減給処分の注意点とは?適切な手続方法や従業員トラブルの回避策について弁護士が解説

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
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あわせてご視聴いただければと思います。

「従業員に減給を行う際の正式な手続はどうなっているのだろうか」
「減給を行う際に従業員トラブルにならないようにするにはどうしたらよいだろうか」

従業員の給与を減給する場合には一定のルールがあります。

どのようなルールがあるか正しく把握しているでしょうか。

また、減給に限度額があることはわかっていても、具体的な計算方法はわからないということも多いのではないでしょうか。

減給については従業員とトラブルになることが多く、裁判に発展するケースもあります。

この記事では、適切な減給処分の手続や対象従業員とのトラブル回避対策などをご紹介します。

この記事を読んで、適切な減給処分の手続と対象従業員とのトラブル回避対策を実際に講じ、トラブルのない社内環境維持に貢献できれば幸いです。

1.減給について

「減給」という言葉は多義的です。

どのような場合にどのような方法による減額が認められるのかをまず確認しましょう。

(1)減給とは

一般的に「減給」とは、制裁として、その労働者の現実になされた労務提供に対して支払われるべき賃金から一定額を差し引くことをいいます。

減給、過怠金、罰金等の名称は問いません。

賃金は従業員の生活の根幹であるため、減給する額があまりに多額になると、従業員の生活を脅かすおそれがあります。

そのため、労働基準法(以下、労基法という)では、減給について一定の制限を設け、従業員の生活を保障しています。

(2)制裁として減給が認められるケース

従業員が懲戒事由に該当した場合、それに対する懲戒処分として減給が行われることがあります。

一例として、無断欠勤を繰り返す、業務中の私語が目立つ、遅刻が多い、ミスが多い、営業に出て実際に仕事をしていないといった場合などには、従業員に問題があると判断されるため、減給は妥当と判断されるでしょう。

また、セクハラ発言をするなどハラスメントを繰り返す社員や、業務上の秘密を漏えいした社員に対して、コンプライアンス違反の罰則として減給処分を行うことができます。

ただし、減給を罰則として機能させるためには、就業規則にあらかじめ懲戒に関する事項を記載しておく必要があります。

(3)制裁以外で減給(給料の減額)が認められるケース

前述したように、一般に「減給」は、制裁として賃金の一部を減額することを指します。

もっとも、制裁以外であっても給与を減額する場合があり、事実上これについても減給と言われることがあります。

#1:人事評価で降格する場合の減給

人事上の降格が行われ、結果的に減給に至るケースです。

人事上の降格は、労働者を格付けするシステムの中で、その格付けが下がった場合をいいます。

この場合は、労働者の担当職務のランクダウン等に伴う人事上の措置であり、制裁としての懲戒処分とは質的に異なります。

降格処分による減給の大きな理由は能力不足です。

大きな問題行動やルール違反をしていない従業員であっても、人事評価によって降格処分となり、その結果減給を行うことができます。

中には、マネジメント業務のプレッシャーや業務のミスマッチを理由として、本人側から降格を申し出るケースもあります。

#2:会社都合の減給

景気の衰退や業績不振により会社の経営が悪化した際、人件費を削減するためにやむを得ず会社都合として減給するケースもあります。

この場合、原則として会社は一方的に賃金を減額することはできず、個別の労働者と合意をして契約内容を変更することを目指すこととなります。

また、倒産回避のためなど喫緊かつ合理的な理由がある場合には、就業規則の変更によって賃金の減額を行うことができる場合もあります。

ただしこの場合も、会社の財務資料を用いて丁寧に説明するなど、適切に従業員側の理解を求める必要があるでしょう。

#3:ノーワークの結果、欠勤控除となり、結果として減給となる場合

従業員が何らかの理由で仕事を休んだ(労働しなかった)場合、企業はその分の給与を支払う義務がないという「ノーワークノーペイの原則」に基づき、「欠勤控除」として実質的に減給となる場合もあります。

ノーワークによる減給の例としては、体調不良や私用など社員本人に責任のある欠勤・早退・遅刻や、台風や大雪など社員にも企業にも責任のない遅刻・早退などが挙げられます。

(4)減給が認められないケース

給与は、従業員にとって重要な労働条件の1つです。

そのため、企業はいつでも自由に減給ができるわけではありません。

後述するように、減給を罰則として機能させるためには、就業規則にあらかじめ減給の条件を記載しておく必要があります。

規定がなければ減給は認められません。

事前に就業規則に懲戒に関する規定を置いていない場合、就業規則を変更し減給に関する規定を置けばよいとも考えられますが、これにも一定のルールが存在します。

#1:ルール① 労基法9条の定め

まず、原則として、従業員との合意なしに不利益変更に当たる就業規則の変更は認められていません(労基法9条)。

従業員から同意をもらう場合も、同意は口頭ではなく書面で取得するようにしましょう。

不利益変更について従業員から訴訟を提起され裁判となった場合、不利益変更について従業員から口頭で同意をもらっていたという主張は立証が困難であり、裁判所ではほとんど認められません。

