過失割合が10対0の物損事故の示談金の相場とは?示談交渉の注意点

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。

「過失割合が10対0のときの物損事故の相場はどのくらいなのか」
「過失割合が10対0になる場合の示談交渉の注意点は何なのか」

過失割合が10対0の物損事故の場合、どのくらいの示談金がもらえるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、10対0の物損事故の示談金の内訳・相場や示談交渉の注意点等についてご紹介します。

1.10対0の物損事故にはどういうケースがあるか

まずは過失割合が10対0で被害者側の過失がない際に、どういったケースがあるのかをご紹介します。

交通事故は、警察によって事故処理された直後は、すべて物損事故(物件事故)扱いとなっています。

人身事故として処理するためには、人身事故への切り替えの手続きが必要です。

ですので、一般的に物損事故といったら、物の損害のみの場合と、人身損害はあるものの人身事故には切り替えていない場合の2種類があります。
順にご説明します。

(1)物の損害のみの場合

これは、いわゆる物損事故です。

主に、車やバイク、自転車等の車両、着衣損、携行品、積載物等が損害として考えられます。

修理代やレッカー代等の損害を相手に請求し交渉します。

(2)人身損害もある場合

次に、人身損害はあるものの人身事故には切り替えていないため物損事故であるケースです。

この場合は、まず、人身事故に切り替えるのか、物損事故のままでいくのかの選択が必要となります。

以下に、人身事故に切り替えた方が良いケースと、物損事故のままでも問題ないケースをご紹介します。

#1 人身事故へ切り替えたほうが良いケース

人身事故に切り替えるメリットは、過失割合に争いがある場合に、客観的な証拠により立証できるようになることです。

すなわち、警察による現場検証をもとに、実況見分調書という書類が作成され、過失割合の詳細な検討が可能になります。

また、後遺障害等級の申請を考えているときも、人身事故へ切り替えた方が良いケースがあります。

もちろん、物損事故のままでも後遺障害等級が認定される方はいますので、必ずしもそうした方がいいというわけではありません。

しかし、後遺障害等級認定の判断がなされる際に刑事の処理上では物損事故と人身事故のどちらになっているのかが判断ポイントとして用いられることも時折あります。

そのため、人身損害があり、人身事故へ切替えることのデメリットが特にないのであれば切替えておくにこしたことはありません。

特に、後から症状が出て通院したところ、しばらくは通院が必要との診断を受けたような場合は人身事故へ切り替えたほうが良いでしょう。

人身事故へ切り替えるには、病院を受診したうえで警察署に診断書を提出し、手続きをしてもらうことになります。

#2 物損事故のままでも問題ないケース

# 1の各ケースに該当しない場合は、人身損害がある場合でも物損事故のままで問題ありません。

なぜかというと、警察への届け出を物損事故にしたままであっても、民事上の請求には影響なく、治療費等の人身損害も相手方に請求できるためです。

人身事故証明書入手不能理由書という書面の提出が必要ではありますが、自賠責保険を使うことも可能です。

たとえば、通院したものの比較的軽症であり、長期間の通院が必要ないとの診断を受けた場合は、物損事故のまま処理を進めることも一つの選択肢です。

2.10対0の物損事故で相手方に請求できる内容

続いて、交通事故後に相手方に請求できる内容についてご説明します。

物損事故や人身事故によって相手方に請求できる内容が、どのように異なるのかを順にみていきましょう。

(1)物の損害

物損事故の場合は、物の損害にかかる費用を相手方に請求することができます。

主に請求できる費用は以下のとおりです。

請求できる費用

・修理費
・車両の時価額
・買替諸費用
・代車費用
・評価損
・休車損害

このように、交通事故被害に遭ったことで、車の修理やレッカー代、代車費用といった本来交通事故に遭わなければ支払う必要が無かったような金額について相手方に請求することができます。

修理しても直る見込みが無い場合は車を買い替える必要がありますが、そういった費用についても請求することが可能になる場合があります。

また、物の損害だけが発生した場合には、原則として、慰謝料を請求することはできません。

(2)人身損害

人身事故の場合は、物の損害だけでなく人身損害についても相手方に請求することができます。

主に請求できる費用は以下のとおりです。

請求できる費用

・治療費
・通院交通費
・入院雑費
・付添費
・休業損害
・入通院慰謝料
・後遺障害慰謝料、逸失利益

治療費や通院交通費といった交通事故に遭わなければ支払う必要が無かった費用はもちろん、入通院にかかる精神的苦痛に対する補償となる入通院慰謝料等も相手方に請求することができます。

物損事故の場合と比べて、より多くの項目で相手方に請求することが可能です。

3.10対0の物損事故の解決までの流れ

続いて10対0の物損事故の場合の解決までの流れについてご説明します。

解決までの流れは概ね以下のとおりです。

解決までの流れ

(1)交通事故発生、警察に届出、人身事故に切替え
(2)治療
(3)示談交渉(物損)
(4)後遺障害申請
(5)示談交渉(人損)

