自己破産を行うための条件とは?免責不許可事由についても弁護士が解説
「自己破産を行うための条件はあるのか?」
「ギャンブルや投資でできた借金があると自己破産を行うことができないのか」
「自己破産ができない場合にはどうしたらよいのか知りたい」
借金の返済が困難になり、自己破産を行うことを検討されている方の中にはこのような不安や疑問をお持ちの方もいると思います。
自己破産は裁判所に申立てを行い、裁判所の許可を得ることで、借金の支払義務を免除してもらう手続です。
そのため、自己破産はほかの債務整理手続である任意整理や個人再生と比較すると、債務を減額するという点ではメリットが大きい手続であるといえます。
もっとも、自己破産手続を行うにあたってはいくつかの条件を満たす必要があり、誰でもそのメリットを受けられるわけではありません。
本記事では、自己破産を行うための条件について解説していきます。
また、借金の返済義務を免除してもらえないケースや対処法などについても合わせて解説します。
自己破産を行うことを検討されている方の参考となれば幸いです。
1.自己破産を行うための条件
自己破産は、借金の返済が困難であることを裁判所に認めてもらった上で、一定以上の価値の財産を換価して債権者に配当したあと、借金の支払義務を免除する効果を持つ「免責許可決定」をしてもらう手続です。
すべての借金の返済義務から免れるという点で大きなメリットがありますが、住宅などの不動産や一定額以上の財産については換価処分が行われ、債権者に配当されます。
そのため、高額な財産を所有している場合には、それらを手元に残すことができないなど、一定のデメリットがあります。
また、一定の事情があると免責許可決定を受けられないこともあります。
このように、自己破産には手続を行うにあたって問題となりうる事情が多々あり、これが一種の条件となっています。
これらの条件は、以下のように分けることができます。
- 自己破産手続を行うための条件
- 借金の支払義務が免除されるための条件
それぞれについて、ご説明します。
(1)自己破産手続を行うための条件
自己破産手続は、裁判所への申立てによって開始します。
ただし、申立てをすれば必ず手続が開始されるわけではなく一定の要件を満たすことが必要ですし、手続が開始されることによって大きな不利益を受けるのであれば申立てを回避すべきである可能性もあります。
これらを条件として整理すると、以下のようにまとめられます。
- 支払不能であること
- 破産の障害になる事情がないこと
- 適法な申立てであること
順にご説明します。
#1:支払不能であること
支払不能とは、すべての債権者に対して、一般的かつ継続的に返済を行うことができない状態であることをいいます。
具体的には、収入や財産がなく、債権者に対して返済を行うべき時期が到来しても、借金の返済ができないことが明らかな場合がこれにあたります。
この支払不能が認められないと、手続は開始されません。
具体的には、以下のようなケースでは、支払不能とは判断されません。
- 一時的に返済が滞っただけである場合
- 収入からの返済はできないものの所有する財産を処分すれば返済を行うことができる場合 など
支払不能に該当するか否かは、債務者の借入総額や収入状況、資産状況などを総合的に考慮しながら裁判所が判断しますが、目安としては、借入総額を3年(36回の分割払)で返済していけるかどうかが基準となります。
支払不能の詳細に関しては、以下の記事も参考になります。
#2:破産の障害になる事情がないこと
自己破産を行うと債務者に大きな不利益が生じてしまう場合には、手続を回避すべきことになります。
具体的には次のような事情がある場合は、自己破産に適しているとはいえません。
- ローンが残っている自動車、住宅を手放したくない場合
- 破産をすると資格を制限される職業に就いている場合
自己破産手続では債権者を区別することができません。
自動車ローンや住宅ローンの債権者は所有権留保や抵当権などを設定して自動車や住宅を担保にしていることがほとんどであり、債務整理が開始されたとわかるとこれらの権利を実行して自動車や住宅を強制的に売却してしまいます。
そのため、ローンが残っている自動車や住宅を手放したくない場合は自己破産手続を行うことはできません。
また、破産をすると、弁護士などの士業、警備員、保険外交員などの資格が制限されることになります。
