借金の消滅時効が成立する条件について

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。

「借金の時効っていつなるの」
「時効が成立するとどうなるのか」
「借金の時効が成立するにはどんな条件が必要なのか」

借金がある方の中には、どのような場合に時効が成立するのか気になる方もいるかと思います。

結論からいいますと、個人の方が消費者金融や銀行から借りた借金は5年で時効期間が経過して時効を援用することで消滅します。

ただし、一部弁済や債権者による支払督促の申立てなどの事情によって時効の完成を妨げられたり時効がリセットされたりすることがあり、また、時効の効果を確定させるためには時効の援用が必要であるなど、時効に関してはよく注意しなければいけない点も多くあります。

本記事では、借金の消滅時効の条件や消滅時効が成立するまでの流れをご説明します。

この記事を読んで、借金の時効について理解し、必要のない返済をしないようになっていただければ幸いです。

1.借金の消滅時効とは

消滅時効とは、時効制度の一種であり、一定期間の経過によりもともとあった権利を消滅させるというものです。

ここでは、消滅時効がどういうものか、時効制度の概要と合わせてみてみましょう。

(1)時効とは

たとえば、債権者が借金の返済を請求しないままでいたために消滅時効が成立すると、債権者の、債務者に対して借金を返せと請求する権利は消滅し、債務者は借金を返済する必要がなくなります。

このように、権利を行使しないという事実状態が一定期間継続した場合に、その権利を消滅させるのが消滅時効という制度です。

時効とは、所有権や債権その他の財産権について、ある状況が一定期間継続した場合に、実際の権利関係ではなく、継続した状況に沿った権利関係が発生することを認める制度です。

時効制度があることによって、本来の権利者の権利を消滅させたり、逆に本来は権利がない人に権利を取得させたりすることが生じます。

先に説明した消滅時効と反対に、外見上権利者に見える状況が一定期間継続した場合に、権利の取得を認める取得時効というものもあります。

(2)時効制度の存在理由

繰り返しになりますが、時効は、権利者の権利を消滅させたり、無権利者に権利を取得させたりする制度です。

そのような強制的に権利を奪うような制度が認められる理由については以下の3つがあるとされています。

これらの理由により、長時間継続している事実状態の方が、本来の権利よりも優先することが認められています。

#1:長期間継続している事実状態の尊重

長期間ある状況が継続すると、その状況を前提とした法律関係が形成されていきます。

これを本来の権利関係に無理やり戻そうとすると、形成された法律関係が崩壊してしまいますので、継続している状況の方を保護する必要がある、ということになります。

#2:立証困難に対する法的救済

時間が経過すればするほど、証拠が失われ事実の証明が困難になる可能性は高くなります。

本来的にも権利があるのに証拠がなくその権利が認められないという事態を救済するためにも、長期間継続した状況があれば権利を認める時効制度は必要となります。

#3:権利の上に眠る者の保護は必要ない

たとえ正当な権利者であっても、いつでも権利を行使してそれを維持することができたにもかかわらず、長期間それを怠った者については、保護する必要性が少ないといえます。

そのため、このような者が権利を失うことになっても文句は言えないだろうと考えられます。

2.借金の消滅時効が成立する条件

時効は、本来の権利を失わせるものであるため、一定の条件がそろって初めて成立するようになっています。

ここでは、借金の消滅時効が成立する条件について説明していきます。

(1)消滅時効期間が経過していること

消滅時効が成立するには、一定の時効期間が経過することが必要です。

消滅時効期間については、令和2年4月1日、時効について定める民法の改正が行われたことにより変更されています。

以下、改正前と改正後に分けて説明していきます。

#1:改正後(借入れが令和2年4月1日以降に行われた場合)

令和2年4月1日以降に借入れが行われた場合、ほとんどのケースで債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間で消滅時効期間が経過します。

法律の文章上は、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年経過したとき」または「権利を行使することができる時から10年経過したとき」に消滅時効が完成するとされています(166条1項1号)。

ここでいう「債権者が権利を行使できる時」とは、支払期限を決めていればその日であり、決めていない場合はお金を借りた日です。

お金を借りた場合、貸した側はお金を返せと請求できることを知っているはずですから、「権利を行使できる時」は「権利を行使できると知った時」と同じになるのが一般的です。

したがって、令和2年4月1日以降に借入れが行われた場合は、ほとんどのケースで「債権者が権利を行使できると知った日から5年」が先に到来するため、時効までの期間は5年と考えられます。

#2:改正前(借入れが令和2年3月31日以前に行われた場合)

令和2年3月31日以前に借入れをした場合の消滅時効期間は、債権者が権利を行使することができる時から10年間です(改正前166条1項、167条1項)。

「権利を行使することができる時」の意味は改正後と同じです。

債権者が株式会社等の商人である場合、消滅時効期間は5年間になります(改正前商法522条)。

ただし、金融機関であっても信用金庫などは商人ではないので時効期間は10年間となります。

(2)時効の完成猶予・更新がないこと

一定の事由が生じた場合、時効の進行が妨げられることがあります。

一定期間時効の完成が止められてしまうことを「時効の完成猶予」、進行している時効期間がリセットされてしまうことを「時効の更新」といいます。

時効の完成猶予、更新があると、時効が完成しなくなってしまいますので、それらの効果を発生させる事由がないことを確認する必要があります。

時効の完成猶予、更新の効果を発生させる事由はいろいろありますので次の章にまとめておきます。

(3)時効援用をしていること

時効の援用とは、消滅時効の場合、債務者が債権者に対して消滅時効完成による利益(債権の消滅の効果)を受ける意思表示をすることをいいます。

消滅時効期間が経過しただけで効果が発生するわけではなく、この時効の援用をしないといけないこととなっています。

3.時効の完成猶予・更新事由

すでに説明したとおり、時効の完成猶予・更新の効果を発生させる事由はいろいろなものがあります。

それらの事由を以下の表にまとめましたので、当てはまる事由がないかチェックしてみてください。

事由 完成猶予 更新 備考
裁判上の請求

支払督促

和解、調停

破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

(民法147条)

