みなし残業制度とはどのような制度?弁護士がわかりやすく解説

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。

「みなし残業ってどんな制度?」
「みなし残業が違法になる場合とその対処法が知りたい」

みなし残業という言葉は聞いたことあるけど、よくわからないという経営者の方もいることでしょう。

本記事では、みなし残業制度の概要や違法となるケース、適用する際の注意点について、詳しく解説します。

本記事を読んで、みなし残業制度への理解を深め、法的リスクや注意点を把握することで、適切な対応を行うことができるようになれば幸いです。

1.みなし残業(固定残業代)制度の概要

みなし残業制度とは、一定時間分の残業代を基本給に含めたり一定額の手当として支払ったりする制度のことです。

以下、みなし残業制度の詳細、みなし残業制度を適用するために必要な要件について説明します。

(1)みなし残業制度とは

繰り返しになりますが、みなし残業制度とは、一定時間分の残業代を基本給に含めたり一定額の手当として支払ったりする制度のことです。

一定時間分の残業代を固定して支払うことから、固定残業代制度とも呼ばれています。

みなし残業制度を定めた場合、会社側は、実際の残業時間が制度上定められた一定時間を下回ったとしても、その金額を支払う必要があります。

たとえば、20時間分の残業代として5万円を支払うと決めた場合、実際の残業時間が10時間となっていたとしても、その金額を支払うことになります。

(2)みなし労働時間制との違い

みなし残業制度と混同してしまいそうな制度に「みなし労働時間制」というものがあります。

みなし労働時間制は、実労働時間に関係なく、所定の労働時間勤務したとみなす制度のことです。

所定労働時間を8時間とするみなし労働時間制を採用していた場合、実労働時間が5時間であっても10時間であっても、8時間働いたと扱うことになります。

この制度は、外回り営業のように、実際の労働時間が把握しづらい業務等について利用することが認められるものですが、その要件は厳しいものとなっています。

みなし残業制度とは異なるものですので、注意が必要です。

(3)みなし残業制が適法となるための要件

みなし残業制を適法に利用するためには、次のような要件を満たしている必要があります。

みなし残業制が適法となるための要件

  1. 基本給とみなし残業代が明確に区別されていること
  2. みなし残業代が時間外労働に対する対価として支払われていること
  3. 不利益変更となる場合に労働者の同意を得ていること
  4. みなし残業代に関する規定が就業規則や雇用契約書に明記されていること

以下、詳しく説明いたします。

#1:基本給とみなし残業代が明確に区別されていること

基本給とみなし残業代は、明確に区別されている必要があります。

たとえば、「月給25万円(みなし残業代含む)」という記載では、基本給と残業手当の区分は明らかとはいえないでしょう。

「基本給22万円、みなし残業代3万円(月20時間分)」というように、基本給とみなし手当の区別ができるように記載をする必要があります。

#2:みなし残業代が時間外労働に対する対価として支払われていること

みなし残業も時間外労働として扱われるため、みなし残業代は時間外労働に対する対価として支払われる必要があります。

この判断は、雇用契約にかかる契約書等の記載内容の他、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきとされています。

#3:不利益変更となる場合に労働者の同意を得ていること

みなし残業制を導入する場合に、基本給を変えずにみなし残業代を追加で支払うときは、労働者にとって不利益な変更ではありません。

したがって、この場合は労働者の同意は必要ありません。

一方、労働者に支払う金額は変えずにみなし残業代を含める扱いとする場合には、実質的には基本給が減少しているため、不利益変更となります。

この場合には、労働者の同意が必要となります。

基本給が20万円だった場合について考えてみましょう。

みなし残業制にして、基本給20万円にみなし残業代2万円を追加して、22万円を支払う場合には、労働者の同意は必要ありません。

しかし、基本給とみなし残業代を合わせて20万円とする場合には、労働者の同意が必要となります。

#4:みなし残業代に関する規定が就業規則や雇用契約書に明記されていること

みなし残業代は、労働条件の1つです。

労働条件は、労働者と会社の合意が必要となります。

そして、労働者と会社の合意があったことを示すために雇用契約書や就業規則などにみなし残業代に関する規定を明記する必要があります。

就業規則によって、不利益変更をする場合には、労働者に周知する必要がある点に注意しましょう。

2.みなし残業(固定残業代)制が違法となるケース

みなし残業制は直ちに違法となるものではありませんが、場合によっては違法となります。

ここでは、みなし残業が違法となるケースについてご説明します。

(1)労働者との間で個別の合意や周知が行われていない

すでに説明したとおりですが、みなし残業制は、労働条件の1つなので、労働者と会社の合意が必要となります。

そのため、みなし残業代について雇用契約書や就業規則などに明記する必要があります。

明記しなかった場合、合意のない契約として違法となります。

(2)基本給の部分とみなし残業代の部分の区別がついていない

基本給とみなし残業代を明確に区別できていない場合、みなし残業制は違法となります。

この区別がされていないと、みなし残業代を含んだつもりの月給が基本給の金額となり、これを基礎として残業代を計算する必要が生じてしまいます。

たとえば、基本給20万円、みなし残業代2万円のつもりで月給22万円と設定していた場合に基本給とみなし残業代の区別がされていないと、22万円が基本給となり、そこに残業代が加算されることとなります。

