医療法人のM&Aに関する注意点を弁護士が解説!
一般にM&Aというと、投資ファンドなどによる利益至上主義のようなイメージもあり、医療法人のM&Aにイメージがわかない方もいるかもしれません。
しかし、近年、病院や診療所等の医療機関のM&Aが増加しています。
この背景には、売り手側には後継者不在問題や、経営不安、買い手側には、規模拡大による増益や、新規エリアへの進出という事情があります。
しかし、医療法人のM&Aについては、一般の株式会社等と異なる注意点が必要になります。
これは、「医療法人」という制度そのものが、少々特殊だからです。
1.医療法人とは
病院や診療所のなかでも、開業医が個人又は共同で運営しているものではなく、医師とは別人格の法人格を取得しているものがあります。
これを医療法人といいます。
医療法人は、医療という公共サービスを提供するものであるため、一般の株式会社とは異なる規制が医療法人法によってなされています。
その特徴は以下のとおりです。
(1)非営利性
最も大きな特徴が、非営利性です。
株式会社においては、経営により利益を得ることが命題とされていますが、病院が営利を追及していけば、医療サービスが崩壊していきかねなくなります。
そのため、営利目的の病院等の開設は許されません。
そして、このため、利益の分配もなされず、株式会社における配当も医療法人においてはありません。
しかし、設立の際に出資をした「持分」がある場合、その持分の割合に応じて退社時には持分の払戻しを、法人の解散時には残余財産の分配を請求することができます。
そうすると、たとえば設立後に業績を伸ばし、法人の資産状況が増加すれば、それだけ多くの利益を得ることができてしまいます。
このことから、医療法人の非営利性にそぐわないとされ、平成19年の第5次医療法改正において、持分の定めのある医療法人の新規設立を不可としました。
これにより、現在は新たに医療法人を設立する場合には、持分の定めのない医療法人のみが設立できます。
もっとも、すでに存在する持分の定めのある医療法人を強制的に持分の定めのない医療法人にすることは、持分権者の財産権を侵害するためできません。
そのため、現在も大多数の医療法人が、持分の定めのある医療法人として存在しているのが現状です。
(2)都道府県知事の認可が必要
医療サービスを担うこととなるため、誰でも簡単に設立ができるわけではありません。
人的構成及び財産的構成が、認可要件を満たすように準備をし、各種資料の提出をしなければなりません。
(3)意思決定権と出資額がリンクしない
株式会社の場合、基本的に出資額に応じた持ち株数がそのまま議決権となります。
そのため、極論を言えば、出資額を増やせば、議決権を押さえ、経営権を掌握することができます。
しかし、医療法人の場合、意思決定機関は「社員総会」となります。
この社員総会においては、一社員一議決権となっており、また社員が出資持分を有するかどうかも医療法人の定款で定まります。
2.医療法人のM&Aに関する注意点
医療法人のM&Aを行う際には、いくつかの注意点があります。
(1)デュー・ディリジェンスの重要性
一般のM&Aでも、デュー・ディリジェンスは重要となりますが、医療法人のM&Aにおいては、よりいっそう重要となります。
そもそも、一口に医療法人といっても、財団なのか社団なのか、さらに社団だとしても上記で見たように、持分の定めの有り・無しがあります。
その上、持分の定めが無い医療法人においても、社会医療法人、特定医療法人、基金拠出型医療法人などの分類があります。
そして、これらのどの類型に該当するかによって、どのようなスキームを組むことが可能か、どの手段が最善かという点が異なってきます。
その他、保有している施設の内容や状況(病院、診療所、健診センター、老健施設等)などの施設面の情報や、保険診療の適正さ(レセプト確認)等、通常の株式会社とは異なった観点からの精査も必要になります。
(2)持分の定めのある医療法人の場合
持分の定めのある医療法人の場合、M&Aの過程で持分の払戻しが生じる可能性があります。
この際、設立当時よりも医療法人の財産的価値が上昇している場合、払戻し金額が高騰してしまう可能性があります。
この場合、余剰現金が潤沢にあれば問題ないですが、当然医療法人の財産的価値の中には、土地や建物等の不動産や機材等の動産、医業未収金なども含まれています。
したがって、実際には、持分の払戻しが困難となる場合が少なくありません。
持分の定めの無い医療法人であれば、そもそも持分という財産性がないので、このような状況にはなりません。
なお、持分の定めの無い医療法人のなかでも、持分の定めのある医療法人と似たような形態の医療法人類型があります。
これが、基金拠出型医療法人です。
基金拠出型医療法人は、持分はありませんが、医療法人に拠出された金銭その他の財産を「基金」とし、拠出者への返還義務があります。
しかし、持分と異なるのは、非営利性を重視し、拠出された基金を超える金額の返還はありません。
また、医療法人の経済的基盤が揺るがないように、貸借対照表上の純資産額によって、上限があります。
(3)行政当局との連携
医療法人は、医療サービスの担い手として、行政による管理・指導を受けることとなります。
そのため、事業譲渡や合併等の新規病院の開設という形を採る場合には、許可が必要となります。
また、そうでなくとも、事実上行政指導として、さまざまな問合せや要望がなされ、折衝を行う必要が出てくる可能性があります。
まとめ
一般のM&Aにおいても、事前の情報調査や交渉等、準備は当然必要となります。
どのような手段が双方の税務会計上最も有利なのかを考えなければなりません。
しかし、医療法人の場合は、さらに医療法独特の問題があります。
これらの点について、十分な検討と準備を行い、最適な条件でM&Aを成功させるために、弁護士へご相談ください。
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