財産分与について② ~不動産編~

1.財産分与の基本

夫婦が離婚をする際には、それまでの婚姻生活の中で共同して形成した資産を分割します。

これを財産分与といいます。

この分け方は、理論的に考えれば、共同して形成した割合や貢献度に応じて決定することになります。

しかし、実務において、それぞれの資産について、夫婦双方がどれだけ貢献したのかを確定させるのは困難な場合が少なくありません。

そこで、一般的には、原則として2分の1ずつの貢献があったとして考えられています。

この考え方を2分の1ルールと言うこともあります。

そして、性質上分割できるものについては、文字通り半分ずつに分けることになります。

たとえば、預貯金や現金などは、端数が出ることはあるかもしれませんが、全体の金額を半分にすることはできます。

しかし、「もの」は現物を分割するわけにはいきません。

そのため、分け方を考える必要が出てくるのです。

今回は、「もの」の中でも、価値が高く財産分与において問題になることが多い「不動産(土地・建物)」についてみていきたいと思います。

2.不動産の財産分与の方法

上で述べたとおり、物理的にも経済的にも大きな不動産は、現物を分割するという方法はなじみません。

そのため、不動産を財産分与する場合には、主に以下の3つの方法が考えられます。

不動産を財産分与する方法

  1. 売却して代金を分割する
  2. 売却しないでどちらかが所有することにする
  3. 売却しないで共有とする

これらのうち、いずれの方法が最良であるかは一概には言えず、さまざまな事情や、夫婦双方の意向も踏まえて、どれを選択するかを考えることとなります。

特に、居住用の土地・建物を持っている場合には、住宅ローンが残っている場合があり、この処理には注意が必要です。

 

Plus Alpha 土地なら現物分割もできるけれど…

上記で、不動産は現物分割にはなじまないと説明しました。

しかし、建物はそのとおりでも、土地であれば、分筆(ひとつの土地を複数に分けること)を行えば、土地自体を分けることも可能です。

では、土地の財産分与で実際分筆がなされるかといえば、実務上はかなり少ないと思われます。

というのも、土地の価値は、単に面積のみで決まるわけではありません。

道路との接し方、方角に対する向き、傾斜の有無や土地自体の形など、さまざまな要因が絡み合って決まっていくのです。

そうすると、土地(の価値を)を半分に分ける、というのは、かなり難しいことになります。

また、一般的には小さな土地よりも大きな土地の方が利用可能性が高いので、それだけ価値も高まります。

そうすると、もしも夫婦で均等になるように分割ができたとしても、それはもとの土地の価値の半分よりも減少してしまうでしょう。

以上のように、土地を現物分割する方法は、理論的には可能ですが事実上は困難なので、あまり採用されていないのです。

3.住宅ローンが残っている不動産の価値

一般的に、不動産を一括で買い入れることができる人は少ないと思われます。

そのため、住宅ローンを組んでいることがほとんどです。

そして、住宅ローンは、相当の長期間の分割支払いを組むことが多いので、婚姻してから購入した不動産のローンの支払いが、離婚をする際に残っているという場合も多々あります。

不動産の財産分与を考える際、基本的には不動産の価値を

(不動産の時価額)-(当該不動産の残ローン額)

として換算します。

たとえば、不動産の時価額が2000万円、残ローン額が1000万円だとすると、

評価額=2000万円-1000万円=1000万円

として、1000万円を2分の1ずつ分割することになります。

したがって、売却する場合には、住宅ローンの支払い後の残金である1000万円を500万円ずつ双方で受領し、売却せずに夫婦どちらかが取得する場合には、一方は他方へ500万円を渡すことで清算します。

しかし、バブル経済期以降、多くの不動産価値は下落を続けており、場合によっては、残ローン額が現在の不動産時価額よりも高額になっていることもあります。

この現象を、オーバーローンといいます。

そうすると、財産分与の評価額としては、マイナスになります。

たとえば、不動産の時価額が2000万円、残ローン額が2500万円だとすると、

評価額=2000万円-2500万円=-500万円

となり、不動産を売却したとしても、財産は発生せず債務だけが残ります。

裁判所はこのような場合、原則として債務の負担の仕方には立ち入りません。

これは、財産分与というものが、積極財産の分割方法を考える手続きであり、消極財産(借金など)の負担者を決める手続きではない、とされているからです。

そのため、オーバーローンの場合の不動産は、財産分与の対象となる資産とみられなくなってしまうのです。

実務上、当事者間の交渉や調停の場では、このような消極財産を含めた柔軟な解決が目指されてはいますが、ローンが残っている不動産、特にオーバーローンの場合の処遇は、よりいっそうの配慮が必要となります。

4.住宅ローンの名義人と不動産の取得者が異なる場合

上記で説明した不動産の3つの分け方のうち、1の売却をする方法をとる場合には、分割しにくい不動産が分割しやすい現金に変わるので、オーバーローン等でない場合には、問題は生じにくいです。

しかし、住宅ローンが残っていて、かつ売却しない場合には、住宅ローンの名義人と不動産の取得者がどうなるかが問題となります。

たとえば、会社員の夫と専業主婦の妻の夫婦が、一軒家を住宅ローンで購入していたとします。

妻は専業主婦なので、夫が住宅ローンの債務者となり、不動産の所有も夫の名義としたとしましょう。

この夫婦が数年後に離婚をすることとなりました。

夫婦相互間の話し合いの結果、家は妻が住み続け、夫は出て行くことになりました。

お子さんがいて、妻側が親権を取るような場合では、上記のようにそれまでの居住地を妻と子が住み続けるということは多いと思います。

この場合、住宅ローンが残っていなければ、登記を妻に変更すればよいので、当事者間で合意ができれば問題ありません。

しかし、住宅ローンが残っている場合には、一筋縄ではいかなくなります。

まず、そもそも住宅ローンの負担はどちらがするか?

