破産管財人とは?自己破産手続で選任されるケースや役割などを弁護士が解説
「破産管財人とはどのような人なのか」
「自己破産を行うと必ず選任されるものなのか」
「破産管財人が選任されるとどのような注意点があるのか知りたい」
自己破産を行うことを検討されている方の中には、このような疑問をお持ちの方もいるかと思います。
自己破産には、大きく分けると同時廃止事件と管財事件の2つの手続があり、管財事件となった場合に破産管財人が選任されます。
この破産管財人は、破産手続の中で様々な権限を持つことになります。
本記事では、破産管財人が選任されるケースや破産管財人の役割などについて解説します。
また、破産管財人が選任された場合の費用の目安や選任された場合の注意点についても合わせて解説しています。
本記事が自己破産を行うことを検討されている方の参考となれば幸いです。
1.破産管財人と自己破産
自己破産の手続は、裁判所に対して破産手続開始の申立てを行うことによって始まります。
手続の開始の際には裁判所の判断により、大きく分けて同時廃止事件と管財事件のいずれかに振り分けられます。
自己破産手続が管財事件に振り分けられた際、裁判所から選任されるのが破産管財人です。
以下では、破産管財人の概要や破産管財人が選任される自己破産手続について解説します。
なお、自己破産手続における破産管財人の概要については、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
(1)破産管財人とは
破産管財人は、自己破産の手続が管財事件となった場合に裁判所によって選任される者で、通常は弁護士から選任され、自己破産手続を進めるために必要な役割を担います。
破産管財人の権限としては、まず、破産者に代わって、自己破産手続において処理される破産者の財産(破産財団)を管理・処分する権限があります。
破産管財人は、この権限に基づき、破産財団を管理し、債権者への配当を行うことになります。
そのため、破産管財人は、自己破産手続において、破産者の財産を調査し、債権者に配当を行うことができるほどの財産があるのかなどについて判断することとなります。
また、破産者の借入れが浪費のための支出であったなど、債務の免除(免責)が許されなくなる事由(免責不許可事由)があった場合、裁判所の判断による免責(裁量免責)が相当かどうかについて調査の上、裁判所に意見を述べるのも破産管財人の職務となっています。
このように破産管財人が自己破産手続において様々な職務を行うとされている背景には、裁判所だけでは破産者の財産調査や債権者への配当手続を十分に行うマンパワーがないことが挙げられます。
破産管財人には裁判所が行う職務を代わりに行うという側面があり、その意味で裁判所や裁判官の役割を一部担うことになります。
このように、破産管財人は、自己破産手続において公平・中立の立場から関与します。
そのため、破産管財人が選任されることによって、破産者が一方的に不利益を受けることはありません。
しかし、破産管財人の目的は、自己破産手続のそもそもの趣旨である債権者に対する平等な配当の実現にありますから、破産者にとって有利になるわけでもないことを覚えておきましょう。
(2)破産管財人が選任される自己破産手続
破産管財人が選任されるのは、自己破産手続の中でも管財事件となった場合です。
すでに触れたとおり、自己破産の手続は以下の2つの手続に分かれます。
- 同時廃止事件
- 管財事件
破産者から提出された申立書を確認した裁判所が、①破産者に一定の財産があり配当を行う必要がある、②破産者に財産がある可能性があるため財産調査の必要がある、及び③破産者を免責してよいかどうかを調査(免責調査)を行う必要があるのいずれかに当たると判断した場合には、管財事件となります。
また、管財事件についても、通常管財事件と、比較的定型的な処理が可能な場合には少額管財事件という分類があります。
通常管財事件と少額管財事件は、いずれも破産者に一定の財産があり、債権者への配当が予定される手続ですが、手続の流れ、期間や、後で説明する予納金の金額などについて違いがあります。
通常管財事件と少額管財事件の違いについては、以下の記事も合わせてご覧ください。
2.破産管財人が選任された場合の予納金
破産管財人が選任された場合、破産者が破産管財人の報酬を負担する必要があります。
具体的には、申立て時に裁判所に対して納付する予納金から破産管財人への報酬が支払われることになります。
そのため、管財事件では、同時廃止事件として、予納金がある分だけ費用が高くなる傾向があることに注意が必要です。
さらに、管財事件の中でも、通常管財事件と少額管財事件によっても費用相場が異なります。
以下では、通常管財事件と少額管財事件の予納金の目安について説明します。
なお、破産管財人の報酬の相場については、次の記事も参考になります。
(1)通常管財事件
通常管財事件となった場合、破産管財人の報酬となる引継予納金の目安は50万円程度です。
通常管財事件は、破産者に相当の財産があって債権者も多数であり、債権者への配当手続が複雑化することが予定されているような場合に行われる手続です。
破産者が規模の大きい個人事業主であるというようなときに通常管財事件となるケースがあります。
また、破産者が弁護士に依頼せず、本人申立てを行ったときも通常管財事件となります。
これらの場合、破産者の財産調査や管理、換価処分などの手続が複雑となるため、管財人の業務も長期化することが予想されます。
