労働審判が会社に与えるダメージを回避・軽減する方法とは?~弁護士が解説します~

執筆者 岡野 翔太 弁護士

所属 東京弁護士会

法律問題の多くは、皆様にとって全くご縁が無かったものか、あまり意識することが無かったものだと思います。そして、これらの法律問題に直面された皆様は、法律問題が今後どのように進むのか、自分に今後どのような影響があるのか、無事に解決するのか等の不安を抱えているのではないかと推察いたします。
私は、皆様が直面した法律問題に対し、解決に向け丁寧な道案内に努め、少しでも皆様の不安を解消できるよう全力でサポートいたします。決して皆様を一人にはしません。
困ったことがあれば、何でもお気軽にご相談いただければと思います。

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「従業員に労働審判を起こされた場合、会社がどのようなダメージを被ると考えられるの?」
「労働審判によって、会社がダメージを被らないようにするため、また、ダメージを軽減するためには、どうすればいいの?」

労働者(従業員)からいきなり労働審判を申し立てられた場合、会社としては、どのようなダメージを被るか不安に思われるでしょう。

弁護士に頼んだ方が良いとは思うけれども、自社だけでも対応できるのではないか、と思われる会社もいるかもしれません。

そこで、以下、労働者から労働審判を申し立てられた場合、会社にどのようなダメージが考えられるのか、また、そのダメージを回避・軽減するためには、どのようにすればよいか、解説します。

1.労働審判が会社に与えるダメージとは?

労働審判によって会社が被るダメージは、「金銭的な負担」や「手続に要する労力」、「他の従業員への影響」、「社会的信用の低下」など多岐にわたります。

ここでは金銭的な負担に絞って解説をします。

労働審判となった事件は、どのタイミングで解決するかによって金銭的負担も変わります。

傾向として、手続が移行する程、金銭的負担は増加する傾向にあります。

(1)労働審判の流れ

労働審判は、以下の流れで進みます。

  1. 労働者による裁判所への申立て
  2. 会社側による答弁書の提出
  3. 期日における審理
  4. 話合いによる解決(調停成立) または 裁判所の判断(労働審判)

そして、労働審判の結果に異議がなければ解決、異議があれば訴訟へと移行します。

したがって、労働審判で解決をする方法は、①調停で解決する、②審判で解決する、③訴訟で解決するの3つの方法があります。

(2)労働審判になりやすい事件類型と注意すべきポイント

労働者側から労働審判手続が申し立てられる主な事件類型としては、解雇無効を理由とする地位確認請求事件又は残業代請求事件が挙げられます。

これらは、単独で申し立てられることもありますが、両方が問題となる場合も少なくありません。

#1:解雇無効を理由とする地位確認請求事件

この事件の注意点としては、訴訟となった場合、バックペイが増額する恐れがあることです。

バックペイとは、解雇等の不利益取扱いがなければ得られたはずの賃金相当額の支払いを受けることをいいます。

解雇無効を理由とする地位確認請求事件において、仮に解雇無効と判断された場合、会社は、解雇が無効と判断されるまでの期間の未払い賃金を、バックペイとして支払わなければならなくなるのです。

労働審判から訴訟に移行した場合、訴訟でも半年から1年程度かかることが想定されますから、未払い賃金がその間発生し続けることとなります。

そのため、労働審判において解雇無効を前提とした労働審判が出されていた場合、会社側としては、訴訟における逆転可能性がどの程度あるのかを検討した上で、異議申立てをしないと、かえって負担しなければならない金額が増えてしまうといえるため注意が必要です。

したがって、訴訟においても、解雇無効と判断されることが見込まれる場合は、労働審判で解決することが、企業側にとってメリットがあるということになります。

解雇の有効・無効を判断することは、非常に難しいことなので、企業のみで安易に判断すべきではありません。

#2:残業代請求事件

この事件における注意点としては、訴訟となった場合、「付加金」の支払いが命じられる可能性があることです。

「付加金」とは、会社側が割増賃金等、労働基準法上支払義務を課された一定の金員について未払いがあるときに、労働者の請求により、その未払金と同一額の支払いが付加される金員のことをいいます(労働基準法114条)。

その理由としては、割増賃金等を支払わない会社に対する一種の経済的な制裁と理解されていると思われます。

付加金は、労働審判手続では認められません。訴訟に移行し、判決となって初めて問題となります。

労働審判手続において、残業代請求が認められることを前提とした調停案の提示が行われていた場合や、労働審判がなされた場合は、訴訟においても不利な判決となる可能性が低くないことが少なくありません(当然ながらケースバイケースです。)。

そうすると、労働審判手続で終了していた場合と比べると、訴訟になることにより最終的に会社側が支払わなければならなくなる金額が増額する恐れがあることになります。

#3:弁護士費用の増加

解雇無効を理由とする地位確認請求事件及び残業代請求事件に共通する注意すべきポイントとしては、もし弁護士に依頼する場合、交渉、労働審判、訴訟と手続が移行するに応じて、一般的に必要な弁護士費用が増加していくことが挙げられます。