(1)交通事故発生、警察に届出、人身事故に切替え

交通事故が発生したら、加害者被害者にかかわらず、車両の運転者は、すぐに警察に届け出る必要があります(道路交通法第72条1項)。

届け出ない場合には、刑事罰を受けるおそれがあるほか、保険金の請求ができなくなるおそれがあります。

上述のとおり、交通事故が事故処理された直後は、すべて物損事故扱いとなっています。

そのため、物損のほかに人身損害もあり、人身事故へ切り替えた方が良いケースに当たる場合には、切り替え手続きが必要になります。

(2)治療

怪我がある場合、人身損害が確定してから相手方に請求することとなります。

人身損害が確定するのは、症状固定時です。

ここにいう症状固定とは、症状が治癒したこと又はこれ以上治療を続けても治療の効果が上がらないことをいいます。

そこで、症状固定に至るまでは治療を続けましょう。

(3)示談交渉(物損)

物損事故の場合は、物の損害が確定してから相手方に請求することとなります。

修理代や代車代といった、全ての費用が確定してからでないとどれだけの損害が発生したのか客観的に証明できないためです。

そのため、全ての費用が明らかになったら相手方に物損の請求をしましょう。

なお、物損の示談交渉は、治療と並行して行うこともできます。

(4)後遺障害申請

後遺障害等級を申請する場合は、症状が固定されてから行います。

被害者自身が後遺障害申請の手続を行う場合、症状が固定されたら、必要書類の記入、手配、収集を行います。

たとえば、交通事故証明書、後遺障害診断書、医師の診断書、診療報酬明細書等です。

必要書類が集まったら、相手方の自賠責保険会社に送付して後遺障害等級の認定申請を行います。

(5)示談交渉(人損)

これまでにかかった治療費や通院交通費、慰謝料等を計算して請求します。

後遺障害申請が認められた場合には、逸失利益や後遺障害慰謝料といった項目も併せて請求します。

相手方に請求をかけたら、交渉を行います。

交渉をご自身で進めることもできますが、相手方の保険会社と専門的なやりとりをすることが求められるため、弁護士に相談することをお勧めします。

示談交渉が整い、示談書を取り交わした後、加害者側が被害者側に対し、損害賠償金を支払います。

4.10対0の示談金の相場

10対0の示談金の相場についてご説明します。

物損事故の場合は、発生した損害をもって相手方に請求することとなります。

そのため、示談金は、自動車の市場相場等によって左右されます。

一方で、人身事故の場合は、交通事故で負った怪我の程度によって示談金の相場が変わります。

特に、相手方に示談金を請求する際には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準といった3つの算定方法があり、相場が異なります。

ただし、弁護士基準を用いて示談金を算出するためには、弁護士に依頼する必要があります。

ここでは、入通院慰謝料についてご説明します。

(1)自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険から保険金が支払われる際に用いられる算定基準です。

これは、交通事故の被害者救済のために、迅速かつ最低限の補償を行う目的で定められていますので、算定結果は3つの基準のなかで通常一番低い金額になります。

自賠責基準によると、入通院期間又は実通院日数の2倍のいずれか低い方に4,300円を掛けた金額を請求できることになります。

計算式

①入通院期間  × 4,300円
②実通院日数 × 2× 4,300円

(2)任意保険基準

任意保険基準は、各任意保険会社が独自に用いる算定基準です。

この基準は公開されていませんが、自賠責基準とほぼ同額か、それよりもやや高い金額にとどまるといわれています。

(3)弁護士基準

弁護士基準は、過去の裁判例を基に算定される基準で、裁判でも用いられます。

この基準によると、一般に、3つの基準の中で一番高い金額が算定されることがほとんどです。

たとえば、むちうちを受傷した場合で、治療期間が90日間、実通院日数が24日(週2回通院)だったとすると、入通院慰謝料は530,000円になります。

これを自賠責基準で計算すると、206,400円(24日 ×2× 4,300円)になります。

仮に治療が180日間に及んだ場合で実通院日数が48日だったとすると、自賠責基準では412,800円にとどまるのに対し、弁護士基準では890,000円になります。

このように、通院期間が長いほど、2つの基準の金額の差は広がっていきます。

その他の項目について、詳しくは、以下の記事をご覧ください。

過失割合が10対0の事故では示談金の相場は?請求する際の注意点

まとめ

今回は交通事故被害に遭った際に、過失割合が10対0の物損事故の場合の相手方に請求できる費用や人身事故に切り替えた場合についてご説明しました。

物損事故の場合、示談金の内訳は車の修理関係や休業損害がメインになります。

人身事故の場合は、物損事故で請求できる項目に加え、人身損害についても相手方に請求することが可能です。

交渉が難航する場合や有利に交渉を進めたい場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士法人みずきでは、交通事故の示談交渉に関する相談を無料で受け付けておりますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 実成 圭司 弁護士

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