賃金引下げの方法と注意点
企業にとって、従業員の賃金引下げをする事情は、経営の改善を図る必要やその他の事情など、様々あります。
もっとも、賃金は労働契約の最も重要な要素であることから、労働契約法上、いつでも一方的に変更が認められているわけではありません。
そこで、変更が認められる方法とその注意点をご紹介します。
1 賃金引下げの方法
(1) 従業員や労働組合との合意による方法
賃金は労働契約の内容ですので、契約の一般原則に従い、契約当事者が当該変更に同意するのであれば賃金引下げも可能です。
①労働組合との間で労働協約を締結する方法
労働組合がある場合は、労働組合と合意することで、賃金の引下げを実現することが出来ます。
<注意点>
労働協約の効力が及ぶのは、原則として、労働組合に属している従業員です。
組合の組織率によっては、例外的に、非組合員である従業員にも効力が及ぶことがありますが、基本的には非組合員には効力は及ばない点に注意が必要です。
また、一部の組合員を殊更不利益に扱うことを目的とした場合等は、労働組合の目的に反するため、効力は及びません。
②従業員個人と個別に労働契約を締結する方法
労働組合が企業内に組織されていない場合でも従業員から個別に合意が得られれば、また、労働組合に属していない非組合員から個別に合意が得られれば、賃金引下げを実現できます。
<注意点>
個別に合意に至ったとしても、従前から存在する就業規則の賃金規程や給与規程、労働協約で定められた賃金よりも不利に変更することは出来ません。
個別合意後には、就業規則等も変更する必要があります。
また、「黙示の合意」では不安定です。すなわち、従業員の明確な合意がないまま変更後の賃金を従業員が受け取った場合でも、従業員に「黙示の合意」が認められ、変更が有効となる場合があります。
しかし、従業員は解雇やその他の不利益を恐れ反対の意思表示をなし難い立場にあることなどから、裁判上、「黙示の合意」はごく限られた場合にのみ認定されています。
したがって、「黙示の合意」よりも、「明確な合意」の下で賃金引下げを進める方がトラブルの回避に繋がります。
(2) 就業規則の変更による方法
従業員らとの合意を経ずに一方的に賃金引下げを行うことも、一定の要件下で実現できます。
【要件】
- 変更後の就業規則の周知
- 変更内容に合理性があること
<注意点>
変更内容の合理性は、
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
に照らして、総合的に判断されます(労働契約法10条)。
①不利益の程度と②変更の必要性
これらは、双方を比較して判断する必要があります。
つまり、減額率が大きい不利益変更をなす場合、そこまで引き下げないと倒産を回避できないなどの高度な必要性が求められます。
特定の従業員を対象とする場合
55歳以上のみを対象とするなど、特定の従業員にのみ減額を実施する場合に、必要性が認められなかったケースもあります。
③相当性
必要性が認められた上で、③の問題として、業務負担の軽減などの代償措置の有無、経過措置の有無、同一業界内の賃金の傾向などを踏まえて、当該変更に相当性が認められる必要もあります。
④交渉の状況
労働組合や、労働組合がない場合の従業員集団との間で十分に協議をしていたかどうかも考慮事情となります。
賃金の引き下げをご検討される企業様は、どのように変更を実現するべきか、特に従業員、労働組合の合意が得られない場合には複雑な考慮要素があります。
専門家である弁護士が、トラブルを事前に回避できるようサポートさせていただきますので、賃金引下げをご検討されている企業様は、ぜひ一度当所の弁護士にご相談ください。
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