したがって、早期に解決することにより、結果的に弁護士費用の増加を抑えることができます。

(3)労働審判に出頭しなかった場合

労働審判が申し立てられた場合、労働審判での解決が困難な場合を除き、しっかりと対応すべきです。

労働者側から労働審判を申し立てられるということは、労働者側にとっても、早期に話し合いでの解決が可能であると思われているからです。

それにもかかわらず、会社側が労働審判に出頭しない場合、訴訟で決着を付けざるを得なくなるでしょう。

訴訟で解決する場合と比べて、労働審判で解決した方が良い場合もあります。

体感としては、労働審判で解決した方が会社側にとって良い結果となることは少なくないように思われます。

ですので、労働審判が申し立てられた場合、しっかりと対応すべきでしょう。

2.労働審判におけるダメージを回避・軽減させる方法

預貯金が差し押さえられるまでの流れ

それでは、労働審判が申し立てられた場合、会社側のダメージを回避・軽減させるためには、どのようにするべきでしょうか。

(1)弁護士に相談、依頼をする

1で解説したように、労働審判は手続が進むにしたがって金銭的負担も増加する傾向にあります。

労働審判によるダメージを回避・軽減させるためには、適切なタイミングで解決する必要があります。

そのためには、あらかじめ弁護士に相談し、解決の見通しをたてておく必要があります。

弁護士に相談に行く際には、以下の準備をしておくとスムーズに進めることができます。

#1:時系列表・人物相関図の作成

簡単な時系列表を作成されると、弁護士としても労働事件のイメージがつきやすくなりますので有益でしょう。

また、関係者が多数になる場合は、人物相関図を作成していただくこともあります。

#2:証拠の整理

就業規則や賃金規程、解雇通知書や解雇理由証明書等、基本的な証拠については早急に準備しましょう。

また、録音データやメール・LINEのやり取り等、その他の証拠についてもできる限り準備されると良いと思います。

(2)なるべく労働審判による解決を目指す

これまでに述べたように、訴訟で決着を付けなければならない場合と比べ、労働審判で解決した方が、企業側にとってメリットがある場合が少なくありません。

弁護士と相談し、徹底して争う事情がない限り、まずは労働審判による解決を目指すべきでしょう。

(3)労働審判に出席する担当者を慎重に選ぶ

また、労働審判は、第1回期日から、労働審判委員会から、事実の確認がされるだけでなく、労働審判委員会が労働審判で解決する上で妥当だと考える金額ベースでの解決金の提示が行われます。

それにもかかわらず、決裁権限のない一担当者レベルの者しか出頭できないとすると、第1回期日で解決できたものが、先延ばしになってしまう可能性もあります。

そのため、労働審判に出頭する担当者は、事案の詳細を知っている担当者のみならず、可能であれば、解決金に同意することができる決裁権者も出頭すべきでしょう(出頭しないとしても、連絡は取れるようにしておくべきです。)。

3.労働審判が訴訟に移行するとどうなるか

労働審判から移行した裁判は、通常の1から提起する裁判とは少し異なります。

(1)労働審判から移行した裁判の始まり方

通常、訴訟を行う場合には、裁判所に対し、請求の内容を記載した訴状を提出することになります。

しかし、労働審判から訴訟に移行する場合は、労働審判の申立書が訴状とみなされるため、新たに訴状は提出されません。

多くの裁判所では、実務上、「訴状に代わる準備書面」という書面の提出が求められています。

労働審判手続を経ている場合、申立人(原告)は、労働審判手続を踏まえて、相手方の主張及び証拠と当該労働事件における実質的な争点を把握できているはずです。

そのため、労働審判手続でのやり取りを無駄にしないように、労働審判手続を踏まえた「訴状に代わる準備書面」の提出が求められるのです。

(2)労働審判から移行した裁判で会社側が最初に行うこと

労働審判が裁判へと移行すると、まずも労働者(従業員)側が「訴状に代わる準備書面」を提出します。

会社側として最初にすべきことは、この労働者側が提出した書面に対して、反論することです。

また、訴訟の場合、第1回期日は、口頭弁論手続で行われ、第2回期日以降から、争点整理手続である弁論準備手続又は書面による準備手続が行われています。

しかし、労働審判手続の場合は、既に実質的な争点の把握が進んでいるため、第1回期日から、争点整理手続である弁論準備手続又は書面による準備手続が行われる例が多いでしょう。

その他は、通常の訴訟手続と異なることはありません。

双方が準備書面を提出して主張を行い、争点の整理を行って、書証及び人証を調べ、事実認定が行われることとなります。

このように、労働審判が裁判へ移行する場合、全く新しい事件が始まるのではなく、労働審判の経過を前提として事件が進んでいくことになります。

したがって、労働者から労働審判の申立を受けた場合は、最初から解決の落としどころを見据えて各手続を踏む必要があります。

まとめ

本記事では、労働審判において会社にどのような影響が及ぶのか、労働審判におけるダメージを回避又は軽減する方法、また、労働審判申立後のアクションについて解説しました。

労働審判が申し立てられた場合は、労働者側と迅速かつ円満な解決ができるように、本記事を参考にしていただければ幸いです。