このような理由から、通常管財事件では予納金の相場が高くなる傾向にあります。
(2)少額管財事件
少額管財事件では、20万円程度が引継予納金の相場となります。
破産者に一定以上の財産があったり、免責不許可事由があったりするものの、通常管財事件とするほどでなく、その調査や換価処分が定型的な処理で完了するものについては、少額管財事件に振り分けられます。
破産者の財産調査や管理、換価処分などの手続が簡素化されるため、その分、引継予納金も低く抑えられる傾向にあります。
もっとも、少額管財事件となるのは、弁護士が代理人として手続に関与していることが前提となります。
また、少額管財事件の運用を行っていない裁判所もあるため、自己破産の申立てを行う前に裁判所の運用について弁護士に確認することが望ましいです。
3.破産管財人が自己破産手続で果たす役割
破産管財人の役割は、第一に破産手続の中で破産財団に属する財産を換価し、平等に債権者へ分配することにあります。
そのため、破産管財人が自己破産手続において持つ権限は多岐にわたります。
具体的には、以下のものが挙げられます。
- 破産者の財産調査
- 破産者の財産の管理・換価
- 否認権の行使
- 債権者集会での報告・配当
- 免責不許可事由の調査
それぞれについてご説明します。
(1)破産者の財産調査
破産者がどのような財産を所有しているかを調査します。
これは、債権者に配当することができる財産がどの程度あるかを把握するために行うもので、換価・配当の前提となるものです。
具体的には、破産者が破産手続を申し立てる際に裁判所へ提出した財産目録などの資料をもとに調査を行います。
調査の対象は住宅などの不動産をはじめ、車などの動産、預貯金や有価証券など破産者の財産すべてとなります。
なお、調査の結果判明したすべての財産が換価処分の対象となるわけではなく、以下のようなものについては自己破産を行っても引き続き手元に残すことが可能です。
- 99万円以下の財産
- 生活に必要な家財道具
- 破産手続開始決定後に取得した財産 など
99万円以下の財産について、どの範囲で残すことが認められるかについては、各裁判所によって異なる運用がされている場合があります。
そのため、自己破産手続申立ての前に、よく弁護士に確認しておくのがよいでしょう。
(2)破産者の財産の管理・換価
破産者に財産がある場合には、その財産は自己破産手続の中で債権者に配当すべきものとして破産財団に属するという扱いがされます。
破産管財人は、破産財団に属する財産が破産者によって処分・流出されることがないように、管理を行います。
例えば、破産者が価値のある車を所有している場合には、鍵や車検証を破産管財人が預かり、破産者が隠匿や処分を行うことを防止します。
また、適正な価格で売却し、破産財団に属する財産の価値を維持・増大させる役割も担っています。
(3)否認権の行使
否認権とは、破産管財人が有する権利の1つで、破産者が行った財産処分行為の法的効力を否定するためのものです。
上記のように、破産管財人は破産財団に属する財産が流出することを防ぐ役割を果たします。
そのため、破産者が不当に破産財団から財産を流出させた場合には、その効力を否定し、流出した財産を破産財団に取り戻す必要があるのです。
否認権の行使は、自己破産手続を申し立てる前の財産処分行為にまで及ぶことがあります。
具体的には、自己破産の直前に行った不動産などの売却や特定の債権者への借金の返済などがこれにあたる可能性があります。
否認権が行使されるケースやその方法については以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。
(4)債権者集会での報告・配当
破産管財人は、破産者の財産調査・換価処分などを終えると、債権者集会で調査結果について報告を行います。
債権者集会は、破産手続の進捗や調査結果について債権者に情報を開示することを目的として、裁判所において行われる手続です。
担当裁判官や破産管財人、破産者、破産者の代理人弁護士が出席しますが、債権者の出席は任意となっています。
そのため、実際は債権者が出席することはほとんどなく、管財人からの報告のみが行われ、手続が数分で終了することも少なくありません。
破産管財人は、財産調査や換価処分の結果、債権者に配当すべき財産があった場合に、債権者に配当を行います。
なお、債権者集会は1回で終わることがほとんどですが、破産者の財産が多く、換価処分が完了していない場合には複数回にわたって開催されることもあります。
(5)免責不許可事由の調査
破産管財人は、破産者の財産調査と合わせて、破産者に免責不許可事由があるかどうかの調査も行います。
免責不許可事由とは、それがあることにより破産者の返済義務の免除が認められなくなる事由のことであり、以下のような事情がこれに該当します。
- 借金の原因が浪費やギャンブル等の射幸行為によるものであること
- 返済の意思がなく借金をしたり自己破産を申し立てたりしたこと
- 債務の支払ができない状況で特定の債権者にのみ返済を行ったこと
- 意図的に財産を隠匿または処分したこと
- 以前に免責許可決定を受けてから7年以内の申立てであること など
免責不許可事由に該当する場合には、自己破産を行っても免責許可決定を受けることができず、借金の返済義務が残ってしまうこととなるのが原則です。
