財産分与について⑤ ~株式編~

1.株式も財産分与の対象になる

近年、銀行預金にお金を預けてもほとんど利息がつかない低利率が続いています。

そのため、デイトレーダーのみならず、一般の方も株式等の有価証券を資産として有していることが多くなってきました。

そうすると、この株式が離婚時に財産分与の対象になるか否かについて問題となります。

これは、「その株式はどのように入手されたのか」ということを考えればわかりやすいと思います。

たとえば、給与を預金した場合には財産分与の対象になるにもかかわらず、株式を購入した場合は対象から外れるとすれば、おかしいですよね。

したがって、株式も財産分与の対象になります。

もっとも、上記と同様の理由から、株式を入手するに至った経緯が、婚姻関係とは無関係であれば、対象から外れます。

たとえば、相続により入手した場合、相続で得たお金を利用して購入したのが明らかな場合等は、財産分与の前提となる「婚姻関係から発生した財産」とはいえないので、分与の対象にはならないことになります。

2.株式を分与する場合には、評価が重要

株式は、時々刻々とその価値が変動する資産です。

したがって、「○○社の株式を100株持っている」という事実は変わらないとしても、それが金銭換算するといくらになるかということは株式の評価によって変化します。

そこで、株式の評価が重要となりますが、その方法は、上場株式と非上場株式で異なります。

(1)上場株式の場合

上場株式とは、金融商品取引所において、取引対象となっている株式をいいます。

東京証券取引所やJASDAQ等は、ニュース番組などでも耳にする機会があると思いますが、これらの場所で取引が行われていることを上場といいます。

したがって、上場株式とは簡単に言い換えれば、市場に流通している株式ということになります。

市場流通があるのであれば、その株式の価値は市場価格がついていますので、それにならうことになります。

金融商品取引所が取引日の終値を公表しているので、この額がその株式の価値となります。

(2)非上場株式の場合

非上場株式とは、上場株式以外の株式をさします。

つまり、市場に流通していない株式なので、市場価格がありません。

そのため、株価の算定を別の方法で行わなければなりません。

株価の算定方法としては、主に以下のような方法があります。

 

株価の算定方法

  1. 配当還元方式(将来期待される1株あたりの予想配当金額を基に算定)
  2. 収益方式(当該株式会社のキャッシュフローを基に算定)
  3. 類似業種批准方式(当該株式会社と類似する業種の上場株式株価を基に算定)
  4. 純資産方式(当該株式会社の純資産を基に算定)

それぞれの方法で、着目しているポイントが異なるため、一長一短があり、ある方法では高く算定され、別の方法では低く算定されるということが起こります。

そのため、どれかひとつの方法では偏りが出てしまうので、実務では複数の評価方法を併用して算定することが多いです。

また、争いが大きい場合には、公認会計士等の専門家に評価を依頼することも考えられます。

Plus Alpha 現物分割なら評価は関係ないけれど・・・

上記で、株式の分与は評価が重要と説明しました。
しかし、たとえば

○○会社株式 1000株
△△会社株式 2000株

という資産がある場合、夫婦で

○○会社株式  500株ずつ
△△会社株式 1000株ずつ

というように、現物によって分与することが理論上考えられます。

株式の種類が同じであれば1株あたりの価値は同じなので、半分に割り切れるのであれば評価額がいくらであろうとも影響はないように思われます。

しかし、現実に現物による分与をすることは多くなく、審判や判決ではほとんどの場合金銭での清算を命じられます。

これは、現物を分与する場合には、株主の名義変更手続きを行わなければならず、手間がかかるというのがひとつの理由かと思われます。

また、非上場株式の場合、株式会社の定款で譲渡制限が付されている場合もあり、この場合には当該株式会社の承認が必要となり余計に手間がかかります。

そのため、金銭による清算の手段がとられることが大半ですので、評価額を特定する必要があるのです。

3.評価の基準時はいつか

株式は評価の方法でも金額が変動しますが、評価の時期によっても大きく変動することがあります。

株式の評価方法は、一般的には、別居時に保有していた株式の数量×現在時(訴訟の場合口頭弁論終結時)の株価 という方法で算出されます。

もっとも、上記のように、株価は時期によって大きく変動することがあります。

したがって、株価が別居時と現在時とで大きく異なる場合には、上の計算方法では公平を失する場合があります。

この点、別居時と現在時の各時価を算出した上で、これらの平均値を取るという方法を採用した裁判例もあり、具体的な事案に応じた算定方法を検討する必要があります。

4.株式分与の方法

Plus Alphaで説明したとおり、株式を分与する方法として、現物による分与はあまり採用されていません。

したがって、多くの場合、保有株式の価値を算出した後、その金額のうち相手の分与割合をしはらうことによって清算がなされます。

この際、他の預貯金等で十分な現金が用意できるのであれば、株式を保有したまま、分与を行うことができます。

もっとも、現金が少なかったり、株式の価値が高いなどの理由でそのような清算方法がとれない場合には、株式を売却してこれを分与することとなります。

株式を売却する場合には、以下の方法があります。

(1)上場株式の場合

上場株式は、金融商品取引所にて取引がなされているので、証券会社を通して売却することが可能です。

(2)非上場株式で譲渡制限がない場合

非上場株式の場合には、市場での取引がなされていません。

しかし、譲渡制限がない場合には、誰にでも売却することができます。

また、会社自体に売却することも考えられますが、会社には買取りの義務はないので、会社が買取りを拒む場合には、第三者への売却をすることとなります。

(3)非上場株式で譲渡制限がある場合

非上場株式で譲渡制限がある場合には、第三者に売却する際に会社の承認を得なければなりません。

会社が承認しない場合には、会社若しくは会社が指定する買取人に当該株式の買取りを要求することができます。

まとめ

上記の説明を読んでいただいて、どのような感想を抱いたでしょうか。

「考えることがたくさんあって難しい!」と思われた方も多いのではないでしょうか。
株式は、それがどのようなものなのか?、いつを基準としてどのように評価すべきなのか?、換価するにはどうすればよいのか?など、いろいろな考慮事項があります。

あやまった評価による分与等をしないためにも、株式を資産としてお持ちの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。