浮気・不倫の慰謝料を請求された場合の対処法をご紹介

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

浮気・不倫が発覚し、不倫相手の妻・夫から慰謝料を請求されることがあります。

浮気や不倫について身に覚えがある場合は、動揺してしまい相手方からの要求をすべて受け入れたくなるかもしれません。

しかし、相手方からの請求額が法的に過大である場合や言われている経緯や事実関係が実際とは異なるケースもあります。

この記事では、不倫発覚後、不倫相手の妻または夫から慰謝料の請求をうけた方に向けて、その対処法について解説します。

1.不倫について慰謝料請求されたら支払わなければならないのか

配偶者のいる人と肉体関係を持った場合、その行為によって不倫相手とその配偶者の婚姻関係を重大な悪い影響を与えてしまうことになります。

不倫の慰謝料とは、この「婚姻関係」に重大な悪い影響を与えてしまうことによる不倫相手の配偶者の精神的苦痛を賠償するものです。

したがって、肉体関係を持ったことが事実であれば、下記の事情がない限り、不倫慰謝料の請求に対しては法的に一定の金額を支払う必要があるといえます。

2.不倫慰謝料を支払わなくていい場合がある

肉体関係を持ったことが事実であったとしても、次のような場合には支払う必要がない場合があります。

(1)婚姻関係が既に破綻している

肉体関係をもった時点で、不倫相手とその妻・夫の夫婦関係が破綻しているような場合です。

では、「破綻している」とは具体的にどのような状況をいうのでしょうか。

これまでの裁判所の判断において「破綻している」と認定されるのはかなり例外的なケースと言われています。

例えば、別居状態が何年も続いている、お互いに離婚に向けて協議を続けていたなど、婚姻関係が修復不可能な状態になっていた、と言えるケースです。

ただし、このような状態に至らないまでも、夫婦関係が円満とはいえなかった具体的な事情があれば慰謝料を減額する要素になります。

(2)時効が成立している

慰謝料請求権は、不貞行為を知った時から3年、不貞行為から20年を経過すると時効によって消滅します。

したがって、上記の期間を過ぎて請求を受けた場合は、時効を援用することで、請求を免れることができます。

(3)相手が結婚していると知らず、知らないことに過失がなかった

肉体関係をもった時点で、不倫相手に妻・夫がいることを知らずかつ、知らなかったことに過失がないケースをいいます。

ただし、このようなケースで故意・過失がなかったとされるのは非常にまれです。

単に不倫相手が「結婚していない」とうそをついていただけでは、あなたに知らなかったことについて過失があったとされてしまう可能性が高いです。

過失がないとされるのは、たとえば、独身者が参加するお見合いパーティで出会い、以降も相手が独身と偽っていたようなケースです。

不倫相手が積極的にあなたをだまそうとし、かつ状況から騙されたとしても仕方がないと言えるような場合をいいます。

(4)「妻・夫とはうまくいっていない」と不倫相手から言われていた場合は?

不倫のきっかけによくあることとして、不倫相手から「妻・夫とはうまくいっていない」として持ちかけられるケースではないでしょうか。

しかし、このような場合でも慰謝料を支払う義務は生じてしまいます。

故意や過失が認められるのは、相手が「結婚しているかどう」という事実に限られるからです。

ただし、慰謝料算定の際の減額事由として考慮されますので、不倫がどのように始まったのか、その証拠となりうる資料はしっかりと残しておくようにしましょう。

3.不倫慰謝料には相場はあるのか

ここまで、不倫慰謝料を請求されたら支払うべきかどうかを説明しました。

いくつかの例外的なケースを除いて、肉体関係があれば、一定の金額を支払う義務が生じます。

では、その「一定の金額」とはどのように決められるのでしょうか。

精神的苦痛は個人ごとにそれぞれ感じ方が異なるため、本来金銭に換算することは難しく、統一的な基準を定めることは難しいと言われていますが、これまでの裁判例で認められてきた一定の目安、相場はあります。

そこで、裁判で認められることが多い金額の目安と慰謝料の計算の際に考慮される要素をご紹介します。

(1)浮気・不倫の慰謝料として、裁判で認められることが多い金額

#1:不倫によって不倫相手とその配偶者が離婚した場合

不倫慰謝料は、不倫によって不倫相手夫婦の婚姻関係を壊したことによる責任を賠償するものです。

そのため、不倫の相手とその配偶者が離婚した場合、不倫の影響は大きいと評価され、100~200万円の範囲で慰謝料が認められることが多いです。

#2:不倫後も不倫相手とその配偶者が婚姻関係を継続している場合

反対に、不倫後も不倫の相手とその配偶者の婚姻が継続している場合は、不倫の影響は小さいと評価されることもあり、50~100万円の範囲で慰謝料が認められることが多いです。

