個人再生の住宅ローン特則で自宅を失わずに済む!利用できる条件とは
個人再生をする際に住宅ローンが残っている場合、自宅を失ってしまうのではないかと不安になりますよね。
個人再生手続を行う場合、通常の手続では、住宅ローンが残っていて金融機関の抵当権がついている自宅については、手放さざるを得なくなります。
しかし、個人再生においては、住宅ローン特則(法律上は「住宅資金貸付債権に関する特則」といいます。)というものがあり、これを利用することにより、自宅を手放さずに手続を進めることができます。
この記事では、住宅ローン特則という制度の詳細や、住宅ローン特則を利用するための要件などについてご説明します。
1.個人再生の住宅ローン特則とは
個人再生で利用できる住宅ローン特則は、住宅を失うことなく借金を整理するための制度です。
個人再生手続の中で作成する再生計画に「住宅資金特別条項」を定めることにより、住宅ローンだけは従前どおりに返済を続けながら、ほかの債務については減額した分を支払っていくことになります。
住宅ローン以外の債務について手続に従った割合での減額を受けつつ、生活の基盤である自宅に住み続けられるのは大きなメリットといえます
住宅ローン特則が設けられている理由や、住宅ローン特則を利用する場合にできることについてご説明します。
(1)住宅ローン特則が定められている理由
本来、個人再生には「債権者平等の原則」があり、すべての債権者を平等に扱わなければなりません。そのため、返済において一部の債権者だけを優遇することはできないのです。
しかし、住宅ローンについては特別な扱いをする理由があります。
住宅は債務者の生活の基盤であるところ、住宅を失うことで債務者の経済的な更生を妨げてしまい、ひいては総債権者の利益にもならなくなると考えられるからです。
そのため、住宅ローンだけは「債権者平等の原則」の例外として、住宅を維持したままの返済を続けることを認めているのです。
(2)住宅ローン返済計画を変更できる可能性がある
住宅ローン特則を利用することにより、住宅ローンの支払を継続することができ、住宅を所有したまま支払義務を減額できます。
また、個人再生の手続に入る前に住宅ローンに延滞が生じていた場合でも、住宅ローンの返済方法の変更を行える可能性があります。
可能な変更の形としては、以下のようなパターンが挙げられます。
#1:期限の利益回復型(民事再生法199条1項1号)
手続に入る前に住宅ローンに延滞が生じていた場合、それまでのように分割払いを継続することができず、債権者から一括払いを請求されてしまう状態になる可能性があります(「期限の利益の喪失」といいます。)。
期限の利益回復型は、延滞分について再生計画に定めた期間内で支払うことを条件に、期限の利益を回復させ、分割払いの状態に戻すようにするもので、住宅ローン特則の原則的な形といえます。
#2:弁済期間延長型(民事再生法199条2項)
#1の期限の利益回復型では支払を継続できる状況になく、再生計画が認可される見込みがない場合に利用できる方法です。
利息と遅延損害金も含めた住宅ローンの全額を弁済することと引き換えに、支払期限を延長し、1回あたりの支払額を減額します。
この場合、延長が認められるのは最大10年間で、債務者の年齢が70歳を超えない範囲であることも条件となります。
#3:元本猶予期間併用型(民事再生法199条3項)
#2:の方法でも再生計画認可の見込みがない場合に利用できる方法です。
この方法では、弁済期間の延長に加え、再生計画に定めた期間内において元本の一部について支払の猶予を定めます。
これによって、住宅ローン以外の債務の支払がある期間について、住宅ローンの負担を軽くするのです。
弁済期間の延長と併用しますので、延長が認められるのが最大10年間、債務者の年齢が70歳を超えない範囲で弁済を終える必要があることは、(2)と同じです。
#4:同意型(民事再生法199条4項)
住宅ローンの債権者の同意がある場合に、(1)から(3)までのいずれとも異なる返済方法を定めることができます。
返済期間を10年以上延長したり、70歳を超えても返済を継続するようにしたり、債権者が認めるのであればローンの減額も可能です(ただし、ローンの減額まで認められる場合は少ないと思われます。)。
