アスベスト訴訟に時効はある?時効が完成しそうになったときの対処法
「アスベスト訴訟を提起するには時効ってあるのか」
「アスベスト訴訟の時効を迎えそうになったときにどうしたらいいのか」
アスベストの被害に遭い、訴訟を提起しようと考えている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、アスベスト訴訟の時効や損害賠償請求期間、時効が完成しそうになったときの対応についてご紹介します。
1.国に対するアスベスト訴訟の時効
アスベストによる健康被害については、訴訟を提起することで損害賠償請求ができますが、国と企業のどちらを相手にするかによって請求内容や時効期間が異なる点に注意が必要です。
まずは、国を相手に訴訟を提起する場合の時効についてご紹介します。
国を相手にする場合は、国家賠償請求という形で訴訟を提起することになります。
国家賠償訴訟の時効期間は、以下の2つのパターンのうち、到来が早い方です。
- アスベスト被害を知った時点から3年もしくは5年
- 最も重い症状が新たに判明した時点から20年
基本的には、アスベストによる症状が判明するときに被害者もアスベスト被害を知るケースが多いため、アスベスト被害を知った時点から3年、または5年経過したときに時効を迎える可能性が高いといえます。
3年と5年の違いは、民法改正が施行された2020年4月1日までに、アスベスト被害を知った時点から3年経過していなければ、アスベスト被害を知った時点から5年後が訴訟の時効期間です。
つまり、2020年4月1日までにアスベスト被害を知った時点から3年経過している場合は、時効によってアスベスト訴訟を提起する権利を消失していることになります。
2.企業に対するアスベスト訴訟の時効
アスベスト被害における企業への損害賠償請求には、2つの構成があります。
- 安全配慮義務違反による請求
- 不法行為による請求
いずれも企業の過失に対するものですが、どのポイントを問題として、何に基づいて請求するかによって時効が異なります。
各請求方法についてご紹介するので、大まかなポイントを把握した上で弁護士と相談して、どちらのパターンを採用するか検討してみましょう。
(1)安全配慮義務違反による請求
企業に対する責任追及の方法としては、安全配慮義務違反による請求があります。
本来、企業は従業員が安心して働けるように、安全面に注意しなければなりません。
しかし、企業が従業員の安全配慮を怠ったことで従業員がアスベストによる被害を受けた場合は、被害者は安全配慮義務違反として賠償金を請求することができます。
ちなみに、安全配慮義務違反をもとに賠償金を請求する場合の時効は、「最も重い症状が新たに判明した時点から10年間」です。
この定めは、旧民法167条(債権等の消滅時効)1項によるもので、10年債権を行使しない場合は消滅すると記されています。
なお、民法改正によって請求期間は「権利を行使することができることを知った時から5年間」もしくは「権利を行使することができる時から20年間」とされましたが、2020年4月1日より前に雇用契約を結んでいる場合は、改正前の民法が適用されるので注意しましょう。
逆を言えば、2020年4月1日以降に雇用契約を締結している場合は、「権利を行使することができることを知った時から5年間」もしくは「権利を行使することができる時から20年間」が時効期間となります。
(2)不法行為による請求
違う観点から責任追及する方法としては、企業側に対して、「従業員に危険なこと(仕事)をさせた」という観点から、損害賠償を請求することもできます。
この場合は、前述した国を相手に訴訟を提起した場合と同じルールが適用されるので、安全配慮義務違反による請求とは時効が異なる点に注意しましょう。
2020年4月1日に民法改正が施行されたので、アスベスト被害を知った時点次第では、2年もの時効の差が生まれます。
不法行為による請求の場合は、時効を迎えるまでの期間が短いため、なるべく速やかに弁護士に相談して、請求権利が時効消滅する時期がいつなのか明確にしてもらいましょう。
3.時効が完成しそうになったときの対応
アスベスト訴訟の時効が完成しそうになったときは、速やかに対応する必要があります。
時効完成間近のときにすべきことは以下の2つです。
- 速やかに訴訟を提起する
- 内容証明郵便を送付する
順にご紹介するので、まもなく時効を迎えそうな方は早急に対応しましょう。
(1)速やかに訴訟を提起する
そもそも時効とは、権利を行使できるのにしないという状況を前提としています。
そのため、訴訟を提起することで、権利行使をしたことになり、時効は完成しなくなります。
そのため、時効の完成が近づいている方は、とにかく速やかに訴訟の準備を行いましょう。
アスベスト訴訟をする際は、まず最初に弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に時効が近づいている点を説明すれば、訴訟に向けて迅速に動いてくれるだけでなく、何をすべきか適格に助言を受けることが可能です。
訴訟を提起したことがない方が大部分だと思われますので、何をすべきかわからずに時間を無駄に消費してしまうよりも、法律の専門家に指示を仰ぎましょう。
(2)内容証明郵便を送付する
訴訟をするにも準備が必要です。
そのため、訴訟の準備を進めている間に時効が成立しそうな場合や訴訟提起まで時間がかかる場合には、ひとまず訴訟外で損害賠償請求を行う意思表示をしましょう。
訴訟外で損害賠償請求を行う意思表示をすることは「催告」に該当し、これにより6か月間時効が完成しなくなります。
この6か月間の猶予の間に、正式に訴訟を提起すれば大丈夫です。
訴訟の相手方に対して催告をする場合は、内容証明郵便を送付する形がよいでしょう。
内容証明郵便とは、送付した文書の内容や当事者、送達日等を証明することができる郵便のことで、これによりアスベスト訴訟を提起し、損害賠償請求を行う意思を明確に伝えることができます。
なお、トラブル防止のために、訴訟相手に内容証明郵便を配達したことや配達された日付を示すことができるように、配達証明を利用しましょう。
4.アスベスト給付金の請求期限
アスベスト訴訟によって損害賠償請求をするケースは工場型アスベストの被害に遭った場合で、建設型アスベストの被害者は給付金を請求することで、損害賠償を受け取れます。
ただし、給付金の請求にも請求期限があるので注意が必要です。
アスベスト給付金は以下の日を起算日として、20年経過すると請求できない決まりがあります。
- 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日
- 石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日のいずれか遅い日
- 石綿関連疾病により死亡したときは死亡日
アスベスト訴訟に比べると請求期限に余裕があるので、慌てる必要はありませんが、請求から承認まで時間がかかるため、なるべく早めに手続を行いましょう。
まとめ
アスベスト訴訟によって損害賠償を請求する場合は、時効完成前に行う必要があります。
特に国や不法行為を理由に企業に対して訴訟を提起する場合は、時効完成まであまり猶予がないと考えられるので、なるべく早めに訴訟の準備に取り掛かりましょう。
訴訟を提起する場合は、まず弁護士に相談して対応することをおすすめします。
弁護士法人みずきでは、アスベスト訴訟に関する相談を受けつけておりますので、お気軽にご相談ください。
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