自己破産の手続中にしてはいけないことは?手続後の影響についても解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「自己破産の手続中に避けるべきことは何なのか」
「自己破産をするとどんな影響が生じるのか」

自己破産を行うことを検討している方の中には、手続中にどのようなことに気をつけなければならないのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

自己破産は裁判所を介して行う手続であるため、手続中にはさまざまな注意点があります。

本記事では、自己破産の手続中に気をつけるべき行為について解説します。

また、手続後の影響についても合わせて解説しています。

自己破産を行うことを検討されている方の参考となれば幸いです。

1.自己破産の手続中に避けるべき行為

自己破産は、裁判所に借金の返済が困難であることを認めてもらい、免責許可決定を受けた上で借金の返済義務を免除してもらう手続きです。

一定以上の財産を所有している場合には、裁判所が選任する破産管財人がその財産を管理・換価処分を行った上で債権者に配当が行われます。

自己破産の手続きは、免責許可決定が下されるまでは法律の定めに従って進行します。

そのため、申立ての準備から自己破産を申し立てて、裁判所から免責許可決定が下されるまでの間は、手続きへの影響から以下のような行為は避けなければなりません。

自己破産の手続中に避けるべき行為

  1. 新たに借入れを行うこと
  2. 偏頗弁済を行うこと
  3. 財産の隠匿・処分を行うこと
  4. 換金行為を行うこと
  5. ギャンブルや浪費を行うこと
  6. 自己破産の費用を支払わないこと
  7. 裁判所や破産管財人に虚偽の説明をしたり調査に協力したりしないこと
  8. 離婚すること

これらの行為を行ってしまうと、免責許可決定を受けることができず、自己破産の手続きを行っても借金の返済義務が免除されない可能性があります。

なお、免責不許可事由の詳細については、以下の記事もご参照ください。

2022.07.03

自己破産手続きで免責不許可となるケースとは?

(1)新たに借入れを行うこと

自己破産を行う場合、申立て直前に新たな借入れを行うことは避ける必要があります。

通常、自己破産の手続中は新たな借入れをすること自体が難しくなります。

自己破産をはじめとする債務整理の手続きを弁護士に依頼すると、債権者に対して受任通知が送付され、これを受け取った債権者は債務者に対して直接督促や取立てをすることができなくなります。

また、債権者が受任通知を受け取ると、信用情報機関に申告し、事故情報が登録されてしまいます。

信用情報機関とは、各金融機関から個人の借入れや返済に関する情報の提供を受けてこれを管理し、金融機関などから照会を受けた場合にその情報を開示する機関です。

信用情報機関に事故情報が登録されるということは、債務者に返済能力がないことを示す情報となります。

借入れなどの申込みを受けた金融機関は、審査のために信用情報機関に対して申込者の情報について照会するので、事故情報が登録されていた場合には、審査に通りません。

したがって、通常であれば、自己破産の手続中に新たな借入れを行うことはできないのです。

もっとも、弁護士に依頼する前であれば借入れを行うことは可能ですが、自己破産を行うことを前提に新たな借入れを行うことはやってはいけません。

返済する意思がないことや返済できないことを認識した上で借入れを行ったと裁判所に判断されると、免責許可決定を受けられない可能性が高まります。

また、借入れを行った経緯に関して、債権者を害する意図があれば、詐欺罪が成立する可能性もあるのです。

以上のことから、自己破産の手続にも大きな影響を与えるため、新たな借入れは絶対に止めましょう。

(2)偏頗弁済を行うこと

自己破産手続の前に、偏頗弁済を行うことも禁止行為とされています。

偏頗弁済とは特定の債権者のみに返済を行うことです。

例えば、友人や家族からの借入れがある場合に、迷惑をかけたくないという理由で先に返済する行為が挙げられます。

自己破産では、すべての債権者を平等に扱うべきであるとする「債権者平等の原則」という考え方に基づいて手続きが進められるため、特定の債権者のみに返済を行うことは、この「債権者平等の原則」に反することになり、禁止されているのです。