その事由の終了まで時効の完成が猶予される。

ただし、確定判決等を取得できずにその事由が終了した場合は、終了の時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予される。

確定判決等により権利が確定した時に時効が更新される。 時効期間が10年より短い場合、更新後の時効は10年となる(169条1項)。
強制執行

担保権の実行

競売

財産開示手続または情報取得手続

(民法148条)

その事由の終了まで時効の完成が猶予される。

ただし、取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しの場合は、終了の時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予される。

その事由が終了した時に時効が更新される。
仮差押え

仮処分

(民法149条)

その事由の終了の時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予される。
催告

(民法150条)

催告の時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予される。 催告の繰り返しによる再度の完成猶予はない。
協議を行う旨の合意

(民法151条)

合意の時から1年、当事者が定めた協議期間または当事者の一方による協議続行の拒絶の時から6か月のいずれか早い時を経過するまで時効の完成が猶予される。 協議の合意の繰り返しによる完成猶予は最長5年間。
承認

(民法152条)

承認の時に時効が更新される。 借金の一部の返済など、債務の存在を認める債務者の行為はいずれも承認とされてしまう。
天災等

(民法161条)

障害の消滅の時から3か月を経過するまで時効の完成が猶予される。

債権者から訴訟の提起や支払督促の申立てがあった場合、判決や仮執行宣言付き支払督促が確定してしまうと、それまでに消滅時効が完成したとしても更新によりリセットされてしまいます。

そのため、答弁書に記載するなどして時効を援用しないと、せっかく完成した消滅時効が無駄になってしまいます。

また、消滅時効期間経過後に承認をしてしまった場合も、最高裁判所の判例によりその後に時効を援用することができなくなってしまうとされています。

消滅時効期間が経過したからといって安心せず、早めに時効援用をして効果を発生させるのがよいでしょう。

4.消滅時効の効果が発生するまでの流れ

ここでは、実際にどのような順番で時効の効果が発生するようになるのかを説明していきます。

(1)時効期間の経過

まず、当然ながら、消滅時効期間が経過しなければいけません。

(2)時効が完成していることを確認する

消滅時効期間が経過していても、時効の完成猶予、更新事由がある可能性もあります。

訴訟を起こされたことがないか、あるいは、一部でも借金を返済したことがないかなどを確認してみましょう。

(3)時効を援用する

問題なく時効が完成していたら、時効を援用しましょう。

援用の方法は法律で決められているわけではなく、口頭で伝えることでも効果が発生します。

しかし、時効を援用したことを証拠として残しておかないと、相手方が効力を否定してきた場合に援用したことが認められないということになりかねません。

そのため、内容証明郵便を用いて、客観的に時効の援用を行ったことが証明できるようにすることが望ましいでしょう。

内容証明郵便で時効援用通知を送った場合は、債権者に通知書が届いた時点で時効援用の効果が発生し、借金返済の義務が消滅します。

5.借金の時効を主張する際の注意点

(1)返済をしないでおいても時効が成立する可能性は低い

消滅時効が完成すると債権が消滅してしまいますから、債権者の受ける不利益はとても大きくなります。

そのため基本的には、債権者は時効を完成させないために訴訟提起や支払督促の申立てなどをしてくることが多いです。

そのため、長期間にわたって返済をしていないからといって時効が成立している可能性はそんなに高くはありません。

(2)時効援用に失敗すると遅延損害金が加算される

消滅時効が成立すれば借金がすべてなくなります。

しかし、実際には時効が完成していなかったという場合、長期間返済をしなかっただけになり、遅延損害金が加算されてしまいます。

遅延損害金は、通常の貸付利率よりも高い割合で設定されていることが多いため、返済すべき金額が高くなってしまいますので、注意が必要です。

(3)借金の一部を返済しただけでも時効を債権者に主張できなくなる

すでに説明したとおり、借金の一部を返済することは債務の承認にあたります。

そのため、借金の一部を返済すると時効が更新されてしまいますし、時効完成後に返済した場合も時効援用が認められなくなってしまいます。

そのため、借金を返済する際には時効が完成していないか確認してからにしましょう。

まとめ

本記事では、借金の時効が成立する条件や成立するまでの流れを説明しました。

借金について消滅時効が完成した後に返済してしまうと完成した時効を主張できなくなるので注意が必要です。

時効の完成や更新についての判断は難しいですし、一度でも対応を間違えてしまうと、完成した時効を主張することができなくなる可能性があります。

弁護士に依頼すればそのようなことはなくなりますので、時効についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

債務整理でこんなお悩みはありませんか?

もう何年も返済しかしていないけど、
過払金は発生していないのかな・・・
ちょっと調べてみたい

弁護士に頼むと近所や家族に
借金のことを知られてしまわないか
心配・・・

  • ✓ 過払金の無料診断サービスを行っています。手元に借入先の資料がなくても調査可能です。
  • ✓ 秘密厳守で対応していますので、ご家族や近所に知られる心配はありません。安心してご相談ください。

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。