また、同意書を取り付ける際には、後のトラブルを防ぐためにしっかりと従業員に説明をした上で行う必要があるといえるでしょう。

#2:ルール② 労基法10条の定め

以下の2つの条件を満たす場合には、従業員との合意によらずに、減給といった不利益変更が認められる場合があります(労基法10条)。


条件1:不利益変更の必要性や従業員の受ける不利益の程度などから就業規則の変更が合理的である。
条件2:変更後の就業規則を社員に周知している。

主な要件として、変更に合理性が認められるか否かが判断の基準となりますが、どのような場合に合理性が認められるかについては、不利益変更の項目によって差があります。

特に、賃金や退職金を減額する不利益変更については厳しい基準(「高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合」に限る。最高裁判所判決平成12年9月7日判決)で判断されることになります。

この点には注意が必要といえるでしょう。

2.減給手続前に知っておくべき注意点

減給という処分が従業員の生活に与える影響は大きいため、これを適法に行うためには従うべきルールが決まっています。

(1)減給処分のルールを守ること

懲戒処分は就業規則に沿って行わなければなりません。

従って、就業規則内に懲戒に関する規定がない場合は、そもそも減給をすることは難しいといえます。

なお、就業規則はあらかじめ従業員に周知しておく必要がありますので、この点にも注意が必要です。

(2)減給の金額の決め方

減給できる金額は非常に少額であることに注意が必要です。

懲戒処分としての減給については、労基法91条により、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期の総額の10分の1を超えてならない。」と定められています。

これは、減給処分が、労働の結果いったん発生した賃金債権を減額するものであるため、懲戒処分としての減給を行う場合の最高限度額を定めるものです。

つまり、多くの問題行動を起こした従業員に対しては、それぞれの問題行為に応じた複数の処分を行えるものの、減給の金額は1回の賃金の支払いにおける10分の1を超えてはならないということです。

(3)減給の上限額

減給は1回の問題行為に対して返金賃金の1日分の半額以下にする必要があります。

例えば、平均賃金の1日分が1万円の人の場合、労働基準法の取り決めに従えば、減給できるのはその半額である5,000円までにとどまります。

【減給する額の制限】

①1回の減給額が、平均賃金の1日分の50%以内

②減給額の総額が、一賃金支払期の賃金総額の10%以内

「平均賃金」とは、平均賃金の算定事由が発生した日の直近3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額をいいます(労基法12条)。

この「賃金総額」には、所定賃金や時間外・深夜・休日勤務手当はもちろん、通勤手当や住宅手当、家族手当、精皆勤手当のように定期的に支払われる諸手当も含まれます。

現実的には考えにくいと思いますが、1か月の間に10回の減給処分を行う場合を例に挙げます。

この場合、個々の減給処分については、平均賃金の1日分の半額の減給処分をすることが可能ですが、10回の減給処分について同様の減給処分をしてしまうと、平均賃金の5日分の減給になってしまいます(平均賃金の1日分の1/2×10日間)。

このような平均賃金の5日分の減給は、1か月の賃金総額の10分の1を超える金額となるので、減給処分は認められません。

5,000円×10=5万円(平均賃金の5日分の減給)>30万円×1/10=3万(1か月の賃金総額の10分の1)

(4)減給できる期間について

1回の問題行動に対して懲戒処分として減給を行えるのは1回だけです。

例えば、月給30万円の従業員について9月に5,000円の減給処分を1回行った場合、9月は29万5,000円の支給になりますが、10月以降は元どおりの30万円の支給に戻す必要があるということです。

このように、懲戒処分として減給をする場合、1年間減給するとか、6か月間減給するというように期間を定めて減給することはできません。

ニュースで、会社の不祥事に際して責任をとって1年間30%の減給をすると決まった、などという報道することがあります。

しかし、このような措置は取締役の報酬に対する減給だからできることで、従業員に対して同様の減給処分はできませんので、注意が必要です。

3.適切な減給の手続

それでは、実際に減給を行う場合には、どのような手続を経るべきでしょうか。

それぞれの場合に分けてご説明いたします。

(1)制裁としての減給の場合

就業規則内に懲戒の手順も定められている場合、就業規則にのっとって手続を進めていくこととなります。

逆に言えば、就業規則に記載のある手続を経なかった場合には、違法な懲戒処分であると判断されてしまう可能性が高まります。

就業規則に具体的な手続がない場合でも、その後のトラブルを防ぐために適切なステップを踏んで処分を下した方が安心です。

例えば、①事実の確認、②処分理由の告知、③弁明の機会提供、④懲戒処分としての言及が妥当か否かの検討、⑤懲戒委員会などへの付議、⑥対象労働者への減給処分通知などの手順が想定されます。

(2) 制裁以外での減給の場合

懲戒以外の理由で給与を減額する場合も、適切な手続を経る必要があります。

#1:人事評価で降格する場合の減給

人事異動・人事評価による減給を行う際には、人事制度と給与制度を連動させた上で、そのことが就業規則に書かれていなければなりません。

そのためにはまず、①就業規則に明記されていなければなりません。

「人事制度と給与制度が連動していること」や「人事評価により降格となった場合、役職手当が下がり実質的に減給になる可能性があること」などを明記し、②社員に周知しましょう。

