財産分与について① ~概要~
1.財産分与とは
婚姻関係にある夫婦は、家計を一つにしていることが多いと思います。
俗に「財布はひとつ」などといったりもします。
最近では夫婦が共働きである場合も多くなってはいますが、各自の収入と支出を明確に峻別している家族は少ないでしょう。
子どもがいる場合は、なおさらです。
このように、夫婦は生活の共同体なので、各自の財産が混在しています。
そのため、離婚をする際には、この夫婦の財産を整理する必要があります。
また、例えば結婚を機に妻が仕事を辞めて専業主婦になっているような場合、婚姻継続中は夫の収入が夫婦の生活費となります。
しかし、離婚となれば、妻は突然自身の生活費を得ることができなくなってしまい、過酷な状況に立たされることになります。
そのため、離婚をする際には、夫婦がそれぞれその後の生活を送れるかどうかという点も考える必要があります。
さらに、離婚の原因が、一方の不貞行為などの落ち度である場合には、他方の配偶者は離婚をすることによって精神的な損害をこうむっていることもあります。
これは、財産分与とは別に、「慰謝料」として請求することができます。
しかし、結局のところ離婚時の夫婦間での金銭の移動となるので、財産分与の中で考慮することも可能です。
財産分与には、上記のような3つの側面があります。
これらを法律的に整理すると、以下のような言い方をします。
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 慰謝料的財産分与
これらは、あくまで財産分与にこれらの側面(要素)があるということで、「清算的財産分与として○○円」「扶養的財産分与として●●円」などと分けて考えるものではありません。
上記のような点を考慮して、どのように財産分与を行うのが最もその夫婦にとってよいのかということを決めることになります。
2.専業主婦(主夫)の場合はどう考えるのか?
夫婦の一方が稼動して、他方が専業主婦(主夫)である場合には、財産の名義がすべて稼動している側になってしまっていることもあるかもしれません。
この場合、「夫婦の共有財産ではないのでは?」という疑問が生じます。
しかし、一般に主婦(主夫)は、配偶者のために家事労働等を行っており、これのおかげで仕事に専念できている部分があります。
つまり、給与などは一方の名義で得ていても、それを得る過程で他方の協力があることになります。
また、上記②の扶養的財産分与という点も考慮しなければなりません。
したがって、現在の実務では、専業主婦(主夫)の場合でも、財産形成に対する寄与(貢献)を原則として2分の1として考えています。
例えば、夫が結婚した後に得た給与を貯めた預金のうち、半分は妻が家事等によって貢献したおかげだ、と考えるのです。
その上で、特別な事情(収入を得た側の特殊な技能や特別な努力等)があれば、割合を修正していく方法がとられます。
3.どのような財産が分与の対象になるか
ひとくちに「夫婦の財産」と言っても、そこに含まれるものは夫婦によってさまざまです。
代表的なもので言えば、以下のようなものが挙げられます。
- 預貯金
- 不動産(土地、建物)
- 自動車
- 株式などの有価証券
- 退職金
これらの財産を夫婦で分けることになります。
もっとも、財産分与はあくまで夫婦が協力して得た財産を分ける手続きなので、以下のようなものは分与の対象から除かれます。
・婚姻前から所有していた預貯金などの財産
・婚姻中にも相手方とは無関係に得た財産(例えば、相続など)
財産分与を考える際には、この「何が分与の対象になる財産なのか」という点をまず確定させる必要があります。
しかし、実際のところは、まず相手方の名義の財産として何があるかを把握することすら困難な場合も少なくありません。
また、例えば不動産などの財産をどのように評価するのかという点も問題となりますので、財産分与を考える際に大きく問題となりうる点です。
財産の種類に応じた問題点や考え方などは、稿を改めて説明したいと思います。
4.財産分与を定めるための方法
財産分与は、離婚の際に問題となることなので、親権や養育費の決定方法と同様に以下の3つの方法があります。
まず一つ目は、協議です。
当事者同士のお話し合いで財産分与の方法や金額を定めていく方法です。
婚姻期間が短かったり、対象と考えられる財産がほとんどなかったりする場合には、当事者同士で「財産分与はなし」と定めることもあります。
二つ目は、家庭裁判所における調停です。
離婚の調停に附随する形で申し立てることも多くあります。
分与の仕方に対する双方の主張の開きが大きい場合などには、中立な第三者である調停委員を交えてお話し合いを行ったほうが、スムーズに進むことがあります。
特に、相手方名義の財産が十分に判明していない場合には、調停委員から必要な情報を開示するように依頼してもらうことができるので、協議よりも建設的に話を前に進めることができます。
三つ目は、家庭裁判所による審判です。
調停によっても財産分与についての合意が得られない場合には、調停は不成立となり審判手続きに移ります。
審判手続きでは、裁判官が、当事者から提供された資料などを基に、財産分与について強制力をもって確定させることになります。
終局的な解決が図れるので、どうしても合意に至れない場合には、調停を不成立にして、審判において可能な限りの主張をするという方法が望ましいでしょう。
このほかに、離婚の成立について訴訟となった場合に合わせて訴訟手続きの中で財産分与の判断も求める方法もあります。
まとめ
財産分与は、離婚の際に問題となるので、離婚をするのと同時に定めることが多いですが、親権者の指定と異なり必ずしも離婚時に定める必要はありません。
しかし、気をつけなければならないこととして、除斥期間というものがあります。
これは、「財産分与の請求ができなくなるまでの期間」という意味です。
法律では、財産分与の請求は離婚後2年以内にしなければ、それ以後は請求ができなくなることとされています。
除斥期間というのは、時効と異なり、中断や延長が原則として認められません。
したがって、離婚後に財産分与をどうやってするか断続的に話をしていても、2年以内にきちんと決めることができなければ、何も認められなくなってしまう可能性があります。
この期間制限は、よく注意しておく必要があるでしょう。
以上に見てきたように、財産分与は対象の確定、金銭的評価、分与の割合、具体的な分け方など、定めることが多岐に渡ります。
そのうえ、厳格な時間制限があるので、後回しにしておくことも危険があります。
正当な分与を行うためにも、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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