アスベストによる健康被害が生じた場合に利用できる給付金について解説
この記事の内容を動画で解説しております。あわせてご視聴いただければと思います。
「アスベストで病気にかかったら給付金がもらえると聞いたのだけれど本当?」
「自分は給付を受けられるのかな?」
かつて、多くの建築物に利用されていたアスベスト(石綿)。
その人体への有害性が発覚した後は製造・使用は禁止されましたが、長い潜伏期間を経て健康被害が出ることも珍しくありません。
今回の記事では、このようなアスベストによる健康被害が生じた場合に利用できる制度の概要をご説明いたします。
この記事を読んで、アスベストによる被害を少しでも回復できるようにしていただければ幸いです。
1.アスベスト関連の給付金制度とは
アスベスト(石綿)とは、文字通り綿のような石(鉱物)であり、ほぐすと非常に細かい繊維になります。
断熱性や保温性に優れていたため、建築現場では広く利用されていましたが、この繊維を吸引してしまうと肺の中に滞留して肺がんなどの健康被害を発生させることがわかりました。
通常、このように業務に起因して健康被害が生じた場合には労災保険によって補償を受けることになりますが、アスベストの特徴は、長期間の潜伏期間があることです。
そのため、健康被害と業務との因果関係を立証するのが困難となります。
また、実際に建設業務を行っていた人以外でも、建設現場の周辺住民などはアスベストによる健康被害を受けている可能性があります。
そのため、アスベストによる健康被害については、大きく分けて2つの給付金制度が設けられています。
(1)建設アスベスト給付金制度
「特定石綿被害検察業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」という法律で設けられた制度で、一定の要件を充たす建設業務に従事していた方は、簡易迅速に既定の給付金を受領できるようになりました。
また、労災保険によって支給決定を受けていた場合には、さらに迅速な手続きにより追加で支給を受けられる場合があります。
(2)石綿(アスベスト)健康被害救済制度
「石綿による健康被害の救済に関する法律」という法律によって設けられた制度で、上記と異なり、建設業務に従事していなかった方などの労災保険の対象外の事案に対して簡易迅速な手続きで一定の給付を受領できる制度です。
2.建設アスベスト給付金制度について
まずは、建設業に従事していたためにアスベスト被害に遭った方のための、建設アスベスト給付金制度について概観していきましょう。
(1)支給対象の要件
以下の#1〜#3を全て充たすことが必要となります。
#1:特定石綿ばく露建設業務に従事したこと
- 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊または解体の作業
- 上記の準備の作業
- 上記2つの作業に付随する作業
に関して、以下の期間に関わっていた方
期間 | 業務 |
昭和47年10月1日
~昭和50年9月30日 |
石綿の吹付の作業に関する業務 |
昭和50年10月1日
~平成16年9月30日 |
屋内作業場で行われた作業に関する業務 |
#2:#1の業務に従事したことにより石綿関連疾病にかかったこと
石綿関連疾病とは以下の疾病の中で、アスベストによって発症したと確認が取れるものを指します。
|
#3:労働者や一人親方等であったこと(またはその遺族であること)
具体的には、以下の方々が該当します。
- 労働者
- 中小事業主
- 一人親方
- 家族従事者
- 遺族
(2)給付金の額
上記に該当する方は、その疾病の内容や状況によって、以下の通り支給額が原則として定められています。
1 | 石綿肺管理2で、じん肺法所定の合併症のない方 | 550万円 |
2 | 石綿肺管理2で、じん肺法所定の合併症のある方 | 700万円 |
3 | 石綿肺管理3で、じん肺法所定の合併症のない方 | 800万円 |
4 | 石綿肺管理3で、じん肺法所定の合併症のある方 | 950万円 |
5 | 中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水である方 | 1150万円 |
6 | 上記1、3により死亡した方 | 1200万円 |
7 | 上記2、4、5により死亡した方 | 1300万円 |
もっとも、上記はあくまで原則額となります。
建設業務に従事した期間の長さや喫煙習慣があるか否か、また別途損害賠償金の支払いを受けているか等によって減額・調整が図られる可能性があります。
(3)請求期限
給付金は以下の期限内に申請をしなければ、請求できなくなりますので要注意です。
原則:以下のいずれかの遅い方の日から起算して20年
- 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日
- 石綿肺についてのじん肺管理区分の決定(管理2~4のみ)があった日
例外:被災者が石綿関連疾病によって死亡した場合、死亡した日から起算して20年
このように状況によって起算点が変わりますので、軽信せずに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
3.石綿(アスベスト)健康被害救済制度について
アスベストによる健康被害は、必ずしも労働災害に該当するとは限りません。
そのため、労災保険によって補償を受けられないような場合であっても一定の給付を受けられるようにする必要があります。
どんな場合にどれくらいの支給を受けられるのか見ていきましょう。
(1)支給対象の要件
「日本国内においてアスベストを吸入することにより指定疾病にかかった者又はかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受けた者」とされています。
