過払い金請求の対象になる条件と請求権の時効について

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「過去に借入を行い、現在完済しているけど、過払い金があったのかどうか気になる」

テレビCMなどの影響で、過払い金がどういうものなのかご存じの方も増えてきています。

いきなり弁護士事務所に行って相談するよりも、まずはご自身で過払い金の有無を確認してから専門家に相談したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では過払い金請求の対象になりやすいケースや、請求権の消滅時効についてご説明します。

ご自身が過払い金を請求できるかをチェックする参考となれば幸いです。

1.過払い金請求の対象になる条件

弁護士事務所では過払い金があるかの確認を無料で行っているところもあります。

とはいえご相談のハードルもあり、過払い金の有無の調査をためらってる方も多いと思いますので過払い金請求ができる可能性があると考えられる条件をお伝えします。

その条件とは以下のとおりです。

  • 借金の利率が利息制限法の制限利率を超いる
  • 平成22年より前に取引をしていた

ここからは上記二つの条件について、なぜ過払い金がある可能性があると考えられるのかをご説明します。

(1)借金の利率が利息制限法の制限利率を超えている

契約書等に記載された利率が利息制限法の制限利率を超えている場合は、過払い金が発生している可能性があります。

利息制限法の制限利率は以下のとおりです。

借入れ元本の額 年間の上限利率
10万円未満 20%
10万円以上100万円未満 18%
100万円以上 15%

参照:利息制限法 | e-Gov法令検索(第一条)

上の表のとおり利息制限法1条は利息の上限を定めています。

ところが、ある時期以前では、貸金業者がこの利率を超えた利息での貸付けを行っていました。

この利息制限法の利率を超えた部分の利息の支払は違法と判断されたため、過払い金が発生することとなったのです。

したがって、借入れの契約書に記載された利率が、利息制限法の最大20%を超えている場合は、過払い金が発生している可能性があります。

(2)平成22年より前に取引をしていた

利率がわからない場合でも、平成22年6月17日より前に取引を開始していたときは、過払い金が発生している可能性があります。

利息制限法による上限を超える利息が違法と判断されたのは平成18年であり、それを受けて関係法令が改正され、それが平成22年6月17日に施行されました。

これを受けて、同日以降、貸金業者は利息制限法の上限を超えた利息での貸付けを一切行わなくなりました。

そのため、平成22年より前の借入れの場合は、上限利率を超える利率での借入れ・返済を行っている場合がありますので、過払い金が発生している可能性があることになります。

利率がわからない場合でも、平成22年より前から借入れをしている場合は過払い金の有無を調査することをおすすめします。

過払い金の発生について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

「過払い金が2010年以降の借入れには発生しない理由とは」

2. 過払い金返還請求権の消滅時効

過払い金返還請求権の消滅時効

過払い金の返還請求ができるのは、完済から10年間です。

これは過払い金返還請求権の時効であり、その期限までに請求を行わなければ本来戻ってくるお金も一切取り戻せなくなってしまいます。

このような過払い金返還請求権の時効消滅を防ぐために、以下のような項目について知っておきましょう。

  • 過払い金請求権の時効までの期間
  • 過払い金請求の消滅時効の起算日
  • 過払い金請求の時効についての具体例

ここからは過払い金の消滅時効について、起算日・期間・具体例をご説明します。

(1)過払い金返還請求権の消滅時効が完成するまでの期間・起算日点

過払い金の請求権の時効は、民法166条(債権等の消滅時効)によって規定されています。

ただし同法は令和2(2020)年4月1日に改正されており、その前後で少々定めが異なっています。

ここからは改正民法の施行日の前後でどのように時効消滅の時期が変わるのかご説明します。

#1:令和2年3月31日までに発生した過払い金

改正前の消滅時効
166条
1項
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する
167条
1項
債権は、10年間行使しないときは、消滅する

参照:民法第166条 – Wikibooks

令和2(2020)年3月31日までに終了した取引の過払い金には、民法改正前の消滅時効の規定が適用されます。

まず、「権利を行使することができる時」とは取引の終了時、つまり完済時を指します。

したがって、起算点は完済時になります。

つまり改正民法施行前に完済した場合の過払い金については,完済の時から10年の経過により消滅時効が完成します。

同じ貸金業者から借入れをしている場合は、一回目の借入れの完済から10年経過していたとしても、間を置かず2回目の借入れをしておりその完済の時から10年経過していなければ、1回目の借入れも一連の取引とされて請求できることもあります。