したがって、近しい人からの借入れであっても、優先的に返済しないようにしましょう。

(3)財産の隠匿・処分を行うこと

自己破産の準備から自己破産の手続中に、財産隠しを疑われるような行動をしてはいけません。

具体的には、以下のような行動に注意が必要です。

財産の隠匿・処分を疑われる行為の具体例

  • 不動産や車を安価な値段で売却する
  • 預金を引き出して家族名義の口座に移す
  • 高価な貴重品などを無償で譲渡する など

自己破産では、一定額以上の財産を所有している場合には、その財産の換価処分が行われ、債権者に配当されます。

そのため、財産を隠匿したり処分したりすることは債権者への配当を減少させる行為になり、免責不許可事由の1つとされるのです。

また、不当に財産を処分したと判断されれば、破産管財人が否認権を行使し、その処分行為の効力が否定されます。

処分行為の効力が否定されると、流出した財産は元に戻り、債権者に公平に分配される仕組みです。

なお、預金の引き出しに関するリスクと注意点については以下の記事もご参照ください。

2023.02.28

自己破産手続をした場合に預金口座から現金の引き出しができるの?

また、否認権が行使される具体的なケースについては以下の記事でも詳しく解説しています。

2024.09.30

否認権の行使とは?その効果や具体的なケースについて弁護士が解説します

(4)換金行為を行うこと

自己破産の準備から自己破産の手続中に、換金行為を行うことも避けましょう。

換金行為とは、クレジットカードのショッピング枠で購入した商品などを転売したり換金したりする行為のことです。

仮にクレジットカードのショッピング枠で商品を購入したとしても、相場よりも低い価格でしか売却・換金できないケースがほとんどであり、その分だけ債権者の配当原資を減少させることにつながります。

債権者を害する行為とみなされる可能性が高いので、換金行為を避けることが重要です。

なお、クレジットカードの現金化の概要やリスクについては以下の記事も参考になります。

2024.11.29

クレジットカードの現金化とは?違法性と主なリスクを解説

(5)ギャンブルや浪費を行うこと

自己破産の準備から自己破産手続中にギャンブルや浪費を行うと、裁判所から免責が認められない可能性が高まります。

また、ギャンブルや浪費によって多額の借金を負ったこと自体が免責不許可事由となるため、注意が必要です。

自己破産中には家計収支表の作成・提出が必要となるので、ギャンブルや浪費を行うと裁判所や破産管財人に知られてしまいます。

したがって、ギャンブルや浪費をしたことを隠していても、裁判所等に知られる可能性は高いです。

なお、自己破産とギャンブルや浪費との関係については、以下の記事も合わせてご覧ください。

2023.01.31

ギャンブルの借金は自己破産は可能なのか?免疫を受けるポイント

2022.12.31

FXの借金で自己破産はできる?できないケースとできないときの対処法

(6)自己破産の費用を支払わないこと

自己破産を行うための費用の支払いができない場合には、自己破産の手続自体を行うことができなくなります。

そもそも自己破産を行うためには、裁判所に対して費用(予納金)を納付しなければなりません。

また、弁護士に手続を依頼する際には、弁護士費用も必要です。

自己破産をするにも費用が発生するので、弁護士が受任通知を送付し、手続の準備をしている期間を利用して、予納金や弁護士費用を用意しましょう。

なお、予納金の相場や支払えない場合の対処法については以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。

