工場型アスベスト訴訟の内容とは?国との和解と賠償金を請求するまでの流れ
「工場型アスベストで被害に遭い、国への訴訟を検討している」
「アスベスト訴訟で和解するまでどのような流れで進むのか?」
工場型のアスベスト被害に遭われた方の中で、国に対してアスベスト訴訟の提起を検討している方もいるのではないでしょうか。
本記事では、工場型アスベスト訴訟の概要や和解の条件、訴訟によって支払われた賠償金についてご紹介します。
1.工場型アスベスト訴訟の概要
工場型アスベスト訴訟とは、石綿工場の元労働者やその遺族の方々が、国に対してアスベストによる健康被害もしくは死亡に対する損害賠償を求める訴訟です。
アスベストを含んだ製品の製造中の管理体制に問題があるとして、アスベストの被害者やそのご家族が声を挙げたことにより、国が責任を追求されました。
実際に、国の規制権限の不行使が問題で、アスベストが危険であるにもかかわらず、局所排気装置の設置義務付けや防じんマスクの着用義務付け等を怠ったことにより、多くの従事者がアスベストによる被害を受けたことが発端です。
石綿産業が集中していた大阪府南部・泉南地域の石綿工場の元労働者やその遺族の方々を原告とする訴訟で、最高裁判所は平成26年10月9日に、国の局所排気装置の設置義務付けに係る規制権限不行使の違法を肯定する判断を示しました。
この訴訟の結果を踏まえて、可能な限り簡易迅速に賠償がなされるように、国は和解要件を定めました。
そのため、現在では国に対して国家賠償請求訴訟を提起し、一定の要件を充たせば、裁判上の和解が成立し、和解金の支払いがなされるという運用が確立しました。
2.工場型アスベスト訴訟における和解の要件
工場型アスベスト訴訟における和解の要件は3つです。
- 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと
- その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内(石綿の病気の確定診断、死亡、労災認定またはじん肺管理区分決定から20年以内)であること
ここでいう「石綿による一定の健康被害」とは、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などの疾病のことです。
労災保険や石綿健康被害救済法による給付を受けていても和解金を請求できます。
上記3つの要件を日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等の証拠で満たしていることを確認できれば、和解手続に進むことができます。
3.工場型アスベスト訴訟の賠償金
工場型アスベスト訴訟の賠償金は、疾病の具合によって定められています。
訴訟による和解金は以下の表のとおりです。
被害者本人が請求する場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 550万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 700万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 800万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 950万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,150万円 |
被害者の遺族が請求する場合 | |
病態区分 | 金額 |
---|---|
石綿肺 (管理2) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理2) 合併症あり | 1,300万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症なし | 1,200万円 |
石綿肺 (管理3) 合併症あり | 1,300万円 |
中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺 (管理4)、良性石綿胸水である者 | 1,300万円 |
病状が重くなるにつれ和解金額も高くなり、被害者本人が亡くなっている場合は、最高1,300万円の請求が可能です。
病態区分は医師が発行する診断書に記載されているので、どの区分に該当するか確認してみましょう。
4.建設型アスベストの場合は訴訟ではなく給付金を請求する
建設型のアスベストの被害者の方は、上記のように国に対して訴訟を提起するのではなく、給付金を請求して損害賠償金を受け取ることができます。
建設型アスベストの被害者とは、アスベスト含有建材を用いて作業に従事していた建設作業員らのうち、アスベスト被害を被った方々のことです。
ここでは、建設アスベスト給付金制度が設立されるまでの流れと給付金請求対象者についてご紹介します。
(1)建設アスベスト給付金制度が設立されるまでの流れ
2008年以降、アスベスト石綿関連疾病を発症した元建設作業員やその遺族が、立て続けに国と建材メーカーを相手に裁判を起こすようになりました。
東京地裁の他にも横浜や大阪、福岡、札幌、仙台など日本各地の地方裁判所で、国や建材メーカーに建設アスベストに関する責任を求める裁判が起こされたのです。
2021年5月17日に、東京、横浜、京都、大阪の4箇所のアスベスト訴訟で、国と建材メーカーの責任を認める最高裁判決が言い渡されています。
このことから、建設型アスベスト被害者を救済するために、2021年6月9日に特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律が制定されました。
(2)建設アスベスト給付金の対象者
建設アスベスト給付金を受け取るには3つの条件を満たす必要があります。
- 以下の期間に該当業務に従事していること
期間 | 業務 |
昭和47年10月1日から昭和50年9月30日 | 石綿の吹付け作業に係る建設業務 |
昭和50年10月1日から平成16年9月30日 | 一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務 |
- 実際に石綿関連疾病にかかっていること
- 労働者や一人親方(労働者を雇用せずに自分自身と家族などだけで事業を行う事業主)、中小事業主(家族従事者等を含む)であること
石綿関連疾病とは、以下の病気が該当します。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)
- 良性石綿胸水
対象期間に特定の業務に従事し、医師の診断書に上記の疾病が記載されている方は、建設アスベスト給付金を請求することができます。
ただし、業務内容によって従事期間が異なることには注意しましょう。
まとめ
アスベストの被害に遭った従事者やその遺族が過去に国や各メーカーに対してアスベスト訴訟を提起し、国や各メーカーの責任を認める最高裁判決がいくつも下されています。
これらの判決の結果、現在では簡易迅速に賠償を受ける運用や制度が設けられています。
工場型アスベストの場合は、国を相手に訴訟を提起することで和解金を受け取ることができ、建設型アスベストの場合は、給付金を請求することが可能です。
いずれの場合も手続が複雑なので、国に対して賠償金を請求したい方は一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人みずきでは、アスベストの被害に遭われた方の相談を受け付けておりますので、一人で問題を抱えるのではなく、当事務所にご相談ください。
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