#2:令和2年4月1日以降に発生した過払い金

改正後の消滅時効
166条
1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

参照:民法 | e-Gov法令検索

債権等の消滅時効について定めた規定には、令和2年4月1日のに改正民法の施行によって変更がありました。

改正前との違いは「権利を行使できることを知った時から5年間行使しないときは時効が成立する」という規定が追加されたことです。

これにより改正後の民法による債権の消滅時効は、下記のいずれか早い方で成立します。

  • 債権者が債権を行使することができると知った時から5年
  • 債権を行使することができる時から10年

この場合、「債権を行使することができる時」は完済時で変わりません。

「債権を行使することができると知った時」は、過払い金がある・過払い金を請求できることを知った時と解釈されています。

実際に過払い金があるかどうか計算を行い、過払い金があることが判明した時と考えられています。

実のところ、民法が改正されてから5年が経過していないため、5年の消滅時効について争いになったケースが発生しておらず、この点についてはあくまで解釈にとどまります。

本記事の執筆時点では、2020年以前に完済している場合の10年の消滅時効に注意しておけばよいでしょう。

(2)過払い金請求の時効についての具体例

なお起算日の判断に影響する「過払い金の存在を知っていたかどうか」は、貸金業者に立証責任があります。

以下のような事例では貸金業者側から交渉記録などが提出されることにより、時効の起算日は「権利を行使することができることを知った時」と判断されるでしょう。

  • 請求者側が取引履歴の開示請求をした
  • 貸金業者側から過払い金がある旨を伝えられた

起算日と時効について、具体例を用いてご説明します。

#1:過払い金の存在を知っていた場合

前提事実 返済完了から3年経過している
2年前に取引履歴の開示請求を行い、過払い金があることを知った
時効の計算 A.債権者が債権を行使することができると知った時から5年
(時効完成までの年数)-(起算日から経過した日数)=(残り期間)
5年-2年=3年
B.債権を行使することができる時から10年
(時効完成までの年数)-(起算日から経過した日数)=(残り期間)
10年-3年=7年
残り期間 (上記A・Bのうちいずれか早い方が適用されるため)
3年後に請求権は時効により消滅する

過払い金の有無を確認するために貸金業者から取引履歴の開示を受けていた場合は、その後に「過払い金があることを知った」ことになります。

このとき計算式Aの残り期間はかならず計算式Bの残り期間よりも短くなるため、過払い金があることを知っていた場合の時効の最大年数は5年間です。

つまり2021年に上記の計算をしたと仮定すると、2018年に返済完了して2019年に取引履歴の開示請求をしているので、請求権を行使できるのは3年後の2024年までになります(ただし、改正民法の移行措置により、これと異なる結論となる場合も考えられます。)。

 

#2:過払い金の存在を知らなかった場合

前提事実 返済完了から3年経過している
過払い金についての知識がなく、取引履歴の開示請求を行っていない
時効の計算 A.債権者が債権を行使することができると知った時から5年
(時効完成までの年数)-(起算日から経過した日数)=(残り期間)
※権利を行使できることを知らなかったため計算不能
B.債権を行使することができる時から10年
(時効完成までの年数)-(起算日から経過した日数)=(残り期間)
10年-3年=7年
残り期間 (上記1・2のうちいずれか早い方が適用されるため)
7年後に請求権は時効により消滅する

上記の例では債権者が「過払い金が発生していることを知らなかった」ので、計算式Aは適用されません。

そのため計算式Bのみの適用となり、民法改正前と同様に取引終了(返済完了)から10年後まで消滅時効は成立しないのです。

つまり2021年に上記の計算をしたと仮定すると、2018年に返済完了して取引履歴の開示請求をしていないので、請求権を行使できるのは7年後の2028年までになります。

まとめ

この記事では過払い金請求の対象になりやすいケースや、請求権の消滅時効について解説しました。

年利20%以上で取引していた場合や、2010(平成22)年より前に借入れ・返済をしていた場合は、過払い金が発生しているかもしれません。

なお民法改正により、令和2年3月31日までに発生した過払い金は完済から10年後に、令和2年4月1日以降に発生した過払い金は完済から10年か、過払い金があることを知った時から5年で、それぞれ消滅時効が完成し請求権が消滅してしまいます。

仮に過払い金があったとしても、請求権の消滅時効が来る前に請求をしなければ戻ってきません。

この記事でご説明した「過払い金の請求対象になりやすいケース」に該当する場合は、弁護士にご相談ください。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

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