自己破産をすると退職金はどうなる?手放さずに済むケースとは
「自己破産をすると将来退職金が受け取れなくなるの?」
「自己破産をしたら受け取った退職金を手放すことになるの?」
自己破産をする際に、退職金にどのような影響があるのか不安を覚える方も多いのではないでしょうか。
自己破産をすると、すでに受け取っている退職金だけでなく、将来受け取る予定の退職金についても手続の中で処理されることになります。
この記事では自己破産における退職金の扱いや、退職金を少しでも多く手元に残すための対処法などについてご説明します。
1.自己破産では退職金が換価処分の対象として扱われる
自己破産では、破産手続を開始する際に所有している一定の財産は、破産管財人によって管理および処分される「破産財団」を形成します(破産法34条1項および2項)。
破産財団となった財産は、破産管財人が換価処分し、債権者に配当します。
退職金および退職金債権も財産の一つですから、破産財団を形成することになります。
なお、原則として破産手続開始決定後に得た財産(「新得財産」といいます。)は、破産財団に含まれません。
しかし、退職金のうち破産手続開始決定時に退職したとして計算した金額に相当する部分は、破産手続の申立て前に発生した債権となりますので、破産財団に含まれてしまいます。
破産手続開始決定後に支払われることになるものでも新得財産とはならないのです。
ここからは、自己破産をした際の退職金の扱いについて、破産者の退職金の支給状況ごとにご説明します。
(1)退職金をすでに受け取っている場合
勤務先から退職してすでに退職金を受け取っている場合、自己破産手続を開始した時点で残っている退職金は全額が換価処分の対象となります。
受取り済みの退職金が現金で保管されているのであれば現金、金融機関に預金として保管されているのであれば預貯金としてそれぞれ換価が行われます。
なお、現金は99万円以下、預貯金は20万円以下で、かつ合計が99万円以下までの範囲は換価処分の対象にはなりません。
(2)近々退職金を受け取る予定がある場合
勤務先を退職しているか、退職の予定があり近々退職金を受け取ることになっている場合は、退職金の4分の1が換価処分の対象となります。
直近で退職する場合、破産手続中に退職となるよう手続のスケジュールを合わせて、破産管財人が退職金を回収してしまいます。
換価の対象が4分の1となっているのは、退職金額の4分の3は差押禁止財産となっているためです。
破産法34条3項により、差押禁止財産は破産財団を形成しません。
退職金の4分の3は、民事執行法152条2項2号により、差押禁止財産となっているため破産財団に含まれないことになります。
(3)しばらく退職金を受け取る予定がない場合
在職中でしばらく退職金を受け取る予定がない場合は、退職金支給見込額の8分の1が換価処分の対象となります。
定年等、予想される退職時期が先の場合、将来確実に退職金が支払われるとは限りません。
たとえば、勤務先の倒産や業績悪化等で退職金が支払われなくなる場合があります。
それにも関わらず、破産手続中に差押禁止財産でないからといって退職金の4分の1を会社から回収するのは会社としても迷惑ですし、破産者にとっても将来的に大きな影響を与えかねません。
このような事情を考慮して、ほとんどの裁判所は、退職金をしばらく受け取る予定がない場合には、破産開始決定時における退職金支給見込額の8分の1を財産として評価する運用を行っています。
また、会社から退職金見込額の8分の1を回収することはまずなく、その金額を破産者から支払ってもらい、破産財団に組み入れる方法をとっていることがほとんどです。
東京地方裁判所における財産換価基準では退職金支給見込額の8分の1を換価処分の対象とするよう定めています。
また、退職金支給見込額の8分の1の金額が20万円未満の場合には、退職金債権全額について換価処分しなくてよいとしています。
2.自己破産で退職金が換価処分の対象とならない場合
自己破産では受取前の退職金も財産として扱われますが、退職金が換価処分の対象とならない場合もあります。
自己破産において退職金が換価処分の対象とならない場合は、以下の三つです。
- 退職金の種類が差押禁止財産に該当する
- 退職金を含めた資産が99万円以下である
- 自由財産の拡張が認められる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)退職金の種類が差押禁止財産に該当する
退職金と呼ばれるものには種類があります。
以下に該当するものは差押禁止財産であり、すべて換価処分の対象外になります。
- 中小企業退職共済制度に基づく退職金
- 小規模企業共済制度に基づく退職金
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
日本でもっとも普及しているのは勤務先が計算方法を定め、従業員の退職時に算定した金額を支給する「退職一時金制度」です。
それと異なり、社外機関等で積立てを行って退職金として支給するケースがあり、上記の共済や年金制度はその一部に当たります。
これらはそれぞれの根拠法令において、受給権を差し押さえることができないとされていますので、破産財団に含まれることはなく、換価処分の対象となることはありません。
会社がどのような制度を利用しているか、よく確認した方がよいでしょう。
(2)退職金を含めた現金が総額で99万円以下
自己破産において99万円以下の現金は自由財産として換価処分の対象外となります。