たとえば、家の価値が2000万円、住宅ローン残高が1000万円の場合、売却をして分けるとすれば、夫に500万円、妻に500万円の財産が本来分与されるべきであることは上で説明したとおりです。

しかし、家を妻が持つことにし、住宅ローンをそのまま夫が負担することになると、妻はプラス2000万円、夫はマイナス1000万円となり、双方の損益の差は3000万円にも及びます。

その他の財産で、1500万円ほど夫に多く分配できるものがあればいいのですが、これがないとすると、公平な分割が困難になってしまいます。

また、多くの場合、住宅ローンの契約内容には、自宅を第三者に処分した場合には、分割返済ができなくなり、残額を一括で支払いをしなければならないと規定されていることに注意が必要です。
これは、なぜかというと、一般的に住宅ローンの債務については、その住宅に抵当権という担保を設定しています。

抵当権は、借金の返済が滞った場合には、その住宅を競売してその代金を持って借金を返済させるという効果があります。

そのため、住宅ローンの債務者は、ローンの支払いをしなければその家に住み続けられなくなるという心理的な強制力が働くので、支払いを頑張るという構図ができています。

しかし、債務者自身が既にその家に住んでいないとすると、そのような心理的な強制力が働かなくなるため、長期間の分割返済が認められなくなってしまいます。

離婚後の元配偶者はここにいう第三者に該当してしまうので、財産分与による名義変更であっても同様に取り扱われてしまいます。

そのため、このような約款がある場合には、債権者である銀行等の金融機関が特別に同意をしない限り、名義変更をするためには残債務を一括で支払うことが必要となります。

では、住宅ローンの負担者を妻にすることはできないでしょうか。

つまり、住宅ローンの負担者と所有者を同一人物にすれば、銀行としては上記のようにローン返済の心理的強制を働かせることができるので、名義変更に同意してもらいやすくなるのではないかということです。

しかし、これについても金融機関が承諾することが必要であり、その調整は簡単ではありません。

なぜならば、もともとは、会社員であり継続的に安定した収入を得られると考えられていた夫の事情を前提に締結したローンです。

これを、急に今まで専業主婦をしていた妻に変更するというのは、債権者としてもきちんと支払いがなされるかについて不安が残ってしまいます。

そのため、妻が夫と同程度の収入を得られているような状況でない限り、金融機関が住宅ローンの負担者の変更を承諾することは少ないです。

以上のように、住宅ローンが残っている不動産について、所有名義を変更する場合には、残ローンの一括弁済の可否や住宅ローンの負担者変更の可否などを検討し、必要に応じて金融機関と交渉する必要があります。

5.共有名義がいいのかといえば、そうでもない

上記のように、どちらかの所有に移すというのは、難しいことも多いということがわかりました。

では、いっそのこと、所有権を2分の1ずつで共有してしまおう、という方策に思い至るかもしれません。

理論的には、自宅不動産以外に分与対象となる財産がなく、いずれかの単独名義であった自宅を財産分与を原因としてあえて新たに共有名義にするということもあり得ます。

法律上は、「持分」という考え方があり、持分を2分の1ずつとして共有状態にすることも可能です。

この方法は、登記の手続きをとればいいので、処理としては簡便です。

しかし、この方法は以下のリスクがあることから、実務上はほとんど採用されていません。

たとえば、双方2分の1ずつの共有として離婚が成立した後に、再婚をし、お子さんが生まれた場合、相続等によってどんどん所有関係が煩雑になっていってしまいます。

また、共有状態の不動産は、その利用や収益について不都合が多く、結局後になって、共有物分割請求がなされる可能性もあります。

その他にも、固定資産税をどのように負担するかなど、さまざまな問題があります。

したがって、離婚の際に共有とするという方法は、問題の根本的な解決にはつながらないことが多く、逆に後の紛争の種を残してしまう結果になりかねないのです。

そのため、理論上は可能であっても、共有状態は望ましい状態ではないので、当事者間でよく協議した上で、売却をするか当事者いずれかの単独所有とする合意を成立させるのが望ましいと思われます。

まとめ

上記で、不動産の財産分与についていくつかの問題となるポイントを説明してきました。

読んでいただいた方にはお分かりかと思いますが、「唯一最善の方法」はありません。

もっとも簡便かつ問題が少ない方法は、売却してしまうことかもしれませんが、せっかく購入した思い入れのある家を手放したくないと思うことも多いと思われます。

不動産以外の財産はどのようなものがありどのような価額になるか、ローンの残額はどのくらいか、夫婦双方の収入はどの程度か、などといった要素を総合的に考え、そのときその事案で最も好ましい方法を見つける必要があります。

不動産をお持ちの方がいましたら、ぜひ一度、弁護士へご相談いただければと思います。

一緒に一番いい方法を考えましょう。