不倫慰謝料の示談書作成のポイントを弁護士が解説

自賠責保険に請求する方法

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。

不倫問題について当事者同士が慰謝料等について話がまとまりそうになったら、どのような合意をしたのかをきちんと残しておくために、合意内容を書面化する必要があります。

このような場面で取交される書面を「示談書」と言います。

しかし、合意内容を「示談書」の形で書面にするといっても、具体的にどのような文言をいれるべきかわからない方は多いと思います。

示談書の作成にはいくつかのポイントがあります。

適切に示談書を作成し、取交すことで、後に慰謝料金額についての紛争が再燃したり、未払いの慰謝料を裁判上請求するときに紛争が長期化したりといったトラブルを防ぐことができます。

この記事では、示談書を作成する場合のポイントや、示談書に入れるべき条項をテンプレートなどでご紹介します。

1.不倫問題(浮気)について示談書を取り交わす前に

不倫(浮気)について示談書を取り交わす前に、是非知っていただきたいことをご説明します。

(1)不倫(浮気)によりなぜ慰謝料が発生するのか

不倫(浮気)により慰謝料が発生するのは、不倫が婚姻関係に重大な悪影響を与えることにより、不倫相手の配偶者に精神的苦痛が生じるからです。

そのため、不倫が婚姻関係に与えた影響が大きい場合は、精神的苦痛も大きくなりますので慰謝料額は増額されますし、影響が少ない場合は、逆に慰謝料額が減額されます。

たとえば、不倫開始時点から、すでに不倫相手とその妻又は夫との夫婦関係が破綻していたような場合は、不倫自体が婚姻関係に与えた悪影響は少ないといえるため、慰謝料額は減額されるか、又は慰謝料自体が発生しない場合もあります。

しかし、たとえば、不倫相手とその妻又は夫との夫婦関係が良好であり、婚姻期間も長期で、小さい子供がいるような場合に、長期間不倫をしたようなときは、不倫相手の配偶者に生じる精神的苦痛は相当大きくなることから、慰謝料額が増額されます。

不倫慰謝料の相場は、50万~200万円の範囲で認められることが多いですが、不倫慰謝料は、様々な要素によって算定金額が変動することから、示談書を取交す前に、合意する慰謝料が本当に適正な金額なのかを、よく考える必要があります。

不倫慰謝料の相場、減額方法等については、こちらの記事もご覧ください。

浮気・不倫の慰謝料を請求された場合の対処法をご紹介

(2)示談書とは

#1:示談書とは当事者の合意内容を書面化したもの

示談書とは、裁判によらずに、当事者が話し合って合意で問題を解決した際に、その合意内容を記した書面のことをいいます。

示談書は、契約書や和解書、合意書等のタイトルがつけられることがありますが、上記のような性質を有する書面であれば、タイトルに関係なく法的な効果は全て同じで、示談の全当事者には、記載内容を守るべき義務が生じます。

#2:示談書を取交したら後戻りはできない

示談書を取交わす目的は、一旦当事者同士で合意するに至ったにもかかわらず、慰謝料金額の行き違い等の認識の違いが後日生じることを防ぐこと等にあります。

そのため、示談書には、必ず清算条項を置き、当事者間に存在する法律関係と、存在しない法律関係を明確にします。

この清算条項とは、紛争の蒸し返しを防ぐために、当事者間には示談書に記載されているものの他に、支払いなどの義務は何もないことを確認する条項のことです。

示談書の内容は、両当事者を拘束しますので、たとえ、後日、当事者の一方の気が変わっても、内容の追加、削除、変更をすることはできません。

また、仮に、当事者の一方が、慰謝料の支払い等の示談書に定められたことを守らなかったため、もう一方が訴訟を提起した場合、訴訟上、示談書は、両当事者間で約束をした事実を裏付ける重要な証拠として扱われます。