業務へのミスマッチや能力不足などが見られるかという、③事実確認をしたら、対象となる社員に対して④注意・指導し、改善を促すとよいでしょう。

改善が見られなかった場合、⑤降格・減給が妥当かどうかを慎重に判断した上で、社員への通知といった⑥就業規則に沿った手続を実施しましょう。

#2:会社都合の減給

会社都合により減給する際にまず行う必要があるのが、①給与削減案の作成・周知です。

「経営状況を改善するためにはコストカットがどの程度必要なのか」や「そのためには社員の給与を何%削減するのか」などを慎重に検討した上で、給与削減案を作成します。

社員の給与を下げるのに先立ち、②役員報酬の削減を実施すると、社員の理解が得られやすくなるでしょう。

次に、③社員へ説明を行います。

社員一人一人に個別に説明するのが望ましいでしょう。

その後、④就業規則・労働契約を変更します。

そうした一連の手続が終わったら、後々のトラブルを避けるために、減給についての⑤同意書の提出を社員にお願いしましょう。

#3:ノーワークの結果、欠勤控除となり、結果として減給となる場合

ノーワークによる減給を行う際には、「基本給」だけでなく「諸手当」も控除の対象となります。

諸手当には「皆勤手当」や「家族手当」、「通勤手当」、「資格手当」などさまざまなものがありますが、どれを欠勤控除の対象とするかは、企業の任意によります。

以下が欠勤控除の計算方法です。

【欠勤控除の計算方法】

・賃金控除額=(基本給+諸手当)/月の所定労働日数×欠勤した日数
または
・賃金控除額=(基本給+諸手当)/月の所定労働時間×欠勤した時間

控除対象とする手当の種類や具体的な計算式などは、就業規則に記載されていることが通常ですので、事前に確認しておくといいでしょう。

また、定まっていない場合は、就業規則を修正する必要があります。

その場合は、不利益変更禁止の原則に反しないように修正を行いましょう。

4.従業員とのトラブル回避対策

減給や給料の減額については、後日トラブルに発展することが少なくありません。

会社としては、できるかぎりトラブルを回避できるように、事前に予防策を打っておくことが大切です。

(1)従業員の同意を強要しない

会社と従業員との関係では、圧倒的に会社が有利な立場にあります。

そのため、会社から給料の減額について強く同意を求められた場合には、従業員は真意でなくても同意してしまう可能性があります。

形式的に従業員から同意があったとしても、その同意が真意に基づくものでなければ、後日、給料の減額の同意の有効性をめぐって争いになる可能性が高いです。

なので、従業員から同意を得る場合には、事前に同意をするか否かは任意である旨をしっかりと説明し、十分な検討期間を設けるなど、従業員の合意形成プロセスに瑕疵がないように配慮することが大切です。

(2)就業規則の不利益変更の場合でも、従業員へ適切な説明が必須

上述の4(1)の場合のように従業員からの同意がなかったとしても、就業規則の不利益変更の要件を満たす場合には、就業規則の変更によって給料の減額を行うことができます。

しかし、従業員の同意が不要だからといって、会社が従業員に丁寧な説明をするなど同意を得るための努力をせずに一方的に不利益変更手続を進めてしまうと、変更の合理性が否定される可能性があります。

就業規則の不利益変更の手続による場合であっても、従業員に対して説明をし、同意を得られるよう努力をしたということが合理性判断にあたって重要となるので、怠らないようにしましょう。

(3)弁護士に相談する

従業員の給料を減額する場合には、適切な手続のもと進めなければ、給料の減額が違法となり、支払わなかった給料と遅延損害金(利息)を支払わなければならなくなるおそれがあります。

どのような手続を踏む必要があるかは、会社の規模・個別の労働契約や就業規則の内容など、会社の事情に応じて異なってきます。

そのため、会社の実情に応じた対策を講じる必要があります。

弁護士であれば、会社の実情を踏まえて適切な手段をアドバイスすることが可能です。

まとめ

本記事では、懲戒処分として行われる減給について、基本概念や減給処分が行われるケース、適切な処分手続などについてご紹介しました。

また、従業員とのトラブル回避対策まで紹介し、特に専門家である弁護士に相談することで、企業様とその労働者個人の威厳を守ることができる適切な減給処分の対策を講じることができるでしょう。

適切な減給処分の手続と対象従業員とのトラブル回避対策について、懸念点などがある方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。

執筆者 大塚 慎也 弁護士

所属 埼玉弁護士会

弁護士相談は敷居が高い、そういう風に思われている方も多いかと思います。
しかし、相談を躊躇されて皆様の不安を解消できないことは私にとっては残念でなりません。
私は、柔和に皆様との会話を重ね、解決への道筋を示させていただきます。
是非とも皆様の不安を解消するお手伝いをさせてください。