ブランド価値の維持に対するフランチャイザー(本部)の義務
1.ブランド価値維持義務とは
以前の記事で、本部のブランドを第三者や加盟店との関係で保護する対策について取り上げました(本部のブランド、トレードマークの保護(商標の保護))。
今回は、フランチャイザー(本部)がフランチャイジー(加盟店)に対して負う、自身のブランド価値を維持する義務(ブランド価値維持義務)について紹介します。
フランチャイズ契約におけるブランド価値維持義務とは、チェーン・フランチャイズ・システムの信用,名誉,のれんなどのフランチャイズ企業のブランド価値を傷つけるような行為をしてはならないという義務のことをいいます。
フランチャイズは、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、自己の商標、経営ノウハウ、サービス・マーク等を用いて、同一のイメージの下に商品の販売等の事業を行う権利を与え、フランチャイジーはその対価として一定のロイヤルティー、加盟料等を支払うというものです。
したがって、フランチャイジーにとって、フランチャイザーのブランドの信用力は非常に重要で価値のあるものとなります。
そこで、フランチャイジーとしては、フランチャイザーには自身のブランド価値を傷つけてはならない義務(ブランド価値維持義務)があるのだという主張がされることになります。
2.ブランド価値維持義務の法的根拠
現在公刊されている裁判例の中で、フランチャイザーのブランド価値維持義務を認めたものは、東京地裁平成22年7月14日判決(判時2095,59)のみですが、同判決は、フランチャイズ契約の一般的な性質に言及した上で、信義則上のブランド価値維持義務が存在することを認めています。
このことからすれば、一般的なフランチャイズ契約を締結している場合であれば、フランチャイザーのブランド価値維持義務が契約書には明示されていなかったとしても、信義則上、同様の義務が認められる可能性は十分にあるといえるでしょう。
3.ブランド価値維持義務違反の追及は容易ではない
上記の裁判例があるとはいえ、フランチャイザーのブランド価値維持義務違反を理由にする損害賠償請求は容易には認められないと考えられます。
理由は次の3つです。
まず、同判決の具体的な事情は、フランチャイザーが消費期限切れの原料を使用して食品を販売していたことがマスコミに取り上げられ、大型店舗の店頭から同企業の商品が撤去されたり、返品されたりするなどの事態を招いたことが、ブランド価値維持義務の違反であると認定されたというものでした。
そこで、フランチャイザーのブランド価値維持義務違反が認められるには、フランチャイザーが自らの行為によってそのブランド価値を傷つけたと認められなければなりません。
ブランド価値は、そのブランドに対する社会的な信用や名誉によって築かれるものですから、社会的なブランドイメージが低下するような事件が発生した場合など、一定の場合に限って問題となると考えられます。
次に、判決では、義務違反と、フランチャイジーの営業的な損害との因果関係が肯定できないとして、フランチャイジー側の損害賠償請求を退けています。
フランチャイザーのブランド価値維持義務違反を理由とする損害賠償請求が認められるためには、被った営業的損害が、ブランド価値を傷つける行為が原因で生じたものであると認められるものでなければなりません。
単に、義務違反行為の前後の売り上げを比較して、売り上げが減少したというだけでは足りず、その減少が、通常の営業の中で生じ得る程度のものではないと認められる必要があります。
さらに、フランチャイザーのブランド価値の毀損は、すべてのフランチャイジーに影響しますから、理論上は、フランチャイザーの義務違反によって損害を被ったすべてのフランチャイジーが損害賠償請求をすることが可能です。
しかし、そうなると、二次的な社会問題に発展しかねません。
そこで裁判所がフランチャイジーの請求を認めることに慎重になることは十分考えられます。
このように、フランチャイザーのブランド価値維持義務違反を理由にする損害賠償請求は容易には認められないと考えられます。
まとめ
ブランド価値維持義務違反を理由にフランチャイジーがフランチャイザーに対して損害賠償責任を追及することは容易ではありませんが、紛争の火種はないに越したことがありません。
万が一自身のブランド価値を傷つける行為を行ってしまった場合に、多数のフランチャイジーからその責任を追及される可能性がないわけではありません。
そこでフランチャイザーとしては、あらかじめ、フランチャイザーがブランド価値維持義務違反行為を行った場合には、フランチャイザーの責任を一定の合理的な範囲に制限する条項を契約に盛り込むことが考えられます。
他方で、フランチャイジーとしても、上述のように追及が容出でないフランチャイザーの責任を、契約書上に明文化できるというメリットがあります。
以上、紛争予防的観点から、契約条項の策定にお悩みのフランチャイザー側の方や、将来損害が生じたときの権利保障が十分なされているか不安を抱えているフランチャイジー側の方、これからフランチャイジーになることを検討されている方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
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