そのため、これらの職業に就いている人も手続を回避すべきでしょう。
このような破産手続によって大きく不利益を受けるような事情がないことも、自己破産手続を行う条件となります。
#3:適法な申立てであること
自己破産の申立てが認められるためには、法律の定めに従って行われているかどうかも必要な条件です。
具体的には、以下のような事由に該当しているかどうかによって、申立ての適法性が判断されます。
- 債務者本人または債権者が申立てを行っている
- 定められた様式・形式の書面が提出されている
- 管轄の裁判所に申立てが行われている
もっとも、書類作成や資料収集を適切に進めるためには、経験が必要になります。
そのため、自己破産を行う際には、あらかじめ弁護士に相談した上で、手続を依頼することが重要です。
なお、自己破産の手続に必要な書類や資料の内容については、以下の記事も参考になります。
(2)借金の支払義務が免除されるための条件
自己破産の申立てが認められたからといって、直ちに借金の支払義務が免除されるわけではありません。
借金の支払義務の免除を受けるためには、免責許可決定を受ける必要があります。
しかし、破産法には、免責許可決定を受けられない事由(免責不許可事由)が定められており、これに該当する場合、免責許可決定を受けることができなくなってしまい、借金の返済義務がなくならない可能性があります。
どのような事由が免責不許可事由として掲げられているかについては、次項で詳しく解説します。
また、債務の中には、免責許可決定を受けたとしても支払義務が免除されない非免責債権と呼ばれるものもあります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 租税等の請求権
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 夫婦間の扶助および協力義務に関する請求権
- 親族や子どもの扶養義務および監護義務に関する請求権
- 刑事処分による罰金・科料 など
これらに該当する債務については、免責許可決定を受けた後にも支払義務が残ることに注意が必要です。
2.免責不許可事由の具体例
免責不許可事由は、破産法252条に定められており、以下のような事由が挙げられています。
- 財産の隠匿行為
- 不当な債務負担行為
- 偏頗弁済(一部の債権者のみに対する返済)
- 射幸行為等の浪費による債務負担
- 債権者一覧表への虚偽記載
- 裁判所にへの虚偽説明、破産管財人の業務妨害
- 過去7年以内に自己破産手続を行い免責許可決定を受けたこと
これらの事由に該当すると、原則として免責許可決定を受けることができないことになります。
以下、それぞれについて説明いたします。
なお、免責不許可事由に該当しても、裁判所の判断による免責(裁量免責)を受けることができるケースが多いです。
悪質なケースでなければ、免責不許可事由があっても免責許可決定を受けられる可能性はありますので、免責を受けられるかどうか、弁護士に相談してみましょう。
裁量免責については、以下の記事も参考になります。
(1)財産の隠匿行為
財産の隠匿行為とは、債務者が自分の財産を隠したり処分したりすることを指します。
具体的には、以下のような行為が財産の隠匿行為と判断される可能性があります。
- 預金を家族名義の口座に移す
- 不動産や車の名義を安価な対価を受け取って、あるいは対価を受け取らず家族や他人に変更する
- 解約返戻金が高額な保険に加入していることを隠す など
自己破産手続は、債権者を平等に扱い(「債権者平等の原則」)、すべての債権者のために債務者の財産を換価・配当することが求められる手続です。
財産の隠匿行為は、債務者の財産を見かけ上減少させ、債権者の利益を害することとなります。
そのため、そのような行為を行った債務者には借金の支払義務の免除という恩恵を与えないこととしています。
財産の隠匿行為については、悪質な場合、刑事罰の対象となるケースもあるため、注意が必要です。
(2)不当な債務負担行為
不当な債務負担行為とは、自己破産手続の開始を遅延させることを目的に、新たな借入れなどを行うことです。
具体的には、自己破産を行うことを前提に違法な金利で借金をしたり、クレジットカードを利用して購入した商品をすぐに廉価で売却したり(換金行為)することをいいます。
借入総額が多額となっている場合には、返済の見込みがないとして新たな借入れを断られるケースがほとんどです。