ここにいう指定疾病とは、以下のものを指します。
|
良性石綿胸水がないこと以外は、建設アスベスト給付金制度と同様の疾病が該当します。
アスベストを吸入することによって上記疾病にかかったといえるかについては、状況に応じて医学的資料を基に判断されることになります。
(2)給付の内容
請求者がどのような状況化によって以下の通り給付内容が異なります。
#1:指定疾病で療養中の方への給付
給付の種類 | 給付の概要 |
医療費 | 指定疾病に関する医療費のうち、自己負担分の給付を受けることができます。
また、申請によって「医療手帳」の交付を受けることができ、交付を受けた後は、医療機関に「医療手帳」を提示することにより、窓口での自己負担分の支払いが免除されます。 |
療養手当 | 10万3870円/月
医療費以外の入通院に伴う諸経費などに相応するものとして、月額制で支給を受けることができます。 |
#2:指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後にお亡くなりになられた場合の給付
給付の種類 | 給付の概要 |
葬祭料 | 19万9000円
指定疾病が原因でお亡くなりになった場合の、葬祭に伴う費用負担に対する給付です。 |
未支給の医療費等 | 上記#1の支給内容のうち、未支給の部分を申請によって支給を受けることができます。
実費である医療費のみならず、療養手当も含まれます。 |
救済給付調整金 | 存命中に受けた給付の額及び未支給医療費等の合計額が280万円に満たない場合、その差額が支払われます。
つまり、最低限指定疾病に関して280万円の補償は受けられるという構造になっています。 |
#3:救済制度に申請する前に指定疾病によりお亡くなりになられた場合の給付
給付の種類 | 給付の概要 |
特別遺族弔慰金 | 280万円
お亡くなりになったタイミングで給付の内容に大きな不平等が出ないように、最低限の補償である280万円の支給を受けられます。 |
特別葬祭料 | 19万9000円 |
(3)請求期限
健康被害救済制度は、上記の通り、状況に応じて受けられる給付内容が異なります。
それぞれ、いつを起算点としてどのくらいの期間請求が受け付けられるのかを確認しましょう。
給付の種類 | 請求期限 |
医療費 | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については申請日から2年以内 |
葬祭料 | 亡くなった日の翌日から2年以内 |
未支給の医療費等 | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については申請日から2年以内 |
救済給付調整金 | 亡くなった日の翌日から2年以内 |
特別遺族弔慰金、特別葬祭料
(疾病が中皮腫、肺がんの場合) |
1.平成18年3月27日より前にお亡くなりの場合
令和14年3月27日まで 2.平成18年3月27日以後にお亡くなりの場合 亡くなった日の翌日から25年以内 |
特別遺族弔慰金、特別葬祭料
(疾病が石綿肺、びまん性胸膜肥厚の場合) |
1.平成22年7月1日より前にお亡くなりの場合
令和18年7月1日まで 2.平成22年7月1日以後にお亡くなりの場合 亡くなった日の翌日から25年以内 |
4.アスベスト被害の給付金を受ける際に気を付けるべきこと
(1)遺族による申請は順位がある
上記のように、アスベストによる健康被害でお亡くなりになった場合、その遺族が給付金の請求を行うことができます。
しかし、この時、申請ができる遺族は法律で順番が決まっており、この順番のうち最も番号が若い方のみが申請可能となっています。
- 配偶者(内縁や事実婚を含む)
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
そのため、例えば父親がアスベストによって亡くなってしまった場合、母親が健在であれば子どもは請求することができないということになります。
また、救済制度においては、上記の順位に加え、被災者がお亡くなりになった当時に生計を同じくしていたことが必要とされています。
そのため、長らく没交渉となっていた親子のような場合には、請求が認められない可能性があります。
(2)状況によって、用意しなければならない書類が異なる
これまで見てきたように、一言でアスベストによる給付の請求と言っても、利用できる制度、請求する内容が全く異なります。
そのため、申請の際に必要となる書類も、状況によって全く異なってきます。
大まかに言えば、本人確認書類等の請求書面と、アスベストの関連疾病や指定疾病にかかっていることを証明するための医療資料が必要となります。
このうち、必要となる医療資料が、疾病の内容に応じて多岐にわたるのです。
当然、必要書類をきちんとそろえて申請をしなければ、適切な給付を受けることはできません。
そのため、ご自身の状況を踏まえて、ひとつひとつ準備をする必要があります。
アスベストによる健康被害でお困りなら、弁護士へ相談!
本記事では、アスベストを原因とする健康被害についての給付金制度の概要についてご説明いたしました。
様々な状況に応じて、簡易迅速に給付金を支給できるように制度化されていることがご理解いただけたかと思います。
しかし、実際に申請を行うためには、自分が何に該当するのか、どの制度に当てはまるのか、どのような資料を準備してどこに申請をすればいいのかなど、混乱してしまうのではないでしょうか。
そこで二の足を踏んでしまって、本来もらえたはずの支給金を受けられなくなってしまっては元も子もありません。
ご自身やご家族が、アスベストに関連するような疾病にかかっている場合には、ぜひ一度お気軽に弁護士にご相談ください。
支給を受けられる可能性があるのか、どのような準備を進めていけばいいかについて、専門家の立場からご案内させていただきます。
関連記事