遺産分割調停とはどのような手続?調停の申立てから進め方を解説
「遺産分割について相続人同士で話し合っているけどなかなかまとまらない」
「遺産分割調停をすればよいと聞いたことはあるけどどのような手続かわからない」
遺産分割について、このような疑問を持たれている方は多いと思います。
相続人の間で遺産分割の話合い(協議)がまとまらない場合は、裁判所に遺産分割調停を申し立てて裁判所の調停委員や裁判官の関与の元に解決を目指すことになります。
本記事では、遺産分割調停の申立てや手続の流れについて説明いたします。
1.遺産分割調停の流れと調停の対象となる財産
遺産分割調停では、裁判所で、裁判官と2名の調停委員で構成される調停委員会が当事者の間に入る形で話合いを行っていくことになります。
まずは、遺産分割調停の一連の流れと分割の対象となる財産についてみていきましょう。
(1)遺産分割調停の一連の流れ
遺産分割調停は、裁判所への申立てで始まり、その後期日において話合いを行うことで進んでいきます。
以下で、詳しく説明いたします。
#1:管轄の家庭裁判所への申立て
遺産分割調停の手続は、家庭裁判所に申し立てることによって開始します。
申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
ここでいう相手方とは、遺産分割協議において遺産の取得・分配について意見が対立した相続人であり、複数となることもあります。
申立てにあたっては、以下のような書類を提出することとなります。
①遺産分割調停の申立書(書式は各裁判所のWebサイトで入手できます。)
②被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍、最後の住民票
③申立人、相手方の戸籍、住民票
④相続関係図
⑤遺産(相続財産)目録、疎明資料
⑥事情説明書、送達場所等の届出書、進行に関する照会回答書(こちらも各裁判所のWebサイトで入手できます。)
#2:調停期日の決定と通知
裁判所に申立書を提出し、申立てが受理されると、裁判所において調停委員会(裁判官と調停委員)と初回の調停期日が決められます。
申立人と相手方に対しては、裁判所からの通知書の郵送により、決定された調停期日の通知が行われます。
初回の調停期日は、だいたい申立てから1か月半~2か月後とされるのが通常です。
しかし、近年では事件数の増加により、申立てから初回期日までの期間は長くなる傾向にあります。
#3:調停期日
2のとおり初回期日が決められたら、その日に実際に当事者が裁判所に出向いて話合いを行います。
期日においては、申立人側と相手方側が、それぞれ別々の待合室で待機し、交互に調停室に入りそれぞれが、調停委員に対して事情を説明する形で話合いを進めていくことになります。
話合いは、調停委員が進行する形で進められ、相続人の範囲→遺産の範囲→遺産の評価という順に争点を整理し、最後に遺産をだれがどのような割合で取得するかを決定することになります。
通常は、1回の期日ですべての話合いがまとまることはなく、調停が成立するまで、1か月程度の間をおいて、何回かの期日が開かれることになります。
#4:調停の成立または不成立
調停が成立または不成立となると調停は終了します。
それぞれの場合について説明いたします。
ア.成立の場合
申立人側と相手方側の間で遺産分割について話合いがまとまった場合、調停は成立となります。
調停が成立した場合は、話合いでまとまった事項を調停条項として調停委員会と当事者で確認した上で、その内容が裁判所の作成する調停調書にまとめられます。
調停調書は、裁判所が関与して作成されるものなので、相続人全員の署名や実印での押印は不要です。
この調停調書には判決と同様の効力が認められ、その内容に従って、被相続人名義の不動産について所有権移転登記を申請したり、被相続人名義の預貯金の払戻しを受けたりすることができるようになります。
イ.不成立の場合
遺産分割調停での申立人側と相手方側の意見が対立したままで、話合いがまとまらない場合、調停は不成立になります。
この場合、遺産分割調停は、自動的に遺産分割審判の手続に移行します。
審判は、調停と異なり、裁判官が当事者の双方から提出された資料をもとに遺産の分割方法について決定する手続です。
審判では、調停に比べ、当事者の意向に応じた柔軟な解決は難しくなります。
例えば、不動産について各相続人で法定相続分に応じて共有とする、といったような審判の内容となることもあります。
(2)遺産分割調停の対象となる財産
遺産分割調停では、以下のような財産について分割の対象とすることになります。
#1:相続発生時および遺産分割時に存在する被相続人の財産
まず、被相続人のプラスの財産は、当然分割の対象とすることになります。
ここでいう財産には、不動産、現金、自動車といった有体物だけでなく、預金債権も含まれます。
一方で、貸金や被相続人の不動産の賃料などの可分債権は、相続分に応じて各相続人が当然に分割取得するとされており、本来的には分割の対象となりません。
#2:被相続人の債務
分割の対象になるのは、プラスの財産だけではありません。
借金、未払の賃料などの債務があれば、これも分割の対象としなければなりません。
#3:相続人間で遺産分割調停の対象とする合意をした財産
上記に含まれないものでも相続人間での合意があれば、遺産分割調停の対象とすることができます。
例えば、#1で触れた可分債権を被相続人の債権としたり、本来は喪主の負担とされる葬儀費用について被相続人の債務としたりして、調停で分割、負担の割合を決めていくこともできます。
2.遺産分割調停の手続の内容
すでにふれたように、遺産分割調停では以下の順で話合いをしていくことになります。
1.相続人の範囲の確定
2.遺産の範囲の確定
3.遺産の評価
4.各相続人の取得割合の決定
5.遺産分割の方法の決定
以下では、それぞれの詳細について説明いたします。
(1)相続人の範囲の確定