このような場合には、直ちに自己破産などの債務整理手続を行うことを検討すべき状況です。
そうであるにもかかわらず、その場しのぎのために違法な貸金業者から借入れを行ったり、クレジットカードで購入した商品を相場よりも低い価格で転売したりして、自己破産などの手続の開始を遅延させた場合、その分債権者の利益を害することになるため、免責不許可事由とされています。
クレジットカードを利用した換金行為のリスクについては、以下の記事もご参照ください。
(3)偏頗弁済
偏頗弁済(一部の債権者のみに対する返済)も免責不許可事由にあたります。
例えば、友人や親族などからの借金を優先して返済する行為が挙げられます。
繰り返しになりますが、破産手続ではすべての債権者を平等に扱う必要があるため、特定の債権者のみを優遇する行為は免責不許可事由とされています。
近しい人に迷惑をかけたくないという理由からその人に返済をしてしまうことは心情的には理解できるものですが、自己破産手続を行うのであれば避けるべき行為です。
(4)射幸行為や浪費による債務負担
ギャンブルや投資などの射幸行為や高額商品の購入といった浪費による借金が支払不能となるに至った主な原因である場合も、免責不許可事由とされています。
もっとも、射幸行為や浪費による借金であっても、事情によっては裁判所から裁量免責を受けられる場合もあります。
例えば、射幸行為や浪費が借金の原因の一部である場合には、裁量免責を受けられる可能性があるといえます。
また、射幸行為や浪費による借金の割合が高い場合でも、破産手続にしっかり協力し、過去の行為について真摯に反省して生活再建へ向けた態度を示すことができれば、これまた裁量免責の可能性があります。
これらの事情によって裁量免責を受けるためのポイントについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
(5)債権者一覧表への虚偽の記載
自己破産を申し立てる際には、債権者とそれぞれの債務額を記載した債権者一覧表を提出する必要があります。
債権者一覧表にはすべての債権者を記載しなければならないところ、これに反して一部の債権者を記載しないといった虚偽の債権者一覧表を提出することは、免責不許可事由に該当します。
例えば、友人からの借金について、友人に迷惑をかけたくないなどの理由であえて記載しない場合などがこれにあたります。
債権者に関する情報に虚偽の内容がある場合もまた、債権者平等の原則が果たされないことになるため、この行為は免責不許可事由とされています。
自己破産手続を行う際には、正確な情報に基づいて債権者一覧表の作成を行う必要があることを覚えておきましょう。
一部の債務について記載しないことや虚偽の記載を行うことのリスクについては、以下の記事でも解説していますので、ぜひご参照ください。
(6)裁判所に虚偽の説明、破産管財人の業務を妨害すること
裁判所や破産管財人の調査に対して、説明を拒否したり、虚偽の説明をしたりする行為も、免責不許可事由になります。
破産管財人は、自己破産の手続が管財事件とされた際に裁判所が選任する者で、ほとんどの場合は弁護士から選ばれます。
その職務は、債務者の財産調査や換価処分、債権者への配当と報告などです。
この破産管財人の業務を妨害することは、債権者全体の利益を害することにつながりますので、免責不許可事由とされています。
数ある免責不許可事由の中でも、特に免責が受けられなくなるリスクが高い行為であり、管財人との面談を拒否したり、理由なく債権者集会を欠席したりすると、免責不許可となる蓋然性がかなり高くなります。
裁判所・管財人が行う手続には協力しましょう。
(7)過去7年以内に自己破産を行い免責許可決定を受けたこと
過去7年以内に自己破産を申し立て、その際に免責許可決定を受けていたことも、免責不許可事由とされています。
短期間に何度も免責許可決定を受けられるとすると、安易に借金を滞納することになり、債務者の生活が安定しませんし、債権者の利益も大きく害されることになります。
そのような弊害を防ぐためにこのような免責不許可事由が設けられています。
なお、7年以内の再度の自己破産であっても、債務負担の原因が異なっている場合には裁量免責を受けられる可能性があります。
2回目の自己破産を行う際の条件や注意点については、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
