院内規則、対応マニュアルの整備
医療機関においては、日々、大小様々なクレームが出されることが想定されます。
これらのクレームに対しては、院内で対応をマニュアル化しておくことが重要です。
1.対応マニュアルの利点
マニュアルは、導入する際に労力がかかるため、敬遠しがちな医療機関も多いかもしれません。
しかし、下記のような利点がありますので、積極的に作成し、院内に周知することをお勧めします。
(1)対応の迅速化
クレームが発生した場合、それに誰が対応するのが適切なのかという問題が生じることがあります。
これは、組織希望が大きくなればなるほど大きな問題となります。
しかし、クレームに対する回答に時間がかかればかかるほど、沈静化させることが難しくなってしまいます。
間違っても、患者さんをたらい回しにしていたずらに時間だけが経過していくことのないように、誰がどのように対応するのかをあらかじめ定めておくことができます。
(2)対応の統一化
同様のクレームに対しては、同様の回答・対応をするべきです。
これが、時と場合によって異なると、もしも患者さんがそれを知った場合には更なるクレームに発展してしまう可能性があります。
もちろん、何事にも例外はありますが、原則的な対応方法を定めておくことによって、差別や不公平感を与えることがなくなります。
(3)悪質なクレーマーへの抑止力になる
クレームへの対応に慣れている人というのはあまり多くないと思います。
出されたクレームに対して院内で話し合った結果だとしても、「果たしてこのような対応でよいのだろうか」と不安に思うことは珍しくありません。
マニュアルが事前に整備されている場合、少なくとも「当院のマニュアルに従えばこうなります」という説明は可能です。
マニュアル作成の段階で十分に吟味していることが前提ではありますが、毅然とした対応を取ることができるようになり、それだけで悪質なクレーマーには抑止力になります。
2.マニュアル作成の際の注意点
上記のような利点があるため、マニュアルの作成は非常に有効です。
しかし、同時に注意すべき点もあります。
(1)法律や判例などと明らかに抵触する内容にしない
当たり前の話ではありますが、マニュアルの内容が明らかな誤りであるとすると、上記の利点は一切なくなってしまいます。
特に、判例の解釈を読み誤って作成されてしまうと、後に大きな問題に発展してしまいかねません。
例えば、かつて最高裁は、診療契約の一般的義務としてはカルテ開示義務は存在しない、という旨の判断をしましたが、現在では具体的な状況に応じて、説明義務やカルテ開示義務は認められます。
最高裁判決のみを軽信して「カルテ開示要求には応じなくてよい」というマニュアルを作成してしまった場合、場合によっては損害賠償等の請求をされる可能性もあります。
法律や判例、そして現在の実務に整合する内容かどうかは、最重要な注意点となります。
(2)抽象的過ぎず、具体的な手続を定める
クレームに限らず、院内マニュアルといわれるものが備え置かれている医療機関は増えてきています。
しかし、いまひとつそのマニュアルが活用されていないとすれば、抽象的で現実にどのように対応すればよいかが判然としない可能性があります。
例えば、「診療録の開示請求があった場合には適宜の方法で本人確認をし、適切に開示することとする」という記載の場合、結局のところ本人確認はどのように行えばいいのか、開示の手続はどのように行えばいいのか、という疑問は払拭できません。
本人確認書類の種類、請求のための書式、交付するまでの期間の目安、実際に行う担当者など、なるべく詳細に規定しておくことが、利用しやすいマニュアルといえます。
(3)更新する
マニュアルを作って安心してしまい、何年も何十年も同様の対応をし続けてしまうのもよくありません。
というのも、法律や通達の内容は年々変化していきますし、業界の慣行も変化していくと考えられます。
また、当初想定できていなかった事態は必ず生じますので、そのような場合にも更新をし、以後に生かすという心構えが必要になります。
まとめ
マニュアルは、どの医療機関でも共通のものを使っていればいい、ということでもありません。
特に、誰が対応するのか、誰が決定するのかという部分については、医療機関の規模や人員配置によって様々であり、検討を要します。
そのため、対応マニュアルを作成するには、医療機関の実情をきちんと把握する必要があります。
顧問弁護士であれば、医療機関の規模や人員配置などを把握した上で、最も利用しやすいマニュアルを相談しながら作成することが可能です。
また、更新も適宜行うことができます。
クレーム対応に迷う前に、是非一度当事務所の弁護士にご相談ください。
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