結果的に労働者に支払う金額が増えてしまうため、基本給とみなし残業代は明確に区別して記載するようにしましょう。

(3)みなし残業代を超過した分の残業代が支給されていない。

みなし残業代は、設定した時間分の残業をしたか否かにかかわらず、残業したとみなして、その分の残業代を月給に組み込んで支払うというものです。

そのため、労働者の実際の残業時間が設定したみなし残業時間を超過した場合には、その超過した部分について労基法所定の残業代を支払う必要があります。

そのため、みなし残業代を超過した分の残業代を支給しないと違法となってしまいます。

3.みなし残業が違法な場合のリスク

みなし残業が違法となった場合、どのようなことになるのか。

ここでは、みなし残業が違法となった場合のリスクについてご説明します。

(1)是正勧告を受ける

是正勧告とは、会社の法令違反が判明した場合に、労働基準監督署から受ける行政指導です。

みなし残業が違法となった場合も、法令違反となるため、是正勧告を受ける可能性はあります。

行政指導には、強制力がないのでただちに従う義務はないものの、是正勧告に従わずに違法な状態を放置すれば刑事責任や民事責任を追及される可能性があります。

是正勧告を受けた際には、それに従い改善した方がよいでしょう。

(2)労働者から労働審判の申立てがなされる

是正勧告に従わなかった場合、労働者から労働審判の申立てをされる可能性があります。

労働審判とは、会社と労働者との間の労働関係のトラブルを迅速、適切かつ効果的に解決するための手続です。

労働審判は、裁判官1名と労働関係に詳しい者2名で構成された労働審判委員会が審理・判断します。

労働審判は、原則3回の期日で終了します。

3回の期日が終わっても調停が成立しなかった場合、労働審判委員会が判断(労働審判)を下します。

そして、労働審判から2週間以内に異議申立てをしなければ審判が確定します。

異議申立てがされた場合には、訴訟に移行することになります。

(3)労働者から民事訴訟の提起がなされる

労働審判で解決しなかった場合、民事訴訟となります。

また、労働者の判断で、労働審判を経ずにいきなり民事訴訟を提起されることも考えられます。

民事訴訟を提起された場合、解決まで長期化する可能性が高いです。

また、訴訟代理人として弁護士を雇うことになることが多いです。

そうすると、時間もお金もかかってしまいます。

労働審判の申立てや訴訟提起をされた場合には、解決までに時間やお金がかかってしまうことが多いため、不要なリスクを負わないためにも、みなし残業について理解して、違法とならないよう気を付けましょう。

4.みなし残業(固定残業代)制を適用する場合の注意点

みなし残業制を適用する際に注意しておくべき点がいくつかあります。

ここではその注意点をご説明します。

(1)みなし残業にも労働基準法の適用がある

先ほど説明したとおり、みなし残業制も労働条件の1つであるため、労働基準法が適用されます。

そのため、労働基準法に違反しないように気を付けましょう。

(2)36協定による労働時間の定めを遵守する

36協定とは、労働基準法所定の労働時間を超えて残業させる場合に労働基準法36条に基づく労使協定を結ぶ必要があるという制度です。

みなし残業制による残業をする場合も、通常の残業と同様に36協定を締結する必要があります。

また、36協定を締結した場合であっても、時間外労働には、原則として月45時間、年間360時間の上限があります。

これらの36協定に関する規定に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるので、違反しないように気を付けましょう。

(3)時間外労働に対する割増賃金の支払義務がある

みなし残業も時間外労働と扱われます。

そのため、労働基準法37条所定の割増賃金を支払う必要があります。

これを支払わなかった場合には、先ほど説明したリスクを負うことになってしまうため、きちんと支払いましょう。

まとめ

本記事では、みなし残業(固定残業代)制の概要や適用要件、違法となるケースなどについて解説しました。

みなし残業(固定残業代)制には様々な要件や法律による規制などがあるため、これらを適切に把握しておかなければ違法となるケースがあります。

みなし残業(固定残業代)制の導入や適用についてお悩みの方は、専門家である弁護士に一度相談することをおすすめします。

執筆者 潮崎 雅士 弁護士

所属 第二東京弁護士会

初動が大事。様々なことに当てはまりますが、法律問題もそうです。しかし、今まで法律問題に関わったことがなく、どうすればよいかわからない方が多いと思います。そうして初動が遅れると、最良の解決は難しくなってしまいます。
逆に相談が早ければ早いほど、より良い解決がしやすくなります。ですので、何かお困りのことがあれば、お早めにご相談ください。皆様の法律問題の最良の解決に向けて全力でサポートさせていただきます。