工場型アスベスト訴訟で和解に至る手続きの方法とは?請求できる賠償金
「工場型アスベスト訴訟では、どのような流れで和解に至るのか?」
「工場型アスベスト訴訟で和解したらどのくらいの賠償金を受け取れるのか?」
アスベスト訴訟では、どのような流れで和解手続を行うのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
工場型アスベストの被害者は、訴訟を提起することで国から和解金として賠償金を受け取ることができます。
本記事では、工場型アスベスト訴訟で和解に至るまでの流れと賠償金の額についてご紹介します。
1.工場型アスベスト訴訟で和解に至るまでの流れ
工場型アスベスト訴訟で和解に至るまでには、大きく分けて5つのステップがあります。
訴訟前の準備から賠償金を受け取るまでの流れは以下のとおりです。
- 訴訟提起の準備をする
- 訴訟を提起する
- 口頭弁論期日に和解要件の主張・立証をする
- 裁判上で和解する
- 賠償金を受け取る
各工程についてご紹介するので、訴訟を検討している方は参考にしてみてください。
(1)訴訟提起の準備をする
まずは、訴訟提起の準備を行います。
特に大切なことは、アスベストによる健康被害を受けるまでの経緯や内容を振り返り、どういった根拠で国に対して賠償金を請求するか明確にすることです。
訴訟中に和解手続を行うには、アスベストによる健康被害が発生した点や賠償金を請求できる権利がある点等を証明しなければなりません。
すべてのアスベストの被害者が賠償金を請求できるわけではなく、いくつかの条件を満たした方のみが和解金を受け取ることができます。
明確な証拠を用いて立証を行うことが求められるため、必要な証拠書類を集めることも重要です。
訴訟を提起する前には弁護士と事前に相談し、賠償金を受け取るために何が必要か確認しておきましょう。
(2)訴訟を提起する
必要な準備が整ったら、国を相手に訴訟を提起します。
裁判所に訴状を提出して国家賠償請求訴訟を提起することになりますが、必要な手続は弁護士が行うので、ご本人は特に何もする必要はありません。
ちなみに、裁判を管轄する裁判所は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所になるのが原則ですが、義務履行地(原告の住所地)を管轄する裁判所や不法行為があった地(アスベスト工場の(旧)所在地)を管轄する裁判所にも訴状を出すことができます。
裁判所が訴状を受理すると、第1回口頭弁論期日が指定されます。
(3)口頭弁論期日に和解要件の主張・立証をする
訴訟が始まったら、和解要件についての主張や立証を行います。
口頭弁論では、以下の3点を立証しなければなりません。
- 一定期間における石綿(アスベスト)工場での作業従事歴
- アスベストによる健康被害の内容
- 損害賠償請求権の消滅時効が完成していないこと
具体的には、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において石綿粉じんにばく露する作業に従事しており、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などのアスベストによる健康被害を被っていることが求められます。
また、石綿の病気の確定診断、死亡、労災認定またはじん肺管理区分決定から20年経過していないことも必要です。
これらの和解要件は、日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等の証拠書類で立証することになります。
口頭弁論や弁論準備等の期日を重ね、和解要件の立証の成否が明らかになるまで続けられますが、アスベスト訴訟は、和解要件を満たしていることを確認し、必要な証拠書類を揃えた上で訴訟を提起するので、ほとんどのケースで早期に和解が認められるでしょう。
(4)裁判上で和解する
和解要件の立証に成功すれば、被告は裁判上の和解に応じることになります。
裁判上の和解が成立すれば、和解調書が作成されて裁判は終了です。
和解調書によって確定判決と同等の効力が働き、両者は和解内容をなかったことにできないようになります。
(5)賠償金を受け取る
裁判が終了したら、疾病の状態に応じて国から和解金として賠償金が支払われます。
具体的な賠償金額に関しては、以下の表をご確認ください。
請求者が本人の場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 550万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 700万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 800万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 950万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,150万円 |
請求者が遺族の場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 1,300万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 1,300万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,300万円 |
なお、口頭弁論で立証した健康被害に応じた金額が支給されます。
たとえば、被害者が存命で、診断書等により石綿肺 (管理2)かつ合併症があることを立証した場合は、700万円が支払われることになるでしょう。
2.工場型アスベスト訴訟でよくある質問
工場型アスベスト訴訟に関して多くの方が疑問を持つことについてご紹介します。
特に質問が多いのは以下の3点です。
- 過去の訴訟で示された要件に該当しない場合は賠償金を請求できないのか
- 労災保険等による給付を受けていても賠償金を請求できるのか
- 遺族でも訴訟を提起できるのか
順にご紹介します。
(1)過去の訴訟で示された要件に該当しない場合は賠償金を請求できないのか
口頭弁論で3つの和解要件を立証できない場合でも、賠償金が認められる可能性はあります。
工場型ではなく建設型として国家賠償請求をしたり、労災認定や石綿被害救済法による補償を受けたりすることで金銭を受給することは可能です。
ただし、これらの方法も条件があるため、工場型アスベスト訴訟が認められない場合は、他に方法がないか弁護士に相談してみましょう。
(2)労災保険等による給付を受けていても賠償金を請求できるのか
労災保険等によってすでに給付を受けている方でも賠償金を請求することは可能です。
アスベスト訴訟は、国を相手に損害賠償を請求する手続なので、労災保険等とは給付を受ける仕組みが異なります。
労災保険等による給付を受けていても和解要件を満たせば和解金を受け取れるので、訴訟の準備を進めましょう。
(3)遺族でも訴訟を提起できるのか
アスベスト訴訟は遺族でも提起できるため、賠償金も問題なく請求できます。
ただし、賠償金を請求するためには、3つの和解要件を立証しなければなりません。
訴訟提起の準備段階で立証するための証拠を集めましょう。
まとめ
工場型アスベスト訴訟では、3つの和解要件を立証することで、和解手続を進めることができます。
和解要件を満たせば、労災保険等による給付を受けていたり、遺族が請求したりする場合でも賠償金を受け取ることが可能です。
また、和解要件を満たしていない場合でも賠償金を請求できる可能性があるので、アスベストの被害でお悩みの方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人みずきでは、アスベストに関する相談を受け付けておりますので、お困りの方はお気軽にご連絡ください。
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