債権者の同意を得ることが大きなハードルになることが多いとは思われますが、住宅ローンの負担を減らす意味ではかなり有用な方法になることもあります。
(3)保証人への請求を防げる可能性がある
住宅ローン特則を利用する場合、延滞があっても、再生計画の定めにより、債務者が利息、遅延損害金も含めて全額を支払うことをあらためて約束することになります。
住宅ローンの債権者は、債務者がそのように約束する以上、債務者がローンの支払をできない状態になったと判断することはほとんどありません。
そのため、住宅ローンについて保証人がついている場合、保証人が債務者に代わって請求を受ける、ということもなくなります。
このように、住宅ローン特則は、住宅ローンの保証人に迷惑をかけたくない場合にも有効な手段といえます。
2.個人再生の住宅ローン特則の利用条件
住宅ローン特則を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 個人再生の要件を満たしている
- 住宅は、債務者本人が所有かつ居住しているものであって、床面積の2分の1以上が居住用である
- ローンが住宅の購入または改良のための借入れであって、住宅に抵当権が設定されているものである
- 住宅には、住宅ローン以外の抵当権がついていない
- 対象となる住宅以外の不動産が住宅ローンの共同抵当に入っている場合、その不動産に後順位抵当権者がいない
- 代位弁済後6か月経過していない
- 債権者一覧表に特定の必要事項の記載がある
それぞれの条件についてご説明します。
(1)個人再生の要件を満たしている
住宅ローン特則は個人再生手続の特則として利用できる制度です。そのため、個人再生の要件はそのまま住宅ローン特則を利用する条件となります。
個人再生を行うための要件は、以下のとおりです。
- 将来的に継続または反復した収入があり、再生計画に則った弁済ができる見込みがあること
- 住宅ローン以外の借金総額が5,000万円以下であること
そのほか、再生計画について、手続に沿って認可される必要がありますし、給与所得者再生を利用する場合には、その要件をみたす必要もあります。
(2)住宅は本人が所有かつ居住しているものであって、床面積の2分の1以上が居住用であること
住宅ローン特則は、個人再生手続をする債務者本人が所有かつ居住する住宅について利用できることとなっています(民事再生法196条1号)。
所有している建物が二つ以上ある場合は、本人が主に居住に使用している一つのみが対象となり(民事再生法196条1号ただし書)、本人が所有している建物であっても、以下のようなものについては住宅ローン特則を利用できません。
- 資産運用目的で保有している住宅
- 別荘として所有している住宅
債務者本人が単身赴任などで一時的に居住していない場合でも、戻ることが予定されているのであれば住宅ローン特則を利用できます。
また、建物の床面積の2分の1以上が居住に用いられていなければ、その建物は住宅ローン特則の対象になりません(民事再生法196条1号)。
自宅で事業を行っている方や二世帯で暮らしている方は注意が必要です。
自宅兼事務所や自宅兼店舗の場合は、居住用スペースの面積が総床面積の2分の1以上となっているか確認しておくべきでしょう。
二世帯住宅で明確にそれぞれの住居スペースが分かれている場合も、債務者本人が居住に使用しているスペースの面積が総床面積の2分の1以上必要になります。
(3)ローンが住宅の購入または改良のための借入れであって、住宅にその担保のための抵当権が設定されていること
住宅ローン特則を利用するには、住宅ローンが「住宅資金貸付債権」(民事再生法196条3号)に該当する必要があります。
住宅資金貸付債権は以下にあてはまる債権です。
- 住宅の建設もしくは購入または改良に必要な資金の貸付けである
- 分割払いの定めがある貸付けである
- 住宅に抵当権が設定されている
住宅ローンを借り入れる際に、司法書士費用、登記費用、不動産屋に対する仲介手数料等を別に借り入れ(これらをまとめて「諸費用ローン」と呼んでいます。)、これを担保するために抵当権を設定する場合があります。
諸費用ローンは、厳密には住宅の建設もしくは購入または改良に必要な資金の貸付けではありません。