2022.11.30

自己破産を行う際の費用は?主な費用項目と相場、払えない場合の対処法も解説

2022.11.30

自己破産の費用が払えない時はどうすれば良い?費用の目安と対処法を解説

(7)裁判所や破産管財人に虚偽の説明をしたり調査に協力しないこと

裁判所や破産管財人の調査には協力する義務が生じるため、虚偽の説明や調査不協力をしないようにしましょう。

調査や質問に対して虚偽の説明を行ったり調査に応じなかったりすると、免責が認められない可能性があります。

具体的には、裁判所へ提出する債権者一覧に特定の債権者を記載しなかったり帳簿を偽造したりする行為は避けなければなりません。

特に債権者一覧に記載しなかった債権者の債権については、免責の対象外となってしまうため、注意が必要です。

なお、詳細については以下の記事もご参照ください。

2023.02.27

自己破産手続で友人からの借金を隠すリスクとは?友人に迷惑をかけない方法

(8)離婚すること

これはやってはいけないことではないのですが、破産手続中に離婚をした場合には裁判所や破産管財人に説明や疎明をすることが増えてしまう可能性があります。

離婚に伴う財産分与が財産の隠匿や処分と疑われてしまった場合は、自己破産の手続を煩雑化し、長期化する可能性が高まります。

そのため、可能であれば離婚の手続きは自己破産後に行うことが望ましいでしょう。

なお、離婚と自己破産の関係については以下の記事でも解説しています。

2023.01.31

自己破産は離婚の前後どちらですべき?自己破産後の配偶者・元配偶者への影響

2.自己破産中に制限がかかること

自己破産の準備から手続中は上記で紹介したように注意しなければならないことがたくさんあります。

また、これらに加えて、自己破産の手続中には、以下のような行為に制限が加わる点にも注意が必要です。

自己破産中に制限がかかること

  1. 一定の職業や資格に就くこと
  2. 転居や出張などをすること
  3. 郵送物を受け取ること

順に解説します。

(1)一定の職業や資格に就くこと

自己破産の手続中は、一時的に一定の職業に就くことや資格に関する業務ができなくなります。

具体的には、以下のとおりです。

自己破産の手続中に制限される資格・職業

  • 弁護士
  • 司法書士
  • 税理士
  • 公認会計士
  • 保険募集人(保険外交員)
  • 証券外務員
  • 警備員 など

そのため、これらの仕事に就いている場合、自己破産の申立てをして開始決定が出てから免責許可決定を受けるまでの間は休職や転職をしなければならないケースがある点に注意が必要です。

