を訴え、その後に別の部位の痛みを訴えるなど、症状が現れる部位が変動する
- 雨の日など特定の条件で症状を訴える
なお、実際には何らかの症状が一貫して継続的に現れていたとしても、後遺障害診断書に上記のような記載がされている場合にも後遺障害の認定を受けられない可能性があります。
そのため、医師に伝えるときは、天候や時間帯に関係なく当初から一貫して同じ症状が現れていることをしっかりと伝えましょう。
また、後遺障害診断書を作成してもらった後は、上記のような書き方となっていないかを確認し、必要に応じて修正や訂正を依頼することも大切です。
(3)必要な検査を受ける
残存している症状の内容や認定を受けようとする等級によって、必要となる検査内容は異なります。
例えば、交通事故の後遺症の中でも多いむちうちの場合は、痛みや痺れなどの自覚症状があることを画像検査などによって客観的に証明または説明できる必要があります。
また、骨折などによって関節の可動域に制限が生じた場合には、可動域の測定を正確に行う必要があります。
このように、症状の内容や程度、認定を目指す等級に合わせて、必要かつ適切な検査を受け、その結果を正確に記載してもらうことが重要です。
なお、レントゲン検査やCT検査、MRI検査などの画像検査のほかにも、神経学的検査などを受け、その結果を記載してもらうことが必要になる場合もあります。
もっとも、どのような検査を受けるべきなのかは判断が難しい場合も多いです。
交通事故対応を専門にしている弁護士であれば、等級の認定を受けるために必要な検査内容についても熟知しているため、後遺障害診断書の作成を受ける際に弁護士に相談することがおすすめです。
(4)必要に応じて資料や意見書を添付する
後遺障害診断書に加えて、後遺症の内容や状態をより詳しく伝えるためには、別紙資料や医師の意見書を添付することも検討しましょう。
特に後遺障害診断書の記載項目は限られているため、審査機関に症状を具体的に伝えるための追加資料を添付することも有効です。
例えば、高次脳機能障害の場合には、被害者の周りのご家族からみた生活記録の作成・提出を行うことで、本人が気づいていない変化や症状を客観的に伝えることができます。
また、医師が作成した意見書を添付することも有効である場合があります。
医学的な観点から、事故と症状の因果関係や症状の経過、今後の見込みなどについて詳細に記載してもらうことが望ましいです。
このように、等級認定の可能性を高めるためにも、様々な工夫が必要です。
6.後遺障害診断書の作成について弁護士に相談するメリット
後遺障害診断書は、いくつかのポイントを踏まえた上で作成をしてもらう必要があります。
特に認定を目指す等級によって、必要な検査項目や記述の際の注意点は異なることがあります。
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、交通事故対応に精通した弁護士に相談することが何よりも重要です。
弁護士に相談することによるメリットは、以下のとおりです。
- 後遺障害診断書の内容が適切かチェックを受けられる
- 書き直しが必要な場合にアドバイスやサポートを受けられる
- 後遺障害等級の認定手続を依頼できる
順にご説明します。
(1)後遺障害診断書の内容が適切かチェックを受けられる
弁護士に相談することで、後遺障害診断書の記載内容についてチェックを受けることができます。
等級認定を受けるために適切な記載内容となっているかは、後遺障害等級の認定基準や過去の事例に精通していなければ判断が難しい場合がほとんどです。
もっとも、弁護士であれば後遺障害等級の認定申請に関する専門知識や実務経験を有しており、適切な記載内容となっているかを判断することが可能です。
そのため、後遺障害診断書の作成をしてもらった場合には、弁護士にチェックを依頼することがおすすめです。
(2)追記や修正が必要な場合にアドバイスやサポートを受けられる
医師に作成してもらった後遺障害診断書の記載内容に追記や修正が必要な場合には、これを医師に伝える必要があります。
もっとも、どの記載項目をどのように修正してもらう必要があるかについては、伝えるのが難しい場合も多いです。
弁護士に相談することで、具体的にどの箇所をどのように修正する必要があるのかについて、専門的なアドバイスを受けることが可能です。
特に後遺障害等級の認定申請という法的な手続を行うにあたって、どのような修正や訂正を行う必要があるのかは、専門家である弁護士が熟知しています。
弁護士であれば、書き直しが必要な理由や箇所について、医師に対して丁寧に説明することもできるため、後遺障害診断書の内容に不安や疑問がある場合には弁護士に相談することが重要です。
(3)後遺障害等級の認定手続を依頼できる
弁護士に相談することで、その後の後遺障害等級の認定手続を依頼できることも、大きなメリットの1つです。
特に被害者請求の方法による後遺障害等級の認定手続を行うにあたっては、様々な書類や資料を収集し、提出する必要があります。
どのような書類の書き方や添付資料の追加によって、等級認定の可能性が高まるかは専門知識や実務経験がなければ判断できないことがほとんどです。
弁護士に手続を依頼することで、必要な書類や資料の作成・収集についてもアドバイスやサポートを受けることができ、適切な等級認定の可能性が高まります。
まとめ
本記事では、後遺障害診断書の概要や作成をしてもらう際のポイントなどについて解説しました。
ご自身の症状の内容や程度に合った後遺障害等級の認定を受けるためには、医師に作成してもらう後遺障害診断書の記載内容が重要な意味を持ちます。
もっとも、どのような記載内容となっていることが適切な等級認定のために必要なのかは、専門知識などがなければ判断が難しいです。
そのため、後遺障害診断書を作成してもらう際には、交通事故対応に精通した弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、これまで多くの交通事故の法的手続に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、後遺障害診断書についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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