(2)慰謝料を決める際に重要視される要素

このように裁判で認められる慰謝料の金額には大きな幅があります。

さらに、下記の要素が影響し、算定金額が変動します。

#1:浮気相手の夫婦の婚姻期間

夫婦であった期間が短ければ慰謝料は減額し、長ければ慰謝料が増額する要素として考慮されます。

この時、婚姻期間が「短い」とは概ね3年以下が該当すると言われます。

また、婚姻期間が約15年以上になると「長い」と評価されるケースが多いといえます。

#2:不倫を開始した際の不倫相手とその配偶者の夫婦関係が円満であったかどうか

不倫の開始時に、不倫相手とその配偶者の夫婦関係が良好であれば慰謝料は増額される要素として、円満でないと評価された場合は、慰謝料が減額される要素として考えられます。

夫婦関係が円満でないといええる事実としては、例えば夫婦の両方が不倫している場合等があげられるでしょう。

#3:不倫相手の夫婦に未成熟の子がいる場合

不倫相手とその配偶者に未成熟の子がいる場合、慰謝料は増額される要素と考えられます。

#4:不倫を継続していた期間

不倫を継続している期間が長いと慰謝料は増額される要素に、短いと減額される要素に考えられます。

不貞期間が「短い」と判断されるケースは2~3か月程度と言われます。

不貞期間が「長い」と評価されるケースは1年以上の期間と言われています。

#5:不倫の末に不倫相手との間に子ができてしまった場合

不倫相手との間に子ができた場合、子が生まれた否かに関わらず、慰謝料の額は増額される要素と考えられます。

4.慰謝料を請求された場合の一般的な流れ

ここまでは不倫相手の配偶者から慰謝料請求を受けた場合にはそれに応じなければならないのかといった慰謝料の相場について説明しました。

次に、具体的に慰謝料の請求がどのように行われるのか、その流れと対処法をご説明します。

(1)交渉での示談

#1:相手方が直接連絡してくる

不倫相手の配偶者が不倫の事実を知った場合、電話などで直接会って話をするように面談を求めてくることもあります。

ただし、直接会うかどうかは慎重に判断する必要があります。

感情的になってしまってどちらかが冷静に話すことができない場合には文書やメール等でやりとりと行うなど、直接会わない方法でコンタクトを取ることも検討しましょう。

また、強硬に面会を求めてくる場合は、弁護士に依頼し、間に弁護士を入れて交渉を任せることも有効な選択肢になります。

#2:内容証明付郵便等の書面で請求書・通知書が届く

不倫相手の配偶者から具体的に金銭などの要求を受ける場合、まずは内容証明付郵便などの書面で要求がくることがあります。

この時点では裁判を起こされたわけではありません。

しかし、要求に対して無視し続けていると相手方もしびれを切らして裁判を起こすことも考えられます。

そのため、話し合いの中で和解ができるように、書面での請求書が届いたらそのままにせずにきちんと対応しましょう。

ずは不倫相手の配偶者の要求を確認し、不倫を行ったことが事実である場合は、誠意をもって対応する必要があります。

#3:金額の交渉を行う

次に、請求された金額や要求について話し合いを行います。

この時、ご自身の言い分や、支払い可能額をきちんと相手方に伝えましょう。

ただし、交渉時点で弁護士にお任せすることで、交渉を有利に進めることが期待できるでしょう。

#4:双方で合意ができたら示談書を取り交わす

双方で金額やそのほかの条件に合意することができたら示談の成立です。

後に争いを蒸し返さないために、合意した内容を示談書といった書面にして、双方が署名捺印をしましょう。

その後、示談書の約束どおりに支払い等の義務を果たせば終結となります。

(2)裁判での解決

双方で支払いの金額やその他の条件で折り合わなかった場合、相手方が裁判を起こすことも考えられます。

裁判を起こされた場合、裁判所から自宅に訴状が届きます。

訴状が届いたのに無視をし続けてしまうと、相手方の言い分がすべて認められしまう危険があるため注意してください。

裁判を起こされた場合、相手方の主張に対する反論の書面を作成して提出したり、裁判に出廷するなどの対応が必要になります。

専門的な知識が必要なため、裁判にいたってしまった場合には特に弁護士に依頼されることをお勧めします。

5.慰謝料請求された場合にやってはいけないこと

(1)無視や放置をする

不倫相手の配偶者から慰謝料請求をされた場合、やってはいけない対応がいくつかあります。

その一つが、相手方の連絡や請求に対して無視や放置をし続けることです。

事情は様々かと思いますが、配偶者のある人との不倫は慰謝料の支払い義務が生じることのある行為です。

相手方の請求を無視し続けたとしても、慰謝料の支払い義務が消えるわけではありません。

裁判になってしまうことも考えられます。慰謝料の支払いを求める通知書が届いたらきちんと対応する必要があります。

(2)請求どおりの高額な金額を支払ってしまう

「職場に知らせる」「家族に知らせる」等の脅しを受け、相手方の請求どおりの高額な金額の支払いをしてしまうケースがあります。

不倫行為については法的に適切な責任を取る必要はもちろんありますが、適切な範囲を超えた相手方の要求にはこたえる必要がありません。

脅しに対しては、刑法第222条に該当する行為であることを伝えてやめるよう求め、場合によっては警察、弁護士への相談をして対処をしていくことで、不当な脅し、いやがらせを止め、その後のトラブルを予防することが考えられます。