しかし、諸費用ローンも住宅の建設、購入、改良に必要不可欠な債権であるとして、住宅ローンと同視できるものであれば、これを住宅資金貸付債権と同様に扱い、住宅ローン特則を利用することができる可能性があります。
(4)住宅ローン以外の抵当権がついていないこと
住宅に住宅資金貸付債権を担保する抵当権以外の担保権が設定されていると住宅ローン特則を利用できません(民事再生法198条1項ただし書)。
これは、ほかの担保権が実行されてしまうと住宅を失うことになってしまい、住宅ローン特則を利用した意味がなくなってしまうためです。
前記のような諸費用ローンについての抵当権は住宅資金貸付債権を担保する抵当権以外の担保権です(ただし、住宅資金貸付債権と同視できる可能性があることも前記のとおりです。)。
ほかには、事業用資金の借入れをするために自宅に抵当権を設定することもあるでしょう。
このような場合、住宅ローン特則を利用することはできなくなってしまいます。
また、ペアローンを利用していると夫婦それぞれの住宅ローンの抵当権が一つの住宅に設定されることになります。
夫婦の住宅ローンの抵当権以外の担保権がなくとも、夫が個人再生で住宅ローン特則を利用しようとする場合には、妻の抵当権が住宅ローン以外の担保権として設定されているため、原則として、住宅ローン特則を利用することはできないことになります。
この場合、裁判所によっては、夫婦が同時に個人再生の申立てをするのであれば住宅ローン特則の利用が認められるところもあります。
さらに、夫婦のどちらかだけで住宅ローン特則を利用できる場合もあります。
いずれも、夫婦双方による住宅ローンの支払が続くのであれば、担保権の実行により住宅を失う蓋然性が低いと考えられ、住宅を失うおそれがないと考えられるためです。
ただし、裁判所によって判断が異なりますので、ペアローンの場合で住宅ローン特則の利用を検討しているときは、地域ごとの裁判所の判断を弁護士に確認したうえで、抵当権実行のおそれがないことを十分に主張したほうが良いでしょう。
(5)対象となる住宅以外の不動産が住宅ローンの共同抵当となっている場合で、その不動産に後順位抵当権者がいないこと
住宅以外に所有している不動産が住宅と共同抵当となっている場合で、その不動産に後順位の抵当権が設定されているときは、住宅ローン特則を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書)。
複数不動産をお持ちの場合、これに該当する可能性がありますので、そのような方が住宅ローン特則の利用をお考えの際には、弁護士への相談時、お持ちの不動産の登記事項証明書をご持参いただくとよいでしょう。
(6)代位弁済後6か月経過していないこと
代位弁済とは、債務者が借金の返済をできなくなったとき、債務者の債務を保証する第三者(保証会社)が代わりとなって債権者に借金を返済することです。
住宅ローンを滞納してしまい、保証会社が住宅ローン会社へ代位弁済を行うと、保証会社が求償権を取得し債務者に対して住宅ローン会社に代わって請求をすることができるようになりますが、この求償権に対しては、原則として、住宅ローン特則の利用ができません(民事再生法198条1項)。
しかし、保証会社が代位弁済した日から6か月以内に個人再生の申立てをした場合には、保証会社の有する求償権に対しても住宅ローン特則を利用することができます(民事再生法198条2項)。
代位弁済から6か月以内の申立てにより住宅ローン特則を利用した場合を、「巻戻し」といい、民事再生法204条により、実際に代位弁済はなかったものと扱われます。
(7)債権者一覧表に特定の必要事項を記載する
個人再生の申立ての際には、借入れの詳細を記した債権者一覧表という書類を提出する必要があります。
住宅ローン特則を利用する際は、債権者一覧表に必要事項を記載しなければなりません。
具体的には、「当該債権が住宅資金貸付債権である旨」および「住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨」を記載する必要があります(民事再生法221条3項3号および4号)。