そのため、示談書の内容に反する事実が認められるよう主張立証することは、極めて困難です。

このような意味で、示談書を取交したら後戻りはできませんので、示談書を取り交わす前に、何を合意するのか熟慮に熟慮を重ねる必要があるのです。

#3:示談書は誰と取り交わすのか

①2者で合意する場合(不倫した人と不倫された人)
典型的には、不倫(浮気)をした一人と不倫(浮気)をされた一人の間で示談書を作成します。

たとえば、不倫相手の女性と不倫をした夫の妻(被害者)との間で取交します。

②3者で合意する場合(夫婦と不倫相手)
不倫(浮気)をした二人と不倫(浮気)をされた一人の間で示談書を作成するケースもあります。

たとえば、不倫相手の男性、不倫をした妻と不倫をした妻の夫(被害者)との間で取交します。

この場合、不倫関係の再発防止のため、不倫関係にあった当事者双方に対し、両者が二度と不倫をしない旨を、書面上で誓わせることができるというメリットがあります。

もっとも、合意の当事者が増えるわけですから、示談が成立するまでに時間を要する場合があるというデメリットもあります。

③4者で合意する場合(W不倫の場合)
不倫をした2名と不倫をされた2組の夫婦の相手方2名の4名が一つの示談書を作成するケース(既婚者同士の不倫のケース)もあります。

#4:示談書以外の合意書面

①誓約書・念書との違い

誓約書や念書とは、当事者の一方が、相手方当事者に対し、特定の事実を記した書面をいいます。

例えば、「私(東京太郎)は、宇都宮栃子さんと浮気してしまいましたが、今後会わないことを誓約します」、というような内容です。

示談書や契約書のように、相互に守るべき約束を記載するのではなく、一方的に特定の事実を記すのみであることが異なります。

また、誓約書や念書には、上述した清算条項など、両者が合意した内容は記載されません。

加えて、一般に、誓約書や念書には、事実を記した一方当事者の署名押印があるのみですが、示談書や契約書には、全当事者が署名押印をします。

②覚書との違い

覚書とは、シンプルな内容及び形式の契約書で使用されることの多いタイトルになります。そのため、覚書も示談書や契約書と同様に、相互に約束を守ることを内容とします。

示談書は、本記事で取り扱っているような不倫(浮気)や交通事故等の不法行為にかかわる事柄について作成されることが多く、覚書は、すでに契約関係にある当事者同士で作成されることが多いことが異なります。

③和解書との違い

和解書とは、問題が生じた際に、当事者がお互いに譲歩して、話し合いで解決をした場合に、その合意内容を記した書面に用いられることの多いタイトルです。

和解書は、相互に守るべき約束を内容とされることが多い点で、示談書や契約書と同じです。

2.不倫(浮気)について示談書を作成するメリット

不倫(浮気)について示談書を作成するメリットは、大きく2点あります。

(1)示談後のトラブルを防ぐことができる

示談書を取交わす目的は、一旦当事者同士で合意するに至ったにもかかわらず、金額の行き違い等の認識の違いが後日生じることを防ぐことや、未払いの慰謝料を裁判上請求するときの有力な証拠をあらかじめ獲得して、無用な紛争の長期化を避けることにあります。

示談書には、両当事者が約束した内容を明確に記載しますので、示談書を作成することにより、示談後のトラブル発生を防ぐことができます。

(2)約束が守られなかった場合の対処がしやすくなる

示談書は、訴訟上、約束をした事実を裏付ける重要な証拠として扱われます。

示談書で合意した約束が守られなかった場合に、被害者が訴訟提起すると、示談書により、不倫の事実が存在することや、不倫をした者が認めていることを容易に立証できるため、被害者が勝訴する可能性が高いのです。

このような観点から、不倫(浮気)した人が示談書を作成したり、署名押印したりする場合は、本当に実行可能な内容なのか、強制執行されても構わない内容なのか等を、よく考えて合意する必要があります。

