遺言書が無効になる場合とは?弁護士が遺言書の効力について解説
「遺言書が無効になるのはどんな場合?」
「遺言書が無効である場合にはどのように相続の手続きを行うべきか知りたい」
本記事では、遺言書が無効となるケースや、遺言書が無効となった場合に行う遺産分割の方法などについて解説します。
この記事を読んで、遺言書の効力についての疑問やお悩みが解消されることの参考となれば幸いです。
1.遺言書が無効となる主なケース
法的に有効な遺言は、相続財産の分け方を指定する強い効果を持ちます。
だからこそ、遺言書が有効とされるためには厳格な要件が定められており、その要件を満たしていない遺言書は無効となってしまいます。
ここでは、遺言書が無効となるケースについてご説明します。
(1)遺言能力を欠いている場合
遺言能力とは、自分のする遺言の内容や遺言の結果について理解することができる能力をいいます。
遺言書作成時に遺言能力がなかった場合には、作成者自身が遺言の内容を理解していないということなので、当然無効となります。
#1:15歳未満の場合
遺言能力はありません。
これは、個人差によらず一律で定められています。
#2:15歳以上の場合
各人の個別的な状況を踏まえて判断されます。
具体的には認知症などの病気の進行度、遺言の内容の難易、遺言の内容の合理性などから総合的に判断されます。
例えば、認知症が進んでいても、全財産を配偶者に譲るという単純な内容であれば遺言能力が認められやすいです。
軽度の認知症であっても、全財産をほとんど関わり合いのない知人に譲るという内容だと、遺言の合理性がないため、遺言能力を認めて良いか厳格に判断されます。
(2)法律上の要件を満たしていない場合
遺言書は、法律上様々な要件が定められています。
それを満たさない遺言書は無効となります。
中でも自筆証書遺言は、すべて自分で作成する遺言書であるため、注意しなければならない要件が多いです。
各要件についてご説明します。
#1:全文を自書で作成すること
自筆証書遺言は、全文を自筆で記載する必要があります。
他の人に代わりに書いてもらうことはできませんし、パソコンやワープロで作成することも認められていません。
署名だけ自筆ですればいいと勘違いをされている方も少なくないため、注意が必要です。
#2:日付を自筆で記載すること
遺言書を作成した日も自筆で記載する必要があります。
遺言書が複数ある場合、新しいものが優先されます。
そのため、遺言書がいつ作成されたかを特定できるようにする必要があります。
したがって、日付が書いていなくても、「〇歳の誕生日」「令和8年10月末日」などの記載であれば日にちが正確に分かるため有効ですが、「令和8年4月吉日」というような日付が特定できない記載をした場合、無効となるので注意しましょう。
#3:氏名を自筆で記載すること
氏名も自筆で記載する必要があります。
遺言書が誰のものであるかを明らかにするために氏名を記載する必要があります。
#4:押印をすること
認印(印鑑登録していない印鑑)でも構いませんが、偽造されたり、遺言書の有効性が争いになる可能性があります。
偽造防止や後の紛争を防止するために実印(印鑑登録している印鑑)を使うことをおすすめします。
#5:ルールどおりに訂正すること
他の人に勝手に訂正されることを防ぐために、特に厳格なルールが定められています。
①削除部分を二重線で消す
②削除線の上に印鑑で押印する
③訂正後の正しい文言を記載する
④訂正したところに「〇字削除〇字加入」と記載する
⑤訂正箇所のわきに署名する。
最後の署名をするのを忘れてしまうケースが多いので、注意が必要です。
(3)遺言の内容が不明確である場合
遺言書の内容が多少不明確であっても、できる限り遺言者の真意を読み取って有効にすべきとされています。
しかし、真意を読み解くことができないほど不明確な場合には、内容が特定できないとして無効となってしまいます。
例えば、財産が複数あり、相続人となる子が複数いる状況で、「子に財産を譲る」という遺言書を残した場合、どの財産をどの子に譲るのか特定することができないので、無効となる可能性があります。
遺言書を作成する際には、誰が読んでも同じ理解になるような明確な記載をするようにしましょう。
(4)共同遺言
共同遺言とは、2人以上の者が同一の証書で遺言をすることです。
遺言は、本人の自由な意思でなされるものとされていますが、共同遺言では、一方の遺言者が他方の遺言者に影響を与える可能性があり、真意に基づくものではないとの疑問が生じるため、無効となります。
(5)民法総則上の事由
これは、公序良俗違反や錯誤、詐欺強迫が挙げられます。
公序良俗とは、社会の一般的秩序や道徳的観念のことです。
例えば、配偶者や子どもには何も与えず、不倫相手に財産を全て譲るという遺言は、公序良俗に反するとして無効になる可能性があります。
また、遺言者が勘違いをしていたり(錯誤)、騙されていたり(詐欺)、遺言書を無理やり書かされていた(強迫)場合には、真意に基づく遺言ではないとして、効力が認められません。
2.遺言書の効力に争いがある場合の対処法
すでにご説明したとおり、遺言書には厳格な要件があり、この要件を満たさずに、遺言書が無効ではないか争いになることも少なくありません。
ここでは、遺言が無効であった場合の対処法をご説明します。
(1)相続人全員の合意で遺言書とは異なる遺産分割を行う