(3)不倫の証拠をすべて消してしまう

不倫相手の配偶者から慰謝料の請求を受けた際、焦って不倫の証拠となるようなメール、SNS等のやり取りを消してしまう方がいますが、得策ではありません。

不倫相手の配偶者は慰謝料請求の為に、不倫の証拠を既に持っている可能性があるため、あなたがお持ちの証拠を消しても意味がありません。

また、慰謝料の算定には、不倫行為がいつから始まったのか、どのような経緯で始まったのかが重要な要素になります。

不倫相手とのメッセージは自身に有利な事実を証明する根拠となります。

その証拠によって、請求された慰謝料を減額することや、事情によっては支払い義務が一切認められないということもあるのです。

慰謝料請求を受けた場合は、その後の交渉に備えて不倫相手とのやり取りを残しておきましょう。

(4)不倫相手の配偶者やその代理人弁護士と直接会う

不倫が発覚した場合、不倫相手の配偶者やその代理人弁護士から面談を求められる場合があります。

こうした面談要求には応じない方がいい場合が多いです。

問題の性質上、両当事者が直接応対しても冷静に解決することは難しい場合が少なくありません。

面談の中で感情的になった結果、あなたが行った不用意な発言によって後々の慰謝料交渉の際に不利なることもあります。

また不利な念書や、録音が取れられてしまうこともあります。

不倫相手の配偶者やその代理人弁護士とのやり取りは書面やメール等によって進めていくことをお勧めします。

(5)示談書・和解書を作成しない、取り交わさない

不倫相手の配偶者と支払う慰謝料の金額等で折り合いがついたら、双方が合意した内容は必ず書面にしておきましょう。

紛争の蒸し返しを防ぐために、支払金額、その他の条件、今回の不倫慰謝料請求に関する問題がすべて解決し、今後は何らの請求もできないことなどを明記して約束しておく必要があります。

6.弁護士をいれて交渉を行うことのメリット

不倫相手の配偶者から慰謝料を請求された場合の流れや、慰謝料請求を受けた場合にやってはいけないことについて説明しました。

浮気、不倫が発覚し、相手方から連絡があると、それだけで動揺してしまうと思います。

また、相手方は感情的になって過大な要求をしてくるケースもあります。

こうした場合には弁護士を代理人して間に入れることで、適正な内容での示談に向けた交渉をスムーズに進めることが期待できます。

以下に早期に弁護士に依頼した場合のメリットについて紹介します。

(1)法的に適切な金額での示談が期待できる

不倫慰謝料には相場といえる一定の金額があることを紹介しました。

また、不倫の経緯や、その時の不倫相手と夫婦関係によってはその金額が減額できる場合もあります。

弁護士に依頼することで、慰謝料の相場や減額の事情も踏まえた交渉を行うことができます。

これは弁護士に代理人を依頼する最も大きなメリットの一つと言えるでしょう。

(2)相手方の不当な要求をブロックすることができる

相手方から「直接あって謝罪してほしい」、「謝罪の手紙を書いてほしい」、「勤め先に不倫をしていた事実を公表して反省してほしい」といった要求がなされることがあります。

不倫相手の配偶者に対して申し訳ないという思いがあると、このような本来は法的義務のない要求を毅然と退けるのは難しいかもしれません。

弁護士に代理人を依頼することによって、弁護士が法的義務のない要求を断り、法的に適切な内容での示談へと進めることを求めることができます。

(3)相手方と直接やりとりしないで進めることができる

自身で直接相手方とやり取りをするのは精神的なストレスが大きいと思います。

弁護士が代理人となることで相手方との交渉を弁護士が行うことができます。

(4)自白のリスクを回避することができる

自身で不倫相手の配偶者やその代理人弁護士と直接やりとりをすると、不用意な発言で相手方に有利な主張をしたり、証拠を与えてしまうリスクがあります。

(5)合意内容が示談書などで書面化され紛争の蒸し返しを防ぐ

示談をしたら、その内容を書面化することが大切であると説明しました。

しかし、法律の専門家でないと作成した書面の内容に漏れがある場合があります。

また、あなたに不利な内容の書面の取交しをしてしまう恐れもあります。

弁護士が代理人となることで、それらのリスクを防ぎ、しっかりと不倫の過去を清算することができます。

まとめ

不倫慰謝料の請求を受けた場合の対処法や弁護士に依頼するという方法の紹介をしました。

慰謝料請求をされてしまった場合、精神的にも経済的にも大きな負担になりますが、向き合って解決を図らなければ裁判になってしまう等状況の悪化の心配もあります。

不倫が発覚し、不倫相手の配偶者から慰謝料請求を受けた場合には早期に、そして慎重に対応を進めること、落ち着いて弁護士への相談や依頼をすることをお勧めいたします。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。