3.示談書はどちらが作成するか

示談書は、どちらの当事者が作成すべきなのかをみていきましょう。

(1)どちらがつくるべきかは決まっていない。

当事者の誰であっても、示談書を作成することができます。

もっとも、以下のとおり、誰が作成するかによって、示談内容の有利不利の方向性が定まりますから、相手方に委ねてしまうことは、避けるべきでしょう。

(2)示談書を作成する方が交渉では有利になる

示談書を作成する人は、自分の要求を正確に記載することができます。

また、不倫関係にあることを知っていたのか等、不倫(浮気)についての認識は、示談書を作成する方が細かいニュアンスを記載することができます。

相手方に示談書の作成を委ねると、相手方に有利な内容や表現になってしまう可能性があります。

もちろん修正を求めることもできますが、見落とし等のリスクもありますから、示談書の作成は、相手に任せることなく、なるべく自ら行った方が良いでしょう。

(3)示談書の作成を弁護士に任せるメリット

示談交渉及び示談書の作成は、可能な限り、弁護士に依頼することをおすすめします。

なぜなら、弁護士が交渉に入ることにより、専門家の目で冷静に事情を把握して慰謝料額が適正であるかをチェックできますし、適切な清算条項を置くことで終局的解決を図ることができるなど、誤った示談書を作成することにより生じる法的なリスクを軽減することができるからです。

そして、弁護士が窓口になることにより、お互いに相手方と直接交渉する必要がなくなるため、感情の対立が悪化する可能性が低くなり、適正な合意内容で示談をすることができるようになります。

このようなメリットがあることから、示談書は自ら作成することとし、実際の交渉や作成は、弁護士に任せるという方法が最善といえます。

弁護士法人みずきは、示談書の作成の相談や依頼を受けることを通じて、相手方との交渉等を含め、早期の紛争解決のためのお手伝いをしております。

4.不倫(浮気)慰謝料請求の示談書にいれるべき条項

ここでは、不倫(浮気)慰謝料請求の示談書にいれるべき条項を具体的にご説明します。

(1)不貞行為(不倫事実)の事実

まず、不貞行為の事実について記載します。

これは、不貞行為という、民法上の不法行為が行われた事実を記載して、示談書で解決すべき争いを明確にする意味を有します。

そのため、当事者が誰か、誰が精神的苦痛を受け損害を被ったのかを明記する必要があります。

(2)慰謝料の金額や支払いの方法など

次に、不倫(浮気)をした当事者が、精神的苦痛を受けた被害者に対し、慰謝料としていくらの金額を支払義務があるのか、それをどのように支払っていくのかを明記します。

後に争いが生じないように、金額は「100万円」のように具体的に記載しましょう。

どのように支払っていくのかの記載については、以下を参考にしてください。

・一括で支払うのか、分割で支払うのか
・いつまでに支払うのか
・(分割の場合)何回払いで、毎回いつ支払いをし、いつまでに支払終えるのか等のスケジュール
・現金で手渡しするのか、銀行振り込みにするのか
・(振り込みの場合)振込手数料は誰が負担するのか
・(振り込みの場合)振込先はどの口座か
・支払いが遅れた場合、一括請求が可能であるか(期限の利益の喪失)

(3)誓約事項

そして、たとえば以下のように、不倫相手が配偶者との不倫(浮気)を終了することや、今後は面会、電話、メール等の方法を問わず一切接触しないことを約束する条項を記載します。

・不倫の当事者が、正当な理由なく、今後は一切接触しないこと
・示談書の内容を当事者以外の第三者に話さないこと 等

(4)誓約事項に違反した場合の違約金

(3)で約束をした条項に違反した場合に、いくらの違約金を支払わなければならないかを定めます。

この条項も、後に争いが生じないように、「違反したときは、違約金として金100万円を支払う」のように金額は具体的に記載しましょう。

(5)求償権を放棄すること

不倫(浮気)は、不倫をした人2名の共同不法行為(民法719条1項)に当たります。

そのため、不倫をした人2名は、不倫された夫または妻(被害者)に対し、連帯して慰謝料を支払う義務を負います。

そうすると、例えば、慰謝料を100万円と合意し、不倫をした相手(夫婦以外の者)が全額を支払ったとき、不倫をした相手が、不倫された夫または妻の配偶者(被害者の配偶者)に対し、60万円を請求することができる場合があります。

