自己破産後に手元に残せる財産はある?現金の扱いや自由財産について解説
「自己破産後に手元に財産を残すことはできるのか」
「自己破産をしても手元に残すことができる財産にはどのようなものがある?」
借金の返済が滞り、自己破産を行うことを検討されている方の中には、財産をすべて手放さなければならないと考えている方も少なくありません。
確かに、自己破産を行うと一定額以上の価値がある財産については破産管財人によって換価され、債権者に配当されます。
とはいえ、自己破産は破産者の生活再建のための手続ですから、一定程度の財産は手元に残すことが可能です。
破産手続のうえでは、破産手続を経ても手元に残すことができる財産のことを「自由財産」といいます。
本記事では、自己破産後に残せる財産にはどういうものがあるのか、そして注意すべきポイントについて解説します。
1.自由財産とは
結論から述べると、自由財産の範囲内であれば、自己破産を行ったとしても財産を手元に残すことができます。
自由財産とは、破産手続において破産財団に属さず、破産者が自由に管理処分できる財産のことです。
破産財団とは、破産管財人が管理や換価換金をして債権者に配当する破産者の財産のことです。
ちなみに、破産手続を申し立てる際、申立人が自由財産の範囲を超えた財産を保有している場合、裁判所は管財事件として取り扱います。
自己破産の手続は大きく分けると同時廃止事件と管財事件があり、債務者が自己破産を申し立てた時点で一定以上の財産を所有しており、債権者への配当ができる場合には管財事件に振り分けられます。
同時廃止と管財事件に振り分ける基準は、裁判所ごとに異なります。
同時廃止事件と管財事件とでは、破産管財人が選任されるかや予納金の金額など、細かなところで違いがあります。
予納金の項目や費用相場については、以下の記事で解説していますので、合わせてご参照ください。
2.どのようなものが自由財産にあたるのか
自由財産に該当する財産は具体的には、以下のとおりです。
- 99万円以下の現金
- 破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)
- 差押禁止財産
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産
順にご説明します。
(1)99万円以下の現金
99万円以下の現金については、自由財産として扱われ、処分の対象とはなりません(破産法34条3項1号)。
具体的には、民事執行法131条3号に規定する金額に2分の3を乗じて得た金額とされています。
民事執行法131条3号では、2か月生活するために必要となる金額として66万円は差し押さえてはならないと規定しています。
そして、破産法34条3項1号に基づいて66万円に2分の3を乗じた金額である99万円までが自由財産となります。
(2)破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)
破産手続開始決定のあとに取得した財産は、原則破産手続を経ても手元に残すことができます。
破産手続は、破産開始決定時までの財産を整理するものです。
そのため、換価処分の対象となるのは、破産開始決定時までの財産に限られ、破産手続が開始した後に取得した財産は、破産者は自由に管理・処分することができます。
(3)差押禁止財産
差押禁止財産は破産手続を経ても手元に残すことができます。
差押えとは、債務者が借金を返さない場合などに、債権者が借金を回収するために債務者の財産を強制的に返済にあてる法的手続です。
しかし、すべての財産を差し押さえられてしまうと、債務者が生活できなくなってしまうため、一定の財産については差押えができないこととなっています。
その財産を差押禁止財産といいます。
差押禁止財産については自由財産として扱われ、破産者が引き続き管理処分することができます。
差押禁止財産に該当するのは、以下のような財産です。
- 生活に必要な家財道具
- 給料の4分の3
- 生活保護の受給権
- 被災者の生活再建支援金 など
生活する上で必要不可欠な財産と判断されるものは、差押えが禁止されているのが一般的です。
代表的なものを挙げましたが、ほかにも該当する財産があるので、具体的な内容について詳しく知りたい方は弁護士に相談してみましょう。
(4)破産管財人によって破産財団から放棄された財産
一度破産財団に属した財産でも、破産管財人の判断によって破産財団から放棄されたものは、破産者が自由に管理できるようになります。
破産管財人が管理する財産のうち、現金化が困難であると判断されたものや費用倒れになるものについては、破産者に返還されるのが一般的です。
たとえば、老朽化や事故によって市場価値が著しく落ちた車などは、破産管財人から現金化が難しいと判断される可能性があります。
そのため、破産管財人から換金できないと判断された財産については手元に残すことができますが、換価できるかどうかは厳格に判断される事柄であり、このような扱いとなるものは多くありません。
3.自由財産は拡張することができる場合がある
では、99万円の現金以外の財産で、後述する差押禁止財産でもない財産は、自己破産をしたら手放さないといけないのでしょうか。
この点、各地の裁判所は「個別の換価基準」と「自由財産拡張申立て」というものを設けています。
