労働審判制度とは?制度概要や手続の流れなどについて弁護士が解説
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「労働審判ってどのような制度なの?」
労働者から労働審判を申し立てられたものの、労働審判がどのようなものか知らない企業の担当者の方も少なくないと思います。
そこで、本記事では、労働審判制度の概要や流れ、弁護士に頼むべきか等について解説します。
1.労働審判の制度とは
労働審判制度は、労働審判法に基づき平成18年4月からスタートした地方裁判所において行われる個別労働事件の解決のための制度です。
企業側からの申立てもわずかながらあるそうです(例えば、地位不存在確認や、賃金等に係る債務不存在確認を求めるものが挙げられます。)が、労働者側から申し立てられるものが大半です。
(1)労働審判の対象
労働審判の対象となるのは、「個別労働関係民事紛争(労働契約の存否その他の労働契約に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争)」です(労働審判法1条)。
例えば、労働者が、会社を相手方とする労働審判において、会社の上司に対して、上司のパワーハラスメント又はセクシャルハラスメント等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をすることは、「労働契約に関する事項」ではないためできません。
また、「個々の労働者と使用者との間に生じた」紛争ではない労働組合と会社との間に生じる集団的労働紛争、「民事に関する紛争」ではない公務員の懲戒処分等についても、同様に労働審判の対象とはなりません。
以下、具体的に見ていきましょう。
(2)労働審判の特徴
労働審判手続は、訴訟(裁判)と比べると、当事者にとって使い勝手の良い特徴を有していると言えます。
以下、労働審判手続の代表的な特徴3点をご紹介します。
#1:スピーディーに解決できる
統計によれば、労働審判手続での平均審理期間は、申立後約70日間であり、約70%が話し合いでの調停で解決し、審判での解決と合わせると、約80%が労働審判で解決しています。
#2:労使から任命された審判員の存在
裁判官である審判官のほか、労働組合関係者が1名、企業の人事担当経験者等が1名というように、労使から任命された審判員が中立かつ公正な立場で、労働審判に関与することとなります。
#3:柔軟な解決
例えば、労働者から地位確認の申立てがされた場合、金銭補償をした上で労働関係を終了させる等、事案の実情に応じた妥当な解決が図られています。
2.労働審判の流れ
労働審判が申し立てられた場合、その後、どのように手続が進むのか、また、今の時点で何をすべきか不安な方も少なくないと思います。
そこで、以下、労働審判の流れについてご説明します。
(1)労働者からの申立
多くの労働審判は、労働者側から申し立てられます。
(2)第一回期日の指定・呼出
第一回労働審判期日は、申立て後、40日以内に指定されることになります。
労働者側からは、申立書、書証の提出が行われますから、企業側は、労働者側から提出された申立書、書証を検討し、指定された期限までに答弁書・証拠を提出しなければなりません。
(3)第一回期日
第一回労働審判手続期日では、申立書・答弁書・それぞれの証拠を踏まえ、まずは、争点整理が行われます。
例えば、労働審判手続における法律上の争点が何なのか(例えば、普通解雇が無効なのかどうか等。)、また、事実認定上の争点が何なのか(例えば、申立人の非違行為があったのか等。)ということの確認が行われます。
この確認は、時間をかけず、ごく簡単に行われることが一般的です。
次に、争点整理の結果を前提として、労働者側又は企業側が主張する事実が認められるか、法律上の主張が認められるか、証拠調べが行われます。
証拠調べは、審尋という形で、労働審判官である裁判官から、当事者または企業の担当者に対し、主に事実を質問することとなります。
そして、労働審判員や代理人から質問が行われることとなります。
その後、争点整理及び証拠調べの結果を前提として、労働審判委員会から調停案を示した上で、調停が試みられることになります。
上記のとおり、第一回労働審判手続期日において調停が成立することが少なくないため、例えば、担当者限りで労働審判に出頭する場合であっても、当日、最終的な判断権者には連絡が取れるようにしておくべきです。
第一回期日の所要時間は、2時間程度のことが多いでしょう。
(4)第二回・三回期日
第二回以降の労働審判手続期日では、通常、再度争点整理及び証拠調べは行われず、主に調停の成立に向けた調整が行われることとなります。
労働審判委員会も、訴訟となったらどうなりそうか、ということを前提に調停を試みます。
つまり、労働審判委員会が調停を試みるため、また審判をするために最も重要な証拠調べ(審尋)は、専ら第一回期日のみ行うこととなるのが通常なため、第一回期日とそのための準備が大変重要なものだといえます。
第二回・三回期日の所要時間は、1時間程度のことが多いでしょう。
(5)審判の終了
労働審判の終了の仕方としては、調停が成立する、審判が確定する、労働審判では解決せず訴訟移行する、という3パターンが考えられます。
#1:調停の成立
調停が成立すれば、労働審判手続は終了となります。
労働審判手続全体のうち、約70%が調停成立により解決しています。
#2:審判の確定
調停が成立しない場合は、労働審判委員会が労働審判を行うこととなります。
この労働審判は、労働審判委員会が調停案として示していた内容となることが多いでしょう。
労働審判は、労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすることができます。
労働審判は、異議が申し立てられなかった場合は確定し、終了します。
労働審判手続全体のうち、約10%が異議の申立てがされず、審判の確定により終了しています。
#3:訴訟移行
労働審判委員会が行った労働審判に対し、適法な異議が申し立てられた場合は、労働審判は効力を失い、自動的に訴訟に移行し、労働審判は終了します。
なお、労働審判手続は、原則として3回以内の期日において審理を終結することを予定しているところ、諸般の事情によって3回以内の期日で解決することが困難な場合は、審判を行わずに手続が終了することもあります(いわゆる「24条終了」)。
(6)労働審判確定
調停が成立又は審判が確定した場合は、個別労働紛争が解決されたこととなります。
3.労働審判が不成立になった後の流れ
労働審判のうち労働審判が不成立になるものは、約20%あります。
それでは、労働審判が不成立になった場合、その後の手続はどのように進行するでしょうか。
(1)裁判に移行する
労働審判が異議申立て又は24条終了により終了した場合、裁判(通常訴訟)の手続に移行することとなります。
訴訟移行後の流れについては、以下の記事を参考にしてください。
(2)裁判に移行した際のデメリット
労働審判から裁判に移行した際の企業側のデメリットとしては、負け筋の場合、労働審判で解決する場合と比べ、金銭的な負担が増加する可能性が高いことです。
労働審判から裁判に移行した際の企業側の具体的なデメリットについては、以下の記事を参考にしてください。
したがって、労働審判を申し立てられた場合、労働審判で適切に解決するべく、早めに弁護士に依頼して対応することが必要でしょう。
4.弁護士に相談するべきタイミング
上記のとおり、労働審判では、第一回労働審判期日において結論が決められていると言っても過言ではありません。
企業側は、通常、答弁書提出までに1週間から10日程度しか時間の猶予がありません。
労働者側と事前の任意の交渉や労働局でのあっせんが行われており、それまでに弁護士に相談されていた場合なら、まだ時間に余裕がある場合もあるかもしれません。
しかし、突然、労働審判の申立てがされ、事前に弁護士に相談がされていなかった場合は、答弁書の提出までに余裕がないことを認識し、直ちに弁護士に相談をするようにしてください。
まとめ
本記事では、労働審判の特徴や労働審判が対象とする事件、労働審判手続の流れと労働審判が申し立てられた場合に直ちに弁護士へ相談すべきこと等をご説明しました。
労働審判手続において迅速かつ適切にトラブルを解決するために、専門家である弁護士に相談しましょう。
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