3.免責不許可となった場合の対処法
自己破産の申立てを行ったものの、免責不許可となった場合には、以下のような対応を行うことが考えられます。
- 即時抗告を行う
- ほかの債務整理の手続を行う
ただし、以下で説明するとおり、1の手続がうまくいく可能性はほとんどありません。
免責不許可となった場合には、弁護士に相談・確認しながら別の手続を検討することが最も重要ですが、これも債務額や収入の兼ね合いで難しいことがあります。
まずは、免責不許可とならないよう、しっかり弁護士と相談して破産手続を行うことを心がけましょう。
(1)即時抗告を行う
免責不許可の決定が裁判所から出された場合には、その決定に対して即時抗告という異議申立て手続を行うことができます。
もっとも、免責不許可の決定が出された場合、即時抗告を行っても、その決定が覆るケースはほとんどないといってよいものになっています。
そもそも、裁量免責が認められることが多い中で免責不許可決定が出されるのは、重大な免責不許可事由が明らかであるなどの事情があることがほとんどです。
したがって、免責不許可となった場合には、後述するほかの債務整理手続を行うことを検討するのがよいでしょう。
なお、即時抗告の手続の流れについては、以下の記事でも解説しています。
(2)ほかの債務整理の手続を行う
重大な免責不許可事由が存在することが明らかな場合などには、自己破産ではなく、ほかの債務整理の手続を行うことも検討しましょう。
具体的には、以下の2つがあります。
- 個人再生
- 任意整理
順にご説明します。
#1:個人再生
個人再生は、借金の返済が困難であることを裁判所に認めてもらい、借金の総額に応じて減額された金額を原則3年(最長で5年)にわたって分割返済する再生計画について、裁判所の認可決定を受けて、そのとおりに返済していくという手続です。
自己破産とは異なり、借金の返済義務を免れることはできませんが、最大で10分の1まで借金の減額を認めてもらえる場合があります。
具体的には、借金の総額によって、以下のように最低弁済額が定められています。
借金総額 | 最低弁済額 |
100万円未満 | 借金総額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円超え1500万円以下 | 借金総額の5分の1 |
1500万円超え3000万円以下 | 300万円 |
3000万円超え5000万円未満 | 借金総額の10分の1 |
もっとも、個人再生を行うためには、借金の総額が5000万円を超えないことや安定した収入があるなどの要件を満たす必要があります。
また、不動産や車、預貯金などの高額な財産を所有している場合は、返済しなければいけない金額が高額になる可能性もあります。
まずは弁護士に相談して、個人再生を行うための要件を満たしているかどうかについて確認することが重要です。
#2:任意整理
任意整理は、将来発生する利息のカットや返済スケジュールの再設定について債権者と交渉を行うことで、返済の返済負担を軽減する手続です。
自己破産や個人再生とは異なり、裁判所を介さずに行うことができるため、手続を行う際の要件が厳格には定められていないことが特徴です。
もっとも、継続的に返済を行う必要があるため、一定の収入があることが前提となります。
また、任意整理手続では5年程度の分割返済の交渉を行うことが多いため、借金が上記期間で分割して返済できる金額であることも必要となります。
まとめ
本記事では、自己破産を行うための条件や免責不許可事由の具体例について解説しました。
自己破産を行うためにはいくつかクリアしなければならない条件があり、手続を開始できたとしても借金の免除を受けられるかどうかについて条件があります。
仮に、借金の免除を受けられなくなる免責不許可事由があっても、裁判所の判断による裁量免責を受けられる可能性はあります。
そのため、免責不許可事由に掲げられているような事情がある場合にも、まずは弁護士に相談することが重要です。
弁護士法人みずきでは、これまでに数多くの自己破産の手続に対応してきました。
経験豊富な弁護士が丁寧にお話を伺いますので、自己破産を行うことにお悩みの方はお気軽にご相談ください。
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