ハラスメントについて事業主の講じるべき対策と弁護士の活用法
この記事の内容を動画で解説しております。あわせてご視聴いただければと思います。
「職場で取り組むべきハラスメント対策はどのようなものがあるのか」
「ハラスメントが発生した場合の対処法はどうすればいいか」
近年、ニュースでも頻繁に目にするようになってきた「ハラスメント」。
職場という一種の閉鎖的な空間において「セクシャルハラスメント」や「パワーハラスメント」などのハラスメント対策は必須となっています。
本記事では、職場で起こり得るハラスメントとその要因のほか、取り組むべきハラスメント対策の内容や弁護士の活用方法などを説明します。
この記事を読んで、ハラスメント対策を実際に講じ、労働者個人の尊厳を守り、ハラスメントのない平和な企業環境の維持に役立てていただければ幸いです。
1.職場で起こりうるハラスメント
(1)ハラスメントの種類
ハラスメントとは、言い換えれば「いじめ」や「いやがらせ」のことを指します。
このハラスメントが何に基づいてなされるかによって、いくつかに分類されています。
#1:セクシュアルハラスメント(セクハラ)
性別に基づくハラスメントのことであり、一般的に「相手方の意に反する性的言動」を指します。
男女雇用機会均等法では、さらに2つの類型に分けています。
①対価型セクシュアルハラスメント
セクハラに対する対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益受ける場合を指します。
典型例としては、以下のようなものがあります。
- 事業主が労働者に対して性的な関係を要求したものの、拒否されたため、当該労働者を解雇する場合。
- 出張中の車内において上司が労働者の腰、胸等を触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換を行う場合。
②環境型セクシュアルハラスメント
セクハラによって労働者の就業環境が不快なものとなり、看過できない程度の支障が生じる場合を指します。
典型例としては、以下のようなものがあります。
- 事務所内において上司が労働者の腰、胸等を度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下している場合。
- 労働者が抗議しているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できない場合。
また、歴史的には、男性から女性に対する発言・行動が取りざたされることが多かったですが、女性から男性や同性同士であったとしても、セクハラに該当します。
#2:パワーハラスメント
職場内の力関係に基づくハラスメントであり、法的には「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当の範囲を超えた者により、その雇用する労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
パワハラの態様は多岐にわたりますが、一般には以下の類型に分けられます。
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不必要なことや遂行不可能なことの強制(過大な要求)
- 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入る(個の侵害)
#3:マタニティハラスメント
妊娠や出産に基づくハラスメントであり、法的には「妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること」ととらえられています。
マタハラに関しても、大きく分けると2つの類型に分けられます。
①制度等の利用への嫌がらせ型
産休や育休の利用に際して、「それであれば辞めてもらう」「次回査定における昇給はない」などと、不利益な取り扱いを示唆するもの。
②状態への嫌がらせ型
妊娠報告に対して「早めに辞表を出すように」などと発言するもの。
(2)ハラスメントが起こる要因
実際に発生しているハラスメント問題の多くは、加害者側にハラスメントをしている自覚がありません。
しかし「そんなつもりはなかった」という言い訳が通用するものではありません。
このような、無知・無自覚によるハラスメントを発生させないように、ハラスメント教育や指導を企業側で行っていくことが大切になります。
(3)ハラスメント対策をきちんとしないことで起こりうるトラブル
ハラスメント対策を行っていない場合、日常的にハラスメントが発生してしまう危険性があります。
そして、ハラスメントが発生した場合、これによる労働者のメンタルヘルスへの影響等により、職場環境ひいては労働生産性に大きな悪影響が生じます。
加えて、企業がハラスメント対策を十分に行っていない場合、労働者からの損害賠償請求を受ける可能性もあります。
したがって、各種のハラスメントについては、適切な予防策と対処を知っておく必要があります。
(4)パワハラに関する措置義務の新設
これまで、事業主には、男女雇用機会均等法や育児介護休業法等において、セクハラやマタハラの予防や対処措置を講ずる義務がありました。
これらに加えて、令和2年6月施行の改正によって、令和4年4月1日からは全ての事業者がパワハラについても同様に雇用管理上の措置義務が規定されました。
したがって、今後は、従業員を抱える事業主としては、各種ハラスメントの予防とその対処についてあらかじめ措置を講ずることが義務づけられました。
詳しくは以下で述べていきます。
2.職場で取り組むべきハラスメント対策
(1)ハラスメント防止のための責務とは
パワハラ、セクハラ、マタハラ等のハラスメントは、あってはならないことです。
そのため、事業主には、以下のような責務が課されています。
①職場におけるハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めること
②自社の労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修その他の必要な配慮をすること
③事業主自身(法人の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
(2)事業主が講ずべき措置の内容
上記のとおり、事業主は雇用する労働者等のためにハラスメントを防止すべき責務を負っています。
そして、これを現実化するために、雇用管理上講ずべき措置が定められています。
これらは、事業主が必ず講じる必要があるものです。
#1:事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
①各種ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化したうえで、管理監督者を含む労働者に周知・啓蒙する
②ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓蒙する
#2:相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
④相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
#3:職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配所の措置を適正に行う
⑦事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正におこなう
⑧再発防止に向けた措置を講ずる
#4:併せて講ずべき措置
⑨相談者・行為者当のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
⑩事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
主に、上記のうち①~④、⑨~⑩が事前の予防策、⑤~⑧が事後の対処法についての定めとなります。
3.具体的なハラスメント対策の取り組み