これらの必要事項を記載せずに再生手続が開始された場合、あとから住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出することができないので、記載漏れがないよう注意しましょう。
3.住宅ローン特則を利用する際の注意点
個人再生の際に住宅ローン特則を利用できれば、住宅を手放す必要はありません。
しかし、以下のような注意点もあります。
- 住宅ローンは減額されない
- 口座凍結により返済ができなくなる可能性がある
- 個人再生をすると住宅ローンの借り換えができなくなる
個人再生の申立てを行ってから焦らないために、内容を確認しておきましょう。
(1)住宅ローンは減額されない
住宅ローン特則を利用すると住宅ローンは減額の対象に含まれないため、これまでどおり支払わなくてはなりません。
また、個人再生後に残った債務についても同様に完済するまで支払う必要があります。
さらに、個人再生を行うにあたっては弁護士費用も別途必要です。
このように、住宅ローン特則を利用する前に確認しておくべき費用にはさまざまなものがあります。
個人再生の申立て前には、住宅ローンを支払い続けながら、借金の返済や弁護士費用の支払もできるかをしっかり計算する必要があるでしょう。
(2)口座凍結されローン返済ができない場合がある
個人再生をすると、借入れをしている金融機関の口座が凍結され、一時的に出金ができなくなってしまいます。
同一銀行で異なる支店の口座を持っている場合には、すべての口座が凍結される可能性があります。
銀行等の金融機関は債務者が返済できなくなった場合に少しでも回収するために、返済ができなくなった債務者の預金残高と債務額を相殺できることを契約上定めているところ、個人再生の手続も約束どおりの返済ができなくなったことを示す事実のため、金融機関は相殺の手続を行おうとします。
口座の凍結はその準備なのです。
住宅ローンの引落しに指定している銀行口座が凍結されてしまうと、住宅ローンの引落しもできなくなってしまいます。口座から引落しができなければ、当然「滞納扱い」になってしまうのです。
ところで、個人再生の手続を開始するにあたっては、弁護士から各債権者に対して受任通知を送付することになります。
住宅ローン会社に対しては、この受任通知に、住宅ローン特則を利用する予定であることを明記して送付します。
これにより、債務者がそのまま返済を続けられるよう、住宅ローン会社に口座を凍結させないことができます。住宅ローン特則を利用するのであれば、相談時に住宅ローン会社等の情報を弁護士に伝えておくとよいでしょう。
(3)個人再生後は住宅ローンの借り換えが難しい
住宅ローン特則を利用した個人再生を行い、住宅を維持し続けられるとなれば、少しでも支払の負担を軽減させようと住宅ローンの借り換えを検討する場合もあるでしょう。
しかし、個人再生をしてから一定期間は、住宅ローンの借り換え審査に通過できなくなってしまいます。
これは、個人再生によって信用情報機関で事故情報が登録されてしまうことが原因です。
信用情報機関とは、個人の氏名や住所などの属性、ローンやクレジットに関する借入れの履歴や返済状況などを管理している機関です。
金融機関や消費者金融などは、ローン申込者の返済能力や信用力を確認するために、審査の段階で信用情報機関へ照会を行います。
その際に信用情報に過去に債務整理や延滞などをしたという事故情報の登録があれば、貸倒れのリスクを回避するため審査を否決するのです。
そのため、個人再生後は住宅ローンの借り換えや、新規のローン契約はできません。ただし、個人再生後でも一定期間が経過すれば信用情報機関は事故情報を削除します。事故情報が削除されれば、住宅ローンの借り換えや新規のローン契約も可能です。
まとめ
住宅ローン特則を利用すれば、個人再生によって、自宅を維持したまま支払義務の大幅な軽減を実現できます。
借金が住宅ローンのみという場合でも、住宅ローン特則の利用により返済計画の組み直しができることもあります。
ただし、住宅ローン特則を利用するにはさまざまな条件を満たしていなければなりません。住宅を残して個人再生をしたいけれど、自身が利用するための条件を満たしているか心配という方は、弁護士へのご相談をおすすめします。
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