当事者の中に相続人かどうかが争いとなっている人がいる場合は、その点を確定させなくてはなりません。
例えば、親子とされているものの実は親子関係が存在しない、養子縁組や婚姻が無効であるなどの主張がされることが考えられます。
このような争いがある場合は、遺産分割の前提について争いがあるということになり、人事訴訟等でこれらの点につき先に解決しておく必要があります。
そちらの手続が確定するまで遺産分割調停は休止とされることもありますし、場合によっては申立ての取下げを求められてしまうこともあります。
また、相続人が自分の相続分を他者に譲渡した場合は、譲渡を受けた人が遺産分割に参加できることとなりますので、そのような事情の有無も確認することになります。
(2)遺産の範囲の確定
遺産とされている財産が本当に遺産かどうかについても争われることがあります。
例えば、相続人や相続人以外の第三者が、被相続人から生前に贈与を受けたので遺産には含まれない、と主張しているような場合です。
このケースでも、調停を進める前に、調停外の民事訴訟でその財産が誰のものなのか確定させる必要があります。
また、先に触れたように、本来は遺産にならない可分債権や葬儀費用などについて、分割の対象に含めるかどうかについてもこの段階で取り決めることとなります。
(3)遺産の評価
遺産の中には、不動産や非公開株式など、その価値を評価する必要があるものもあります。
これらの財産について当事者で評価額がまとまらない場合は、裁判所において鑑定の手続を行うことになります。
鑑定費用は、原則として、相続分の割合で全員が分担することになります。
(4)各相続人の取得割合の決定
相続人、遺産の範囲・評価が確定したら、原則は遺産を各相続人の法定相続分で分割し、各相続人の取得額を算出します。
この場面で、相続人に「特別受益」や「寄与分」がある場合は、これらによって取得額の修正を行うことになります。
「特別受益」とは、相続人が、生前の被相続人から生計の資本として受け取った産等をいいます。特別受益を受けた相続人の取得額は、その分減少させられることになります。
「寄与分」とは、相続人が被相続人の遺産の維持または増加について特別な貢献をした場合に認められるものです。
寄与分が認められた相続人は、取得額が増加することになります。
遺産分割調停において特別受益や寄与分の主張があった場合は、その主張をする相続人に、資料にもとづいて事実を証明させることで、争いある事実について解決の方向を探ることになります。
(5)遺産分割の方法の決定
(1)から(4)までにより遺産の評価と各相続人の取得額が決まったら、それに応じて、実際に遺産をどのように分割するかを決定します。
たとえば、遺産が600万円の預金と400万円の土地の合計1000万円であり、相続人がAとBで取得額はそれぞれ500万円となった場合であれば、Aが預金の内500万円を、Bが預金の内100万円と土地を相続する、といった方法での分割が考えられます(現物分割)。
上記の例で、預金が400万円、土地が600万円だった場合は、Aが土地を、Bが預金を取得した上でAがBに差額の100万円を支払う(代償分割)、土地を売却してその代金と預金を合わせた1000万円をAとBで500万円ずつ分割する(換価分割)といった方法を考えることとなります。
このように、遺産の内容と取得額に応じたに分割方法までを決められれば、調停は成立することになります。
3.遺産分割調停をスムーズに進めるためのポイント
遺産分割調停を進めるには、以下のようにいくつか気を付けるポイントがあります。
- 自分の主張を簡潔にしっかりと主張する
- 感情的にならずに対応する
- 弁護士への依頼を検討する
以下、それぞれについて説明します。
(1)自分の主張を簡潔にしっかりと主張する
「この遺産を取得したい。」や「少なくともいくらは欲しい。」というような希望がある場合には、そのことをしっかりと主張することが重要です。
遺産分割調停は、遺産について、誰がどれだけ取得するかを決める手続です。
そのため、各当事者がどのような希望を持っているかをしっかり把握できた方が、手続を進行する調停委員会にとっても話合いの方向を決めやすくなります。
そのため、自身の希望についてははっきりと伝えた方がよいでしょう。
(2)感情的にならずに対応する
遺産分割調停を進行する調停委員は、あくまで中立の立場で手続を進めていきます。
そのため、その進行方法に対して腹を立てたり、無視して自分の主張だけを通そうとしたりしても、味方になってくれるというものではありません。
調停委員から資料提出などの進行についての指示があった場合には、いたずらに反発するのではなく、冷静に対応するようにしましょう。
(3)弁護士への依頼を検討する
手続について不安がある場合には、弁護士への依頼を検討しましょう。
弁護士であれば、代理人の立場で当事者の主張を簡潔にしっかり行うことができますし、代理人から主張をすることで感情的になるといったことも防止できます。
また、寄与分、特別受益などの論点についても資料をもとに適切な主張を行いやすくなります。
自分でいろいろ調べてみてもよくわからない点がある、冷静に対応できるか心配、というような方はまず、弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
遺産分割調停は、当事者間での話合いがまとまらない場合に、調停委員や裁判官が関与して、裁判所で遺産分割についての話しいを行う手続です。
裁判所において行われる手続であるため、申立てから調停の進め方についてこれまで説明したような決められたやり方があります。
調停をスムーズに進めるためには、進め方を理解し、申立て前からしっかりと準備をする必要があります。
遺産分割調停の利用についてご不安がある場合は、ぜひ一度弁護士に相談されることをおすすめします。
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