破産法では「破産手続開始のときに有する一切の財産は、日本国内にあるかどうかに関わらず破産財団とする。」とされている一方、「民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭は破産財産に属さない。」とも規定されています(破産法34条3項1号)。
民事執行法131条3号に規定する額とは、標準的な世帯の2か月間の必要生計費を勘案して政令で定める額のことで、その金額は66万円と定められています(民事執行法施行令1条)。
66万円に2分の3を乗じた額は99万円となるので、99万円の金銭は破産財団に属さずに換価処分の対象外となります。
なお、金銭とは現金のことを指しますので、金融機関の預貯金は含まれません。
そのため、退職金を含めた現金が99万円以下であれば、換価処分を避けられます。
(3)自由財産の拡張が認められる
自己破産では自由財産に該当する財産は差押えの対象外となりますが、裁判所の判断によって「破産財団に属さない財産の範囲」を拡張できると定められています(破産法34条4項)。
つまり、裁判所が破産者一人ひとりの事情を考慮して、自由財産の範囲を拡張(自由財産の拡張)できるのです。
通常は自由財産の拡張を希望する場合、破産者が裁判所に自由財産拡張の申立てをして、破産管財人が申立て内容が適切か調査をします。
自由財産の拡張範囲は、破産者の生活状況、財産、収入などさまざまな事情を考慮して判断されるものです。
ただし、その拡張が認められるのは、(2)の破産財団に属さないとされる金銭の額を考慮し、すべての財産を合計して99万円以下までです。
したがって、すでに退職金を受け取っており、それが99万円を超えている場合には、それ以上に拡張が認められることはほぼないでしょう。
3.自己破産申立て時に退職金見込額証明書が必要となる
自己破産を申し立てる際は財産に関する資料として退職金見込額証明書の提出が必要なので、退職金の支給額を誤魔化すことはできません。
退職金見込額証明書は、勤務している会社に発行してもらうものであるので、「自己破産することが会社にバレるのではないか」と不安になる人もいるのではないでしょうか。
しかし、退職金見込額請求書は自己破産に限らず、住宅ローンの与信審査でも必要になる場合があります。そのため、会社には「住宅ローンの関係で必要」と申告すれば、自己破産をすると知られずに済むでしょう。
また、自己破産の申立じ時に債務者の財産を記載することになる「財産目録」にも退職金請求権、退職慰労金の記載が必要です。
退職金を含めた財産について、虚偽の申告をすると財産隠しとなります。
財産隠しは免責不許可(借金の返済義務が免除されないこと)となる要因なので、退職金の詳細も正確に申告しましょう。
なお、以下のとおり、自己破産の申立て時に退職金見込額証明書が不要なケースもあります。
(1)退職金見込額証明書が不要なケース
自己破産の申立て時に退職金見込額請求書が不要となることがあるのは以下のようなケースです。
- 会社に退職金制度がない
- 勤続年数が短い
- 退職金見込額請求書の代用書類で足りるとされている
ただし、裁判所ごとに申立てに関する運用は異なりますので、いずれかに該当する場合でも必ず弁護士に相談したうえで指示に従うようにしましょう。
#1:退職金自体がない
勤務している会社に退職金制度が設けられていない場合、退職金制度がないことを証明できる書類を提出することになります。
ほとんどの場合就業規則に退職金制度について記載がされていますので、逆に退職金制度の記載のない就業規則があれば、制度自体が存在しないことの資料となります。
この場合、就業規則のコピーを裁判所に提出することになります。
また、アルバイトやパートなど、退職金がないことが明確な雇用形態である場合でも、退職金見込額証明書の提出は不要です。
#2:勤続年数が短い
会社に退職金制度が設けられている場合でも、勤続年数が短いと退職金見込額請求書の提出が不要になることがあります。
具体的には、勤続年数が5年未満の場合は退職金見込額請求書が不要なケースが多いです。
しかし、退職金の支給対象となる最低勤続年数を3年としている会社もあるため、勤務先によっては勤続5年未満でも退職金見込額証明書が必要になる場合もあります。
自身の勤める企業の就業規則をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
#3:退職金見込額を証明できる書類を提出する
「会社に退職金見込額証明書の発行を依頼しても作成してもらえない。」「会社に退職金見込額証明書の発行をどうしても依頼したくない。」というような場合には、退職金見込額証明書の代用書類を用いることで申立てを受け付けてもらえることがあります。
代用書類としては、就業規則に記載された退職金の計算方法を基に、自身で退職金見込額を計算したものが認められる可能性があります。
その場合、計算方法の記載された就業規則も一緒に提出することになるでしょう。
まとめ
自己破産をするとすでに受け取った退職金だけでなく、これから受け取る予定の退職金も換価処分の対象となることがあります。
換価処分の対象となる範囲は、退職金の受取時期により以下のように異なります。
- 退職金をすでに受け取っている場合・・・全額
- かなり近いうちに退職金を受け取る場合・・・4分の1
- しばらく退職金を受け取る予定がない場合・・・支給見込額の8分の1
しかし、退職金の種類や金額によっては換価処分の対象外となる場合もあります。
自己破産によって退職金を手放すのが不安な方は、まず弁護士に相談してみましょう。
弁護士に相談し、退職金を少しでも多く手元に残す方法を考えたうえで自己破産の準備をすすめることをおすすめします。
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