従業員トラブルについて
しかも、従業員が仕事中に行った行為である場合に限られません。
このように、企業(使用者)側に損害賠償義務が課されているのは、危険責任の原則と、報償責任の原理から成り立っています。
危険責任の原理とは、使用者(会社)が被用者(従業員)を用いることで新たな危険を創造、拡大している以上、使用者は被用者による危険の実現についても責任を負うべきだというものです。
報償責任の原理とは、使用者が自分のために被用者を使い、利益を上げている以上、使用者は被用者による事業活動の危険を負担すべきだというものです。
本記事では、使用者責任が認められる要件、免責や求償の問題について解説します。
1.使用者責任が認められる要件
被用者の不法行為が認められることを前提に、使用関係があること及び不法行為が事業の執行について行われたことの要件が必要となります。
以下では、使用関係と事業執行性という2つの要件の詳細について解説します。
(1)使用関係
実質的に見て使用者が被用者を指揮監督する関係があれば足り、この関係は、指揮監督をすべき地位が使用者に認められるかどうかという点に即して判断されます。
会社と従業員の関係は、典型的な使用関係にあります。
そして、元請業者と下請業者など、雇用関係がなくても責任を負う場合があります。
ここには複雑な判断基準があるため、専門家に相談されることをお勧めします。
また、違法かどうか、営利目的かどうかなども重視されません。
(2)事業執行性
「事業の執行につき」との要件です。
ここでも、必ずしも被用者の行為は会社が業務として指示したものに限られません。
外から見て、あたかも職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合をも含むとされています。
典型例として、従業員による社用車運転中の交通事故があります。
たとえ事故が勤務時間外であっても、客観的に見て、従業員の職務の範囲に属するとして、使用者責任が認められる場合があります。
また、被用者の取引行為についても、使用者責任を負い得ます。
たとえ従業員のした取引行為が会社の名前を使った勝手な行為であり本来の職務ではなかったとしても、客観的にみて、その被用者が担当する仕事であるといえるような場合は、使用者責任が認められる場合があります。
2.免責の可否と求償
使用者は、被用者の選任及び事業の監督について相当の注意を払ったこと、または、相当の注意をしても損害が発生していたであろうことを立証できれば免責されます。
しかし、上記の<要件>が満たされれば、免責されることはほぼ皆無です。
以下では、使用者が従業員に対して求償権を行使することができるかについて解説します。
(1)求償権
使用者責任は、使用者固有の責任ではなく、被用者の責任を使用者が代わって負担する代位責任とされています。
そのため、使用者が、被用者に代わって損害証を行った場合、被用者に賠償金の支払いを求めることができます。
これを求償と呼びます。
但し、使用者責任が、そもそも使用者と被用者の損害の公平な分担という趣旨の制度であることから、全額の支払いを求めることはできず、相当な範囲内に限られます。
求償が全額認められなかった事例もあります。
相当な範囲がどれだけかについては、これまでの裁判例や個別具体的な字以上に照らして判断されます。
そのため、適切な求償や、被用者との争いとなった再には、専門家の助言が必要なところです。
被用者が不法行為を起こした場合には、まず専門家に相談されることをお勧めします。
但し、代位責任との考え方から、被用者が損害賠償義務を自ら履行した場合には、被用者から使用者に対して「求償」することは認められないと考えられています。
もし、従業員からこのような請求がされた場合には、専門家に相談して適切に対処することが重要です。
また、場合によっては、従業員との関係で、「求償」とは別の理由、例えば、不法行為責任や債務不履行責任に基づき、会社が被用者に対して一定の賠償をしなくてはならないケースも考えられます。
個別の事情により、対処方法も変わりえるため、複雑な事情の場合は、一度専門家の助言を仰ぐべきといえます。
(2)具体例
#1:営業担当の従業員が、外回り中に交通事故を起こした場合
この場合、従業員には被害者に対して不法行為責任が生じます。
そして、従業員の不法行為ですから、会社には使用者責任が生じます。
そうすると、実際は、会社が被害者個人に対して賠償することとなるでしょう。
被害者が理不尽な要求をしてきた場合、会社としては問題が大きくなることを恐れるあまり、合理的範囲を超えた賠償をしてしまうこともあります。
会社として争いごとを大きくしたくないという方針は、経営上必要な場合もあるでしょうが、過剰な要求に応じる必要はありません。
交通事故の場合、治療費だけでなく慰謝料やその他の損害額について裁判上の基準というのが明確に存在しています。
もし、被害者から過剰な要求をされていると感じられた場合は、一度専門家にご相談された方が良いでしょう。
#2:従業員が他の従業員に対してセクハラをした場合
上司が部下に対して、職務上の地位を利用してセクハラをした場合、たとえ勤務時間外のケースでも使用者責任が生じえます。
したがって、会社としては部下に対して適切に対応することが求められます。
また、その上司に対する社内での処分についても、就業規則に基づき適切に対処しなくてはなりません。
そのため、このようなセクハラ問題は、単なる使用者責任の問題を超えた、社内ルール全体に及ぶ重大なものといえます。
セクハラをした上司や部下に対する対応に悩まれた際は、ぜひ専門家にご相談下さい。
#3:従業員が勝手にした取引により取引先に損害を与えた場合
会社がその従業員に対し、不正確な肩書きを与えていた場合など、客観的に見てその取引が当該従業員の担当業務内のものだと認められるケースでは、会社は使用者責任を負うことがあります。
このような不測の事態を防止するためには、不正確な肩書きや名刺を交付せず、また、社印や領収書などを厳重に管理することが必要となります。
取引先との信頼関係を壊さないためにも、予防法務として、管理体制についても事前にご相談いただければと思います。
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