もっとも、免責不許可事由にあたる事情があったとしても、裁判所の裁量によって免責を受けることができる(裁量免責)とされており、実際にはこれが行われることがほとんどです。
破産管財人は、免責不許可事由についても裁判所に代わって調査し、裁判所に対し、裁量免責としてよいかどうかについて意見を述べるという役割を持っています。
免責不許可事由の具体例や裁量免責については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
また、2回目の自己破産を行う場合の条件や注意点については、以下の記事もご参照ください。
4.破産管財人が選任された場合の注意点
自己破産の手続において破産管財人が選任された場合には、いくつかの注意点があります。
具体的には、以下のとおりです。
- 自己破産の費用が高額になる可能性がある
- 破産管財人の調査に協力する義務を負う
- 郵便物が破産管財人に転送される
- 転居や旅行の際には破産管財人に伝えなければならない
それぞれについてご説明します。
なお、以下の記事も参考になります。
(1)自己破産の費用が高額になる可能性がある
破産管財人が選任されるのは、管財事件となった場合です。
同時廃止事件となると破産管財人が選任されないため、引継予納金は発生しません。
管財事件は同時廃止事件とは異なって予納金がかかるため、その分手続を行うための費用負担が大きくなります。
また、めったにあることではありませんが、管財事件の中でも通常管財事件に振り分けられた場合には、少額管財事件と比較すると引継予納金が高額になる傾向があります。
このように、破産管財人が選任される場合には、そうではない場合と比べると、トータルで自己破産を行うための費用が高額になる可能性があり、注意が必要です。
管財事件における費用負担やそのほかの制約については以下の記事もご覧ください。
(2)破産管財人の調査に協力する義務を負う
破産者は、破産管財人が選任された場合、破産管財人が行う調査に協力する義務を負います。
具体的には、自己破産を申し立てた後に破産管財人と面談を行い、そこで借金や財産の状況について質問を受けたときには、これに正直に回答する必要があります。
この面談は、破産管財人が破産者の財産状況を正確に把握し、債権者に対して配当すべき財産があるかどうか、破産者に免責許可を与えてよいかどうかを判断するために必要なものです。
破産管財人の調査に誠実に協力しない場合や虚偽の説明をした場合には、免責許可決定を受けられない可能性もあり、最悪の場合には刑事処分を科されるリスクもあります。
そのため、破産管財人の調査には誠実に対応することが重要です。
(3)郵便物が破産管財人に転送される
破産管財人が選任されている期間については、破産者あてに郵送された郵便物が一旦破産管財人に転送されます。
これは、金融機関からのダイレクトメール等により、申立て時に明らかになっていない財産の有無を調査することを目的としています。
転送された郵便物は破産管財人が中身を確認した上で、破産管財人が破産者本人へ渡すようにしています。
また、手続が終了すると破産管財人に郵送物が転送されることもなくなります。
(4)転居や旅行の際には破産管財人に伝えなければならない
破産管財人が選任されると、手続が終了するまでの間、破産者の転居や旅行が制限されます。
具体的には、事前に破産管財人や裁判所の許可を得てからでなければ、転居や旅行を行うことはできなくなります。
これは、手続中、破産者の移動等により連絡が取れなくなって、手続が遅延することを防ぐことが目的です。
なお、裁判所からの許可を得ることができれば、転居や旅行・出張も行うことができます。
そのため、破産管財人が選任された場合には、転居や旅行を行う際に事前に伝えておくことが重要です。
自己破産手続中の転居については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
まとめ
本記事では、破産管財人の役割や選任されるケース、注意点などについて解説しました。
破産管財人は、破産者の財産調査や管理・換価処分、債権者への配当などの手続を担います。
また、免責許可を与えてよいかの調査も行うため、破産者は破産管財人の調査に誠実に対応することが重要です。
もっとも、弁護士を通さずに申立てを行うと予納金が高額になりますし、破産管財人との面談や調査の協力の場面でどのように進めればよいのか不安や疑問を抱えることも多くなってしまいます。
管財事件が見込まれる場合には、弁護士に相談することで、手続を依頼したり破産管財人への対応に関するアドバイスやサポートを受けることができ、結果的に手続の費用を軽減したり、手続をスムーズに進めたりすることができます。。
そのため、自己破産を行うことを検討されている場合には、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの自己破産の手続に対応してきました。
経験のある弁護士が丁寧にお話を伺いますので、自己破産を行うことをご検討の方はお気軽にご相談ください。
債務整理でこんなお悩みはありませんか?
もう何年も返済しかしていないけど、
過払金は発生していないのかな・・・
ちょっと調べてみたい
弁護士に頼むと近所や家族に
借金のことを知られてしまわないか
心配・・・
- ✓ 過払金の無料診断サービスを行っています。手元に借入先の資料がなくても調査可能です。
- ✓ 秘密厳守で対応していますので、ご家族や近所に知られる心配はありません。安心してご相談ください。
関連記事