このような60万円の請求は、求償権と呼ばれており、その請求額は、定められた求償割合に応じて変動します。

被害者の配偶者と被害者は、夫婦で、通常同一の家計ですから、被害者の家計から不倫相手にお金が出て行ってしまうことになります。

しかし、多くの被害者は、被害者自身の家計から不倫相手にお金が流れることを拒絶したいと考えます。

このような被害者の意思を示談書に反映させるためには、不倫相手が、被害者の配偶者に対する求償権を放棄する旨明記する必要があります。

(6)清算条項

最後に、示談の当事者間に、本件の示談書に定めるもののほかは、何の債権債務もないことを相互に確認する旨を明記します。

これにより、慰謝料の追加請求など、紛争が続かないようにすることができます。

5.示談書のひな型の例

示談書の内容は、個々のケースによって記載すべき条項が異なります。

そのため、たとえひな形(テンプレート)があったとしても、そのまま使ってしまうと、本当は合意したかった重要な事項に穴が生じてしまい、予期せぬ損失を被る可能性があります。

したがって、示談書を取り交わす場合は、可能な限り、弁護士に相手方との交渉と示談書の作成を依頼することをお勧めします。

以下では、示談書の完成イメージをつかむための参考として、2つのパターンの示談書を記載します。

(1)2者で合意する場合のテンプレート

示談書

〇〇(以下、「甲」という。)及び▼▼(以下、「乙」という。)は、以下のとおり合意した。

(不貞行為)
第1条 乙は、甲の配偶者である◇◇(以下、「丙」という。)との間で不貞行為(以下、「本件不貞行為」という。)があったことを認め、真摯に謝罪する。
(債務の承認・弁済の合意)

第2条 乙は、甲に対し、本件不貞行為に対する慰謝料として、金180万円の支払い義務があることを認める。
(支払方法)

第3条 乙は、甲に対し、前条の金員180万円を、令和N年M月D日から令和n年m月d日まで毎月25日限り月額5万円を36回に分割して、甲の指定する下記の金融機関に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、乙の負担とする。

銀行名   ××銀行
支店名   ××支店
種別    普通預金
口座番号  1234567
口座名義人 〇〇 〇〇(マルマル マルマル)
(接触禁止)

第4条 乙は、甲に対し、正当な理由なく、面会や電話、手紙、SNS等の手段を問わず、丙と一切接触しないことを約束する。
(口外禁止)

第5条 甲及び乙は、知り得た当事者に関する秘密を、第三者に口外してはならない。
(期限の利益喪失)

第6条 乙は、次の各号のいずれか一に該当した場合には、甲からの通知催告がなくても、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し直ちに残債務全額を支払う。
(1) 第3条の支払を1回でも遅滞したとき。
(2) 他の債務について、第三者から仮処分、強制執行又は競売の申立てを受けたとき。
(3) 破産手続開始又は民事再生手続き開始の申立てがされたとき。
(4) 本示談書のいずれかの条項に違反したとき。

2 乙は、前項により期限の利益を失った日の翌日から第2条の債務の完済に至るまで、年××パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
(清算条項)

第7条 甲及び乙は、甲と乙との間には、本件に関し、この示談書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。