遺言書があったとしても、相続人全員の合意によって遺言書の内容とは異なる遺産分割をすることができます。
そのため、遺言書の効力に争いがあるのであれば、相続人間で話し合って、相続人全員が納得する遺産分割をしてもよいでしょう。
(2)遺言無効確認調停を申し立てる
遺言無効確認調停とは、遺言が無効であるという確認をする調停です。
調停では、調停委員が各相続人から話を聞き、相続人間が合意できる道を模索することになります。
もっとも、遺言無効確認という性質上、遺言が有効か無効かのどちらかしか解決方法がなく、話し合いで合意するというのは困難です。
遺言無効確認は、調停前置主義が取られているため、訴訟の前に調停をする必要がありますが、調停での合意が難しい状況が確認できれば速やかに訴訟に移行させましょう。
(3)遺言無効確認訴訟を提起する
訴訟では、期日において、各相続人が主張や証拠を提出し、それを踏まえて裁判所の判断で遺言書の有効無効が決められます。
3.遺言書が無効となった場合の遺産分割の手続
遺言書が無効となった場合には、相続人間の話し合いなどで遺産分割をしていくことになります。
ここでは、遺産分割をどのように進めていくのかについてご説明します。
(1)遺産分割協議
相続人全員で遺産分割協議をして、相続財産の分割方法を決めます。
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ無効となってしまいますが、全員が現実に集まって行う必要はなく、電話やメールによる方法でも問題ありません。
遺産分割協議の内容に相続人全員が合意した場合には、相続人全員が署名する形で、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書を作成したら、その内容に従って、相続財産の分割をしていくことになります。
(2)遺産分割調停
遺産分割協議がまとまらなかった場合には、遺産分割の調停を家庭裁判所に申し立てることになります。
遺産分割調停は、裁判官と裁判所から任命された調停委員2名で構成される調停委員会が各相続人の主張を聞いて、調整しながら話し合いによる解決を目指す手続です。
具体的な流れとしては、家庭裁判所への申立て後、決められた調停期日に出席し、調停委員を通して話し合いを進めていきます。
期日は、通常1回では終わらず、大体1か月に1回のペースで開かれることになります。
期日における話し合いを進めていき、相続人全員が合意できそうになったら、各相続人の主張をまとめる形で、調停委員会から調停案が提示されます。
調停案の内容に相続人全員が合意したら、調停成立となり、調停調書が作成されます。
その後は、調停調書の内容に従って、遺産の分割をしていくことになります。
なお、申立てをする裁判所は、相手方となる相続人のうちの1人の住所地の家庭裁判所です。
そして、申立ての際は、申立書のほか、亡くなった人の出生時から死亡時までの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍謄本を含みます。)、相続人全員の住民票又は戸籍の附票、相続財産に関する資料を提出する必要があります。
(3)遺産分割審判
遺産分割調停が不成立となった場合には、自動的に遺産分割審判に移行することになります。
遺産分割調停を経ることなく、直接遺産分割審判を申し立てることもできますが、各相続人に話し合いの機会を設けるために、家庭裁判所の判断により遺産分割の調停にされることが多いです。
遺産分割審判では、審判期日において、各相続人が主張や証拠を提出し、それを踏まえて裁判所の判断で遺産分割の方法が決められます。
裁判所の決定した内容は審判としてまとめられ、各相続人には審判書の正本が届くので、その内容に従って遺産分割をしていくことになります。
4.遺言書を作成する際に弁護士に依頼するメリット
遺言書を作成するにあたって、弁護士に依頼すると様々なメリットがあります。
ここでは、遺言書の作成を弁護士に依頼するメリットをご説明します。
(1)有効な遺言書を作成するためのサポートを受けられる
すでにご説明したとおり、遺言書は方式が法律によって厳格に決められており、それに従わなければ無効となってしまいます。
頑張って作成しても、ひとつでも要件を具備していなければ無効になってしまうため、独力で作成することは困難です。
専門家である弁護士に依頼することで、遺言書の内容をどのように定めるべきか、また最適な方式は何かといったアドバイスを受けることができます。
(2)相続財産の記載漏れを防ぐことができる
そもそも、何が相続の対象となる財産なのかという判断も、難しい場合があります。
遺言書に記載していない財産については、遺言書の効果が及ばないので、望まない遺産分割がされてしまうおそれがあります。
しかし、弁護士に依頼することで、相続財産の調査もできますので、すべての相続財産について、漏れなく遺言を残すことができます。
まとめ
本記事では、遺言書が無効になるケースや、無効となった場合の相続の手続きについて解説しました。
遺言書が無効とされてしまうケースは判断が難しい場合もあり、遺産分割の手続きも複雑なことが多いです。
遺言書を作成する場合や、遺言書が無効になってしまった場合等、スムーズに手続きを進めるためには弁護士に一度相談することをおすすめします。
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