相続財産を相続人で分ける際に知っておくべきこととは?相続財産の範囲や相続財産の分割方法について解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。

「相続財産にはどのようなものが含まれるのか知りたい」
「相続財産を相続人でどうやって分割するのか知りたい」

被相続人が亡くなり、相続人となった方の中には、相続手続きをどのように進めればよいか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

相続というと、亡くなった親族の土地やお金などを貰えるイメージがあるかもしれませんが、必ずしも相続人にとって得になる財産だけが受け継がれるとは限りません。

また、相続人が複数いる場合にはこれらを分配する必要があります。

亡くなった人(被相続人)が遺言を残していればその内容に従って分配することになりますが、遺言を残していない場合は、遺産分割協議といって、相続人同士で話し合って分割する必要があるため、どのような方法で分割するのかを考えなければなりません。

本記事では、相続財産には何が含まれるのか、相続財産の分割方法について解説します。

この記事を読んで、相続財産やその分割方法について理解を深め、分割手続を進める際の参考となれば幸いです。

1.相続財産とは

相続財産とは、被相続人が亡くなった時点で有していた財産全てを指します。

つまり、被相続人が亡くなると、相続人は被相続人が有していた財産を当然に受け継ぐことになります。

例えば、相続人が、一部の財産だけを選択的に相続するなどということは許されていません。

これは、被相続人が持っていた財産をなるべく近しい人たちに受け継がせて、誰の物でもなくなるという事態を避けようという考え方によるものです。

現金や不動産、宝石など形のある財産のほか、借地権や損害賠償請求権、知的財産権など、形のないものも相続財産に含まれます。

また、民法は、相続によって受け継がれる財産を「一切の権利義務」としているため、上記のようなプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も同時に受け継ぐことになります。

そのため、相続人がプラスの財産は相続するが、マイナスの財産は相続しないなどという、いわゆる良いとこ取りはできません。

マイナスの財産の具体例としては、借入金や買掛金、ローン、未払いの税金などが挙げられます。

2.相続財産に含まれない財産

以下のように、被相続人が有していた財産のうち、例外的に相続人に受け継がれないものもありますので注意が必要です。

(1)被相続人の一身専属の権利(被相続人にのみ専属する権利)

被相続人の一身に専属した権利義務は、相続人に相続されず、被相続人の死亡により消滅することになります。

一身専属権とは、特定の者のみに帰属する権利のことで、個人の資格や地位などに着目して認められる権利であり、他人が行使するのは不適切であることから、相続財産の対象外とされています。

具体的には、代理権、使用貸借における借主の地位、雇用契約上の地位のほか、扶養請求権、財産分与請求権、生活保護法に基づく保護受給権などが挙げられます。

(2)生命保険金・死亡退職金

生命保険金や死亡退職金は、被相続人の死亡に伴って支払われる金銭であり、一見すると相続の対象であるようにも思えます。

被相続人が亡くなった当時に有していた財産ではありませんし、収入を頼りに生活していた遺族の生活を目的として支給されるので、以下のように、基本的には受取人の固有の財産として相続財産から除外されます。

#1:生命保険金

生命保険金は受取人が被保険者(被相続人)の死亡時に、保険契約に基づき、自己の固有の財産として取得するもので、被相続人の相続財産ではないと考えられています。

もっとも、保険金受取人の指定の仕方によって以下のように結論が異なることには注意が必要です。

① 生命保険金受取人が指定されている場合

受取人が指定されている場合は、被相続人の意思に基づき指定された者が生命保険金を取得するので、被相続人の相続財産には含まれません。

② 生命保険金受取人が指定されていない場合

被相続人自らが被保険者となり、しかも受取人を指定しなかった場合には、その保険契約約款に従って決することになります。

例えば、保険契約約款において、配偶者を第一順位の受取人とする旨の規定があれば、生命保険金は配偶者に支払われることになり、それは相続財産(遺産)ではなく、配偶者の固有財産となるということです。

③ 生命保険金受取人が被相続人本人である場合

受取人を被相続人本人としているような場合では、生命保険金は死亡した本人の財産となるため、例外的に相続財産に含まれてしまいます。

#2:死亡退職金

死亡退職金については、個別具体的に、支給目的、基準、受給権者の範囲などを検討して、遺産性を判断しますが、一般的には、社員・職員の収入に頼っていた遺族の生活保障を目的として受取人が定められているので、その受取人が全額を取得することができます。

(3)祭祀財産

祭祀財産とは、両親、祖父母等の祖先を祭るための財産であり、位牌、仏壇仏具、墓石、墓地などがこれらにあたります。

祭祀財産を相続人で分割するとなると、法事の際に相続人がこれらを持ち寄らなければならず、実施が困難になってしまいます。

そこで、祭祀財産は相続財産の対象外とされ、慣習に従って祭祀を開催する者(祭祀主宰者)が引き継ぐものとされています。

祭祀主宰者は被相続人が指定するか(生前に指定または遺言で指定)、指定がない場合には慣習によって定まりますが(相続人間の話し合いで定まることが多い)、慣習が明らかでない場合は家庭裁判所の審判によって定められることとなります。

3.相続財産の分割方法

相続人が複数いる場合、上記の相続財産は相続人全員で共同して相続することになるので、相続人一人一人が相続財産を確定的に取得するためには、相続財産を分ける手続(遺産分割)を行う必要があります。

遺産分割の方法には以下の4つの方法が存在します。

なお、分割方法を用いる順序は、現物分割が基本で、次いで代償分割が検討され、これが困難な場合は換価分割が検討され、これが困難な場合の最後の手段として共有分割が用いられます。

