退職金支払義務が生じる場合とは?退職金制度について解説
「従業員に対する退職金の支払義務が生じるのはどのような場合か?」
「退職金の支給に関して、適切な対応方法が分からない」
企業などの人事・労務担当者の中には、このような疑問や悩みを抱えていらっしゃる方も多いでしょう。
本記事では、退職金の法的性質や企業が退職金を支払うべき場合、退職金制度に対する注意点について解説します。
1.退職金とは
退職金とは、労働契約の終了に伴い、使用者が労働者に支給する金銭をいいます。
法的性格としては、下記の3点が複合したものとして考えられています。
- 賃金の後払い的性格(在職中の労働の対価)
- 功労報償的性格
- 退職後の所得保証
退職金制度は任意の制度です。
つまり、労働協約、就業規則、労働契約などにより、予め制度を定めていない場合は、原則として、会社は退職金を支払う必要はありません。
2.退職金支払義務が生じる場合
企業に対して、退職金の支払義務が生じる場合としては、以下のものが挙げられます。
- 労働協約等に支給条件を明示している場合
- 求人票に記載されていた場合
- 慣行がある場合
しっかりと把握した上で対応していきましょう。
(1)労働協約等に支給条件を明示している場合
労働協約、就業規則、労働契約などに支給条件が明確に定めてられている場合は、労働基準法及び労働契約法上、賃金に該当し、会社には支払義務が生じます。
(2)求人票に記載されていた場合
職安などの職業紹介機構への求人票に「退職金共済加入」などの記載があり、別段の合意なくそのまま労働契約を締結した場合は、退職金についても労働契約の内容となります。
そのため、実際は退職金共済に加入していなくとも共済制度に加入していた場合に得られる額と同等の金員を支払う必要が生じると考えられます。
(3)慣行がある場合
労働協約等には退職金制度は設けられていない場合であっても、労使慣行によって、①明確な算定方法の下で、②これまで退職者に支給されており、③従業員においても退職金支払いがあると理解されているような場合には、退職金支払義務が生じることがあります。
3.退職金制度の有無の明示義務
会社は、労働契約締結時に、退職金の支給の有無等につき明示する義務があります(労働基準法15条、同施行規則5条4号の2)。
また、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則作成義務及び労基署への届出義務があり、退職金制度を設ける場合、就業規則には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払時期に関して定めて必要があります。
4.退職金制度の不利益変更 ~合理性が必要~
すでに退職金制度を持つ企業などが退職金の支給に関する定めを変更するためには、注意が必要です。
具体的には、在職者に対する変更と退職者に対する変更で対応が異なります。
以下で解説しますので、しっかりと把握した上で適切に対応することが大切です。
(1)在職者に関する変更
既に定めのある退職金制度について、退職金額を減額するとか、支給条件を厳格にするなどの場合は、労働者にとって労働条件の不利益変更に当たります。
労働条件は、重要な労働契約の要素である以上、一方的な変更は認められません。
したがって、変更方法としては、以下のものが考えられます。
①労働者との個別合意による変更
②就業規則による変更
③労働協約による変更
そして、労働条件の不利益変更は、無制限に認められるものではなく、①の労使間の合意が問題なく成立している場合は別段、不利益変更の程度を鑑み、変更理由の合理性、必要性、変更後の内容の相当性などが認められることが必要です。
①の個別合意による場合であっても、同意しない場合には別の不利益を課すことを提示しながら同意を迫ったなどの場合には、労働者の自由意思に基づかない同意として個別合意は無効と評価されることになるでしょう。
したがって、個別合意による場合には、後のトラブルを防ぐため、書面により同意の意思表示を明確にとっておくことが会社にとっては重要です。
例えば、現時点までの分として退職金は支払うが、今後の分については支給しないことに変更する場合、その変更の必要性だけでなく、他の労働条件における代償措置を全く採らない場合には無効と判断される可能性があります。
(2)退職者に関する変更
既に退職した労働者への退職金の内容を不利益変更することも厳格な対応が求められます。
支給基準が明確に定められている以上、退職金は労基法11条の「賃金」に該当します。
したがって、これを一方的に不利益変更することは、既に発声した賃金の一部のカットに該当し、全額払いの原則に反するため認められません(労基法24条)。
まとめ
退職者の場合には、労使関係が既に存在ません。
この点について、退職年金は、退職時における退職者と会社との間で締結される独自の年金契約と解されています。
したがって、解約権の留保がある場合や、事情変更の原則が適用される場合などにのみ、変更が許されると考えられています。
但し、解約権の留保も、労働者に十分羞恥されていることが要されると考えられますし、事情変更も経営状況の変化など限定的に解されることになるでしょう。
以上、退職金制度の創設や変更についてご検討中の方は、是非一度弊所弁護士にご相談ください。
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