個別指導の通知がきた場合の対応
個別指導の通知が来た場合の対応
「行政指導」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
一般に「行政指導」とは、行政機関が、法律による強制ではなく、情報提供や助言などを行うことです。
保険医に対する指導も行政指導の一種であり、「保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について、周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」こととされています。
ここで大切なことは、2つあります。
1つは、保険医に対する指導はあくまで保健医療の取扱いや診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼としているということです。
つまり、取扱いの過誤をあげつらい、責任を追及する場ではないのです。
2つめは、行政指導である以上、強制的に応じさせることはできず、相手方の協力によって成立することです。
そうだとすると、保険医に対する指導を行う旨の通知が来たとしても、なんら危惧することはないようにも思えます。
しかし、実際には、対象となった保険医の人権を無視するような苛烈な取調べが密室で行われていることも少なくありません。
したがって、個別指導の通知が来た場合には、事前の対策が必要となるのです。
どのような基準で選定されるのか
個別指導とは、文字通り、保険医療機関または保険医に対して、個別に指導を行うものです。
そのため、全ての保険医が呼び出されているわけではありません。
では、どのような基準で選定されているのでしょうか。
選定の基準は大きく3つに分けられます。
① レセプトの平均点数が高い場合
厚生局は、高点数診療を行っている病院や医師に対して、健康保険法を遵守していないのではないかという問題意識を持ち、一定の水準以上の診療点数の保険医を個別指導の対象としています。
具体的には、同じ地域の病院の中で、一定期間のレセプトの点数の平均を出し、この点数が平均の1.1倍を超える医療機関の上位8パーセントがまずは、集団的個別指導によばれます。
この集団的個別指導の後にも、なお、高得点が続き、上位4パーセントに入った場合には、個別指導の呼び出しがかかるという運用になっています。
② 情報提供による場合
厚生局に対して「診療報酬請求が不適切である」旨の情報提供がなされた場合、これを契機にして個別指導が行われることになります。
たとえば、
- 病院職員や元職員
- 患者や元患者
- 審査支払機関
などから、保険医療機関が不適切な請求を行っているなどという告発があった場合が考えられます。
この場合には、厚生局は、個別指導に際して、ある程度具体的に不適切な取扱いを特定していることが多いため、より慎重な対応が求められることになります。
③ 改善が行われない場合
以前に個別指導を受けた際に「再指導」という結果になっている場合や、「経過観察」という結果になっていてかつ改善が見られない場合には、再度個別指導が行われます。
また、正当な理由なく集団的個別指導を拒否したような場合も、個別指導に移行することとなります。
個別指導には事前の作戦会議が必須
個別指導は、上記のとおり、ある程度狙いを定めて行われるため、厚生局側も「空振りだった」という結果を避けたがります。
そのため、微に入り細を穿ってカルテやレセプトを検討し、不備や過誤を探し出そうとします。
そして、不審な点を見つけると、場合によっては指導とは名ばかりの、保険医の人格非難にも及ぶような苛烈な取調べがなされます。
対して、個別指導に対応する側の医師達は、ほとんどが善良な方々です。
自分は患者のためを思って一生懸命ここまでやってきたのだから大丈夫だろうと、何も対策を打たないで臨めば、適切な反論や弁解もできずに終わってしまうことが多いでしょう。
そのため、個別指導について、事前にどのような対応をすべきかの作戦会議を行うことが大切となります。
検討や準備をすべきことは、事案によってさまざまですが、たとえば
- 選定理由の開示を求めるか?
- 指導に際して、事前に支持された物をすべて指示通りに持参する必要があるか?
- 指導に際して、行政側の手続きは適正か?
などの点を検討することは大切です。
特に、行政側の手続きの適正さについては、法律の専門家である弁護士の視点から検討する必要があります。
個別指導も行政指導の一種である以上、「行政手続法」という法律の適用を受けます。
一般に、行政が法律を無視することはないと思われているかも知れませんが、意外と法律ではなく現場の慣行がまかり通ってしまっていることは多いのです。
もちろん、行政側に手続き上の落ち度があるからといって、保険医側の不備がなくなるということはないのですが、明らかに態度や圧力が変わります。
つまり、個別指導の主導権をこちら側が握ることができるようになるのです。
個別指導に立ち会えるのは弁護士のみ
個別指導はその名のとおり個別に行われるので、基本的には同僚の医師をはじめ、自分の味方に立会いを求めることはできません。
そのため、いかに事前に準備を行っていても、独りで立ち向かうことはとても難しいです。
しかし、唯一弁護士だけが、個別指導の場に立ち会うことが認められています。
弁護士は、上記の検討を踏まえて、個別指導の手続き面に関して意見を述べたり質問をしたり、時には保険医に対して助け舟を出すことができ、その結果、苛烈な指導を回避することができます。
弁護士を帯同させるかどうかで、その指導がどのように進むかが大きく変わるといっても過言ではありません。
人権侵害から医師を守る
歴史的に、保険医の個別指導では、人権侵害が多く行われてきました。
密室の中で大声で罵倒され、非難され、場合によっては何時間も、何回もそれが続くのです。
経験をした医師の中では「まるで昔のテレビドラマの警察の取調べのようだった」という感想をもった方もいます。
そして、その苛烈な指導の結果、自ら命を絶ってしまった医師もいます。
このようなことは許されてはいけません。
誰もが適正な手続きで、適切な指導を受けることができなければなりません。
そのために、われわれ弁護士は、保険医の皆さんとともに戦っていきたいと思っています。
ぜひ、ご相談ください。
関連記事