遺産分割調停とは?申立ての流れと注意すべきポイントについて弁護士が解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

「遺産分割調停の手続きはどのように行われるのだろうか」
「遺産分割調停を申し立ててから終了するまでの流れはどうなっているのか」

そもそも、調停では、裁判官と家事調停員で組織される調停委員会が行うもので、実務上、2名の家事調停員(弁護士その他の専門家を含む)により事件の実情の聴取などが行われ、円満な解決に向けて当事者の間をとりもってくれます。

しかし、話合いがまとまらず調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が合意内容を決定することになります。

審判に移行すると、終了までにさらに時間がかかってしまうため、調停で終了させられることに越したことはありません。

そのため、他の相続人を上手く説得し調停内で終了するためには、調停の申立てから終了までの手続きを理解した上で慎重に話し合いを行う必要があります。

この記事では、遺産分割調停の終了までの一連の手順など注意すべきポイントをご紹介します。

1.遺産分割調停について

そもそも遺産分割調停とは何なのか、どういった場合に遺産分割調停を行うべきなのかを確認しましょう。

(1)遺産分割調停とは

遺産分割調停は、被相続人(遺産を残して亡くなった方)の遺産の分け方について、相続人の間で話し合いがつかない場合に、家庭裁判所の裁判官と調停委員が、相続人の主張を聴き取り、相続人全員による合意を目指す手続きです。

(2)遺産分割調停を行う場合とは

遺産分割調停は、一般的に遺産分割協議が調わなかった場合に行うことになります。

遺産分割協議とは、相続人全員で相続財産をどのように分け合うか話し合う手続きのことで、相続人全員の意見が一致し合意できれば、その内容を「遺産分割協議書」にまとめ、相続手続きを進めることができます。

他方、遺産分割協議で意見が食い違い、相続人全員が納得できず、合意することができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになるでしょう。

2.遺産分割調停の一連の流れと対象財産

遺産分割調停では、家庭裁判所で調停委員会が当事者の間に入ることで話し合いを行います。まずは、遺産分割調停の一連の流れと、対象となる財産について見ていきましょう。

(1)遺産分割調停の一連の流れ

申立から終了まで、以下のような手順で進んでいきます。

#1:管轄の家庭裁判所に申し立てる

遺産分割調停の手続は、管轄の家庭裁判所に申立てを行うことで開始します。

申立先は、相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。

ここでの相手方とは、遺産分割協議において遺産の取得や分配について意見が対立した相続人のことであり、それが複数いれば、相手方も複数となることがあります。

申し立てにあたっては、以下の書類を準備する必要があります。

申し立てする際に必要となる書類

  1. 申立書(書式は各裁判所のWEBサイトで入手可能です。)
  2. 身分関係の資料(被相続人関連)
    ・被相続人の出生から死亡までの連続した除籍謄本、改正原戸籍謄本等戸籍謄本類全て(原本)
    ・被相続人の住民票除票(廃棄済みの場合は戸籍附票)
  3. 身分関係の資料(相続人関連)
    ・相続人全員の現在の戸籍謄本(3ヶ月以内の原本)
    ・相続人全員の住民票(3ヶ月以内の原本)
  4. 相続関係図
  5. 遺産目録記載の疎明資料(不動産の資料など)
    ・登記簿謄本又は登記事項証明書(3ヶ月以内の原本)※法務局で取得
    ・固定資産税評価証明書(3ヶ月以内の原本)※市区町村役場で取得
  6. 事情説明書、送達場所等の届出書、進行に関する照会回答書(こちらも各裁判所のWEBサイトで入手可能です。)

また、申し立てにあたり以下の費用が必要になります。

申し立てする際に必要となる費用

  1. 被相続人1人につき収入印紙1200円
  2. 連絡用の郵便切手(管轄の家庭裁判所に確認が必要)