個別の換価基準に該当する財産は、破産手続において換価して財団にいれなくてよい、つまりは自己破産手続きを経ても手元に残すことができるということです。
個別の換価基準に該当する財産は、破産者の申立てや裁判所の職権によって自由財産とすることができます。
この自由財産ではないものを自由財産とすることを自由財産を拡張すると表現します。
以下に詳細を解説します。
(1)自由財産拡張申立て
自由財産の拡張は、裁判所が職権でやる場合と、破産者が申し立てる場合とがあります。
破産者から自由財産拡張の申立てがあった場合、裁判所は、破産者の生活状況、破産手続開始時に破産者が有していた自由財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込み、その他の事情から自由財産を拡張すべきかを判断します。
そのため、申立てをする際には、保有する財産のすべてについて裁判所に漏れなく説明し、生活状況や収入状況などの事情を踏まえて、自由財産の拡張の必要性を具体的に説明することが求められます。
また、自由財産の拡張の必要性を判断するにあたって、裁判所から追加の資料などの作成・提出を求められることもあります。
(2)自由財産拡張が認められうるケース
自由財産の拡張が認められた財産は、手元に残すことができます。
この章の冒頭で説明した各裁判所が設けている「個別の換価基準」に該当する財産は、自由財産の拡張の判断が比較的緩やかです。
たとえば、東京地裁では、以下のものについて原則として自由財産の拡張を認める運用をとっています。
- 残高20万円以下の預貯金
- 口座が複数ある場合には、合算して20万円以下
- 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金
- 複数口ある場合は、合算して20万円以下
- 処分見込額(評価額)が20万円以下の自動車(自動車ローンなどが残っていれば所有権留保などによって債権者が自動車を換価・処分する可能性がある)
- 居住用家具の敷金債権
- 電話加入権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当
- 家財道具(通常の生活に必要なもの)
先ほどご説明したとおり、自由財産の拡張は、破産者の生活状況、破産手続開始時に有する自由財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込み、その他の事情を考慮して決められます。
しかし、実際にどのような財産について自由財産の拡張が認められるかは、裁判所によって運用が異なります。
自己破産の申立ては、各裁判所の運用について弁護士に確認をした上で、行うことが望ましいでしょう。
4.自由財産として認められない財産を手元に残したい場合
破産手続のうえで手元に残すことができる財産を自由財産といい、自由財産は99万円以下の現金など限定的に決まっていいること、自由財産として定められた以外の財産を手元に残したい場合は自由財産の拡張が必要であること、そして、自由財産拡張は各裁判所が設けた個別の換価基準に該当する範囲は比較的緩やかな判断がなされ、それ以上の拡張は裁判所は個別具体的な事情に基づいて判断することをご紹介しました。
破産は、法律に則って破産者の財産を債権者に公平に分配し、残りの債務を免除することで、破産者を経済的に立ち直らせる手続です。
そのため、破産手続を使う以上、裁判所が自由財産として認めない財産を手元に残す方法はありません。
破産財団にいれなければならないくらいなら隠してしまおうと思ってしまう方もいるかもしれませんが、財産を隠す行為は絶対に避けましょう。
もしも財産を隠していたことが発覚した場合、破産の目的である免責が受けられないばかりか、詐欺破産罪として10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。
自由財産として認められない財産をどうしても残したい場合には、個人再生を検討してみましょう。
個人再生では、一定の要件を満たせば、不動産などを残すことができます。
どの手続を選択することが望ましいかは、借金の総額や収入状況などによって異なります。
ご自身の状況に最適な解決方法を知りたい場合には、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
なお、個人再生の手続については以下の記事も合わせてご参照ください。
まとめ
本記事では、自己破産における自由財産の内容やその拡張などについて解説しました。
自己破産をしても、自由財産は手元に残すことができます。
もっとも、一定以上の現金が手元にある場合には自己破産手続が管財事件に振り分けられるなど、裁判所によって運用が異なることに注意が必要です。
自分の財産が自由財産にあたるのかついて疑問や不安がある場合には、まずは弁護士に相談・確認するのがおすすめです。
弁護士法人みずきでは、自己破産に関する相談を無料で受け付けておりますので、自己破産をしても手元に残せる財産について不明なことがある方はお気軽にご相談ください。
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