上記のとおり示談したことを証として、本示談書を2通作成し、甲及び乙による署名捺印のうえ、相互に1通を保管するものとする。

(2)3者で合意する場合のテンプレート

示談書

〇〇(以下、「甲」という。)及び▼▼(以下「乙」という。)及び◇◇(以下、「丙」という。)は、以下のとおり合意した。

(不貞行為)
第1条 乙及び丙は、甲に対し、乙及び丙の間に不貞行為(以下、「本件不貞行為」という。)があったことを認め、真摯に謝罪する。
(債務の承認・弁済の合意)
第2条 乙は、甲に対し、本件不貞行為に対する慰謝料として、金180万円の支払い義務があることを認める。
(支払方法)
第3条 乙は、甲に対し、前条の金員180万円を、令和N年M月D日から令和n年m月d日まで毎月25日限り月額5万円を36回に分割して、甲の指定する下記の金融機関に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、乙の負担とする。

銀行名   ××銀行
支店名   ××支店
種別    普通預金
口座番号  1234567
口座名義人 〇〇 〇〇(マルマル マルマル)
(求償権の放棄)
第4条 乙は、丙に対する求償権を放棄する。
(接触禁止)
第5条 乙及び丙は、甲に対し、正当な理由なく、面会や電話、手紙、SNS等の手段を問わず、相互に一切接触しないことを約束する。
(口外禁止)
第6条 甲及び乙及び丙は、知り得た当事者に関する秘密を、第三者に口外してはならない。
(期限の利益喪失)
第7条 乙は、次の各号のいずれか一に該当した場合には、甲からの通知催告がなくても、乙は当然に期限の利益を失い、甲に対し直ちに残債務全額を支払う。
(1) 第3条の支払を1回でも遅滞したとき。
(2) 他の債務について、第三者から仮処分、強制執行又は競売の申立てを受けたとき。
(3) 破産手続開始又は民事再生手続き開始の申立てがされたとき。
(4) 本示談書のいずれかの条項に違反したとき。
2 乙は、前項により期限の利益を失った日の翌日から第2条の債務の完済に至るまで、年××パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
(清算条項)
第8条 甲及び乙及び丙は、甲と乙の間、甲と丙の間、乙と丙の間には、本件に関し、この示談書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。

上記のとおり示談したことを証として、本示談書を3通作成し、甲及び乙及び丙による署名捺印のうえ、甲乙丙各自1通を保管するものとする。

6.示談書を取り交わすときの流れ

不倫(浮気)が発覚し、相手方と示談書を取り交わすまでの流れを説明します。

(1)相手方と連絡を取り合い、交渉を行う

示談書は相手方と交渉を行い、合意をした結果を書面化したものですから、相手方と連絡を取り合い、交渉を行うことは不可欠です。

しかし、双方が感情的になり連絡すら取りたくない等の場合は、弁護士に交渉を任せることもできます。

弁護士法人みずきでは、不倫慰謝料の示談書作成のための交渉も多く取扱っています。どうぞご相談ください。

(2)交渉し、合意に至った内容を書面化する

合意に至った内容を、当事者全員が書面上で確認し、自分の主張が正確に書面に表されているかを確認します。

(3)示談書を当事者の人数分用意する

示談書を当事者の人数分、同じ内容のものを用意します。

(4)当事者それぞれが示談書に署名捺印する

当事者の全員が、用意した全ての示談書に署名押印します。

署名押印は、当事者自身の意思に基づいて示談書が作成されたことを示すものですから、これを示すために全員が物理的に集まる必要はなく、郵送でやり取りをすることで足ります。

示談の当事者ではない人が代筆等をすると、示談の存在自体が疑われかねず、後の紛争の火種になり得るため、必ず当事者自身が署名押印するように注意しましょう。

(5)約束が守られなかった場合に備えて、示談書は管理保管する

示談書は、今後、訴訟になった場合等に重要な証拠になるものですので、紛失しないように大切に保管しましょう。

示談書を公正証書にするか?

