労働者の解雇
中小企業の経営者にとって、従業員は重要な財産です。
もっとも、経営上、どうしても解雇に迫られる場合や、会社にとって問題となる従業員がいる場合等、従業員をやめさせたい場合も多々生じます。
しかし、法律上、労働者は無制限な解雇から守られています。
会社としては解雇をしたつもりでも、それが無効な解雇の場合、従業員の籍は会社に残っていることなり、賃金未払いや損害賠償の問題など様々なトラブルに発展し得ます。
また、経済的問題のみならず、会社の社会的信用を低下させるなど、経営上大きな損害が生じ得ます。
そこで、トラブルを未然に防ぐ解雇、退職の術を持つことが、中小企業の経営者には必要です。
多くの労働トラブルが、専門家への事前の相談で未然に防ぐことができるものです。
そのため、現時点で労働トラブルを抱えていない経営者の方も、一度、貴社の就業規則や労務管理等ついて、弁護士に相談されることが将来の紛争コスト削減のため重要となります。
1.解雇にまつわる基本事項
(1)解雇権濫用の法理(労働契約法16条)
解雇権濫用法理とは、「解雇は、客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(同16条)というもので、判例法理が条文で明確化されたものです。
また、以下の場合は解雇が禁止されています。
- 業務上の傷病による休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条)
- 産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条)
- 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
- 労働者が労働基準監督署長に対して申告をしたことを理由とする解雇(労働基準法第104条)
- 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労働組合法第7条)
- 女性であること、あるいは、女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第8条)
- 育児休業の申し出をしたこと、又は育児休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条)
- 介護休業の申出をしたこと、又は介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第16条)
(2)1か月前の告知、又は、解雇予告手当てが必要
解雇される労働者の生計を最低限守るため、1か月前の告知又は解雇予告手当てのルールが定められています(労働基準法20条1項)。
解雇予告手当ては、直前3か月分の給与を基礎にして算定します。
2.整理解雇とその要件
整理解雇、すなわち、労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇については、解雇権濫用の法理の下、制約があります。
具体的には、以下の要件を満たすことが要求されます。
(1)人員整理の必要性
削減に対する経営上の相当な理由が必要です。
(2)解雇回避義務努力義務
解雇が最後の手段であることが必要です。
人員削減に至るまでに、役員報酬の削減や、希望退職者の募集、不要な資産の処分、新規採用の停止など、リストラを回避するための努力を履行してきたかが重要となります。
(3)解雇する従業員選定の合理性
解雇する従業員の選定については、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して行ったことが必要です。
(4)手続の相当性
労働組合又は労働者に対して、整理解雇の必要性とその時機・規模・方法について納得を得るための説明を行い、誠意を持って協議したことが必要であり、実際、この要件の重要性は高いものとなっています。
このように、整理解雇の有効性については裁判例上、確立した判断基準が構築されています。
どのような場合なら要件をクリアできるのかについては、過去の裁判例なども参考にしながら個別具体的な事情による複雑な判断が必要なため、専門家からの助言が必要です。
また、中小企業の中には、そもそも上記の四要件が適用されない場合もありえるため、一度、専門家に相談されることをお勧めします。
3.退職勧奨
いわゆる肩たたきです。
解雇ではなく、辞職を勧める行為で、対象者について法的な制限は有りません。
但し、退職勧奨も場合によっては、会社の不法行為を問われることになります。
一般的には、以下の事情が考慮されます。
- 退職勧奨の回数や執拗さ
- 面談の長さ
- 勧奨の場所・時間
- 言動内容
- 勧奨を行う人数
- 明確な拒否の意思表示の有無
退職勧奨に応じるかは、労働者の自由裁量です。
労働者の意思を考慮しないで強要に当たるような場合は不法行為となり、会社は損害賠償責任を負います。
適正な退職勧奨を実行するために、ぜひ弁護士へ相談してください。
4.懲戒解雇
懲戒解雇は、重大なルール違反をした従業員に対する制裁の意味を持ちます。
そのルールは、就業規則に明記され、かつ、周知されていることが必要です。
もっとも、制裁だからといって、懲戒解雇がいつでも許されるわけではなく、事情に応じて懲戒解雇に相当性があり、かつ、過去の同種の懲戒解雇事例と比べて平等な処分といえる必要もあります。
まとめ
その他、解雇には慎重に検討すべき多くの問題があります。
従業員の現在又は将来的な解雇についてお考えの中小企業経営者の方は、まず弁護士へご相談下さい。
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