♯2:調停委員会の決定

家庭裁判所が、調停委員会の担当者を決定します。

調停委員会は、「裁判官1名+調停委員2名」から構成されます。

調停委員は、良識のある民間人から選任される、非常勤の国家公務員です。

♯3:調停期日の決定と通知

裁判所に申立書を提出し、申立てが受理されると、裁判所において調停委員会と初回の調停期日が決定します。

申立人と相手方に対しては、裁判所からの通知書の郵送により、決定された調停期日の通知が行われます。

初回の調停期日は、だいたい申立てから1か月~2か月後とされるのが通常です。

♯4:調停の成立と不成立

① 成立の場合
お互いに話し合いがまとまった場合、調停成立となり、裁判所が合意内容をまとめ、「調停調書」という書面を作成します。

調停調書は、遺産分割協議書と同じ効力を持つので、あらためて遺産分割協議書を作成する必要はありません。

そして、調停調書の合意内容に従って、不動産の名義変更や預金の払い戻しなどの手続きを進めることができます。

② 不成立の場合
お互いに話し合いがまとまらない場合、調停は不成立となります。

調停委員会が「調停を不成立により終了とする」と判断すると、手続きが自動的に審判へ移行します。

つまり、改めて審判の申立てをする必要はありません。

ここで、審判とは、調停のように話し合いによって解決を目指すものとは異なり、裁判官が当事者から提出された書類や種々の資料に基づいて判断し、決定する手続きです。

そのため、審判になると調停のように柔軟な解決はできなくなります。

(2)遺産分割調停の対象となる財産

遺産分割調停においては、遺産分割の対象となるのはプラスの財産のみで、基本的にマイナスの財産は分割の対象とはなりません。

以下のような財産が分割の対象となります。

♯1:相続開始時および遺産分割時に存在する被相続人の財産

そもそも、被相続人のプラスの財産は当然分割の対象となります。

具体的には、土地建物などの不動産、自動車、現金、預貯金、株式、借地権などです。

♯2:相続人間で遺産分割調停の対象とする合意をした財産

上記に含まれないものであっても、相続人間で合意があれば、遺産分割の対象とすることもできます。

具体的には、貸金、立替金、不当利得・不法行為債権などです。

なお、相続債務や葬儀費用などは、相続人間で協議をし、一定の合意をすることは可能ですが、審判手続に移行した場合には分割の対象とはならないので注意が必要です。

3.遺産分割調停を行うメリット・デメリット

遺産分割調停には以下のようなメリット、デメリットがあります。

(1)メリット

♯1:相手方と顔を合わせる必要がない

調停期日では、調停委員が実情や言い分を聞いてくれます。

期日には当事者全員が招集されますが、当事者は個別に調停委員と話をすることができますので、相手方と直接交渉をする必要がありません。

また、裁判所での待機中もそれぞれ別室で待機するようになっており、相手方と直接顔を合わせることも避けることができます。

♯2:第三者が仲裁することで冷静な話し合いが可能

当事者間の話し合いでは感情的になってしまい、話し合いが進まないケースが多いです。

しかし、調停手続きを用いれば、調停委員が仲裁し、感情を抑えるよう当事者を説得してくれます。

調停委員はどちらの意見にも耳を傾け、法的な助言をします。

このように、調停委員は双方の納得が得られる落としどころを見つけるよう努めてくれるので、当事者は冷静に話をすることができます。

♯3:非公開によりプライバシーが保護される

民事裁判は原則公開で行われますが、調停手続きは非公開で行われることが法律上決まっています。

また、調停委員は守秘義務を負っています。

このように、調停を行ったことは第三者に知られることがなく、法律上プライバシーが守られているので、安心して手続きを進められます。

♯4:調停調書は判決と同じ効力をもつ

調停が成立した場合には、「調停調書」という文書が作成されます。

調停調書には、今回の調停手続きにおいて相続人全員で合意した内容が記載されます。

調停調書の合意内容に従って、不動産の名義変更や預金の払い戻しなどの手続きを進めます。

(2)デメリット

♯1:申立てに費用や手間がかかる

申し立てをするにあたり、収集が必要な資料が数多くあり、現在の遺産の内容も全て調査しなければなりません。

また、相続人1人につき1200円の収入印紙、郵便切手がかかります。

このように、費用や手間がかかってしまいます。

♯2:必ずしも合意までいくとは限らない

調停手続きは、あくまでも調停委員を介した話し合いの場の提供であり、結果として、調停委員を介しても当事者の主張が折り合わない場合は、調停不成立となりえます。

調停が不成立となった場合には、自動的に審判へ移行します。

♯3:解決までに時間を要する

調停期日は、一般的には1か月に1回のペースで行われるため、時間がかかります。

調停で解決するまでには、平均して1年弱の期間がかかることが多いです。

♯4:必ずしも自身に有利に解決するとは限らない

調停手続きは話し合いの場ですので、自身の意見が全て通るとは限りません。

調停委員からも、「この部分は譲歩してはどうか」などの提案をされることもあります。

当事者がお互いに譲歩し、折り合いのつけられる部分を探すことが手続きの主眼ですから、そこを理解した上で手続をするかどうか選択しなければなりません。

4.まとめ

本記事では、遺産分割調停の一連の流れやメリット・デメリットなどについて解説しました。

遺産分割協議が調わない場合には、遺産分割調停を申し立てることになりますが、流れやポイントを押さえることで、スムーズに手続を進めることができます。

もっとも、必要な書類の収集、作成や調停期日での主張などは専門知識や実務経験が必要とされる場合が多く、お一人で手続を進めるのは難しいことも考えられます。

遺産分割調停の申立てについてお悩みの方は、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。