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
まず、職場における各種ハラスメントの内容を明確化し、これらのハラスメント行為を行ってはならないという事業主の方針を明確に打ち出す必要があります。
取り組みの例としては以下のようなものが挙げられます。
- 就業規則や服務規律等の文書に事業主の方針を規定し、労働者に周知する。
- 社内報やパンフレット等に、ハラスメントの内容及びハラスメント発生の原因や背景並びに事業主の方針を記載し、配布等する。
(2)行為者への適正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
仮に職場におけるハラスメントに該当する言動を行った者に対して、厳正に対処する旨の方針及びその内容をあらかじめ規定し、周知・啓発する必要があります。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
- 就業規則や服務規律等の文書に、ハラスメントに該当する言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を周知・啓発する。
- ハラスメントを行った場合、現行の就業規則等の懲戒規定の適用対象になる旨を明確化し、それを周知・啓発する。
(3)相談窓口の設置
ハラスメントを受けた場合の相談先を整備しておく必要があります。
この相談先は、単に連絡先を設ければよいのではなく、実質的に相談に対応ができる必要があります。
例えば以下のような取り組みが考えられます。
- 相談に対応する担当者をあらかじめ定める。
- 外部の機関に相談への対応を委託する。
(4)相談に対する適切な対応
相談担当者は、相談の内容に応じて適切に対応することができるようでなければなりません。
例えば、まだハラスメントが現実に生じていなかったとしても、今後発生の恐れがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合等についても、広く相談に応じることが求められます。
- 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応できるようにする。
- 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行う。
(5)事実関係の迅速かつ適切な確認
実際にハラスメント被害が生じた場合、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
- 相談窓口の担当者等は、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止め方などその認識にも適切に配慮するようにする。
- 相談者と行為者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する。
(6)被害者に対する適正な配慮の措置の実施
ハラスメントが発生した事実の確認ができた場合は、速やかに被害者に対する配慮の措置を行う必要があります。
- 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、被害者のメンタルヘルス府庁への対応等
(7)行為者に対する適正な措置の実施
上記の(6)と並行して、行為者に対しても適正な措置を行う必要があります。
ハラスメントの事実を軽く考えてしまい、行為者への措置を具体的に取らなかったりする場合がありますが、より問題をこじらせてしまうことにもつながりかねませんので、ルールにもとづき適正な措置を行うべきです。
- 就業規則や服務規律等の文書に定められている規定に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずる。
(8)再発防止措置の実施
個別の事案に対して対処ができたとしても、それで終わりではありません。
改めて、職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発し、再発防止に向けた措置を講ずる必要があります。
- 労働者に対して、職場におけるハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施する。
(9)当事者などのプライバシー保護のための措置の実施と周知
職場におけるハラスメントに関する相談者・行為者等の情報は、プライバシーに属するものです。
そのため、対応にあたってはこれらのプライバシーを保護するために必要な措置を講じなければなりません。
特に、セクハラやマタハラに関しては、性的志向や性自認、不妊治療等の高度に私的な個人情報も含まれることから、より一層の注意が必要です。
- 相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに基づき対応する
- 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行う。
(10)相談、協力等を理由に不利益な取り扱いをされない旨の定めと周知・啓発
労働者が職場におけるハラスメントに関し、事業主に対して相談をしたことや、事実関係の確認等に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いをされることがあっては、上記までの各種措置は有名無実のものとなってしまいます。
そのため、そのような心配は要らないことを労働者へ周知・啓発する必要があります。
- 就業規則や服務規律等の文書に、ハラスメントの相談等を理由として、その労働者が解雇等の不利益な取り扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発する。
- 社内報、パンフレット等に、ハラスメントの相談等を理由として、その労働者が解雇等の不利益な取り扱いをされない旨を記載し、労働者に配布する。
4.弁護士の活用
ここまでで、事業主が講ずる必要のある措置については理解できたと思います。
では、これらの対策について、弁護士を活用する点をご説明します。
(1)就業規則等の整備
対策のひとつとして「ハラスメントを許さない」という事業主の方針や、仮にハラスメントが生じた場合の懲戒規定の整備などを行う必要がありますが、どのような文章にすれば必要十分なのかの判断は難しいと思います。
せっかく改定した就業規則が実は穴だらけだった、等ということのないように、専門家である弁護士に修正や作成を依頼していただくのが安心です。
(2)外部相談窓口として依頼
ハラスメント問題が生じたときに、それを相談できる窓口を作っておく必要があります。
これは社内窓口でも問題はありませんが、単に相談の連絡先としてだけではなく、相談を受けられる体制と能力を有していなければなりません。
そうすると、マニュアルを整備したうえで社内研修やオリエンテーション等を行い、相談員の能力の醸成をしなければならず、コストやリソースを咲く必要があります。
また、社内窓口の担当者が、面識がある場合などは、相談者としては心理的な抵抗や不安を抱いてしまいます。
そのため、外部相談窓口として、弁護士を活用することで、これらのデメリットを解消し、相談しやすく適切な対応が可能な窓口を設けることができます。
(3)社内研修の実施
ハラスメントがいけないことであるというのは共通認識ですが、ではどのようなものがハラスメントであるかについてはなかなか判断ができない方も多いです。
特に、パワーハラスメントについては、勤務指導との線引きが難しく、逆に指導側が萎縮してしまうことで、十分なパフォーマンスを発揮できなくなってしまう可能性もあります。
そのため、ハラスメントとはどういうものなのか、どういう場合に違法となるのか、違法となった場合どのようなペナルティが生じるのか等について社内研修を行うという取り組みは有効です。
弁護士が講師となれば、実際の事例を題材としながら、講義形式やグループディスカッション形式で学びを深めていくことができます。
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