公正証書とは、個人や法人からの嘱託により、公証人と呼ばれる法律の専門家が、その権限に基づいて作成する公文書のことです。

示談書の公正証書は、公証役場で公証人が当事者の作成した示談書を基に作成します。

合意した示談書を公正証書にしておくメリットは以下のとおりです。

#1:ただちに強制執行が可能になる

公正証書には、強制執行認諾文言と呼ばれる条項を付けることができます。

強制執行認諾文言とは、債務者が債務を履行しないときは、強制執行を受けても異議のないことを認諾する旨の文言です。

公文書である公正証書だからこそ付加することができる条項になります。

これは、たとえば慰謝料を支払う債務を負う者が、約束どおり支払わなかった場合に、ただちに強制執行を受けても異議がないことを認め、承諾することを意味します。

公正証書に強制執行認諾文言が付されていれば、裁判をすることなく、すぐに相手方の財産の差押えが可能になります。

#2:紛失するリスクを防止することができる

公正証書は、原本が公証役場に保管されます。

そのため、示談書を公正証書にしておけば、紛失するリスクを防止することができます。

#3:裁判では証拠としての価値が高い

公正証書は公文書にあたるため、裁判上、私文書よりも証拠としての価値が高いのです。

そのため、示談書で合意した約束が守られなかったときには、訴訟上、公正証書を示談書に記載された合意があったことの証拠として提出することで、他に特段の事情のない限り、示談書記載どおりの合意があったことを証明することができます。

7.示談書を取り交わす際の注意点

(1)合意のない部分については示談書にいれてはいけない

示談書は、相手方と交渉を行い、合意をした結果を書面化したものですから、合意がない部分を示談書に記載してはいけません。

全ての当事者が示談書に署名押印するのは、その書面が自らの意思に基づいて作成されたものであることを示すためです。

そのため、当事者は、合意のない部分が記載されていないか、合意していない内容と解釈できるような文言になっていないか、合意したのに記載されていない項目がないか等を誤りなくチェックした上で、示談書に署名押印することが極めて大切です

(2)騙したり脅迫したり、無理やり示談書を取交ししてはいけない

示談書は、契約書等と同じように、当事者自身の意思に基づいて作成されなければなりません。

そのため、示談書を作成するにあたり、条項の解釈について嘘やごまかしをして相手方をだましたり、感情的になって脅かしていると捉えられかねないような言動をもって、示談書に署名押印をさせたりしてはいけません。

このような場合にあたると、せっかく示談書を作成しても、当事者自身の意思に基づいて作成されたとはいえないため、無効になる可能性があります。

(3)一般的な常識(公序良俗)に反する内容の示談書は無効になる可能性がある

一般常識に反するような内容の約束は、たとえ当事者間で合意して示談書に記載したとしても、無効です。

たとえば、極めて高額な慰謝料金額や、暴力行為を容認するような内容等は、一般常識に反し、著しく妥当性を欠くので無効になります。

まとめ

この記事では、示談書作成のポイントや注意事項について説明しました。示談書を有効に取交すことはその後のトラブルを防ぐうえで必要不可欠です。

しかし、不倫(浮気)をされてしまった人にとって、精神的に困難な状態にあるにもかかわらず、配偶者の浮気の相手方等に対して正当な要求を間違いなくすることは、大きな負担でしょう。

また、不倫(浮気)をしてしまった人にとっては、今後の新たな紛争の発生を予防しつつ、適正な慰謝料等の約束を冷静にすることは、ご自身だけでなく周囲の方も感情的になっている中では困難なことでしょう。

これまでみてきたように、示談書の確認や作成を弁護士に依頼することで、専門家の目で冷静に事態を把握して慰謝料額が適正であるかをチェックできたり、適切な清算条項をおくことで終局的解決を図ることができたりするといったメリットがあります。

また、誤った示談書を作成することにより生じる法的なリスクを軽減することができます。

弁護士法人みずきは、示談書の作成の相談や依頼を受けることを通じて、相手方との交渉等を含め、早期の紛争解決のためのお手伝いをしております。

どうぞお気軽にご相談ください。

執筆者 実成 圭司 弁護士

所属 第二東京弁護士会

皆さまのご相談内容を丁寧にお聞きすることが、より的確な法的サポートにつながります。会話を重ねながら、問題解決に向けて前進しましょう。