なお、免責許可決定を受けた後は、従来どおり仕事をすることができます。

資格や職業の制限の詳細については、以下の記事でも詳しく解説しているので合わせてご参照ください。

2022.07.04

自己破産すると仕事ができなくなる?自己破産による職業制限について

(2)転居や出張などをすること

自己破産の手続中は、転居や旅行・出張などの移動を伴う行動に制限が加えられます。

手続中に破産者が逃亡したり財産の隠匿を図ったりするなどして、手続きの進行が滞るのを防止するためです。

なお、裁判所や破産管財人の許可を得ることができれば、転居や旅行、出張等を行うことができます。

そのため、手続中でもまったく移動ができないわけではありません。

手続中に転居や出張などを行う際は、まずは裁判所や破産管財人にその必要性を伝えて事前に許可を得ることが大切です。

自己破産手続中の転居や旅行などの注意点については、以下の記事もご参照ください。

2021.11.29

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2021.11.29

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(3)郵送物を受け取ること

破産管財人が選任される管財事件になれば、自己破産の手続中は、郵便物を自由に受け取ることができなくなります。

管財事件の場合、手続中に破産者に送られる郵送物は、破産者が財産隠しや処分をしていないかを確認するために、一度破産管財人に転送されるのです。

もっとも、破産管財人が確認した後に破産者本人に郵便物は渡されます。

また、免責許可決定を受けて自己破産の手続きが終了すれば、破産管財人への転送もされなくなります。

3.自己破産後の主な影響

自己破産を行った結果、免責許可決定を受けると借金の返済を行う必要がなくなり、自己破産の開始決定以降に得た財産は自由にすることができます。

他方で、自己破産後には以下のような影響が生じる点には注意が必要です。

自己破産後の主な影響

  1. クレジットカードやローンの利用が一定期間できない
  2. 携帯電話などの分割払いの利用ができない
  3. 奨学金などの保証人になることができない

順にご説明します。

(1)クレジットカードやローンの利用が一定期間できな

自己破産を行うことで、信用情報機関に一時的に事故情報が登録されるため、クレジットカードやローンの利用ができません。

そのため、免責許可決定後、事故情報が登録されている期間はクレジットカードやローンの審査が通らない可能性が極めて高いです。

なお、事故情報が登録されている間の影響や注意点などについては、以下の記事もご覧ください。

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自己破産後に借金はできるのか?借金するときの注意点

(2)携帯電話などの分割払いの利用ができない

信用情報機関に事故情報が登録されている期間は、携帯電話などの分割払いの利用もできません。

分割払いの申し込みを受けた会社は信用情報機関に照会を行うため、事故情報が登録されている場合、返済能力がないと判断される可能性が高いです。

したがって、スマホの端末代金を分割払いで購入するといったことができない可能性があります。

信用情報機関に事故情報が登録されている間は分割払いの利用ができないと想定しておきましょう。

(3)奨学金などの保証人になることができない

保証人になる際にも信用情報を確認されるので、自己破産後から一定期間は奨学金などの保証人になることもできません。

具体的には、子どもの奨学金や配偶者の起業資金等の保証人になることは困難です。

そのため、事故情報が登録されている間には、配偶者や親族などに奨学金の保証人になってもらうなどの対応が考えられます。

4.弁護士に自己破産について相談・依頼するメリット

自己破産の手続きは弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。

弁護士に相談・依頼することで以下のようなメリットがあります。

弁護士に自己破産について相談・依頼するメリット

  1. 自己破産を行うことが適切かアドバイスを受けられる
  2. 手続きに必要な書類作成・資料収集を任せたりサポートを受けられる
  3. 債権者や裁判所への対応を一任できる

順にご説明します。

(1)自己破産を行うことが適切かアドバイスを受けられる

弁護士に相談することで、自己破産を行うことが適切かアドバイスを受けられます。

借金の金額や収入、資産等で自己破産をすべきかどうか変わるので、借金の返済に困った場合には、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。

また、自己破産は裁判所を介して行う手続きであるため、自己破産を行って免責許可を受けるには法律上の要件も満たしていなければなりません。

弁護士に相談することで、自己破産を行う要件を満たしているかどうかについても説明を受けることができます。

なお、自己破産を行うための条件については、以下の記事で詳しく解説しています。

2021.10.31

自己破産を行うための条件とは?免責不許可事由についても弁護士が解説

(2)手続きに必要な書類作成・資料収集を任せたりサポートを受けられる

手続きに必要な書類作成・資料収集を弁護士に任せたり、サポートを受けることができます。

自己破産の申立ての際には、申立書類や添付資料など、さまざまな書類・資料を収集し、裁判所に提出する必要があります。

所有する財産の種類や金額などによっても収集すべき資料などは異なるため、債務者本人が1人で揃えようとするとかなりの負担がかかります。

そのため、弁護士に相談して、アドバイスやサポートを受けながら効率良く手続きの準備を進めることが重要です。

自己破産の申立てに必要な書類・資料の概要や注意点などについては以下の記事もあわせてご参照ください。

2021.10.31

自己破産で必要な書類について

2021.11.29

自己破産手続に必要な家計収支表とは?書き方や注意点も紹介

(3)債権者や裁判所への対応を一任できる

弁護士に債権者や裁判所への対応を一任することができます。

自己破産によって借金の返済義務を免除してもらうためには、裁判所から免責許可決定を受けなければなりません。

免責許可決定を受けるまで、裁判所や裁判所が選任する破産管財人と何度もやり取りをしなければならず、本人が1人でこなすのは大きな負担がかかります。

弁護士に手続きを依頼すれば、それらやり取りの大半を任せることができますので、弁護士の力を借りるようにしましょう。

まとめ

自己破産の手続中は、気をつけなければならないことがたくさんあります。

特に今回紹介した行為によって、免責許可決定を受けられない可能性が生じますので注意が必要です。

また、自己破産後の生活にどのような影響が生じるのかについても把握しておきましょう。

自己破産は借金の支払義務が無くなるというとても利点のある手続きである反面、一定の負担が生じますので、返済に困ったらまずは弁護士に相談するのがおすすめです。

弁護士に相談することで、ご自身の状況に合った最適な解決策を知ることができ、解決に向けて取り組めるようになります。

弁護士法人みずきでは、借金に関する相談を無料で受け付けておりますので、自己破産を行うことを検討されている方は、お気軽にご相談ください。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。