アスベスト健康被害は労災の対象なのか?受給できる保険の種類と申請方法を解説
「アスベスト健康被害は労災の対象なのか」
「アスベストの労災はどうやって申請するのか」
アスベストの被害に遭われた方の中には、労災の対象になるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、アスベスト健康被害が労災の対象なのかを中心に、受給できる保険の種類や申請方法についてご紹介します。
1.アスベスト健康被害は労災の対象なのか
結論から述べると、アスベスト健康被害は労災の対象になり得ます。
労災は業務中の負傷や疾病、障害等の災害を被った従業員やその遺族に対して適用されます。
そのため、アスベストに関しても業務との関連性を証明できれば、労災保険給付を受給することが可能です。
従業員を一人でも雇用している事業所は、労災保険への加入が原則義務付けられているので、業務中にアスベストの被害を受けた方は、労災保険の申請をしましょう。
2.労災保険で受けられる給付の種類
労災保険で支給される内容には、いくつかの種類があります。
具体的には以下のとおりです。
- 療養補償等給付
- 休業補償等給付
- 傷病補償年金
- 障害補償等給付・一時金
- 介護補償給付
- 遺族補償等給付・葬祭料等(葬祭給付)
- 葬祭料
給付内容について表にまとめましたので、どのような保険を給付できるのか確認しておきましょう。
給付の種類 | 保険給付の内容 | 消滅時効 |
療養補償等給付 | 治療費や入院の費用、看護料、移送費等通常療養のために必要な支出に対する補償 | 療養の費用を支出した日の翌日から2年(支出が発生するたびに請求できる) |
休業補償等給付 | 4日以上休業した場合に、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額を補償 | 賃金が発生しない日の翌日から2年(請求権ごとに発生) |
傷病補償年金 | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313~245日分を補償 ・第1級 313日分 ・第2級 277日分 ・第3級 245日分 |
請求時効なし |
障害補償等給付・一時金 | 障害等級に応じて支給される補償 ・第1~7級まで:給付基礎日額の313~131日分 ・第8~14級まで:給付基礎日額の503~56日分 |
傷病が治癒した日の翌日から5年 |
介護補償給付 | 介護の内容に応じて支給される補償 ・常時介護の場合:介護の費用として支出した額(16万6950円が上限) ・親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が7万2990円を下回る場合:7万2990円 ・随時介護の場合:介護の費用として支出した額(8万3480円が上限) ・親族等により介護を受けており、介護費用を支出していない場合または支出した額が3万6500円を下回る場合:3万6500円 |
介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
遺族補償等給付・葬祭料等(葬祭給付) | 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245~153日分が支給される補償 ①遺族(補償)等年金を受け得る遺族がないとき ②遺族(補償)等年金を受けている人が失権し、かつ、他に受け得る人がいない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき 給付基礎日額の1000日分の一時金が支給される (②の場合は、すでに支給した年金の合計額を差し引いた額) |
被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭料 | 31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額を補償 (額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分) |
被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
3.労災保険の申請方法
労災保険の申請方法についてご紹介します。
基本的な流れは以下のとおりです。
- 診断書を受け取る
- 請求書を作成する
- 労働基準監督署に提出する
労災保険を申請するときの参考にしてみてください。
(1)診断書を受け取る
まずは、アスベストの被害に遭ったことを証明するために、担当医師に診断書を作成してもらう必要があります。
労災保険を申請する旨を担当医師に伝えて、作成してもらいましょう。
(2)請求書を作成する
診断書が手元にきたら、労災保険の請求書を作成しましょう。
請求書は上記で紹介した種類ごとに書式が異なっています。
最寄りの労働基準監督署で受け取ることはできますが、厚生労働省のホームページでもダウンロード可能です。
受給内容に応じた専用の請求書を用意して、必要事項を記入しましょう。
なお、労災保険を申請する際、原則として事業主の証明が必要です。
もしも事業主から証明を得られない場合は、その旨を記載した文書を提出することで申請が可能です。
(3)労働基準監督署に提出する
診断書と請求書等の書類が揃い次第、労働基準監督署に提出します。
不備等が指摘された場合は、ただちに修正したのちに再度提出しましょう。
4.労災保険以外の補償
アスベストによる健康被害を受けた方は、労災保険以外にも補償を受けることができます。
知っておくべき補償は以下の3つです。
- アスベストによる健康被害救済給付
- 建設アスベスト給付金
- 国・企業への損害賠償金
条件を満たす必要はありますが、他にも給付を受けられる可能性があるので、念のためチェックしておきましょう。
(1)アスベストによる健康被害救済給付
労災保険給付の対象にならない場合は、アスベスト(石綿)健康被害救済制度を利用することができます。
アスベスト健康被害救済給付は、職務従事中以外の原因によりアスベスト健康被害を受けた場合など、労災保険が適用されない方向けの制度です。
環境再生保全機構の認定を受ける必要はありますが、医療費等の一定の救済給付金を受け取ることができます。
ただし、労災保険給付を受けた場合は、この制度は利用できません。
(2)建設アスベスト給付金
建設型アスベストの被害者は、国に対して建設アスベスト給付金を請求することができます。
建設現場に従事したことで、アスベストによる病気になった方やそのご遺族が、国から給付金が支給される制度です。
いくつかの条件を満たす必要はありますが、該当者は少なくとも550万円の給付金を受け取れます。
建設アスベスト給付金は、労災保険給付や健康被害救済給付が支給されていても請求することが可能です。
なお、建設アスベスト給付金の申請対象者に関しては、以下の記事で紹介しているので、あわせてご確認ください。
(3)国・企業への損害賠償金
上記のような制度を利用するほか、国や企業を相手に損害賠償金を請求することもできます。
アスベストの危険性があるにもかかわらず、従事させた企業に対して訴訟を提起することが可能です。
また、工場型アスベスト被害については、国に対しても賠償金を請求できます。
いずれの場合も、法律の知識が求められるため、弁護士に相談してみましょう。
なお、工場型アスベスト訴訟の流れや、和解をするために必要な要件に関しては、以下の記事で紹介しているので、そちらもご参照ください。
まとめ
アスベストの健康被害に関して、労災保険を申請することが可能です。
ただし、労災保険にもさまざまな種類があるので、適切な書式で申請しなければなりません。
労災保険以外にもアスベストの被害者のための補償があるので、利用できる制度が何なのか確認しながら申請の手続を進めましょう。
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