(1)現物分割

現物分割とは、個々の財産の形状や性質を変更することなく、そのままの状態で相続財産を分割する方法です。

「土地は長男が取得し、預金は次男が取得する」といった場合や、一筆の土地を分筆し、預金を折半するような場合などがこれにあたります。

それぞれの財産について相続人間で共有するということがなくわかりやすいため、遺産分割の際はまずこの方法が検討されることとなります。

もっとも、上記の「土地は長男が取得し、預金は次男が取得する」というケースで、土地の価格が2000万円、預金が1000万円であった場合には、二人の法定相続分は同じであるにもかかわらず、長男と次男の取得する財産の額に差が生じてしまいます。

また、一筆の土地を相続人間で分筆するような場合、立地の関係上形が歪になってしまったり、面積が狭く建物が立てられなくなるなどの問題が生じることもあります。

このように、現物分割は相続財産の内容によっては相続人間での不公平が生じるため、かかる場合には他の分割方法を検討する必要があります。

(2)代償分割

代償分割とは、ある財産を特定の相続人が取得する代わりに、その相続人の法定相続分を超える分の金銭を他の相続人に支払うという方法で、現物分割が物理的に不可能な場合や、現物分割をすると分割後の財産の価値が著しく低下する場合などに用いられます。

例えば、法定相続分が2分の1ずつのAとBが、3000万円の不動産を分割する場合、Aが不動産を単独で取得するのであれば、Aの法定相続分(1500万円)を超えた部分である1500万円をBに支払うことになります。

現物分割が困難な財産があったとしても、金銭で調整することにより相続人間で生じる不公平さを解消できるのが代償分割のメリットです。

もっとも、相続財産を取得する相続人に代償金を支払う余裕がなければ代償分割はできませんし、相続財産が不動産である場合には、その評価額について相続人間で争いが生じ、分割手続が進まない可能性もあります。

(3)換価分割

換価分割とは、遺産を第三者に売却し、その売却代金を相続人間で分配する方法です。

例えば、法定相続分が2分の1ずつのAとBがある不動産を相続したとして、当該不動産を3000万円で売却し、AとBがそれぞれ1500万円ずつ取得するような場合がこれにあたります。

換価分割は、相続財産を金銭に換えてしまうことで、法定相続分に応じた公平な分配が可能となります。

また、代償分割のように金銭を支払う余裕がなくても財産を取得することができますし、なるべく高く売却した方が相続人全員にとってメリットがあることから、対象物の評価額について争いが生じにくい方法といえます。

もっとも、換価分割は対象物を売却することが前提になっているため、何らかの理由で手放したくないという場合にはこの方法を取ることはできません。

また、買い手がいなければそもそも換価することができないため、対象物がなかなか売れず分割手続が進まなかったり、高額での売却を断念しなければならなくなるという可能性もあります。

(4)共有分割

共有分割とは、相続財産を相続人間で共有するという形で取得する方法です。

例えば、法定相続分が2分の1ずつのAとBが、3000万円の土地を持分2分の1ずつとして登記をするような場合がこれにあたります。

共有分割は、法定相続分に応じた持分が取得できるため、相続人間での不公平が生じることはありません。

しかし、全遺産を相続人全員の共有とすることは、分割しないに等しいですし、共有物を売ったり貸したりするには共有者全員の同意が必要であるなど、大きな制約がかかります。

また、共有関係を解消するには共有物分割訴訟を行う必要があり、遺産の分割方法として根本的な解決方法とはいえないため、上記の現物分割、代償分割、換価分割がいずれも困難である場合の最終手段として、一時的な措置として取られる方法といえます。

4.相続について弁護士に相談するメリット

(1)相続に関する法的手続全般についてアドバイスを受けられる

遺産を相続するには、相続人の確定や相続財産の調査のほか、相続方法の決定、遺産分割協議書の作成など、様々な手続が必要となるほか、期限が定められている手続もあります。

また、相続財産や相続人が多ければ多いほど手続が複雑になりますので、各手続を正しく行わなければ、相続人が損をする結果となる可能性もあります。

そのため、まずは専門家である弁護士に相談し、必要な手続について確認するのがよいでしょう。

(2)相続財産の調査を依頼できる

相続財産にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も含まれるので、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多いなど、相続を辞退(相続放棄)した方がよい場合もあります。

また、公平な遺産分割を行うためには、まずどのような相続財産があるかを把握する必要があるため、相続財産の調査は相続手続を進める上で重要な手続といえます。

しかし、これら全てをご自身で行うには煩雑で手間もかかるため、弁護士に調査を依頼することをおすすめします。

(3)分割手続についてのアドバイスやサポートを受けられる

先ほどご説明した通り、遺産分割の各方法は一長一短であるため、相続財産の内容に応じて、どの分割方法を選択すべきか検討する必要があります。

また、実際に分割手続を行う際、他の相続人と意見が合わず、手続が進まないこともあるでしょう。

弁護士に相談することで、どの分割方法であれば公平に相続財産を分割できるかについてアドバイスを受けることができますし、専門家である弁護士が第三者として間に入ることにより、円満な解決を図ることができます。

まとめ

本記事では、相続財産の範囲や分割方法について解説しました。

相続財産の分割を行う際には、どの財産が相続財産に含まれるのか、相続人間でどのように分割するかについて相続人間で争われることが少なくありません。

相続財産の範囲や分割方法に心配がある場合は、相続財産の分割や法的手続をスムーズに進めるために、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
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