遺産の範囲はどのように確定する?権利・財産ごとに基準を解説!
「遺産分割をしたいが、遺産の範囲はどうやって決める?」
「遺産として分割していいものとそうでないものの区別がつかない」
相続の場面では、このような疑問や悩みが発生することも多いと思われます。
本記事では、遺産の範囲の確定方法やしばしば遺産に含まれるか否かが争われる財産について、どのように考えるべきかについて解説します。
1.遺産の範囲
遺産(相続財産)には、簡単に言うと、亡くなった方(被相続人)が亡くなった時点で持っていた全ての権利義務が、遺産(相続財産)が含まれます。
遺産分割の前提としても、遺産の範囲を確定させることはとても重要ですが、具体的な相続の場面で、どこからどこまでが遺産(相続財産)になるかについて争いが生じることも珍しくありません。
2.遺産の範囲の確定方法
相続の対象となる遺産の範囲をどのように確定するかが問題となることがあります。
以下では、その具体的な場合と対処法についてご紹介します。
(1)ある財産が遺産に含まれるか問題となる場合
ある財産につき、相続人の一部は「亡くなった方(被相続人)のものだから遺産だ」と主張しているのに対し、その他の相続人の中に「その財産はそもそも私のものだから、遺産には含まれない」と主張する場合、どのような手段で解決するのがよいでしょうか。
相続に関する争いが深刻で、協議や調停で解決できない場合には、遺産分割審判手続を利用することが考えられます。
確かに、裁判例の中には、遺産分割審判手続の中で、その財産が遺産の範囲に含まれるか否かを審理判断したうえで、分割の処分をしても構わないという判断したものもあります。
しかし、審判には「既判力(きはんりょく)」と呼ばれる効力がないため、後々、民事裁判で争われた場合には、覆されてしまう可能性が残ります。
そもそも、相続人間で深刻に争われているからこそ、審判手続がとられているのですから、審判結果に納得せずに、民事裁判を起こす相続人が出てくるおそれは大いにあります。
そこで、遺産の範囲は、民事裁判を起こして、判決をもらうことで確定させるのがおすすめです。
民事裁判の判決が確定すると、その判断に対して、先ほど述べた「既判力(きはんりょく)」が発生するため、後々、その判断を覆されることが無くなります。
(2)遺産の全体像が明らかでない場合
遺産について、相続人の中に「もっと遺産があるはずだ!」と主張している方がいる場合、どのように解決するのがよいでしょうか。
遺産分割は、なにも全ての遺産を一度に分割する必要はありません。
遺産分割協議でも、調停でも、審判でも、一部分割という方法が認められています。
そこで、まずは、将来、新たに遺産に含まれる財産が発見されたときは、その分について改めて分割するという留保をつけておいて、一部の遺産についてのみ分割の協議を進め、協議が成立しない場合は、調停や審判の申立てをすればよいと考えられます。
3.遺産に含まれるか、よく問題となる権利・財産
財産によっては、遺産に含まれるかしばしば争われるものもあります。
具体的には、以下のものが考えられます。
- 生命保険金(生命保険金請求権)
- 死亡退職金
- 遺族給付
- 代償財産
- 果実・収益
- 墓地等の祭祀財産
順にご説明します。
(1)生命保険金(生命保険金請求権)
遺産には含まれません。
生命保険金(生命保険金請求権)は、亡くなった方(被相続人)の死亡によって発生する権利です。
亡くなった方(被相続人)自身が保険料をかけていることも多いので、問題になることが多いですが、保険金受取人として指定された方の固有の権利であるため、遺産には含まれません。
保険金受取人を「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と抽象的に指定してある場合であっても、保険金請求権は、相続人の固有財産となり、相続人が複数人いる場合には法定相続分の割合に応じて各々権利を有することとなると考えられています。
もっとも、「特別受益」を遺産に「持ち戻す」ことができる可能性があります。
「特別受益」とは、相続人の一部が被相続人の財産から特別な利益を受けることです。
特別受益がある場合は、民法上、それを「相続分の前渡し」と評価して、相続分を算定する際に、その分を遺産に戻して(=「持ち戻」して)から相続分を計算する方法をとることになっています。
生命保険金(生命保険金請求権)の受取人が、相続人のうちの一人に指定されている場合、それが、亡くなった方(被相続人)の財産から長年に渡って支払われてきた保険料に基づくものであることから、生命保険金(生命保険金請求権)が特別受益に当たると主張することができそうです。
この点に関し、最高裁判所の決定で、生命保険契約に基づく生命保険金または生命保険金請求権は、原則として特別受益にあたらないものの、共同相続人間において著しい不公平が生じる場合には、事案に応じて持ち戻しの対象となるとされました。
不公平の程度が著しいかどうかを判断する際には、保険金の額や、保険金の額が遺産の総額に占める割合、被相続人と保険金受取人との同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなど、保険金受取人である相続人や保険金受取人でない他の相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮するとされています。
なお、生命保険金(生命保険金請求権)が特別受益にあたる場合でも、保険金受取人である相続人がその分お金を返還するわけではなく、計算上、遺産に持ち戻して相続分を算出した結果、相続分よりも保険金が多くなった場合は、相続分が無い(=遺産の相続はできない)ことになるだけです。
(2)死亡退職金
遺産に含まれるかはケース・バイ・ケースです。
死亡退職金は、賃金の後払いとしての性質と、遺族の生活保障としての性質等を持っています。
そのため、賃金の後払いとしての性質を重視すれば、遺産に含まれると考える方に傾きますが、遺族の生活保障としての性質を重視すれば、遺産には含まれないと考えるように傾きます。
死亡退職金に関する支給規定がある場合には、その支給基準、受給権者の範囲または順位などの規定から遺産に含まれるか判断し、支給規定がない場合に、従来の支給慣行や経緯等から個々の事案に応じて遺産に含まれるか否かを検討することとなります。
この点、例えば、国家公務員の死亡退職手当については、遺産には含まれないと考えられています。
(3)遺族給付
遺産には含まれません。
社会保障として給付される、損失補償、遺族年金、弔慰金、葬祭料等の遺族給付は、遺族固有の権利と考えるべきなので、遺産には含まれないと一般的に考えられています。
(4)代償財産
原則として遺産分割の対象には含まれませんが、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることができます。
例えば、相続開始後に、遺産が家事で燃えて無くなってしまった代わりに保険金請求権や損害賠償請求権が発生したり、相続人が遺産の一部を売却したことによって遺産自体は無くなってしまった代わりに売却代金が発生した場合のように、相続開始にはあった遺産が、遺産分割時には存在せず、代償物として違う財産が存在している場合があります。
このような場合、代償物は、遺産分割の対象とはならず、金銭債権は法定相続分にしたがって当然に分割されて各相続人に帰属すると考えられることが多いです。
しかし、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象として進めることもできます。
(5)果実・収益
遺産には含まれませんが、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象とすることができます。
相続開始後に、遺産から賃料や利息・配当金等の果実・収益が生じる場合があります。
このような果実・収益は、遺産そのものとは別個の財産と考えられるため、遺産には含まれませんが、遺産そのものを相続人が共有している状態であるため、各相続人がその共有持分、つまり法定相続分にしたがって各々権利を取得し、後々、その遺産について遺産分割を行っても、果実・収益については影響を受けない(=遡って遺産分割でその遺産を取得した方のものになったりしない)と考えられています。
もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象として進めることもできます。
(6)墓地等の祭祀財産
遺産には含まれません。
墓地、墓地の使用権、墓石、墓碑、位牌、仏壇、仏具、神棚、十字架等については、祭祀財産として、遺産相続とは別の形で承継されます。
また、亡くなった方(被相続人)の遺骨も、祭祀財産そのものではありませんが、亡くなった方(被相続人)の遺骨も、死後は他の祖先と同様に祭祀財産として取り扱われることになること等から、祭祀財産に準じて扱うものとされるのが一般的です。
祭祀に関する物・権利を承継する方を「祭祀承継者」といい、祭祀承継者は、①亡くなった(被相続人)の指定、②慣習で祭祀主宰者、③家庭裁判所の調停・審判で決まります。
このうち、一番優先する①亡くなった(被相続人)の指定については、遺言で行われることが多いですが、口頭でもよいと考えられており、生前に指定しておくことも考えられます。
次に優先されるのは②慣習であり、この慣習とは、被相続人の住所地や出身地等において、長年にわたって維持されてきた地方的慣習を指しますが、昨今の家庭裁判所は、明治民法の家督相続や長子承継などの家制度的な慣習の存在を認めない傾向が強いので、①亡くなった方(被相続人)の指定がない場合には、③家庭裁判所が審判で決めることが多いです。
③家庭裁判所が審判で決めるにあたっては、亡くなった方(被相続人)との身分関係や生活関係、被相続人の意思、祭祀承継の意思及び能力、祭具等の取得の目的や管理の経緯、その他一切の事情が総合的に考慮されます。
まとめ
ある財産・権利が、遺産(相続財産)に含まれるか否かは、遺産分割の前提として非常に重要ですが、争いとなることも多いものです。
適切な手続を選択し、後々のトラブルの火種を取り除いておくためにも、相続が発生したら、弁護士等の専門家に相談することをおすすめいたします。
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